「よし、ベジータ! オラとやろうぜ!」
ヤル気満々の悟空はそう声を掛けたが、ベジータはフンと鼻を鳴らすとブルマの元へ寄っていく。
「くだらん遊びはお前らどうしでやるんだな、ブルマ、腹が減った。何か作ってくれ」
「もうベジータったら。材料は何があったかしら」
困ったような表情を浮かべながらブルマは材料を探し始めた。
「しょうがねえなあ……おい、ピッコロ、クリリン! おめえらはどうだ?」
「よ、よし。久しぶりに悟空とやるか」
「俺は遠慮しとく。まだ自分の力がわからん」
クリリンが応じると、皆がその戦いに注目する。戦闘力を基にしたただの闘いならば、見るまでもないだろう。しかし『内なる声』とかいう謎の力を試しあう組手なのだ。様子を探る意味合いもあった。悪態をついたベジータですら、遠目で様子を窺っている。
「よし、いっくぞー」
掛け声とともに悟空の髪の毛が逆立つ。
「いっ!? 超サイヤ人かよっ」
慌てるクリリンだったが、悟空はにやりと笑う。すると黒髪のまま、その毛がまるで針のようにクリリンに向けて飛んできたのだ。
「な、なんだよこれっ」
「あちゃー外れたか。やっぱ気功波の方が使いやすいかもな」
悟空の言う通り、スピードも威力も大したことは無さそうだ。しかし確実に、その光景を見た全員が、別の世界の存在を感じていた。
「よ、ようし、次は俺の番だ。えっと、衝動的に名前を言っちゃいけないんだよな……」
怯みながらもクリリンが構えをとる。
「ん? クリリンの構えはなんだ?」
「あれは、カラテとかいうやつでは?」
皆が疑問に思う中、クリリンが気を高める。しかしその気は異質なものであった。
「いいっ、クリリンなんだよその気は」
対する悟空も戸惑っているようだが、クリリンは構わず突進し、見たことのない打撃を繰り出してくる。
「この気は……霊力だっ!」
普段と異なる種類の気をまとったクリリンは、悟空にカラテと呼ばれる技を浴びせ続けていた。
「あの霊力とか言う気は……体の基礎能力を上げているようだな」
冷静にピッコロが分析するが、基礎となる戦闘力が違いすぎて、クリリンの攻撃は悟空にすべていなされている。
「よし、オラも本気出すぞ! 一、二……」
距離を取った悟空が数を唱える。
「三っ!」
「な、なにっ」
悟空の叫び声と同時に大爆発がクリリンの周囲を襲った。爆発波と違い、不意に空間が爆裂したのだ。クリリンは避けることもできず、まともにくらいその場に倒れ込む。
「はにゃ……」
悟空に殺意がなかったからか、クリリンはそこまで大きなダメージを受けたわけではなかったが、その衝撃で一時的に戦闘不能になったようだ。
「フン、カカロットの奴め。雑魚相手に何を遊んでやがる」
遠目に見ていたベジータはブルマの料理を待ちながらその光景を見ていた。
「ベジータおまたせぇ、お好み焼きにしたでぇ」
「でぇ?」
ブルマの異様な言葉遣いにベジータは違和感を覚えたが、見たことのない料理の方に意識が引きずられた。
「これは?」
「お好み焼きっていうのよ。食べてみて」
言葉遣いの戻ったブルマをちらちらと眺めながら、その円形の食物に手を伸ばす。
「これは……!」
ソースと生地の絶妙な絡み合い、そして熱の通った具材の旨味、鰹節のほのかな香り、そしてマヨネーズのアクセント。
「うまい! おい、ブルマもっとこのオコノミヤキとかいうものを作れ」
「はいはーい、そう言うと思ってたわ」
ブルマはそう言うと鉄板の元へ向かう。慣れた手つきで生地を触ると、円形の生地が固まり、くるくると回転しながら宙を舞っていた。
「お、うまそうだなー。オラにもくれよ」
匂いに釣られた悟空や子供たちも集まり、サイヤ人たちはお好み焼きに夢中になっている。
「仕方ない、俺たちでやろう」
残ったヤムチャと天津飯が向かい合う。二人が戦うのは例の天下一武道会以来だ。
「久しぶりじゃないか、天津飯」
「ああ」
お互いが笑い合うと、ヤムチャが仕掛けた。
「いくぞっ! 新・狼牙風風拳!」
「え?」
突っ込んでくるヤムチャに対し、天津飯はその攻撃を躱しつつ、顔面に一撃を入れる。
「くっ、ぶったな!」
「いや、ヤムチャ、あのな……」
「もう一度だ! ハイ~~~ッ」
しかしまたしてもヤムチャの牙は天津飯に届かなかった。足元を払われ、再び顔面に拳を喰らう。
「二度もぶった!」
「待て、ヤムチャ。普通の攻撃をしてどうするんだ」
「あ……そ、そうか。すまない、つい」
そもそもの趣旨を忘れているヤムチャに溜息をつくと、道具の山を指さした。何かをお互いに使おうということなのだろう。ヤムチャも頷くと、目星をつけていた剣を手に取った。
「あー、あれ勇者の剣みたいじゃん、かっくいー」
遠くでトランクスがヤムチャの剣を見て叫んでいる。ヤムチャも手慣れた様子でその剣を肩にかけた。
「俺は元々盗賊で、曲剣を使ってたからな。こういうのは得意だぜ」
「なるほど、では俺もそうしよう」
天津飯は足元の木刀を拾うと、正眼に構える。
「お、そうか。お前も元殺し屋だもんな。剣は慣れてるってことか。よし、いくぜ」
ヤムチャが剣を構えて突っ込むが、木刀を巧みに使う天津飯にすべて払われている。殺し屋だからなのか、それとも彼の『内なる声』なのか、天津飯の剣技は見事なものだった。
「では、今度はこちらから行かせてもらおう」
「く、さあ、きやがれ」
距離を取り直した天津飯は、木刀を構える。
「突き突き突き突きぃ!」
「な、なんだとっ」
凄まじい速度で繰り出される突きの嵐がヤムチャを襲う。辛うじて防いではいるものの、その勢いにヤムチャが押されつつあるのは明白だった。
「どうした、ヤムチャ! 貴様の声とやらはまったく聞こえないぞ! 今のままだったら貴様は虫けらだ!」
「ちっ……やるっ」
下がりながらヤムチャは後方に跳んだ。迂闊に跳び上がってはいけない、と過去に忠告した記憶を、離れて見ていたピッコロは微かに思い出している。天津飯も追い打ちをかけるべく、飛び込んでいく。
「くらえっ!」
初めてヤムチャから違和感を覚えた。その違和感を知りつつも、天津飯は突きを繰り出そうとする。その時だった。
ヤムチャの掌からエネルギー波が飛び出す。
「この期に及んで気功波だとっ?」
「今だ! くらえっ」
躱すのに体勢を崩した天津飯にヤムチャの剣が襲い掛かる。左腕の肉を僅かに抉ったと同時に再びヤムチャは気功波を放ち、天津飯と距離を取った。
「くっ」
着地し、なんとか体勢を立て直したものの、ヤムチャに斬られた箇所がおかしい。まるで凍り付くかのような痛み――
確認した天津飯は目を疑った。喩ではなく、実際に傷口は凍り付いていたのだ。気を高めることで溶かすことができたが、あの攻撃をまともに喰らったら気を高める間もなく、凍死するだろう。
「氷の能力をもった剣ってやつだな、形勢逆転だ」
確かに先程まで一方的にヤムチャを攻めていたはずの天津飯が、氷の攻撃で一撃も喰らってはいけない状態になってしまったのは事実だった。
「悪いな天津飯。俺はずっと負け続けでな……。俺は……勝ちたい!」
ヤムチャはそう言うと剣を構えつつ、掌を天津飯に向けかめはめ波も繰気弾もあるぞと威嚇する。
「そうだな……確かに貴様は負け続けていた。だが勝利の前に戦う意義に目を向けてみろ。そうすれば負け戦とてそれなりに楽しめる」
そう呟くと、天津飯は木刀を捨てた。これはあくまで組手である以上、天津飯が戦闘の意思を示さなければ襲い掛かるわけにはいかない。
「どうした、降参か?」
「まあ、待て。先程の突き……蒼い雷とでも命名したかったが、あれでは敵いそうにないのでな、本気で行かせてもらう」
「何を恰好つけてるんだ、それなら俺は勇者ヤムチャとか山吹色の悪魔とか名乗ろうか」
ヤムチャの軽口を流しつつ、天津飯が道具の中から握ったのは、一振りの刀であった。ヤムチャや未来のトランクスのものとは異なり、ヤジロベーやピラフ一味の狐、そしてレッドリボンのムラサキ曹長などが使っていたタイプで、刀身に波紋を持つ美しい剣である。
天津飯はそれを片手で握ると、ヤムチャに向け、水平に寝かせる構えを取った。もう片方の手は刀の上に沿えられている。
「今度のは先程の遊びとは違うぞ、本物の刺突だ」
「ハン、どんなものか見せてみろってんだ」
勝利を確信しているヤムチャだったが、天津飯の初動でその自信は崩される。
「な、速いっ!」
天津飯は水平に刀を構えたまま猛然と突っ込んでくると、凄まじい一突きを放ってきたのだ。かろうじて、再びヤムチャは後方へ跳びあがり、その突きを躱したかに見えた。
――が
天津飯はその刺突を勢いを殺さず横薙ぎに切り払う。その刃はヤムチャを完全に捉え、血飛沫が天津飯に降り注いだ。
「くそう、また負けちまったか」
界王神に回復をしてもらったヤムチャはその場からいったん離れ、カプセルに入っていた椅子で作った観戦席に座り込んだ。クリリンも既に回復させてもらっていたようで、同じようにこの場で観戦していたらしい。クリリンがデンデを連れてこようと提案していたが、キビトの能力で界王神も回復が使えるようだった。
「後はピッコロとベジータ、悟飯と子供たちがまだ、だな」
「でもヤムチャさん、それがピッコロが」
クリリンの弁によると、ピッコロは戦わないようだ。その代わりにちょっと走ってくる、と言い残して駆け出して行ったらしい。
「なんだ、それ?」
「わかりませんよ……それも『内なる声』なんですかね。それと実は子供たちは危険すぎると判断したようで、界王神様は声を解放をしてないそうです」
そんな話をしていると、急にベジータが二人に怒鳴りつけた。
「おい、貴様ら! 喜べ、俺様が相手してやる」
先程までとは打って変わって急にヤル気に満ち溢れている。何事かと悟空たちの方を見るが、どうやら食事はもう終わったようだ。悟飯とベジータとで戦うはずだったのだろうが、何故かヤムチャたちに声がかかったのだ。
「俺が行こう。クリリンはここで見ていてくれ。俺はまだすべてを出し切ってはいない」
ヤムチャはクリリンをその場に残し、ベジータと悟飯の元へ向かった。
「三人のバトルロイヤルか?」
「いや、俺も混ぜてもらおう。まだ何か残っている気がするんだ」
天津飯も加わり、四人が戦うことになった。とは言え、サイヤ人二人を相手するには現実の戦闘力が不足ということで、天津飯とヤムチャはコンビを組むことになった。
「なあ、悟空。なんでベジータは急にヤル気になったんだ?」
四人が戦いの形式を確認している間、クリリンが悟空に尋ねる。
「いや、それがよぉ。みんなで飯食ってたらベジータの奴、急に『人参なんか入れるな!』って叫び出してさ」
「人参? あいつ、人参食えないのか?」
「いやあ、そんなことはなかったと思うぞ? 好き嫌いしてるの見たことねぇしな。でもブルマが『ちゃんと修業したら人参抜いてあげる』って言った途端、ああなっちまった」
カカロットだから……とクリリンは脳裏に浮かんだ冗談を口にしかけた。が、なんとか自重し、もしかするとピッコロもベジータも何かに目覚めたのかもしれないと思い直す。クリリンとヤムチャに声を掛けたのは「一番目覚めているヤムチャさんと戦うことが、最も効果的に『内なる声』を感じることができる」と界王神が言っていたからのようだ。
「よし、はじめるぞ!」
「パパ―がんばれー」
「兄ちゃん、まけるなー」
悟空とクリリンの会話の横で、四人の闘いが幕を開けようとしていた。