一応、復讐でもしますかね。   作:エメレンシア / 観察端末

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シーザ・ロウ・ロス

最も信じ難いものにこそ、新しきが宿る。


10.あっさりした邂逅

10 / ◇

 

 

 ファイスへの道中、ライオットを観察する。

 

「む、止まりたまえ! この足跡……猪だ。気を付けろ、近いぞ!」

「美味しかったよー」

「な……」

 

 みたいな、こちらの実力を過小評価しての空回りは多々あったものの、言動から滲み出るギャグ感や小物感とはうって変わってその実力は高いように見える。

 環境に対する知識や経験、自身に出来ること出来ないこと、何よりもまず俺達を優先しようとするひたむきさ。

 

 それだけ見りゃ、確かに善性だろう。おあつらえ向きに、だ。

 俺にぁどうも、エメレンシアが俺の性格を分析して送り出した刺客、にしか思えねぇんだが。ま、そらルシアに関しても似たようなもんだがよ。

 

「そろそろファイスへの中継地たるテルミへと到着するぞ!」

「街にゃ寄らんよ。通報されるのがオチだ」

「通報? なにか悪いことでもしたのか?」

 

 ……知らねえ、ってわけか。そりゃ、無理があろうよ。他国の王族にすら届いてる情報を、首都の人間が知らねえのはおかしいが過ぎる。

 が、思い返すのは記憶の酩酊とやら。イチイチで話した人間がその時の会話内容を覚えておらず、どころか最愛の娘すらをも売り付けてしまうような契約書にサインするくらいの強制力を持つ、恐らく催眠とかその類いの能力……。

 こいつを使えば、ライオットが俺達を快く護衛するにあたっての不都合な情報を意図的に削除する、くらいは出来そうだ。

 

 いや、待て。

 なんで俺、こいつが悪くねえ前提で話を進めてる? 絆されたか?

 

「いや、行くか、テルミ。アルジナはともかく、俺達ぁ普通に腹も減るからな。何よりお前さんが一番腹ぁ減ってるってオチだろい?」

「そ、そんなことは! ない、とも言い切れないが……」

「ああだが、俺達ぁ金、持ってねぇぞ」

「初めからお嬢さん方に出させるつもりはないさ! ここは紳士ライオット、身を削ることに躊躇いはない!」

「そうけ」

 

 金出してくれるってんなら、まぁ。頼んだわけでもねぃわけだしな。

 

 

 

 

 先ほどライオットが「ファイスへの中継地」とテルミを指して称したように、テルミという都市自体は複数あるらしい。ファイスを取り囲むようにしてテルミという環状の都市群が存在し、その周囲をポツポツと街やら町やら村やら集落が取り囲んで、そのさらに外側を森と谷が囲む。

 んだが、地下にぁあのダンディ犬がいた住処が広がっているのを考えると、なんかこう……不自然だ。

 なんでもない土地があるほど資源に余りがあるとしても、地下開発くらいやるだろ。それくらいの技術力はあるんじゃねぃのか。

 

 それに、あの学校はどこに位置する? そのまま地図上の場所に存在するのか? いやでもあの時俺は一時間ちょいくらいは歩いてんだよな……そもそもアドリアンの温泉ってどこから湧いてるんだ?

 

「あった! テルミだ!」

「ん……ん?」

 

 どこに都市なんかある?

 ちっさい小屋があるだけじゃねぇか。まさか俺のような幻術か?

 

「はっはっは、キョロキョロして、やはりまだまだ子供だなお嬢さん! うん、謝るからその剣をしまってくれたまえ!」

「テルミってぇのを目視できるまでしまわねぇよ」

「ラナエ、上だよ上ー」

「上?」

 

 見上げる。

 

 そこに、あった。

 威圧感さえ覚える真っ黒の土台。そしてその上にーー都市が一つ、乗っかっている。

 都市には周囲からドラゴン……いつか見た奴が幾匹も行き来していて、それが交通機関なのだということを知る。

 

「空中中継都市テルミ。各地点を龍の便で繋ぎ止める、この国が大国である理由の一つさ!」

 

 だから技術力よ。

 

 

 

 

 テルミの真下。小屋がある、と言ったそこに、それはあった。

 

「これが、ゲート、か」

「ゲートを見るのは初めてかね! 大丈夫、怖いものではない! これは特定の区点と区点を繋ぎ、空間を跨いで移動するものだ! よく世間で陰謀論者達によって騒がれているような、一度分解してあちらで再構成する、等といった仕組みではないから安心するといい!」

「これ、動力源はなんなんだ?」

「動力源、というものはないな!」

「ない? わけねぇだろ、どうやって動いてんだよ、じゃあ」

「ううむ、お嬢さんにもわかるように説明すると……滝、というものを知っているかな?」

「位置力と運動力で飛ばすって言いてえのか」

「お、おう。いきなり段階を飛ばしたな……。まぁ、そういう事だ! 勿論位置や運動の力じゃなく、ゲートにはゲートの法則があるんだが、小難しい式をここで書いても仕方がないだろう! 重要なのは、入るゲートと出るゲートは二つで一つのゲートになっていて、入るゲートに入れば出るゲートから出る!」

「銃を撃ったら弾丸が飛んで着弾するんだよー。これならラナエでもわかるでしょー」

 

 アルジナの態度を察するに、これは常識か。物理法則みたいなもんの一部にゲートが含まれている? だが、設置された場所にしかない……気軽に設置出来るものじゃねえってことか。

 だからこそエメレンシアのマルゴーは厄介、と。

 知らねえモンより知ってるモンの方が怖いか。

 

「さぁ行こう。ギルドの会社員は格安で宿を取れるんだ、どうだ凄いだろう!」

「系列会社か」

「う、うむ。説明の機会を失ったな……。あ、そうだ。テルミの中ではすぐに刃物を取り出さないように! 私のように提げている者は少なくはないが、抜いた瞬間にその辺の監視塔から通報が飛ぶぞ! これは人力でなく、磁場と電波、さらにはテルミ内部の質量変化などから導き出されるから、どれだけ隠してもダメだ!」

「警戒態勢かよ。ふん、安心しろ。別に何もしやせんよ。何もされなけりゃあな」

「ならばよし!」

 

 言って。

 ライオットがゲートへと……真っ黒い、縦楕円の平面へと足を踏み入れる。

 触れた瞬間粒子になるとか、ゲート側が揺らぐとか、そういうことはなく、スッと。ライオットの体はゲートの中に消えていった。

 

 続くのはアルジナ、ルシア。

 

「さっき入るゲートと出るゲートがあるって言ったが……」

 

 こいつぁ、途中で戻ろうとしたら、潰れちまうのかね?

 なんて。

 

 俺もゲートへと足を、一歩を。

 

 次の瞬間には、都市にいた。

 

 

 

 

 宿。まぁ、ホテルだわな。ライオットは俺達と別室を取り、それではな! と言って去っていった。なんでも食事はルームサービスのようで、基本的に他の客と鉢合わせるような施設はないのだと。まぁ他人を気にせずゆっくりできる、ってやつだ。

 昼をそれなりに過ぎてからのチェックインだったにも関わらず、昼飯は出た。それなりに豪勢で、美味。狐の舌にも合うたぁ中々。

 

 街中を歩く気もないので、部屋でゴロゴロする。都市に入った途端軍がわらわら、ってぇのを予想していただけに、ちょいと拍子抜けだ。無駄な殺生はしないにこしたことはないんだがね。

 

「それで、どう思う?」

「匂いは人間だよー」

「特に変な事はしていない」

「そりゃ今はせんだろうよ。俺達の信頼を得るのに必死だからな」

「疑ってる?」

「疑わねぃ方が無理だろう」

「私より?」

「同じくらい、だ」

 

 煙管を咥える。中身が無いんで格好つかねぇが、口寂しいんで仕方ない。

 

「地下に目を向けないのは、この空中都市のせいだろうが……あー、これ、ここがどうやって浮いてんのか、お前らは知ってるのか」

「えー、知らないのー? 孤児院の子供でも習うよー」

「俺ぁ狐なんだよ。人間の事情なんざ知るかいね」

「重力、わかる?」

「おいおい俺ぁ狐だぜ。重力くらい知ってるよ」

「テルミの上にはねー、重力を出すでっかい鉱石があって、それと地面でテルミを引っ張りあいっこしてるんだよー」

「違う。テルミ基部、反重力板がある」

「ふっふーん、それは五年くらい前に違った、って放送されてたよー。ルシア、時代遅れだね!」

「……少し傷付いた」

 

 周知はされてるが、議論されてる? よくわかってないものを生活基盤にしてるってか。こえーな、そりゃ。ああいや、揚力を知らねえ物理学者が飛行機を怖がるようなもんか? ゲートの法則みてぇにその重力を発生させる鉱石とやらが日常的にあるなら、恐怖もない、と。

 

 にしても、五年前の知識で止まってる、ね。ふん。

 

「つまり、床ぁ壊しても落ちねえのか?」

「これ龍の激突でもびくともしないくらい硬いよー?」

「普通に落ちるはず」

「あくまで地面の重力の方が強いってことか」

「ん」

 

 さっきから惑星と言わずに地面と言っているんだが、否定されないな。まさか平面世界か? いや、普通に昼夜あるが。地平も丸いし。

 

「外側は? 縁から飛び出したら落ちるのか?」

「落ちる」

「落ちるけど、なんかねばねばした空気の泥みたいなのに包まれるよー。犯罪者を拘束する奴の応用だってー」

「遊びで落ちると、罰金」

「粘性のある気体ぃ? それも浮いてて、人間を受け止められる程の」

 

 そうなってくるともう超技術だ。いやまぁ重力鉱石とやらがテルミ上部に"ある"ってのも意味わからんのだが、やっぱり物理法則的なそれ以外に、幻術とかマルゴーのような超常の力が働いていると見るべきだろう。

 

 で、犯罪者を拘束する用にも使われる、ね。なるほど、単なる縄やら何やらの拘束より動きにくそうだし、抜け出せなそうだ。

 

「ちょいと、出てくるわ。ああちなみになんだが、ここは猫とか犬とか、いるのか? 野良の」

「いるよー」

「犬は、あんまりいない」

「犬はまぁ噛むからな、あいつら」

 

 じゃあ、狐になって。

 窓を開けてもらい、身を翻す。

 

「夕飯前にぁ帰るよ、なにもなけりゃぁな」

「中央の塔は近づいちゃダメだよー、びりびりするからねー」

「青と白色の服、軍の手先。気を付けて」

 

 はいはい。

 

 

 

 

 さて、都市である。前に行ったリヴィナスが地方都市なら、ここは日本の首都くらいには都会だ。人間も多い。中継地でこれなら、首都ファイスはどれだけ近未来都市なんだか。

 しかしこのシェルダンってぇ国、中心部に行くに連れて技術力も文明力も、時代さえも上がっているような……いや、さすがに飛躍し過ぎか。

 きっちり円で囲われてるのも……ふん、まぁどうでもいいか、国の秘密なんざ。

 

「あ、狐さんだー」

「狐? どこよ、いないじゃない」

「さっきいたもん!」

 

 先程から不可視と可視を行き来するように、点滅するようにしているのだが、特にその監視塔とやらが反応する様子は無い。まぁ幻術は五感にこそ作用すれど、質量が変わる訳じゃねぇからな。

 

 そうしてチロチロ、都市を練り歩く。

 見れば見るほど大都会。田舎の狐にゃ背の高いビルばかりで気が滅入るね。そもそも高度もあるから、一番高いビルの最上階はどんな景色なんだか。

 

 ふん、馬鹿と煙はなんとやら。

 行ってみるかいね、一番たけぃ所。

 

 

 

 

 いや、いや。

 案外苦労した。鳥になると質量がかわっちまうから、地道に狐で登りまくってようやく頂上だ。道中、カラスを三羽くらい食い殺したが、襲われたんで仕方ねえよな。流石に俺ぁ一羽で腹いっぱいなんで、二羽目以降は殺しただけだが。

 ……カラスって羽より匹の方がしっくりくるよな。

 

「それで、これは。……なんだいね、まったく」

 

 てっぺんだ。

 さぞかし大金持ちという風な人間が住んでるとばかり思ったんだが……。

 格子の嵌められた窓に、ベッドの上で三角座りな子供。他に人間は居らず、どころか虫の一匹もいない。気のせいでなけりゃ防音素材か、この壁。無音室? 気が狂うだろうよ。

 

 助ける義理はないし、好きで閉じ籠ってんのかもしれねぇから何をすることもないが……なんにせよ、高い場所ってのは牢獄なんだな、ってぇのが感想。

 

「……?」

 

 ん、気付かれたか。まぁベランダに堂々といるからな、顔を上げりゃあ目に入る。

 子供……中性的だが、多分少女だろう人間は、ぱぁっと顔を輝かせた。

 

 そして、ベランダ側、格子の側に寄ってくる。

 開ける事の出来ない、でっけぇガラスでしかないようで、少女は格子の隙間から顔を覗かせるばかり。

 少女はガラスにはぁっと息を吹き掛けて曇らせると、それに指で文字を書き始めた。

 

 反転文字だがまぁ、読めるよ。子供に配慮を求めるほどじゃあねえよ。

 

 ーー"狐さん、どこから来たの?"

 

 ……こっちに知性があるとわかってんのか? いやまぁ、無用心にも目で文字を追っちまった時点でばれてるのやもしれんが、一度は素知らぬふりを通す。

 

 ーー"頭の良い狐さん。ここに登ってこられるのだから、隠さなくてもいいのよ"

 

 そりゃあそうだ。少なくとも野良狐はこんなところ来ねえわな。

 はん、観念するか。

 

 使うのは、幻術。別にガラス越しでも使える。

 

 少女の口が「わ」の形になったあと、俺と少女は真っ白な空間にいた。

 移動したわけじゃない、全部幻だ。

 

「え、え?」

「で、なんだねお前さん。なんで閉じ込められてる?」

「え、誰?」

「誰って、狐だよ。目の前にいるだろ」

 

 少女は、ハッとしたように俺の方を見る。

 そして手を伸ばそうとして、けれど止まった。慎重に、手のひらを前に押し出す。

 

「窓を探してんなら、ねぃよ。作ってねぇ。走り回ってもいいぜ、ここに戻ってくるがね」

「これは……夢?」

「幻さ。夢のような」

 

 恐る恐る立ち上がって、少女は、歩き出す。俺に触れたいんじゃあなかったのかいね。まぁ、好きにすると良いが。

 現実の体は動いてないし、時間を遅くしたり早くしたりできるわけじゃあねぇから、結構無防備になるのが難点。俺自身の知覚は外にあるんだが、他の人間がいるところじゃあ使いづらいわな。

 

「凄い……凄いわ! 凄い、走って、駆けていいなんて、夢みたい」

「幻だぁね、すべて。満足したら戻ってきてくれよ」

「あ、そう、そうよね。狐さん。抱き上げても良いかしら?」

「おう」

 

 抱き上げられる。そして、撫でられる。ふむ、まぁ悪くない。

 

「で、お前さん。名は」

「狐さん、狐さん、名前はあるのかしら?」

「……まぁいいが。俺ぁラナエだよ。お前さんは?」

「私?」

 

 なんかテンポが合わねえな、この子供。

 

「私の名前は」

 

 まぁ、純粋な……見るからに善性だ、特に俺が気にかけるべき事はーー。

 

 

 

「エメレンシアよ! シア、って呼んでね、狐さん!」

 

 

 

 んにぃ~?

 

 

◇ / 10

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