一応、復讐でもしますかね。   作:エメレンシア / 観察端末

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ニングランド リンベース レイレイ

焼いた森が戻るのは未来(覆水盆に返らずと類義)


11.あっさりした戦闘

 

 エメレンシアと……名乗った。

 この国の人間の流行ネームってぇわけじゃないのなら、本物? いや、偶然同名の他人って可能性もゼロじゃない。少なくともこのエメレンシアは俺を知らねえみたいだし、本人でねぃのは事実。

 

「あー、よ。お前さん、姉妹はいるかい? 兄弟でもいい」

「姉がいるわ、一人。もうずぅっと会っていないけど」

「ずぅっと? ……お前さん、いつからここにいるね?」

「それもずぅっとよ。ずぅっと、ずぅっと。……本当は、弟とお兄ちゃんがいたの。けれど、姉だけになったわ」

「あン? 要領を得ねえな、どういうことだ、そりゃ」

「ああ、このままずっと話していたいのに。狐さん、また来てくれるかしら? ううん、無理よね、だってあなたは」

 

 外界の知覚。思い切りジャンプする。同時に、この夢幻も掻き消えてしまう。

 消えていく中で、エメレンシアが口を動かした。

 

 ──"殺されてしまうだろうから"

 

 直後、俺の身体を一発の銃弾が貫いた。

 

 ビルから、落ちる──。

 

 

11 / ◇

 

 

 二発目が来る前に不可視の幻術を纏う。

 迂闊だった。最初に襲ってこねえから、来ねえんだって油断していた。単純に、マークしていて隙が生まれるまで待っていたってことかいね。

 撃たれた箇所は腹のど真ん中。この小さい狐身を撃ち貫くたぁ余程腕の良いスナイパーだ。あるいは機械式か。どっちにせよ、相手したくない事山の如し。

 

「だがよ、人間……ここまで明確な敵対行動取られて俺黙っちゃねぃぞ」

 

 スナイパーを探すことよりも、先に。

 テルミ全体。表層に出てきている人間の、そのすべてを幻の炎で焼き焦がす。老若男女、関係無いね! 人間は人間だろう、連帯責任だ。

 途端、あちらこちらから悲鳴が上がる。技術力ってな、発達してりゃ発達してるほど、想像力も豊かになる。どれだけ火を利用してきたぃね、それが自分に向くところ、一度でも想像しなかったかね。

 

 そしてもう、隠すこともない。形態変化で──傷を塞ぐ。

 はン、再生出来てるわけじゃあねえのが難点だがね。塵になって元に戻れるわけじゃあねえが、俺が俺を覚えている、俺を思い出せる限りは治るぜ、簡単に。

 

「半数は市民の保護を優先しろ! 幻覚の炎だ、気付け薬の配布を急げ!」

「ちゃんと対策されてんねぇ、青白帽子! 軍の手先ってやつか! はは!」

 

 ソーサーと呼べば良いのか、明らかな超技術で浮いているそれに乗った青白帽子が100余名。これも重力鉱石とやらの技術か。は、ならよ。

 

「!? なんだ、急に重力が増大した……!」

「恐れるな! 幻覚だ!」

「し、しかし! 現に重力計が、あぁっ、落ちる!」

 

 一気に。

 バランスを失って落ちていくソーサー共。

 はっはっは、幻術が生物にしか効かねえと、誰が決めたぃね? まぁ原始的なもんだと騙し難いのは事実だが、こっちにある程度の知識があるんだ、完全に理解出来ねえもんでも持ってこない限り、物言わぬ機械なんざ格好の的だぁぜ。

 計測出来るもんなら騙せようさ!

 

 その間にも落ち続けているが、適当なところで鳥になり、着地してから人間形態へ。不可視の幻術を解けば──へぇ。

 

 落ちて尚、すぐに持ち直した先の100余名。地上にいたらしい青白服が更に100幾名。市民の保護にあたったのが半数だったか、んじゃ追加で100数名。

 内他に仕事のない奴ぁが、全部。

 俺に銃口や切っ先を向けていると来た。

 

「目標はイオピクス! 既に市街から目標以外のイオピクスがいないことは確認済みだ! 逃げ隠れても、見つけ次第射殺しろ!」

「おいおい、なんで逃げ隠れる前提で話進めてんだよ。俺の命を狙い、あまつさえ傷を負わせたんだ。お前らを殺さない、ってぇ選択肢はもうないのさ」

 

 剣を生成する。

 長大で、膨大な剣だ。テルミのビル一つにだって匹敵するそれを、青白帽子の上に置く。

 

「案ずるな、幻術……!」

「監視塔が言ってるだろうよ! 地場電波質量変化の観点から──本物だってさぁ!」

 

 落とす。

 落ちた。 

 

 超質量だ。俺が想像し得る、この能力で生成し得る現段階の最大級。槌とかを生成できりゃもっと効率良いんだがな。あくまで剣限定なのがこの能力だ。

 落としたのは剣。だが、なにも切っ先だの刃だのを落とした訳じゃあない。

 

 剣にゃ腹っつー、一番面積の広い部分があるんでね。

 

 それでもう、大災害だ。ビル群。家々。そして、人間。

 それでもびくともしないテルミの基部にゃあ頭が下がる。

 

 さ、これで半分くらいは死んだかね。

 

「撃て!」

「っと!」

 

 射撃。スナイパーのものだけでなく、周囲からも。

 おうおう、全然死んでねぃな。デイルの軍隊はこれで全滅だったろうに、4/5くらいは残ってる。なんだ、衝撃軽減のお守りでもあんのかね。それ全軍に配備しないよ。

 ……つか、青白帽子は軍の手先なんじゃなかったけ。手先の方がいいもんつけてんのか? いやまぁ、手先であって手下ではないのか。

 

 射撃は続く。そこに俺ぁいないんだがよ、随分な精度だ。けど監視塔とかいうのには幻術をかけてねぇのに俺の位置がわからねぇのは、命中精度があくまで機械式じゃねえって証左かね。

 

「──止めたまえ! 君達!」

 

 そんな。

 掃射されている俺の幻の前に、上空から降ってきた奴がいた。

 

 ライオットだ。

 

 

 

 

 ライオットは、弾く。弾く弾く弾く弾く。腰に提げていた剣の一本で、200を超える銃口から発せられる弾丸を、全て。

 なーにが「それなりの実力はあるように見える」だ。

 達人クラスじゃねえか、普通に。

 

「君達! か弱き少女を大人が寄って集って何事だ! 恥じたまえよ、この状況のすべてを!」

「市民の安全を脅かすものは、怪物であれ少女であれ排除する! 犯罪者を庇い立てる貴様は何者か!」

「ギルドのライオット! それで通じよう!」

「またギルドか! でしゃばりなボランティア団体め、犯罪者まで取り込むつもりか!」

 

 何よりも、弾かれた銃弾が一切俺の方へ飛んで来ねえ。俺がここにいることもわかってやがる。油断ならねえと思っちゃいたが、もし道中に襲われでもしていたら普通に死んでたかもな。

 しかし、軍とギルドは仲が悪いのか。しかもボランティア団体? 金貰って依頼受け付けてるんじゃねえってことか?

 

 考察もそこそこに、幻術の炎で青白達の眼球を焼く。目ってなぁ臓器だ。他より痛ぇだろい。

 そして幻術を解いた。

 

「む、隠れたままでいいものを! ここは私に任せて、逃げるんだ! あの二人は既にゲートの前にいる!」

「やだね。俺ぁ撃たれたんだ、腹をさ。傷は塞いだが、やり返さねぇと筋も通らんだろ。お前こそ逃げても良いぜ。関係ねぃだろ、お前にゃ。俺は犯罪者で、あいつらは法の執行者。このままじゃお前も犯罪者だぜ?」

「私は君達の護衛だ! ミグエルから来る少女三人を、ファイスまで護衛する! それが依頼だ!」

「依頼と自分、どっちが大事だいね」

「どっちも大事と答えるのが正解の問いだな! だが、少なくとも道中を共にした君達の方が、連中よりも情があるのだ! 助けたいこちらの心情を推し測ってから物を言ってくれたまえ! 犯罪者なら犯罪者らしく、私の事など気にするな!」

 

 ……は。

 やっぱり全部知ってんな、コイツ。それで、その上で。

 守らせろ、だってさ。ははは。そりゃあ、馬鹿過ぎる。

 

 もういいや、エメレンシアの手先とか、細々しい勘繰りはやめた。コイツ、気持ちが良いや。ライオット。改めて名前ぁ覚えたぜ。

 

「ラナエだ。狐のラナエ。エメレンシアへの復讐ってのを、一応やるつもりでいる。お前は?」

「今更何を、と問いたい所だが、そんな時間は無さそうだ! 連中が君の幻術に対応し始めたぞ!」

「おい、名乗れよ。人間だ、名前があるだろ」

「──ライオット・ホルンだ。お嬢さん……いや、ラナエ。君を護る盾であり──」

 

 剣を生成する。今度は手頃なサイズのやつ。

 

「君の命を脅かす"敵"を斬る剣である!」

 

 さぁ、テルミ。滅亡の時間だ。

 

 

 

 

 防御から攻撃に転じたライオットは、圧巻だった。

 あの盗賊の男など目じゃない。一騎当千がまさに当てはまる。

 あくまで護衛として、俺に向かう凶弾や凶刃を防ぐことも忘れず、ばったばったと青白達を切り伏せていく。あるいは英雄と、そう呼ばれてもおかしくない強さ。

 俺の復讐なんだがね、ほとんどアイツがやっちまった。

 

「護衛対象に、傷を負わせる等……焼きが回ったものだ、私も!」

 

 とかなんとかグチグチ言いながら、ライオットの剣は衰えない。

 そういやアイツ、ギルドのライオットで通じる、とか言ってたな。もしや有名人か?

 

「さて」

 

 鳥になって高くまで上がって、それを探す。

 あのベランダを狙える角度で、更にビルの根元にも対応出来る位置。

 

 ……みーつけた。

 

 さぁ、形態変化だ。

 なるのは、百舌鳥。ちぃと巨大な、百舌鳥。

 

 とあるビルの屋上にいたソイツに、不可視の状態で近付き──急襲して姿を見せる。

 

「……ひ、ぇ──ぁ!?」

 

 ソイツ……スナイパーを脚で掴み、遥か高くまで上昇する。

 なぁ、アルジナが言ってたんだ。中央の塔は、触れたらビリビリするってさ。さっきも見たがほうほう、鋭利な電波塔だこと。

 

 そっから。

 

「待、」

 

 放る。放す。

 知ってるかい、百舌鳥。百舌鳥のはやにえ。

 俺ぁ狐だがよ、わざわざ鷹でも鷲でもなく百舌鳥になったんだ。

 

 なぁ。

 俺の腹ぁぶち抜いたんだ。

 

 お前もその腹、ぶち抜かれにゃダメだろい?

 

 

 

 

 地面に降りると、全て終わっていた。

 起きている青白は一人もいない。落ちている武器はすべてが壊されている。

 そして、ライオットは。

 

「なんだ、一人じゃ荷が勝ったか」

「私も歳を取ったというだけだ。何、掠り傷。どうということはない」

 

 さすがに無傷ではない。だが本人の言う通り、掠り傷だ。頬が少しだけ、裂けている。それ以外に目立った外傷は無い。

 

「治してやるよ」

「む、それはありがたいが……良いのか?」

「ん? なんだ、お前。俺が警戒してるのに気付いてて、近寄らせねぃよう細心の注意を払ってたってのも知ってて、だってのに俺がいきなり懐に入れるような真似をしたからって動揺でもしてんのか?」

「お、おう。説明が全て取られたが、そうだ。君は、恐らく私を依頼主の手先だと思っている。私の真の実力を見てしまった今、こうも近付くなどあり得ないとばかり」

 

 尾をずるりと現して、ライオットの頬の傷へ触れる。煙管で一つ、吸い込んだ。

 ……あン?

 

「なんだ、ほとんど殺してねぇのか」

「あくまで私は護衛だ。護るのに命まで奪う必要はないと判断した」

「ま、好きにすりゃいいさ。ほれ、治ったぜ」

「感謝する」

 

 背を向ける。

 隙だ。さて。

 

「行くとしよう、あの二人が待っている」

「あいよ」

 

 とりあえず、200強。コイツにぁ命を守ってもらったわけだ。十二分の義理だな。先の治療含め、もう少しは返さねえと釣り合いがとれん。

 

 ……ああ、そうだ。

 

「先、行っててくれ。一瞬だけ、知り合いに挨拶してくる」

「ならばここで待っている」

「へいへい」

 

 もうちいっとばかし融通をだな。

 

 

 

 

 さて、鳥になってやってきたのは、例の最上階。

 窓に張り付いていたエメレンシアが俺の登場に驚くと同時、夢幻に招待する。

 

「殺されなかっただろう」

「鳥さん?」

「あぁ、狐だ、狐。どろん、ってな」

 

 狐になれば、直ぐ様抱き上げられた。ふふん、どうだい、もふもふだろう。

 

「ああっ、無事で良かった……!」

「時間はあんまりねぇんだがよ、幾つか聞かせてくれ。お前さん、なんでここに閉じ込められてる?」

「……世界のため、よ」

「そりゃ大層だな。具体的には?」

「テルミがたくさんある、ということは知っているかしら、狐さん」

「ああ、知ってる」

「各テルミに一人、エメレンシアがいるわ。私達は楔であり起点。……らしいの。教えられた事だから、詳しいは……」

「教えられた? 誰に」

「エメレンシア。前の、エメレンシアよ」

 

 その時。

 一瞬、ノイズのようなものが走った。エメレンシア──この少女と重なるようにして、違う少女。

 

「私もそろそろ、"交代"するの。ねぇ、次のエメレンシアにも狐さんのこと、教えても良い?」

「そりゃ良いがよ、お前さん、交代ってのをしたら、どうなる?」

 

 エメレンシアは、にっこりと笑った。

 

「ね、狐さん。……私は、何もあげられない。ごめんなさい。あなたのことは……貴女のことは、知っていたの。ここのゲートを通ったでしょう? あれはね、エメレンシアの扱う力。通った対象の全てが見えるわ。考えや記憶は読めないけど、過去が見えるの。貴女の行動基準を、私は知ってる」

 

 エメレンシアは話す。やっぱりマルゴーとゲートは同じ、あるいは似たようなもんか。だが、ゲートは常識に定着するくらい昔からあると来た。

 

「私は、貴女に義理をあげられない」

「助けてほしいのか」

「助けたくはないの?」

「ちぃと話した所で情は湧かんし、女子供だからって助けたくなるわけじゃあねえ。善性でも、だ。その上で聞くぜ。助けてほしいのか」

 

 次に出た笑みは、力無かった。

 

「ダメ。この部屋から出たら、私は死んでしまうの。光以外のものは私を傷付けるわ。だから、願えない。欲せない」

「助けてほしいのか、聞いてる」

 

 質問に答えろ。口があんだろ、今は声も届くんだ。

 なぁ、どうだ。

 

「……うん、助けて──ほしく、ない」

「そうけ」

「私がいなくなったら、他のエメレンシアも、次のエメレンシアも困ってしまうわ。折角、ようやくここまで積み上げた破滅への一打を、私の願いなんかで潰すことはできないもの」

「世界のため、かい?」

 

 エメレンシアはもう、それ以上を答えなかった。

 ただ最後に、おもいっきり駆けて良いかだけを聞いて。

 

 ……なんだかねぇ。世界だのなんだの、どうでもいいんだがよ。あっちのエメレンシアに復讐しづらくなるだろ、余計なことを聞かせるんじゃねぃよ。

 

 

 

 

「あ、来た来た。二人ともー」

「夥しい血の痕……まさか、どちらかが怪我をしたのかね!?」

「美味しかったよー」

「な……」

 

 とっとと慣れろよ、アルジナにはよ。

 

 

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