一応、復讐でもしますかね。   作:エメレンシア / 観察端末

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ジンスリンディンアレン。

行くべき道を見失った時にこそ、今まで辿ってきた道を振り返れ。


12.あっさりした終幕?

12 / ◇

 

 

 ファイスに着いた。

 テルミが空中都市だったから、こっちもなんかすんごいアレがアレなのかと思っちゃいたんだが、なんてことはない、普通の街。まぁ規模はでかいんだが。

 ただ中央に白くてまるっこいドームがあるのと、テルミ並みにはビル群があるってぇのが特徴と言えば特徴かね。浮いちゃいないし地下に何かがあるってわけでもなさそうなんだが。

 

 ライオットとは、ついさっき別れた。私はこれで、なんて言ってな。正直ファイスへと足を踏み入れた瞬間に後ろから刺されるか斬られるんじゃあねぇかと疑っていただけに、やはり拍子抜け。本当にエメレンシアの手先じゃねえのか、あるいは何らかの準備があるのか。

 市街に監視カメラがあるようには見えず、街行く人間も、衛兵も、俺を見たってなんのリアクションも無いと来た。知らされていないわけじゃあねぇだろうに。ちぃとばかし、気味が悪いとは思う。見て見ぬふりをするってんならわかるんだぁが、本当に知らない様子、ってのが……なんとも。

 

 指名手配されてるってのは確かなはずなんだがねぇ。

 

「エメレンシアの事務所ってぇのは、こっちか」

「ん」

 

 別れ際に貰ったファイスの地図を頼りに事務所を探す。ギルドにも寄ってくれとギルドの場所を示してくれたので、エメレンシアに接触しただろう奴へ"返し"に後々向かうつもりだ。

 

 はたして、エメレンシアの事務所とやらは、簡単に見つかった。

 

 何の装飾も何の飾り気も何のペイントも何の誇張も無い、四階建てのビル。それなりの広さで、四階全てが事務所だというのだから、まぁ稼いではいるのだろう。ただ、めちゃくちゃ稼いでいる、という風ではない。普通に往来にあるのもなんだかな、といった感じ。奴隷扱う会社ってのが、子供も歩く大通りにあっていいもんなのかどうかって話だ。俺ぁ狐だからよくわからんのだが、倫理が云々道徳が云々と、色々あるんじゃねえかと日本人の感性が言っている。

 いやまぁ奴隷つっても性の方向に尖がってるわけじゃあねぇか。ある意味でお手伝いさんみたいな……いや、俺がアルジナに首輪つけてほっつき歩いてても特になんも言われなかった辺り、やっぱりあの扱いで良いんだろう。メリンダもソウイウ風に売られていたし。

 だから、まぁ。

 獣と融合したそれが売られ始めた5年前よりもさらに前から、奴隷という文化は定着していて、当たり前のように人身が売買される世界ってこったぁね。

 

 それでは、と。

 足を踏み入れる。

 

「……? あの……何か御用でしょうか。ここは、お嬢様方のようなお子様が来るような所では」

「エメレンシア、いるかね」

「社長にご用事ですか? あの、失礼ながら面会のご約束等は」

「いるのか、いないのか聞いているよ」

「申し訳ございません、約束の無い方をお通しする事は」

 

 堪え性がなくてすまないが。

 敵の仲間に情けをかけるほど、優しくは無いんだ。

 

 短い悲鳴すらも上げる暇なく首の落ちた職員。ライオットの剣筋を見て、どう振ればいいのかってのは理解できたんだが、筋力や技量が圧倒的に追いつかんね。形態変化も俺の思考速度に左右されるから、んなコンマ何秒で筋肉量を増減したり、ってのは難しい。

 さて、小さな子供三人に構っていた職員の首が落ちれば、周囲は大パニック必至だ。必至だろう、と。

 そう思って顔を上げたそこに。

 

「すまんな」

「──っ!」

 

 咄嗟に剣を生成して防ぐことに成功しなければ、俺の身体は脳天から真っ二つだっただろう。

 そうでなくとも肩がざっくりと斬れた。防ぐことに成功して、これだ。

 

「……やっぱりお前は、エメレンシアの手先ってことでいいのかね」

「違う。たった今、新たな依頼を受けた。ここの防衛。及び」

 

 複数人の足音。

 囲まれている。

 

「大量殺人犯──イオピクスのラナエ。お主を拘束する」

 

 ライオット。加えて、なんぞ老獪な人間たち。

 それぞれ同じ紋章のついた服を身に纏う──俺の考えが正しければ、ギルドの面々だろうそいつらが。

 

「我らはギルド。過去の戦争、過去の闘争。その全てにおける英雄──自らを持て余す者が集う、非営利団体だ。金銭を求めず、対価を求めず、受け付けた依頼をただ熟すだけの集団。依頼主及び国民の命を脅かす災害よ、願わくば無抵抗で──」

 

 火を、つける。

 けれど顔色一つ変えない。

 

「話が長いよ。要は捕まれ、さもなくば死ねってことだろう?」

「殺しはせん。依頼主の意向だ。四肢程度は、もぐだろうが」

「おいおい、口調がさっきまでと別人だぜ、ライオット。演技上手か?」

「親しまれやすく、隙の大きい性格で、との依頼だった。此度の依頼にその指定は無い」

「依頼内容を話すのはいいのかよ。守秘義務なんだろ?」

「そんな義務は無い。聞かれたらそう答えろ、とは言われていたがな」

「そうけ」

 

 なんだなんだ、手のひらの上ってか。

 俺が「気持ちのいい奴だ」と思ったのさえ、誘導されてたってか。はン。そうかよ。

 

 んじゃ、心置きなくやれるな。

 

「なぁよ、ライオット。俺がお前さんに情、覚えていると思ってるかい」

「思ってはいない。お主は狐なのだろう。人間に情を覚えることなど、無い。違うか」

「そりゃ違うよ。相手が人間とか狐とかってのは関係ねぃ。基準は色々あるんだがね、少なくともお前にも、アルジナにも、ルシアにも。あるいは、攫われた妹にも弟にも、殺された母上殿にも。情っつーのは、湧いてない」

「非情な奴だな。ならば今、我らがそこの二人の首を落としたとして、なんとも思わぬか。依頼主が欲すのはお主の身柄だけ。そこな二人は含まれておらぬ」

「率先して依頼対象外の命を奪うのかい」

「お主が動揺するのならば」

「そいつぁ朗報だ」

 

 両手を拳に握りしめて、顔と同じ高さに持ってくる。

 そして、形態変化。

 

 ぼろ、っと零れ落ちる二つの拳は──イボのついた、楕円の球体。

 

「動揺するのは、そっちだろうぃ?」

 

 地面に着いて──莫大な熱量と共に外殻が裂けた瞬間、俺の横を二つの風が通り過ぎた。

 直後、エメレンシアの事務所の一階は、爆発に飲み込まれる事となる。

 

 

 

 

「はは、流石英雄サマだ。大量殺人犯の仲間でも、救える命は救うってか」

 

 先ほどの爆風の全てを生成した剣で防ぎ切った俺の前後から、ライオットもアルジナもルシアも消えていた。んで出てきてみればこれ。アルジナを抱え、その身を拘束するライオットと、同じくルシアを拘束する槍を持った人間の女。俺の殺害より、人命を優先した、ということだ。

 しっかり拘束する辺り抜かりない。まぁ大量殺人の大方はアルジナの仕業だってのは、ライオットであれば気付けたことだろうし。警戒はするか、そりゃ。

 

「お主の横を通り抜けた。その意味がわかるだろう」

「その気があれば殺せた、って?」

「そうだ。お主から私に情は無いと言ったがな、私からお主には多少なりと情がある。四肢をもぐ等という蛮行は勿論、あまり傷つけたいとも思わぬ。お主の、兄弟姉妹を攫われ、母親を殺されたという経歴にも同情するし、お主が各地で起こした殺戮以外の──温泉街の救済に伴う盗賊団の壊滅や他国の王族からの感謝状と言った、英雄的側面があることも認めている。無抵抗であれば、悪い様にはせん」

「お前らの依頼主が、俺の母親を殺し、兄弟姉妹をさらった張本人とわかった上で、それを言ってんのか」

「……確証は取れていない。だが、そうであろうと踏んでいる」

「知ってる、ってぇ事だな」

 

 じゃあ、もう。

 どうしようもねぃだろう、そりゃあよ。

 

「軽い気持ちだぜ。吹けば消えるような蝋燭の火さ。だが、復讐の火だ。なぁよ。英雄なら、復讐の前にどんな言葉も説得も意味を為さん事くらい、わかるだろう」

「……そうだな。ならば、せめて苦しませずに」

 

 火を放つ。

 地に手をついて、燃え広がるは幻の炎。

 それを気にする者は一人もいない。ちぃっと火傷したか、程度の痛みだ、この場にいるのが全員英雄とやらだってんなら、リアクションの一つもないのは分かりきっている。

 幻の炎はさらに燃え広がる。建物を覆い、浸し、首都中に広がっていく。

 

「何をするつもりだったかは知らんが、眠っておけ、ラナエ」

 

 それは刃ではなく、柄だった。

 首に勢いよく当てられた剣の柄。それは簡単に俺の意識を奪う。

 

「幻術か──ボルド!」

 

 彼が柄を当てたのが、炎の塊でなけりゃあ、簡単に奪えたのだろう。

 当たり前だが、俺ぁこんな奴らとまともにやり合えるほど強かない。一般人から軍人程度が俺のレンジだ。一人一人が一騎当千なんざ、命がいくつあってもたりねえ。だから、誰も気にしない事を見越して、幻の炎に隠れて狐身で逃げさせてもらった。不可視の幻術と聴覚に働きかけるコレぁ、本当に役に立つ。

 

 そんな俺の身体に、矢が刺さる。

 

「っ、……弓使いか。銃は潰されるって学んだのかね、まったく」

 

 灼熱のような痛みをガン無視して、形態変化で矢を排出、傷を消す。ついでに毒に侵された部位も捨て置く。矢に毒を塗るとか、英雄サマのやることじゃあねぃだろうによ。

 つか不可視の幻術が効いてねえや。なんだ、アレか。気配ってぇやつか。俺もちったぁわからんでもないが、ここまで離れて見えも聞こえもしない狐の身体を正確に射止めるとか、意味が分からんね。

 

 さっさか逃げながら、すれ違う人間すべてに俺の人間ver.や狐ver.、狐娘ver.の幻術を纏わせていく。が、さっきから弓がざくざくさくさくと俺の周囲に飛んでくると来た。何が見えてんだよ。

 

「ん? 蝶? ──おぉわっ!?」

 

 視界内に入り込んだ一匹のクロアゲハ。

 それが──爆発した。視界に入ってなかったのだろう、背後や上空でも爆発が起きまくる。なんだなんだ、そういう能力ってか。随分と使い勝手の悪そうな能力だぁね! 俺は追い詰められてるけど!

 

「おいおい、市民を巻き込むだろ……」

「問題ないんだなぁ、これが!」

「うわっ!?」

 

 槍。投擲されたそれは、柄に付いた鎖によって引き戻される。それを避けた先にいた奴に思い切り殴られ……たのは幻術の俺で、そいつの股下から転がるようにして逃げる。

 

「市民巻き込んでいいとか、本当に英雄かよ!」

「既に市民は退去済みさ。君がさっきから熱心に幻術を纏わせていたのは、僕の作った精巧な人形。街中を歩くし、笑うし、喋るふりも出来る人形さ。気が付かなかったかな、獣では。案山子も案外役に立つ」

「その歳になっても人形遊びたぁ、高尚な事だな、爺さん!」

「人の趣味を笑うものではない、というのも、獣にはわからない事かな」

 

 地面にクレーターが残る程のパンチをしてくる半裸の男から逃げ回りつつ、降り注いでくる矢の嵐と槍、暗所に近づけば突然斬りかかられ、市民を盾にする事も出来ないと来た。幻術は……まぁ、あの場から逃げ出せた事を察するに、効きはするのだろう。であれば。

 

「おい、ミチアガ! 今の槍、俺に直撃するところだったぞ!」

「ははは、そう人を煽り立てるものではない。程度が知れるぞ、小童」

「これは……油の臭い? 待てみんな、炎が来るぞ!」

 

 視覚、聴覚、嗅覚にそれぞれ幻術を掛ける。

 これで不和が起こる──。

 

「……落ち着きなさい。気付け薬は配ったはずです」

 

 屋根上。巫女みたいな衣装の、比較的若い女。

 大きい声でもないのに、その声は街中に響き渡って、直後自らを恥じ入るような素振りと共に英雄たちにかけた幻術が解ける。

 テルミでも見たが、しっかり対策されてやがる。幻術ってな、他に気になるもんがあると結構簡単に解けるんだ。

 

「申し訳ない、取り乱した!」

 

 そう叫んで、再度拳を構える半裸男。

 眼前に迫る射出された剣を真っ向から殴って、剣の方が折れた。拳は無傷。

 

 ……相手してらんねぇ。なんだこいつら。人間じゃあねえだろう、もう。

 

 俺は俺の命が大事だ。何よりも。復讐なんかよりも、母上殿に託されたものなんかよりも。

 俺が生きている事が最優先だ。命が脅かされない事が最優先だ。

 こんな──こんな、くっだらない命の取り合い、付き合ってられない。

 

「おい、ライオット!」

「観念したか」

 

 ゆっくり歩いてくる奴に、告げる。

 

「俺ぁ逃げるわ。アルジナとルシアは任せた。お前なら、なんとかしてくれるだろ。一応ルシアの方にゃ義理があったんだけどな、果たせそうにないから反故にするわ」

「逃がすと思うのか」

「馬鹿だな。幻術ってのは、本来逃げるためにあるんだ。戦うためじゃねえのよ」

 

 どろん、と。

 煙と共に、不可視を纏う。

 

「じゃあな!」

「──見えなければ」

 

 彼我の距離は、30mはあるだろう。

 けれどライオットは、その剣を腰だめに構える。

 

 そしてそれを振りぬいた。

 

「斬れないと、誰が言ったか」

 

 ぼて、と。

 落ちる。それは──意識を失った、一匹の狐。頭から、不可視の部分が減っていき、尻尾がどさりと落ちる。

 飛ぶ斬撃、とでもいうべきもの。正直意味が分からない。原理も理解できない。ただ結果として、その斬撃は不可視の狐を落とした。

 

「……すまないな。我らとて、善悪の区別はある。だが、依頼だけが我らを動かすのだ。そうでなくては、我らは余りにも……強すぎるのだ」

 

 丁重な手つきで、意識を失った狐を掬い上げるライオット。

 

 そうして、拘束されたままだったルシアとアルジナも連れて、英雄集団ギルドは撤収して行く。市民を模した人形は回収され、傷つけられた市街は恐らく土を操る、石を操る等といった能力をもっているのだろう面々によって、何事もなかったかのように修復された。

 

 かくして、街は賑わいを取り戻す──。

 

 

 

 

 いやァ。

 命からがら、ファイスから抜け出す事に成功した。まぁ知っての通りってヤツだぁな。

 

 形態変化で俺を作って、斬らせて、俺は逃げると。あれはまぁ見た目が同じ肉塊みたいなものだ。重さも質感も限りなく寄せてある。ちゃんと心臓が動いているように錯覚する幻術もかけてあるから、丁重に扱えば扱うほど気が付かんだろう。

 ……あるいは、見逃されたか、だけど。

 

 正直な話をしよう。

 俺はもう、復讐は諦めムードである。だって無理だろ、あんなん。直接戦闘に入ってきたのは4、5人だけど、エメレンシアの事務所に集まってたのは30人以上はいた。アレの6倍近い人数の、全員が全員英雄、なんてのを相手にしてたら命がいくつあっても足りねえよ。

 アルジナの餌になってくれたって対価で「エメレンシアの所へ連れていく」と約束したルシアには悪いんだが、義理立てさえも俺の命の前には霞む。そこの筋を通したい気持ちは勿論あるんだが、無理なもんは無理。すまねえなぁ、ホント。

 

 そういうワケで、ファイスからも、テルミの環状範囲からも出て、名前も知らない山に入った。適当に穴ぁ掘って、巣の完成だ。入れば、ほぅら安心感。やっぱふかふかのベッドだのなんだのより、これだよこれ。この安心感たるや。

 ……また密猟者とか、追手とか来るんだろうけど。

 

 適当に逃げてー……適当に生きていきましょうかねぇ。

 はぁ、疲れたぁ、と。

 

 

◇ / ?





エメレンシア

あな

わた

たし

しだ



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