一応、復讐でもしますかね。   作:エメレンシア / 観察端末

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アルジナ

豊穣 / 古くは


14.あっさりした決着

 

 

 それは、"戦争"に向けて、少しだけ空気のひりついていた昼下がりの事。

 

 太陽が──落ちてきた。

 

 

14 / ◇

 

 

 現状の俺が作り得る最大規模の幻炎。ファイスを軽々と飲み込み、環状のテルミにこそ届かないものの、首都の全土を焼き尽くすそのブレスは、瞬時に阿鼻叫喚の地獄を作り上げた。無論、実際に火傷したり、炭化したりする、ってぇことはない。幻だからな。あくまで、燃えていると、燃やされていると錯覚する。

 けれど、何の構えも無しに、何の抵抗も出来ずに燃やされる、ってのは……どうだい、効くだろう。

 

「な、龍だと!? 管理局は何をしているんだ!」

「龍が逃げ出している! テルミの管理局からここまで飛んできたのか!?」

 

 一部、幻の炎に耐えうる者が出てきた。老若男女は様々だが、総じて、なるほど。基礎の身体能力に若干の優秀さが見られるように思う。あるいはこれも、その何か側、天国側とやらの人間なのかね。

 

 さて、形態変化を解く。同時に俺の身体があった場所へ、高速の矢や槍、斬撃なんかが飛来した。一年ぽっちじゃ衰えやしないってか。まったく、嫌になる。ホントなんで戻ってくる気になったんだ、俺ぁ。

 元の体重からかなり減らしてふわっと着地した俺の横で、どすん、とかなり大きな音と、なんならクレーターまで作って腰から着地したアウラニを余所に、狐娘の形になって眼前に剣を生成する。そこに、飛ぶ斬撃。

 

「良い挨拶だなぁ、ライオット。お前のそれ、俺の護衛してた時にゃ見せてくれなかったが、護衛に本気じゃあなかったってことかいね?」

「使っていたが、お主に見せなかっただけだ。そも、有象無象の軍を相手には我が身一つで十分よ」

「流石は英雄サマだ。それじゃあ俺ぁ災害として、この女でも人質にとるとしますかね」

「えっ」

 

 二本の剣を生成し、アウラニの首に添える。斬れるのか斬れないのかは知らんが、まぁ不老不死だ、大丈夫だろ。

 

「お主、一年で外道にまで落ちたか。以前はある程度の話は通じる、まだ救済の余地のある者だと思っていたが」

「馬鹿め。元からだよ、元から外道さ。なんせ狐だ、人道なんぞ歩いているものか」

「そうだったな。さて……今なお民を焼く炎。お主を殺せば、止むだろう」

「おいおい、少しでもその指を動かして見ろ、この……あー、名前のわからん女の首が飛ぶぞ」

 

「何、問題はなかろう」

 

 その声は、恐ろしい程近くから聞こえた。

 咄嗟に、()()()()()

 

 次いで大きく横に跳躍した体が、飛んだ首を掴んで──くっつけた。

 

「おいおい……もしやとは思うが、そいつぁ……マルゴー、か?」

「面妖極まりない避け方をされた後にその戦慄したような声は、些か思う所があるな。お主、いつから生物を辞めたのだ」

「斬撃飛ばしたり瞬間移動する方がずっと生物やめてるだろうよい」

 

 一年。一年だ。

 ある程度の争いはあれど、平和だったあそこで俺が何をしていたか。まぁ、一応、能力と呼ばれるものの鍛錬である。幻術は言わずもがな、形態変化と剣の生成。持ちうるこの二つを、なんとかうまく発展させられないものかと頑張った。

 頑張った結果が、これ。つまり、切り離した部位でも、くっつけりゃあ、くっつく。プラナリアみたいなもんだと思ってくれりゃあいい。元々形態変化による傷の消失は出来たからな。部位欠損にまで範囲が拡大した程度の強化だ。副産物として、切り離された肉体もそこそこの時間、形態変化を受け付ける。操作も。やろうと思えばファンネルみたいなことも出来るが、俺の頭が追いつかんのでやらない。

 

 そんなことよりも、ライオットだ。奴ぁ今、瞬く間に俺の背後へと転移した。何の前触れもなく俺の前に現れたエメレンシアを彷彿とさせるそれは、やはりマルゴーなのだろう。

 

「エメレンシアの手先だったのか、手先になったのか。どっちだ」

「前にも言ったはずだ。我らは依頼を受けて動く英雄集団。それは依然として変わらない」

「エメレンシアがお前達にマルゴーを付与する事を、依頼したってことか」

 

 答えは斬撃。

 剣を生成するも強度が足りず、折られ、右腕が切り飛ばされる。落ちたソレを糸状に形態変化させて、こちらへ接合。右腕が戻る。

 

「童女の見た目でそうも化生染みていると、お主が狐なのかどうかさえ怪しく思えてくるな」

「俺ぁどこまで行っても狐だよ、人間」

「だと良いのだがな。依頼主殿曰く、お主は世界に仇名す災害らしい。知っているか。この世界はあと少しで終焉を迎える。依頼主殿はそれを食い止めるために試行錯誤を繰り返している。お主が殺さんと願う相手は、救世を生む者だ」

「おいおい今更言葉で説き伏せようってか。じゃあなんだいね、世界を救うためなら、どこの誰であろうと殺し、売り捌いても問題ないってか」

「そう、言っている」

 

 ……おいおい。否定されるつもりで投げかけた言葉を、肯定されちまったよ。びつくりぎゃうてんだよ俺ぁ。世界救済のためなら、大義があれば。何をしてもいい、って。英雄サマが言うセリフじゃあねぃだろうよ。

 それともなんだ、コイツも記憶の酩酊とやらを?

 

「世界の終焉。破滅。それにより、全ての生物が死ぬだろう。すべての土地が枯れるだろう。それを防ぐためであれば、犠牲になる者が出るのは仕方のない事だ。それこそが依頼主殿の正義。故に、お主は悪だ、ラナエ」

「……は」

 

 はは。

 いやいや。なんだよ、そりゃ。

 誰だよお前。あの気持ちのいいライオットを返せよ。お前……本当に。

 

「依頼主の正義がそれなら、お前の正義はなんだ、ライオット。お前の正義において、俺はなんだ」

「私に、我らに正義は無い。これも前に言ったはずだ。善悪の区別はある。だが、義は持たない。与えられたそれに従う事はあっても、我らが持つことは無い。それは、強い力を持つ者としての責務だ」

「気持ちの悪い滅私なことで。言っておくけどな、俺にとっちゃエメレンシアもお前達も、ファイスの民もシェルダンに住まうすべての人間も、全員悪だぜ。俺ぁ俺の正義がある。義を持って全てを押し通らせてもらう。何度も言うがよ、馬鹿め。そんなにも思想を持っているってんなら」

 

 ライオットを取り囲む。

 それは、内向きに固定された剣群。その球形、アウラニも含まれている、という事に、ライオットは気付いた様子。

 

「む──」

「お前はもう、復讐対象だ。疾く死ね」

 

 射出。

 甲高い音が、響き渡る。

 

 ……銃弾を全部弾いた時にも思ったがね。

 

「人間、止め過ぎだろう、お前」

「何、手遊びの程度、よ……!?」

 

 全方位から飛んでくる大小様々な剣をたった一本で叩き落すとか、気が狂ってるよ。

 でもまさか、必死に守ったやつが。

 巻き込まれただけの少女が、刃物も使わずに心臓を貫いてくる、なんてことは予想できなかったかいね。

 

「う、血腥い……」

「お前さん、あの森で獣の死骸とて見飽きてるだろう、慣れろよ」

「生きてる人間の臓器は独特の臭いがするんよ……」

 

 ライオットは達人クラスなのだろう。だったのだろう。飛ぶ斬撃も相まって、英雄と。そう呼ばれていたのだろう。

 いやはや、しかし残念ながら。

 首に剣を添えられ、動揺していたこの少女の方が。

 何万年と同じ姿ですべてを研鑽し続けた──本当の達人である。油断しきった人間の心臓を貫くなど、造作もない。

 

「こんなあっさりした終幕、俺だって望むところじゃあないんだぜ?」

「……ル、シ」

「おいおい、心臓失くして生きてるとか本当に人間やめてねえか」

 

 ライオットは。

 力なく、唇を動かす。

 

「ア、と……アル、ジナ、は」

「首を落とさないとダメか。厄介だな、能力を付与された奴、ってのは」

「ギルド、で……保護、した。会っていくと──」

「さいならさん、ライオット。演技だとしても楽しかったぜ。義理は、来世にでも返すよ」

 

 首を剣で割り落す。

 それで、ようやく。ライオットは絶命した。

 

 

 

 

 ライオットを吸って、一息。

 

「……ラナエ、それ」

「ん。ああ、アウラニには見せてなかったか。まぁ、これも……俺の能力さね。どちらかというと、これこそが本当の能力、というべきやもしれん」

「それの名前、知っとる?」

「名前? いや……知らないな。幻術とか形態変化とかはなんとなく知っていたけど、剣の生成もこの斬撃も、名前があること自体知らねえや。あ、そういえばマルゴーは習得できなかったな」

「……それはな、魂の摂取っていうんよ。昔から……極々限られた性質の持ち主だけが持てる、ものっそい珍しい能力なん」

「限られた性質ってのは?」

「転生」

 

 ……へぇ?

 

「わかる? 生まれ変わり、って奴。生まれ変わること自体は、どんな生物でもする。ウチみたいなのを除いて、どんな極悪人でも、どんな聖人でも、獣のでもなんでも、する。でも、だからといって転生の性質を帯びるってことはないんよね。それを持つことが出来るのは、何か側……つまり、"意思持つ存在"によって付与された場合のみ。ソレが本来の能力いうてたな? じゃあ、ラナエ。あんたは実は、"意思持つ存在"側なのかもしれん」

「破滅を回避する側、ってことか?」

「幻術も形態変化も破滅側、あるいは地獄側の能力やけど、魂の摂取は確実に回避するための能力やな。失われるはずのそれを、揺り籠に保管する。この世界は幾度も破滅と再生を繰り返してる、言うたよね、ウチ。それでも尚人間や獣がい続けてるのは、一時代に必ず一人以上、転生の性質持ちが……魂の摂取を持ってる誰かがいたからなんよ」

 

 アウラニは神妙な顔つきで言う。

 んー、けど。

 

「それが、なんだってんだ? 俺がその……"意思持つ存在"? 側のソレだったとして、じゃあ俺の復讐には大義が生まれるんのか」

「……それは」

「生まれても、生まれなくても、どっちでもいいだろうよぅ。あるいはエメレンシアがその"意思持つ存在"側だったとしても、俺ぁ気にせず奴の命を奪うよ。ギルドの奴らなんてまさにそうだろ、破滅の回避とやらのために動いてる。でも、俺の邪魔をしたんだ、殺すよ。確実に」

「まぁ……そう、か。ウチが言ったんやった。何が付与されても、どう使うかは本人次第」

「お前さんだって、森を広げる能力を持っていながら、破滅を回避? しようとはしてないだろうよ」

「う。それを言われると、ウチはもう何も言えん……」

 

 何しょんぼりしてんだ、まったく。

 気にする必要はないってぇ話だろうよ。それともなんだ、そんなに止めたいのか。付いてきたのを見るに、メリンダみたいにそれなりの情が湧いちまってるのかね。しかし情が湧いたからってソイツの復讐を止めようと思うか? 放っておくだろうよ、関わりたくも無い。

 ……いや、あるいは。俺ぁとうに忘れちまったが……あまりにも、優しすぎる、みたいな……奴が、人間にはいるんだったか。不老不死だから自己より他己に寄ってる、みたいな?

 

 そりゃまぁ、難儀な事で。

 

「さぁて、飛ぶ斬撃、とやら。ちょいと試してみるか」

 

 あくまで身体能力で行われたものではなく能力によるものだったらしいこの攻撃は、そうであれば、俺の想像力でも使えるというもの。原理らしい原理がわかったわけじゃあないが、使い方がわかったのなら、使える。

 

 生成する。

 するのは──大きい、大きい、大きい大きい──剣。

 テルミの時のように上空に、ではなく、()()()()()()()()()()、生成する。

 

 それを、柄を支点に回転させると同時──能力を発動する。

 

「ライオット・ホルンの絶技。味わえよ、その威力!」

 

 

 

 

 街が、斬れた。

 

 

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