一応、復讐でもしますかね。   作:エメレンシア / 観察端末

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アネッラデュラ

見た目と中身は噛み合わないということ。


21.あっさりした摩擦と、善なる者

 

 

 天国というものは存在する。しかしそれは安らぎを与えてくれる場所ではない。ただ、肉体が必要なく、何もなく、ただただ暇を潰す以外にすることが無い荒野の世界だ。ただ広く、どこまでも広く、終わりのない赤い荒野。(ソラ)(オリ)

 巨きな太陽が二つ、その荒野を照らし続ける、夜も昼も朝も無い虚無の国。

 

 生と死。再生と破滅。()()()()()

 それらは対を為し、常に共に在り、故にこそ似通ったものであるとして語られがちだ。

 けれど、そうではない。天国はある。だが、地獄は無い。地獄とは場所の名ではなく、機構の名前だ。

 地獄はただ受け入れ、流すだけの機構。可能性に対しての判別を行い、より善きものを早く世界へ還すための機能を保持し続けるもの。そこに意思はなく、そこに魂は存在しない。だから、"地獄側"とされる能力は存在しない。地獄自らが何者かに能力を付与する事などないからだ。

 けれど天国は違う。正確には天国に住まう者は違う、というべきだろう。世界でしかない天国は能力を与える事は無いが、そこに住まう者が人間に能力を与える。そこに住まう者。天国に住まう者。

 

 天使と──
 悪魔と──

 

 

21 / ◇

 

 ルシアがいない。

 

 ガーリィの地下から行ける大集落にあの後寄ってみたんだが、やっぱりルシアはいなかった。弟も同じ。どころか一年前の恨みを憶えていたとかで追い回されて、面倒になって出てきた次第である。

 気になる事と言えばあのダンディ犬の姿が見えなかった事ぐらいだが、全体的な人口はあまり変わっておらず、なんだろう、一年前までの「反乱を起こすぞ」みたいな雰囲気は消え去って、どちらかというと諦めムードみたいなのが漂っていたように思う。

 ダンディ犬に何かあった、とみるべきだろう。知らんが。

 

 さて、俺的感覚半年は探し回ってるんだが、いない。戦争が始まったことで探し難くなったってぇのもある。色んな場所で戦端が開かれるし、あん時の盗賊団みてぇなのが増えた。童女の姿でも狐の姿でも襲われるたぁ恐ろしい事だ。

 基本は鳥になって空を行くのだが、ドラゴンが各地を飛び回ってるってのもあって空路もあぶねえと来た。

 他の大陸に行っちまったのかとも思ったのだが、エメレンシアに会いたがってたアイツがどうして他の大陸に行くんだよと思いとどまる。ってことで探して探して探して回っているのだが、本気でいない。俺の動向を察して逃げ回ってるんじゃねえかってくらいいない。

 

 破滅まで、どれほどの時間が残されているかわからない。ルシアを確保できたとして、その体を調べてロスに適用する、っつー無理難題も残ってるんだ、早い所見つけたいんだが……いない。

 

 途方に暮れた俺ぁ、まぁ、諦めるって選択肢もあるなぁ、なんて思っていた。約束をしてしまったからには反故にしたくない。けれど、約束だ。口約束。それに俺ぁ母上殿に世話してもらったって礼はあれど、ロスにはない。どっちにも情はねぇしな。

 俺自身が破滅に耐えられる体だってんなら、そう血眼になってまで探す事ではないようにも思う。

 

「ん?」

「は?」

 

 すれ違った。

 ……いやいや、ここ空だぜ。鳥でもドラゴンでもないモンに早々すれ違うかよ。

 

 旋回して──それを、目に入れる。

 白い翼と、金のリング。纏う衣服はどこか透き通っているような、そうでないような。

 

「なんだ、お前は」

「そっちこそなんだいね。そんな、陳腐な格好で」

「コレのことか? 何、天使だ。天使というものは、こういう格好をするものだろう」

「天使ぃ?」

 

 ……あー?

 はー、あー。うーん?

 

「お前さん、天使って感じしねぇなあ。そもそも天使なんかいたのか。何から遣わされてんだ、お前さんは」

「失礼な鳥だな。私は誰の下にも付かん。我々は自由故な」

「じゃあ天使を名乗るんじゃあねぇよい」

「む」

 

 別に羽ばたいてもいない翼と飾り気のないリングを付けた程度で天使を名乗れるんなら俺でも名乗れるわ。形態変化でちょちょいのちょいさ。俺は羽ばたかねえと浮けねえからなれやしないんだが。

 

「俺ぁラナエってんだ。お前さんは?」

「バラエルだ。ふん、長い事生きてきたが、鳥に名を問われたのは初めてだな」

「あぁそぉかい。まぁ今は鳥だが、俺ぁ狐なんだよ。狐で記憶しておけ」

「そうか。狐に名を問われたのも初めてだ」

「そうけ」

 

 よくわからん奴だな……。マイペースっつーか、こっちに対して興味がないというか。天使だからまぁマイペースも何もって感じはするが。いやいや、本当に天使なのか? ほら、ソーサーみたいなのあっただろ。なんか機械付けて飛んでねぇ?

 

「なんだ、ジロジロと。欲情でもしたか、狐の癖に」

「俺ぁ雌だよ。んで狐だ。人型に欲なんか抱くかよ」

「それはその通りだな。それで、何用だ」

「用なんかねぃよ。空に人間っぽいもんがいたら驚くだろう、驚いたら興味を持つだろう。そんだけだ」

「それだけか」

「そうさ」

 

 たとえ眼下で戦火が上がっていようと、悲鳴や断末魔が飛び交っていようと。

 すれ違う前──この天使が、その光景を見て笑っているのを見ていようと。別に用なんかない。

 

「用が無い者に興味は無い。とっとと立ち去れ、狐」

「そりゃあいいんだがよ、お前さん」

「なんだ」

「涎、拭いた方がいいぜ。さっきから服に垂れてる」

「……余計なお世話だ、狐。仕方なかろう、私はああいう光景が好きなのだ。涎くらい、垂れもする」

「おおよそ天使たぁ思えねえ発言だな」

「お前に天使の何が分かるというんだ、狐」

「……そりゃ知らねえがよ」

 

 もっと、あるだろ。こう。

 ああいや、そうか。天使ってな基本的に理不尽の象徴でもあるからな……これで正解っちゃ正解、か?

 

「あれ、何してるの、バラエル。早く集めに行きましょ? あら、なぁに、この鳥。バラエルの友達?」

「私の事を天使っぽくない、などと言う失礼な狐だ。友達ではない」

「へぇ! 珍しい、バラエルが愚痴を言うほど心を開くなんて! ね、鳥さん。私はサティーよ。私も天使なの。私とも友達にならない?」

「そりゃあいいがよ、話繋がってねぇし言葉通じてねえぞ、おい」

「こいつは元からこうだ。気にするな」

「そうけ」

 

 天使と友達になった……。いや、本当にこいつら天使か? そんなフランクな天使、いるか?

 バラエルとサティーなんて天使聞いたことねぇしな……。いやまぁ俺が知ってる名前じゃねえから違う、ってのも変な話だが。シェルダンもミグエルもナトゥムも知らねえ国だし。

 

「集める、ってぇのは? 死体収集家か、お前さんら」

「え? 違うわ? 生きているのを集めに行くのよ! だって、そっちの方が綺麗じゃない。もうすぐ破滅で全部が汚い土に成っちゃうんだから、その前に集めておかないと!」

「まぁ待てサティー。今良い所なのだ。シェルダン側の男が、一騎当千の働きを見せている。だが体力が直に限界を迎えるぞ。ナトゥム側もそれはわかっているから、劣勢のフリをして隙を伺っている。うむうむ、面白い見物だ」

「じゃあその一騎当千の英雄! コレクションしないと!」

 

 絶対天使じゃねえよ……言ってる事全部悪辣だもん。

 え、何? 世界の邪悪煮詰めました、みたいな奴らか? 破滅の事を知ってるのは天使っぽさがあるけど、言動が明らかにヤバイ。ヤバイが過ぎる。

 

 可哀想に、誰だ誰だ。その被害者……一騎当千の男とやらは。

 

 ……あー。コールかー。

 

「いやぁ、お前さんら。アレ、知り合いでさ。見逃しちゃあくれねぇか」

「え? なんで?」

「狐の知り合いに人間がいるのか?」

「いるんだよ、なんでかな。なぁよ、友達の好ってことで、どうかね」

「でも、そのままだと死んでしまうわよ? 破滅で、汚い土塊になって。そうなる前に私のコレクションになれば、破滅も回避できるし死なないし! 良い事だらけ!」

「ん、そうなのか? ……いや待て、破滅が回避できる、だって? どうやって?」

「持って帰って、私謹製のポッドに入れるだけよ? 破滅はこの世界で起きるものだから、天国には関係ないわ~」

「天国」

 

 天使、っつったか。

 で、天国に住んでると。そこに持ち帰れば、破滅は関係ない。

 

 ……ふむ。

 

「天国ってぇのは、どこにあるんだ。簡単に行けるのか」

「空のもっと先にあるわ。けど、うーん、鳥さんじゃ行けないかも。あなたはポッドに入れるには小さすぎるし、そそられないし……。肉体のある生き物だと、溶けちゃうのよ。私のポッドの中でだけ生きられるわ」

「いや、俺が行きてえわけじゃあねえんだがよ」

「そなの? あ、そろそろ体力が切れそうよ! バラエル、行きましょ!」

「そういうわけだ、狐。お前の知り合いを助けるためにもなる。それでも止めるか?」

「あー、まぁそういうことなら」

 

 別に義理があるわけでもねぇしな。ただ善性の奴だから、なんぞコレクションなんかになるのは可哀想かとも思ったんだが、土塊になって死ぬのとどっちが嫌かってーのは俺の知るところでもないだろう。

 だが、天国。天国か。

 ロスをそこに、そのポッドとやらに入れてもらえりゃあ、破滅の回避になる……な?

 

 サティーが女にも興味がありゃあ、行けそうな気がする。ルシアの身体の秘密を調べてロスに適用する、なんて遠回りなことしなくても、簡単そうだ。

 

「それじゃ、もし次に出会う事があったら、またね!」

「破滅で狐も死ぬだろう。次は無い。期待をするとまた落ち込むぞ、サティー」

「ロマンを持つのは悪い事じゃないのよ! ばいばーい!」

 

 元気な奴だな。言動は悪辣だが、性格は確かに天使っぽいような。バラエルは全く天使っぽくないんだが。

 どうせやる事も無いのでそこで旋回し続ける。

 またね、とは言われたが、次にいつ会えるかわからないのはこっちも同じ。用事が終わったらロスを入れてもらえるか聞きたい所。

 

 眼下。

 二人の天使が急速で戦場に向かっていく。

 落ちているようにも見えるそれは、しかし戦場の少し上の辺りで停止した。

 

 コールは疲弊し、今にも倒れそうになりながらも剣を振り続けている。シェルダン側は全力を出し過ぎたのか、先ほどまで押していたのにもう少しで押し返されそう、と言った様子。それを押し留めているのがコールで、俺と取引をした時からかなり鍛えたのだろうその体を必死に振り絞って戦い続ける。

 銃やらソーサーやらがあるはずなのに使わない理由はなんなんだろう、とか思わないでもない。ああいや、銃持ちはいくらかいるな。ソーサーは重力鉱石がないと使えない感じか?

 

 一瞬、コールがふらつく。

 その隙をナトゥム側は見逃さなかった。一斉に銃と弓を構え──遮蔽物のあらゆるところから出てきたそれらが、コールを射抜かんと殺意を込めて。

 

 

 戦場のすべてが、地に倒れ伏した。

 

 

 ……ガーリィのあれぁ、こいつらだったのか。あそこに、なんかあったのかね。

 今までの緊張感も緊迫感も消え薄れ──あとは、あの騒がしい天使が嬉しそうにコールや、他の強そうな人間を縄のようなもので縛って、サンタクロースもびっくりな白く大きな袋に詰めていく。

 バラエルはバラエルでサティーの眼に適わなかった戦士や兵士たちを眺めてはほぉ、と息を吐き、その傷や怪我を撫でたりなんだりしてはニヤニヤして……うーむ。

 

 天使ぃ……?

 

 いやいや。

 いやいやいや。

 

 違うだろう、ありゃあよ。

 

「……どろん、っつってな」

 

 不可視を纏って、立ち去る。

 まぁよ、なんだ。もし助かりたかったんなら、謝りゃあいいだろうよ。

 

 

 

 

「ここは……」

「よぉ」

 

 ちょいとした洞窟。つっても水源が近くに無いのか、じめじめはしてぇ場所。

 そこに寝かせていたコールがようやく目を覚ました。

 

「お前は……」

「おう、憶えてるか。軍人君」

「忘れはせん。イオピクスのラナエ……その幼さで大陸全土における指名手配など、史上初だろう」

「そうけ。んなこたまぁいいんだがよ。状況、わかるか?」

「いや、まったくわからない。だが……助けられたのだろうことは、わかる。私の記憶では体力の限界が訪れた所が最後で、視界には無数の敵戦力が映っていた。死んだと……そう、思った。だが、死んでいない。また、お前が助けたのか」

「結構分かってるんじゃねえかよ」

 

 サティーが縄と袋を取り出して、バラエルが戦場を眺めている隙を突いてかけておいた幻術で、まぁ形態変化と不可視のそれを色々使って助け出した軍人君ことコール。サティーが怒り狂うのかもしらんが、あれぁ絶対連れて行かせない方が良かったと思うんだぁな。

 ロスもまた、同じく。

 

「そうだ、助けた。だから、何かくれ。なんでもいいぜ。飴玉でも家族の写真でも」

「……前に言っただろう。私物は持ち歩かないのだ。今はペンも持っていない」

「おいおい、次に助けられる事を考慮して何かしらもっておけよ」

「死地に向かう一端の軍人だぞ。余計なものを持つ余裕があるものか」

「馬鹿が。だからこそ未練を持っていくんだろうが。死んでも死にきれねえ時に使えよ、記憶をよ」

「馬鹿はお前だろう……私に何を期待して助けたのかは知らぬが、私に残されているものなどもう何もない。家族は死んだ。ファイスの大災害を知っているだろう。突如として現れた巨樹によって、何もかもが奪われた。ナトゥムの手によって……ああ」

「……」

 

 んー?

 オーマが言うには、指名手配されてる理由はファイスを壊滅させたから、みたいな話だったはずだが……なんだ、コイツは知らねえのか? ナトゥムのせいになってる。軍の士気を高めるため? 都合が良いっちゃ都合は良いな。誰がそうしたのかは知らねえが、だから戦場も激しいのかね。

 

「私にはもう何もない。国のために死ぬこと以外はな。だから、助けられた事には礼を言おう。だが、助けて欲しいとは思っていなかったし、今お前に与える事の出来るものも何もない」

「ファイスを壊滅させたたのが、俺と知ってもか?」

「──……何?」

 

 何もねぇらしい。

 じゃあ、仕方ない。一番大事なもんを、貰う事にするか。

 

「俺だぜ、ファイスを潰したのは。ファイスを斬った。その後にあの大樹は生えたみてぇだけど、最初にやったのは俺だ。言うなりゃお前の家族の命を貰って、今お前を助けた、みたいなもんだな。おお、これなら貸し借りも成立する。ならお前にもう用はねぇや、どこへなりとも──おっと」

 

 ライオットのそれよりも幾分か遅い斬撃を避ける。

 今回は致命傷ではなかったため、治療はしていない。疲労の回復も全くだろう。それでも。

 

 コールの目には、怒りがあった。けれど憎しみは──ああ。

 

「そうか。お前には少しでも、少しだけでも、会話の余地があると思っていた。単なる殺戮者ではなく、快楽や悦楽のためだけに殺人を犯すような者ではなく、きちんと裁きを受け、罪を償えば──更生しうる者なのだと! ……違ったようだな」

「おいおい、どこまで善性なんだよ、お前。怒るだけか? 憎まねえか、俺を」

「して仕方のない事はしない主義だ。お前を嫌ったら家族が戻ってくるか。お前を憎めば、ファイスは元に戻るのか。そのような余計な感情に熱を入れる程、私は器量ではない。ただ──怒りがある。お前が、お前は、お前を……あの時、見逃してしまった私に!」

「俺を助けた事を後悔するか」

「捕まえなかった事を、だ。勘違いするな。私は、目の前で救える命があるのなら、それを救う事に躊躇は無い。それでも私は今、私の正義の元にお前に裁きを降そう。憎みたければ憎め。これより私は、私の判断で、お前を──殺す」

「じゃあよ、くれるモンは決まったな。俺も、お前にやるもんは決まったよ。こればかりはどっちかしか受け取れねえ」

「ああ──死を!」

 

 なんでそんな悔しそうな顔してんだよ、お前。

 死ぬ以外ねぇ奴の顔じゃあねえよ、それぁ。

 

 

 

 

 煙管を、吸う。

 まぁ。

 

「……能力を持たねえで、ソレか。すげぇなぁ、怒りってな」

 

 俺が負ける事は無かった。だって、既にコールは疲労困憊。剣の速度は通常時よりもかなり遅く、体力は無いに等しい。

 何を習ったわけでもねぇ俺の剣が避けられねえんだ。もう限界だろうよ。

 

 仰向けに。

 荒い呼気を抑えきれずに、涙を流して……コールは倒れている。

 

「……聞いた。アルジナ……お前と共にいた少女に。……一年前、私は……あの少女に再会し、お前の経歴を、聞いた。……家族を誘拐され、母親を殺され……人間に恨みを持ち、その復讐をせんと各地を回る、イオピクスの……狐の少女」

「美化しすぎだよ、そりゃ」

「復讐が無益だとは、言わない。……復讐には意味があるのだろう。いつまでも恨みを抱えたまま、いつまでも禍根を抱いたままに過ごせ、など……あまりにも、酷だ。たとえそれが、新たな復讐を産もうとも……それを晴らす事には、少なくとも復讐者にとっては、意味が、意義があるのだろうと……私は考える」

「高尚過ぎる。俺ぁそんなこと」

「人間に恨みを抱くのなら、人間から与えられる裁きなど……それこそ意味のないものだろう。裁きとは……復讐心を鎮める行為ではないのだから。だから、お前は……お前の復讐は、まだ、終わっていないのだろう。私の家族も……ファイスの人々も。否、この大陸に住まうすべての人間が、ただ人間であるというだけで、復讐の対象だ」

「……」

「それを、私は──」

 

 振り絞るように、洞窟の天井に手を伸ばして。

 心から悔しいというかのような顔で──言う。

 

「──悪とは、言えぬのだ。お前を──悪しき者であると、断ぜぬのだ。ああ──」

 

 こいつは、なんなんだ。

 どうやって、どの環境にいたら、こんなヤツが生まれる。

 

「義理は、返せそうにない。お前に死を与える事は──私には、出来ない。だから、勝手に奪え。私から──命を」

「おう。貰うぜ、余すところ無く」

 

 地に刺さったコールの剣を引き抜いて──その心臓へ、刺す。

 幻術で痛みは取り除いた。善性の者よ。最後くらいは、苦しまずに死ね。

 

「いつか──お前の、恨みが──晴れる事、を……」

 

 恨み、なんて。

 最初から、抱いちゃいねぇよ。夢を見過ぎだ、軍人君。

 

 煙管を吸う。

 コールの身体から溢れ出た燐光が、それに吸い込まれていく。

 

「土塊になるよりかは……いやさ、勝手な話だな、そりゃあよ」

 

 ご馳走様、ってぇことで。

 

 

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