一応、復讐でもしますかね。   作:エメレンシア / 観察端末

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ヘレンデイズ。

回りくどいのが苦手な人。


8.あっさりした悲嘆と説明

8 / ◇

 

 

 ミグエルへと辿り着いた。

 ちなみに首都ファイスのある今までいた国をシェルダンと言うのだが、検閲検問がある、なんてこともなく、メリンダに「あぁ、今シェルダンを出ましたわね」なんて言われてようやく気付くような、つまりまぁ、わざわざ国境線を分ける必要がないくらいの大国だった、という話。その中のちっさい山の中にいたわけだぁね、俺は。

 そこから特にどこの国のものでもない平地やら山やらを越えた。こういう所はファンタジーだよなぁ。国境なんてものが無い程度には、資源も土地も潤沢ってこった。

 

 んで、ミグエル。シェルダンとの違いは王族がいて、全体をして王国である、という点くらい、だとか。共和国でなんか部族同士が争っているとか、めちゃくちゃ強い権力を持つ宗教があるとか、そんなことはないらしい。ミグエル王国ではなくミグエルとしか呼ばれないのは、王族が特に強い支配を敷いていないからだそう。

 シェルダン側にもっとも近いだろうワイナンド市というところで腹拵え。といってもアジルナは腹いっぱいなので、俺とメリンダ、ルシアだけが簡素に食事を行った。

 

「しかし」

「……平和、ですわね」

「んだなぁ」

 

 市民に暗い雰囲気は見受けられない。

 悲しみに暮れているとか、張り詰めているとか。王族の娘が誘拐、ないしは行方不明になっているというのなら、もう少しピリつくもんだろう、人間てのは。

 それは、やはり。

 

「王城へ、行きましょう。一般開放されていますから、タイミングが良ければお父様にも会えるでしょうから」

「無用心過ぎねえ?」

「ええ、今となっては、そう思いますわ」

 

 そんだけ平和だったって事なんだろう。シェルダン側は密猟者やら人攫いが蔓延っている印象だったが*1、エメレンシアがそういう事業を始めない限りは、そこまで盛んじゃあなかったのかもしれない。

 奴隷という文化が根付いているのは確かなようなのだが、人間の奴隷はかなり少ない。普通に連れ歩いているのも、な。犯罪者やら身売りやらで奴隷に落ちる人間がいたとしても、人攫いによって売られる事はあんまりなかった、ということだろうか。優しい世界かぁ、おい。

 

「……」

 

 なんでもない顔で手首から先を齧られているルシアに目を向ける。

 俺がエメレンシアに復讐に行くことを知っていた時点で怪しさしかないコイツを、どの程度気にしたものか、という話。ゾンビに対しての決定打があんまりないし、食われても時が経てば復活するというのなら、燃やしたって同じだろう。聖水かなんかをぶっかけりゃ死ぬのか? あるいはゾンビじゃあないか。

 

 アルジナが普通に食えているし、それなりに美味そうな顔をしているのを考えるに腐ってるってわけじゃあないんだろう。ゾンビってのは、腐った肉、というのが通説というか、一般的だ。何が一般的なのかは知らん。俺の知識にある限りは、の話。

 それで、そうじゃないなら、そうじゃないのかもしれない。

 

「ラナエ? 行きますわよ?」

「ああ」

 

 なんでコイツが仕切ってるんだろうな、とか思いつつ。

 ミグエルが中心部へ──王都へと、歩を進める。

 

 

 

 

 さてまぁ、顛末から話すとしよう。

 王都について、王城に入ってすぐ、彼女はいた。

 

「あら、小さなお客様方、王城の見学ですの? ふふ、でしたら私が案内してあげましょうか?」

 

 なんて。

 言うのだ。言ったのだ。なるほど、確かに"お姫様"という呼称がしっくりくるような、恐らく綺麗なのだろう人間の少女。12歳くらいで、豪華絢爛なドレスに身を包んだその立ち姿は、まさに。

 

「メリンダ・アーテーデン……様、ですのね」

「あら、貴女は……猫の耳? あ、ごめんなさい。ええと、私と同い年くらい、かしら。この子達の保護者は貴女?」

 

 予想通り。予想の範囲内。

 ならばもう、メリンダに用は無い。1割に賭けては来たが、無駄足確定だな。

 

「俺ぁ帰るよ。来たかったんだろ? ゆっくり見ていきな」

「……」

「あら、帰ってしまうんですの?」

「ん、元々用事があってね。それに行くついでの奴だったからさ、俺とこっちのぁあんまり興味が無いんだ」

「では、貴女だけでも、如何かしら。滅多に見る機会は無いと思うのだけど、お城というのは」

 

 メリンダは、動かない。

 動けない。

 

 踵を返す。王族と取引してるのに王族の娘を誘拐するのはリスクが大きすぎる、なんて言ったが。

 そもそも誘拐していない、ってんなら、リスクも何もねぇわな。

 

「ああ……いえ、申し訳ありません。一人で、見て回りたいもので」

「そう、なの? ああ、ふふ。いいえ、わかりましたわ。一人でゆっくり見て回りたい、という方も、それなりにいましたから……それでは、私はこれで。もし用向きがありましたら、最上階西のテラスに私はいますからね」

「ええ。陽光差し込む朝の園……ですのよね」

 

 後ろ手を振って。

 メリンダは、付いては来なかった。さいならさん。

 

 

 

 

 とまぁ、メリンダの用事が済んだからと言って、ファイスへ直行する、というのも味気ない。元々の目的はメリンダを用いて王族の権力からエメレンシアを引き出してもらうとか本拠地を教えてもらうとか、そういうもんだったのだが、偽物の猫娘を引き合いに出したところで一蹴されるのがオチだ。なので、変更。

 小一時間ほど童女二人に少女一人の構成で市場を歩き回ってみたのだが、人攫いにゃあ一度も出くわさず、その辺の商店のおっさんが売りモンだろう果実やら肉をくれる始末。平和だなぁ、オイ。

 

 賑やかな商店街から少し外れて、公園。

 

「今、二択あるんだわ。一つはこのままファイスへ行く」

「……」

「どっちでもいいー」

「もう一つが、この国の奴隷商人だの奴隷市場だのを探し出して、エメレンシアに繋がってるところを洗う」

「王族」

 

 どうでもよさげなアルジナに対し、ルシアが意見、だろう言葉を口にする。

 王族。メリンダ。

 

 ……ああいや、そうか。そもそも王族はエメレンシアの取引先なんだっけ。んじゃ、奴隷がどこに流れてるのか、どこから仕入れてるのかくらいは知ってるよな。いやぁ失念失念。王族は娘を誘拐()()()()()()被害者だとばかり思い込んでいたから、思いつかなかった

 

「夜にでも、忍び込むかね。ルシア、お前さんはまぁアルジナと一緒にいてくれ。何があっても死なんだろ、お前なら」

「うん」

 

 あまり戦闘にゃあ向いて無さそうだが、死なないんなら問題なかろ。勝手に突っ込んでいって死に易いアルジナの栄養補給にもなる。ふむ、自立した補給地だと考えりゃあ、かなり有用だな。

 煙管を取り出す。まぁ、吸いやしない。何も入ってないしな。ただ口が寂しいから、多少歯で噛んだりして、クイクイと動かす。

 

 ……"新入生"、ね。

 よくわからんことが、色々起きてそうで、まぁ。

 

 

 

 

 草木も眠る──なんてことはなく、夜になっても、というか夜の方が賑やかな街並みの上、屋根伝いにヒョイヒョイと移動して、王城までたどり着く。流石に一般開放はもう終わっていて、一応門番がいる。夜勤ってぇか、大変だね、どうも。

 不可視の幻術と、狐の身であればほとんどの音も立てず。いとも簡単に王城へ潜入出来た。城内は静かだが、女中やら何やらが普通にいて、食事の準備やら部屋の掃除やらを続けている。眠らねえのかこの国は。

 

「……」

 

 天井の方をこっそりと抜けて上階へ、さらに上階へと上がって、最上階。なんだっか、朝の園? だかのある最上階西のテラス、という所に来た。そこしか部屋の情報が無いからな。どんだけ隠れてたって、流石にドアを開けてまわりゃあバレんだろ。

 朝の園という所は、植物園、みたいな部屋だ。植物園と称するには流石にこじんまりとしているけれど、各種様々な植物が植わっている。月明かりが差し込んでいるからか、どこか静謐な雰囲気さえ感じられる。

 

 そこに、メリンダがいた。

 

 ただし、猫の方ではなく、人間の。

 

「……あら? どなたですの?」

 

 バレずにドアを開けるってのは、まぁ無理だ。液体やら気体に形態変化すりゃあ出来るんだろうが、制御失って死ぬんじゃねえかな、多分。そんな怖い事はしたくない。だから、堂々と開けた。

 人間の方のメリンダは朝の園のど真ん中に置かれた椅子に座っていて、目を瞑っていて……俺の来訪に、その瞳を開いた。瞳を開く前に「どなたですの」と聞いてきた辺り、そこまで危機感は抱いていないというか、無用心極まりないというか。

 

「狐さん……?」

「少し前」

「えっ?」

 

 狐のまま近づいて声を出せば、メリンダは目をまんまるにしてこちらを見た。

 動物が喋るっつーのは常識的じゃねえんだな。ふむ、コイツはエメレンシアに関わっていない、か? 

 

「アンタ、誘拐とか、されなかったか。あるいは急に眠くなって、起きたら違う場所にいた、とか」

「え、えっと……もしかして、あなたが喋っていますの?」

「あんまりゆっくり話すつもりは無いんだわ。ああ、だから俺側もあんまり回りくどい聞き方はダメだな。そう、エメレンシア、という人間について、何か知らないか? エメレンシアと、お前の両親が行っている取引について」

 

 最初は戸惑っていたし、動揺していたメリンダだったが、飲み込みが早いのだろうか、幾度かだけ頷いてから、近づいてきた俺を抱き上げる。そして、膝の上に乗せた。

 

「5年程前から各国の王族や政治家たちと取引を始めた有名な奴隷商人、ですわね」

「それ以上の知識は?」

「ごめんなさい……。ああ、でも、今いる女中たちの中には、エメレンシアさんからお父様たちが買った者達もいますのよ。奴隷、というのはお母様が好みませんから、仕事を覚えさせて、王城で、住み込みで働いていますの」

「なんじゃそりゃ。慈善事業かよ」

 

 あー、最悪の場合は、とか考えてたけど、こいつら普通に善性くさいな。やめてくれ、やりづらいだろ。

 つまるところ、奴隷の身分から救うために買って、仕事を与えてるってぇことか? これで給料だのを払ってたりしたら、もうお手上げだな。

 

「奴隷、なんてものも……無くなればいいと、お母様は常に言っておられますの」

「そりゃあ同感だ。ついでに密猟者もな。ああ、礼を言うよ、メリンダ。おかげ余計な殺生をせずに済んだ」

「……?」

「ちなみに、エメレンシアが最後にここへ来たのはいつだ?」

「ええと……ふた月も前、だと思いますわ。普通、ひと月に一度くらいは来ていましたのに、と来客の受付担当の者が言っていたような……」

 

 まだ療養中か? 妹……じゃねえ、姉のルシアと違って、治りは遅いってことか? あるいは心臓クラスの臓器だと治りが遅い……いや、半身食われても半日足らずで完全復活するルシアと比べて、明らかに遅いな。なんか法則とか、それとも能力差でもあるのか?

 もしくは別の理由で来ていないか、だが。

 

「国王の部屋を教えちゃくれねえかね」

「……それは、どういった目的ですの?」

「おお、平和ボケが過ぎると思っちゃいたが、そこは流石に怪しむのか。いや何、俺ぁエメレンシアに用があるんだが、どこにいるかわからなくてさ。エメレンシアと直接取引してる奴をこの国の国王くらいしか知らなかったから、ちぃと聞きに来た、ってわけさ」

「それなら、何故夜に?」

「狐が昼に話しかけてきたらこえーだろうよ」

「夜でも驚くと思いますわ」

 

 それはそう。

 

「それでは、私と共に行く、というのはどうですの? 狐さんの身体では、大広間の扉は開けられないでしょう?」

「そりゃありがたいが、そもそもどうしてこんな所にいたんだ、お前さん」

「こうして、夜と朝の少しだけの時間、植物に囲まれるのが日課なのですわ」

「そら、優雅なこって」

 

 改めて抱き上げられて、そのままメリンダが椅子を立つ。暗い植物園を出れば、明るい廊下。松明やランタンじゃあなく、これ普通に電気なんだな。照明が一定間隔にある。なんか、まだ技術力がはっきりしないな。まぁ照明って結構早めに出来ちゃあいたが。まさかLEDってこたぁねぇだろうし。

 当然だが確かな足取りで歩くメリンダ。彼女とすれ違う女中や一部の兵士だろう人間が、頭を下げた後、変なものを見た、とでもいうように俺を二度見するのが面白い。まぁ自国の姫さんが狐を抱えてたら驚くわな、そりゃ。

 

 そうして辿り着いた大広間、という場所。おお、本当だ。物凄い大きい扉。たとえ人間の姿、童女のそれになっても開けられなかったんじゃないかと思うほどの大扉は、メリンダでも身長的に無理そうだ。

 

「お父様、私です。メリンダですの」

 

 声に、数瞬のラグがあってから、ゆっくりと扉が開く。

 中にいた兵士……でいいのかな、それが扉を開いたらしい。扉開く専門の職業だったりしたら面白いんだが。面白いか?

 

 果たして、中には。

 

「あら……?」

「……あら」

 

 The・国王みたいな風貌のおっさんと、人間のメリンダを成長させたような女。

 そして、猫のメリンダが──いた。

 

 

 

 

「お昼の……」

「……お邪魔していますわ」

 

 恐らく国王だろうおっさんは、二人の姿を見て顔を顰める。怒っているというよりは悩んでいる……嘆いている、が近いかもしれない。見るからに善性で、まぁ大体、察した。

 その隣にいる女……まぁ多分女王だろう人間は、真剣な顔で手元の手帳らしいものに何かを書き込んでいる。

 

「お父様、ええと?」

「メリンダ。どのような用かね」

「ああ、その。この狐さんが、お父様に用があると……」

「狐?」

 

 はい、この子が。そんな風に、頭を撫でられながら提示された。

 

「ラナエ?」

「知り合いか?」

「はい……私を、ここまで連れてきてくださった方、ですの」

「そうか」

 

 ひょい、とメリンダの腕の中から降りる。

 注目が集まる中──どろん、と。人間形態へ、変化した。一瞬ざわつく室内。それを国王のおっさんが手で制す。

 

「あ、お昼の……狐の、耳?」

「イオピクスか」

「狐だよ、俺ぁ」

「……まず初めに、礼を言わせてほしい」

 

 言って、おっさんは。

 頭を下げた。

 

 おいおい。王族じゃねえのかよ。

 

「……知らなかったのだ。そんなことになっていたとは」

「お父様……?」

 

 猫のメリンダを見れば、そちらもそちらでおろおろしている。一切気に留めていない女王はともかくとして、兵士や女中の方も国王が頭を下げる事にはあんまり動揺していない。ああ、そういや強い支配は敷いていないんだったか? 平和な国っぽかったし、フレンドリーなのが当たり前なんかな。

 

「君の事は……聞いている。知っている、というべきか。シェルダンからの情報提供があった。ああ、だからといって、私は君に対してどうする、という事は無い。娘の……命の恩人だ。心から、感謝をする」

「私の?」

 

 状況が飲み込めていないのは人間のメリンダだけかね。まぁ、ほとんどの情報が知らされていない状態ですべてを察しろ、なんてのはあまりに酷だし、そもそも無理だ。しかし今国王が喋っているからだろう、誰も状況を説明できずにいる、と。

 

「よぉ、メリンダ」

「……はい」

「えっ? 貴女……メリンダ、というんですの?」

「ええ。メリンダと……メリンダ・アーテーデンと、言いますわ」

 

 名乗った。

 けれど、それでも飲み込めはしない。情報開示がいきなり過ぎるな。段階を踏んでやれよ、流石に。

 

「全て、聞いた。エメレンシア殿……いや、エメレンシアの所業。君たちの話。落ち着いて聞くのだ、メリンダ。そこにいるフェレスの……彼女は、お前、いや、お前ではないのだが、いやお前であるのだが……」

 

 突然歯切れが悪くなる国王のおっさん。さっきまでの"フレンドリーだけど威厳はあるな"感はどうしたよ。家族に対して強く言えないタイプか。面倒くさい。いやまぁ説明しづらいのはわかるんだがよ。感情的にというより、難度の点で。

 その様子にイラっと来たのは、俺だけじゃなかったらしい。

 

 となりで高速にペンを動かしていた女王が国王のおっさんの側頭部にエルボーを打ち込む。

 ……最悪死ぬだろ、今の。

 

「メリンダ。驚いても良いから、聞きなさい。このフェレスの子は、貴女なのよ。エメレンシアの手によって猫とくっつけられてしまった貴女。けれど、貴女はそのままだった。写し取られた、というべきなのでしょうね。そのような技術があることを私達は知らないけど、アレが不可解なゲートを扱うのは知っているでしょう? そういうことが出来る未知の存在。それが今まで、この場に来ていたことに怖気を覚えるわ」

 

 はきはきと喋って、一息を吐いて。

 人間のメリンダを真っ直ぐにみて、言う。

 

「だから、この子もメリンダ。貴女もメリンダよ。ま、双子が出来たようなものね。仲良くしなさい」

 

 すげぇな、それは。

 唖然だわ。母親ってのはどこも強いのかね、まったく。

 

 

◇ / 8

*1
であった人間がほとんどそれだったため

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