境界線上の守り刀   作:陽紅

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……祝100万UA……!

まだまだ先は長いですが、お付き合い頂けると嬉しいです!


十二章 火種を抱く者たち 【肆】

 

 

 

 拝啓

 

 

   人生の五十年、引くことの三十二年――若干名、それが怪しい方々も含めた皆様、下天の内を如何お過ごしでござろうか。

   末世を迎える年にも相変わらず、自分は例年通り日々を地味――……充実した隠密忍者生活を過ごさせてもらってござる。

 

 

   さて、この度。一身都合上により、教導院の退学願いを致したく、一筆認めた次第にござる。

 

 

   ド外道の皆様に迷惑を――……

 

 

 

   ――愚痴とも文句とも取れる内容が原稿用紙二枚分ほどあったが中略――

 

 

 

   ……では、 まだペストなど残る時期ですので、あまり必要はのうござろうが、皆様お体には気をつけて。

 

 

                                            敬具

 

     点蔵・クロスユナイト

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「『若干名、それが怪しい方々』って、誰ですか? そしてどーいう意味ですか? 無学な私に教えてくれませんか?

 

 

 ……あれれー? どうしたんですか点蔵君? 俯いて黙ってちゃなんにもわかりませんよーう?」

 

「い、いや、それは、そのぅ……」

 

 

 

 目深に被った帽子の奥で、汗が滲み、雫になって顔を伝う。伝った汗がマフラーに吸い込まれて湿り気が増し……それが、もう何度目になるだろうか。

 

 双子の満月と数えきれない星、その程度の微かな明かりしかない海岸において、浅間さん家の娘さんは……眩いばかりの逆光を背に、それはそれはイイ笑顔を浮かべていた。

 

 

「っていうかこれ、何故に吾輩まで正座――!? ってーいうか鳥の足で正座ができるなんて――!?」

 

「焼き鳥待ちの烏肉は黙っていてください」

 

「…………」

 

 

 黙った。レディが静寂を求めたからだ。断じて、彼女の手に握られている『双聯・梅椿(リーサルウェポン)』に恐怖したからではない。

 

 黙ったミルトンはしかし、どの道自身の命運が焼き鳥確定しているのに気付いて鳥肌を浮かばせる。もともと吾輩は八咫烏(トリ)だろうに、という一人ボケツッコミという寂しいことをして現実から逃避した。

 

 

 先ごろ、『自分が尼子十勇士の生き残った三人の内の一人で、本当は横道 兵庫助という名である』ということを隣で同じく正座している忍者に説明していたら、あれよあれよと言う間にこの状況だ。武蔵慣れしていないミルトンに理解納得しろ、と言っても酷な話だろう。

 

 

 

   「――わたくし、『パシリの度に高い肉要求してくるありえねぇ騎士』だそうですわ。あ、キチンと立て替えてますわよ?」

   「立て替えてようが原価数万のパシリは流石にどうかと思うさね……あたしなんか『危険作業配役時に躊躇わず指名してくる鬼監督』だとさ。いいじゃないさ、危険手当出してんだし」

   「金で買えない価値があんじゃね? 俺なんて『事ある毎に罪を擦りつけてくる総長』だぜ? だってしょうがねぇじゃん、点蔵以外だと俺の繊細で敏感なハートにチクチクくんだし。つか、手紙でござる語尾意外とムカつかね?」

   「金で買えない物などあるわけがないだろうバカめ。もしあったとしたらそれは無価値なものだ。さっさと捨ててしまえ。『金に汚い守銭奴』とは私のことなのだろうが――全く。もっと捻れ。聞き飽きたわ……だからアイツは点蔵なのだ」

 

 

 などなど。点蔵が認めたであろう退学願いを朗読&回し読みで煽りに煽り、正座している点蔵をチクチクと攻め立てる連中もわからない。

 メアリを救いにいくという点蔵()の応援にきたのでは? と最初は困惑を浮かべていたのだが、今では理解を放り投げていた。

 

 

 

(甘いでござるよキューちゃん殿。弱みを見せたら覚悟必須が武蔵の伝統にござる)

 

 

 などと脳内で先輩面する点蔵も、「どうせ最後なんだから……」と積年の鬱憤を晴らそうと書を認めた結果がこれだ。外道達の反撃本能を甘く見ていたのである。恐るべき『やられたら地の果てまで追い詰めろ』の執念だ。

 

 

(そも、なんで自分たちの居場所がバレたのでござろう……? 武蔵を出る際には誰にも見つかっていないのでござるが……)

 

 

 見つかっていない『ハズ』と思わないのは、点蔵の忍としての自信からだろう。だが、だからこそわからない。

 追跡できなかったにも関わらず、何故、この海岸のこの場所にいる点蔵たちを、狙ったように追ってこれたのか。

 

 

「しっかしベルさん、スゲェっていうか流石だよなぁ」

 

「……? な、なに? が、さすが、 なの?」

 

「いやいや、トーリ。これだけ離れていて点蔵の声を聞き取れるのだ。いかに聴覚補助(音鳴りさん)を用いているとは言え、波音やら様々な音があったであろうに――流石で済まして良いレベルではなかろう」

 

「かんたっん、だよ? てんぞう、くん……語尾、ござるっ、だから、わか、りやすい、よ?」

 

 

 

 と、全裸と半竜が話し、武蔵の至宝がニコニコと笑みを浮かべてそれに応じられている。――それが答えだった。

 

 たしかにここに来て、点蔵はミルトンと少なくない言葉を交わしている。声量を潜める理由も特になかったので普通に……どころか若干叫ぶような声も出した。

 

 

 ――出したが。武蔵からここまで、一体どれだけ離れていると思っているのか。ウルキアガの言うように波の音などもあった中で、点蔵の声だけを聴き取るなど……。

 

 

(しかし……)

 

 

 そう。この場で鈴が嘘をつく理由が全くない。ましてや嘘を言う様な少女でもない……つまり、本当に聞き取ったのだろう。

 

 

 武蔵から遠く離れた、この海岸にいる点蔵の声を。

 

 

(これが事実ならば……向井殿からは隠れられんでござるなぁ)

 

 

 奇しくも夕暮れ時に『鈴に隠し事はできない』と、どこかの姉と似た様な感想を抱きながら、点蔵は苦笑を零す。

 

 この距離で声が聞こえるならば、近場だと心音すら聞き取れるだろう。彼女から本気で隠れるためにはつまり、心臓そのものを止めなければならない。……なんて馬鹿げた結論が出てしまい、その結論もあながち間違っていないことにまた苦笑。

 

 

 

 ――と、そんな感じの現実逃避を一頻り終え、点蔵は目の前の脅威(ズドン巫女)から逃れるべく頭をフル回転させる。

 そして悟られない様に走らせた視線に、二人の級友を見つけ、閃いた。

 

 

 

「え、っと、あれは……ネンジ殿やペルソナ君やら、年齢がそもそも不明だったり顔から判断できぬ御仁たちを意図して書いた冗談でござるよ?」

 

 

 

「……え?

 

 あ――で、ですよね! ええ! わかってましたよ勿論! でもその、あれです。友達のそういった身体的特徴は冗談にしちゃダメですよってことですよ!? 気にする人は本当に気にするんですから!」

 

「(ナイスアドリブ! ナイスアドリブでござるよ自分!)Jud. 以後、気をつけるでござるよ」

 

 

 智が背負っていた逆光が消え、点蔵たちの全身へと降り注いでいた重圧も消える。ミルトンが正座の状態のままコロリと横に倒れ……よく見たら白目を向いて気絶していた。

 

 

「んふふ、あの駄忍者め。上手く浅間を騙し切ったわね……あれで納得するとか、軽くあの子の将来が不安になるけど……っていうか直政、アンタはあの話に憤りない訳?」

 

「おい喜美……そりゃあれか? あたしが老けてるってことかい? そういうアンタだって上に……あーはいはい、わかった。わかったからそう睨むんじゃないよ。――まあ、あたしは正直どうでもいいさ。老けて見られようが、実際の歳は変わらんだろ。それに『点蔵ごときにどう思われようがどうでもいい』ってのもあるさね」

 

(むむ。ごときやや強めですね、直政さん。やっぱりちょっとイラってます?)

 

(女の子ならではの条件反射でない? でも、頼れるお姉さんって意味でなら、ナイちゃんちょっと羨ましいかなぁ)

 

 

 正座から立ち上がった点蔵はとりあえず、集った梅組の面々の一部を意識から外す。精神年齢高め組の『マジ564』な視線は精神衛生上よろしくない。ミルトンことキューちゃんも気絶しているのにわざわざビクビクと痙攣している。なんとも多芸で芸人気質な烏だ。

 

 そして、その中で意識から外されなかった彼女が、智に代わるように前へと進んでくる。

 

 

 

 

 ――ホライゾン・アリアダスト。武蔵副王の片割れだ。

 

 

 

 

「……とりあえず、連れて来られるままにここにきた訳ですが。ホライゾンも一つ問いたいと思います。点蔵様は、何をなさりたいのですか?」

 

 

 

 英国……倫敦を背にして立つ点蔵に、ホライゾンはそのどちらも視界に収めながら問う。

 

 

 

「先ほど朗読された退学届け、一身都合では理解ができません。『アルマダ海戦直前の敵前逃亡』、『第一特務という役職の放棄』。この二件、ホライゾンが納得できる形でご説明願います」

 

 

 そう問いかけるホライゾンに対して――真っ直ぐな眼だ。と、点蔵は率直に思う。

 

 彼女には感情が無い。しかし王は、そんな彼女には人の魂があると言った。断言した。

 

 

「……Jud. 自分」

 

 

 一息。

 

 

 

 

「これから……ある人に告りに行ってくるでござる」

 

 

 

 

 

「ほう、告りに――……それで?」

 

 

 

 

 

(……あ、これ解答間違えた空気でござるな? 自分、知ってるでござるよ?)

 

 

 何度も感じた……つい先ほども、巫女に肩掴まれて捕まった時に感じた『あ、おわった』という、直感で読み取る空気。それがホライゾンとの間に生じる。

 

 

「え、えぇっと、それで、でござるな?」

 

 

   「……立ったな。フラグが。勿論フラれるほうの」

   「姉ちゃん姉ちゃん、なんかいまの聞いたことあんだけど俺の気のせい?」

   「んふふ愚弟。アンタが三河でエロゲ片手に宣言したことよ? つまるところ二度ネタね! 二度もネタとか結構エロいわね……!」

   「え、えっちな、こと、なの? いっか、い、起きて、また寝、ちゃうこと、だよ……ね? わた、わたし、たまにやっちゃ、うけど」

   「……向井。わからないならそのままでいい」

   「浅間さ〜ん、海戦終わった後でいいんで自分に穢れ払いお願いします。――あとこれ自分、激怒ってもいいですよね? 海戦直前の離脱理由が『告りに行く』とか……海戦中空戦できない第一特務をパシ……走ってもらおうとしてたのに」

   「シロ君、これお金になりそうに無いかな」

   「ふん。視聴率にも賭けにもならん。いや、フラれる前提のバラエティならば……いや、奴は幾度となく敗北している。今更だな」

 

   「ちょっと皆悪辣過ぎますよ! 点蔵君が不屈の精神でした決意なんですから! いくら失敗するとしても今くらいは温かく見守ってあげようって優しさはないんですか!?」

 

   「「「「「この巫女がやっぱ一番酷ぇ……」」」」」

 

 

 

 梅組名物『外道スクラム』から飛んでくる言葉の形をした砲撃を、点蔵は言い返すことなく後手に拳を握ることで耐える。未だ、ホライゾンは真っ直ぐに点蔵を見ているからだ。

 

 

 

「告白をしに行くのはいいとして、その成否もこの際置いておくとして。そして、どうするのですか?」

 

 

 告白する()()なのか、と言外に聞いてくるホライゾンに、点蔵は内心で首を横に振る。

 

 

「――メアリ殿を、救いに。その後、英国や各国の手が届かぬ場所までお連れするつもりでござる」

 

「……確率的に、ほぼ不可能かと。英国の全戦力警護の中をかい潜り一人を救い出すことも。そして、奇跡的に救い出せたとして、国という巨大な組織から逃れ続けることも」

 

「Jud. ……全て、覚悟の上にござる。そして承知の上でも。それでも、自分はやらねばならんのでござるよ」

 

「……メアリ様は、処刑を自ら望んでいたとホライゾンは記憶しています。その救いを彼女は拒み、望まないのではないですか?」

 

 

 かつて、トーリの言葉を拒んだ自分のように。それでも救いにいくのか、と。早い応答は自動人形だからか、それとも自身の経験からか。

 ――気付けば、トーリが一人スクラムから離れ、ホライゾンよりやや下がった場所に立っている。全裸なのであれだが……ふざけのない、あの笑みを浮かべていた。

 

 

「例え拒まれても。例え、望まれなくとも。そして例え……それで自分がメアリ殿に疎まれ憎まれたとしても。自分が、メアリ殿を失いたくないのでござるよ。失えば――自分はきっと、今生最大の哀しみを抱くでござろう。哀しいのは、嫌なのでござる。

 もし、救うなどと綺麗な言葉が似合わぬようなら、『奪う』でも構い申さぬ」

 

 

 頼まれた訳でも、願われた訳でも無い。これは。己のワガママなのだ。我欲である。

 

 

 

「――『忍』という字は、刃の(もと)に心を隠して成り立つものにござる。よく言われ、聞かされる言葉でござろう。故に『忍たるもの感情を表にするな』と、教えられるでござる」

 

 

 だが。

 

 

「なれど『忍』のその字より、『心』の一文字が消えたことは一度として無いのでござるよ。そして、心を捨てろとも、殺せとも、自分は言われたことがござらん」

 

 

 

 ――彼女を、メアリを守りたい。それが点蔵・クロスユナイトの、心の底からの言葉だ。

 

 

 

 

 

「……心、ですか。ホライゾンには感情が無いのでそれがどんなものかはわかりませんが。

 

 では、もし三河でホライゾンが失われていたら――誰かが、その哀しみの感情を抱いたのでしょうか?」

 

 

「――Jud. 決まってんだろ、ホライゾン」

 

 

 即答されたその言葉に、ホライゾンは振り返る。そこには全裸がいて、笑顔を浮かべていた。そして

 

 

「「「「Jud.!!」」」」

 

 

 その彼の後ろ。王に続くように、同じ言葉が口々に告げられる。彼女の喪失は哀しみだと、その場の誰もが躊躇うことなく答えた。

 

 

「…………。これは、お礼を言うべきなのでしょうか」

 

「おう! ちょっとベルさんみたいに吃りながら恥ずかしそうに言うと……萌える!」

 

 

 軽く台無しなセリフを吐いた全裸を半眼で睨み付けたホライゾンは、特になにかのリアクションを取ることなく点蔵へ向き直る。ツッコミを期待していた全裸が所在なさげだ。

 

 

「ホライゾンはメアリ様と直接言葉を交わした事がありません。そんなホライゾンでも……感情を得た時、彼女の喪失を哀しむのでしょうか」

 

「Jud. ――必ず」

 

 

 今は、ホライゾンはメアリのことを知らないかもしれない。だが、彼女の人となりを知り、その生き様を知ったのなら……惜し過ぎる人を亡くしたと。一言でも、あの時に言葉を交わしておけばよかったと。

 

 ――悔いを抱き、その悔いはやがて、大きな哀しみを生む。

 

 

 三河の最後で激流のように流れ込んできた、あの『悲嘆』のように。

 

 

「では、今ここで点蔵様がメアリ様を救いに行き、そしてそれに成功すれば……ホライゾンは未来に得るだろう哀しみを、得ずに済むということなのでしょうか。そして――同じように、今後ホライゾンが全ての喪失から人々を救えたなら、ホライゾンは哀しみの感情を動かさずに済むのでしょうか」

 

 

 

 ――性別が違う。声も違う。体の大きさも性格も、なにもかもが違う。

 

 だというのに、点蔵は、一同はそのホライゾンの姿に……どうしようもなく、一人の刀の面影を重ねた。

 

 

 

(……凄まじいことを言っている自覚が、本人にないのも同じでござるか)

 

 

 世界を征服すると宣言した王。

 皆を守ると誓い、守り続けた刀。

 

 そこに、世界を救うと姫が加わった。

 

 

 刀は相当苦労することになるだろう。なにせ、世界を征服しようとする者と世界を救済しようとする者、そのどちらも守らなければならないのだ。

 

 それに付き従っていくであろう、諸共も一緒に。

 

 

「……トーリ様。保留にしていた返答をホライゾンは得ました。トーリ様が末世解決のために大罪武装を集めて世界を征服し、負の感情をホライゾンに与えてハッピー決めようというのでしたら。平行線上からこう言います」

 

 

 眼を閉じ、一息。開いた眼は変わらず真っ直ぐに……

 

 

「平行線です。――だからホライゾンは、感情を求めます。その上で末世という全ての喪失から世界を救うことで負の感情を動かすことなく、ハッピー決めようと思います」

 

 

 ……強い決意を、秘めていた。

 

 

「そっか」

 

「Jud. では、その第一歩として……浅間様。その点蔵様の退学届けを、ホライゾンにお渡しください」

 

 

 皆の視線が点蔵へ、そして、何故か智が持っていた用紙へと順に巡り、最後にそれを手渡されたホライゾンへ。

 

 

「あ……」

 

 

 ビリ、というその音はすぐに響いた。

 

 音は続き、枚数は倍々に。面積は半分になっていく退学届けの成れの果ては、修復不可能な細かさにまで裂かれ、ホライゾンの持つ収納空間に突っ込まれた。

 

 

「これで、何の問題もありません。

 ……第一特務、点蔵・クロスユナイト様。ホライゾンの持つ副王の権限で()()()()。アルマダ海戦の隙を突き、英国からメアリ様を一丁掻っ攫ってきてください」

 

「っ! ちょ、待ってほしいでござる! それはっ……」

 

 

 点蔵の退学届けが受理されず、籍をアリアダストの特務に残したまま。その上ホライゾンの命で動いたとなれば、武蔵は本格的に英国と事を構えることになってしまう。

 

 

「おいおいホライゾンだけじゃ足りねぇってか? なら王様()も言ってやるよ点蔵。英国的にLOVE宣言してメアリ奪ってこい! 宴会であいつに一発芸してもらわねぇといけねぇんだからよ!

 いいか、フラれてもだぞ!? フ ラ れ て も ! メアリ連れてくんのだけは忘れんなよ!?」

 

「そこぉ! そこ一番強調しちゃダメぇっ!!」

 

 

 

 

 その、いつも通りのやり取りに、誰かが笑った。一人の笑いは広がって、二人三人と増えていって、やがて皆が笑う。

 

 

 

 

 ――笑い笑って一息ついて。騎士と半竜、そして黒翼の魔女が、その足を前へと進める。

 

 

「我が王、そしてホライゾン。流石に第一特務一人では戦力不足ですわ。故にわたくしもこちらに……騎士は傭兵に身を落とせませんし、何より――英国の猟犬にはお礼参りをしませんと」

 

「拙僧も付いて行こう。……三征西班牙(旧派)とはどの道、拙僧は戦えんからな」

 

「忍者のお供は癪だけど、私も行くわよ。英国からもらった黒星、全部返して白星に変えて来ないといけないもの」

 

 

 進んで行く三人に従士が一人、笑いの余韻も忘れて頭を抱えた。そーいえば騎士と異端審問官でしたよねぇ、と呟いているあたり、完全に失念していたらしい。

 もう誰も行きませんよね? ……ね? と涙目でキョロキョロと梅組の残った面々を懇願するように見渡し……。

 

 

『あー、ごめんね、アデーレ君。僕も英国に残るから』

 

 

 空中に現れた表示枠、そこに映るネシンバラを見上げた。

 

 

「あ、書記……そういえばいたんでしたね。忘れてました」

 

『……うん、久々だと結構グッサリくるね。えっと、シェイクスピアにいい加減、この呪い解かせてくるよ。あと、出来たら彼女の持つ大罪武装も取り返してくるから。それで、これまでのグダグダをチャラにしてくれると嬉しいかな』

 

「お、ちょっとは調子戻ったみてぇだな。あとで返せよオメェの超大作! クラス全員の黒歴史コレク……思い出保管しねぇといけねぇんだからな!」

 

『そうはさせないよ黒歴史の塊。誤字脱字修正したら返してあげるよ。いつまでかかるかわからないけど』

 

 

 

 トーリの思い出保管の言葉に、わずかにでも心当たりがある面々がトーリに詰め寄る……アルマダ海戦後の予定は決まったようだ。

 

 

「Jud. ……なかなか、良い感じに決まったようですね。では、正純様、英国に宣戦を」

 

「黒歴史、無いよな? 武蔵に来て一年ちょっとだし――いや、まさかアレは……いやいやそれこそまさか。あの時は誰も……あ、なんだホライゾン」

 

「……英国に宣戦を。あと、こちらに残って終戦の宣言もお願いいたします。それと……」

 

 

 

 

 

 

 

「――正純様の黒歴史ですが、お忘れですか? 止水様の一件の罰則で、確実に一つは増えるではありませんか」

 

 

 

 ホライゾンはサムズアップしながら正純に告げる。それはつまり、罰則の内容を黒歴史に相当するものにするという、なんとも無慈悲な通告だった。

 

 

 

 




読了ありがとうございました!

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