境界線上の守り刀   作:陽紅

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名記無し者の戦場、前編です。


十五章 アルマダ海戦 【弐】

 

 

「おうおう――シロジロとノリキ、あと二代がおっ始めたみてぇだな」

 

「Jud. マルゴット様も早々に出撃、魔女部隊と合わせてすでに小隊単位の敵武神を撃墜なさっています。ホライゾンは戦争云々はど素人ですが、いい滑り出しと言えるのでは?」

 

 

 ホライゾンはそう言うと、ズズズ、っと収納空間から徐ろに取り出した茶を啜る。

 隣にはゴットモザイクを股間に輝かせるトーリがいて、俺の茶は? とクネクネと催促。顔はおろか視線すら向けることなく急須を出してやる。――なお、茶葉は入っているが殆ど出涸らしで、湯も空だが。

 

 

「これはお湯入れてこい、って意味か! そうなんだなホライゾン! ……って、ホライゾンは言ってんだけど。そこんとこどーよ、()()

 

 

 その二人の、隣。

 

 

「んー? お湯パシッてくるなら先生の分もお願いね? あとお茶請けも。駄菓子屋『駄菓子菓子』のせんべいね?」

「サラッと生徒をなんの躊躇いも無く使うとかすげぇな先生! 流石だぜ! ってか駄菓子菓子って何気にお高い店じゃんカヨー!」

 

 

 そう言いつつ、オリオトライからの『答え』を聞かず、科をつくりながらペタペタと足音を立てて急須片手に走っていく全裸。

 

 それを見送りつつ、ホライゾンは再び収納空間に手を突っ込み、湯気を上げる湯のみを取り出して差し出し、オリオトライはさも当然のように受け取る。

 

 

 ――その一連の流れを、オリオトライについて来た三要が、頬を引きつらせながら見ていた。

 

 

「な、なんであるのに葵君にお茶汲みに行かせたんですか……?」

 

「「……え?」」

 

「あれ? なんですかその『問題点そこ?』っていう顔は? ……あっれ、おかしいの私ですか?」

 

 

 あれ? あれれー? と首を傾げて現実と戦おうとしている三要にもホライゾンは茶を渡し、三人そろってズズズ、と。

 

 

「――で、どういう塩梅なのでしょうか。現状、武蔵はいい線行っていると、ホライゾンの素人目線では判断しているのですが」

 

「そうねぇ……」

 

 

 ズズズッ、とオリオトライのみ。三要も興味があるのか、湯のみを両手で包むように持って、オリオトライの言葉を待った。

 

 二度の砲音と、その倍の爆音。絶え間ない喧騒をBGMに、口を開く。

 

 

「これ、ここだけの話ね? 調子に乗って天狗になられると困るから」

 

 

 ――訳:ここ以外で口にしたらわかってるわね? 

 

 イイ笑顔で、握らずに指の関節をゴキゴキと鳴らすアマゾネスに……早くも『ついて来なけりゃよかった』と後悔し始めた三要は、ガクガクと首を縦に振って答える。

 ホライゾンは茶をひと啜りすることで無言の肯定とし、先を促した。

 

 

 そんな姫の様子に苦笑を浮かべ……教師は御高説を始める。

 

 

「まず評価から言うと、『悪くない』わ。……決して『良い』とは言えないけど、世界的にも上位にいるはずの強国・三征西班牙によく食らいついてる。武蔵は戦争経験ほぼゼロってことを考えたら、大健闘してるわね」

「……あれ? 前後で評価内容逆転してませんか?」

 

 

 三要は首を傾げた。付けた点数はやや辛口なのに、よくやっていると褒めているのだ。

 

 その矛盾の指摘に、オリオトライは首肯する。

 

 

 

「いまの武蔵って、すっごい極端なのよ」

 

「「極端?」」

 

「Jud. 副長級と真正面から相対することができる商人、特務級と相対することができる一般生徒。どっちも『普通の』とは言えないけど、戦力として見たら十分よね? でも、そんなことができる商人も一般生徒も極一部なのよ」

 

 

 ズズズ。

 

 

「つまり、個人戦力が、戦争ビギナーなはずの武蔵なのに相当高いのよ。もちろん経験値は相応だし連携も拙いけど、そこらへんは個々のトンガリ具合でカバー出来てるわけ」

 

「……先輩の体育と称した戦闘訓練もしてますからね」

 

「あ、コラ光紀。そこちゃんとルビ振りなさいよ。建前は立てなさい。……まあ、止水たちがやってる放課後の鍛錬も良い影響ね」

 

 

 

 全ての始まりとなった日の朝。ヤクザを殴りに行く体育の授業に止水が遅刻した際、オリオトライは彼への罰則に悩んだことを苦笑しながら思い出す。

 鍛錬は殆ど実践形式で行われ、一癖どころか癖しかない彼ら彼女らの相手を務めるのが止水だ。放課後に掃除なんてさせようものなら、鍛錬そのものが滞るのである。

 

 

(まあ、その日は鍛錬どころじゃなくなったわけだけど)

 

 

 その翌日に救われた姫を横目に、脇道に逸れた思考を戻す。

 

 

「でも、相手にも当然のように尖った連中はいるわけじゃない? そうすると、当然尖った同士でぶつかり合いが起こり、そこで拮抗する状態が生まれる。じゃあ、そんな状況になったときに勝負を決めるのは……はい光紀、なんでしょーか?」

 

「――軍、の力……ですか」

 

 

 軍であり、群。

 

 特務級が【量より質】の武将としたなら、言い方は悪いが【質より量】の、一般生徒や武神、艦砲搭載の戦艦で構成される者たちだ。

 

 

「うん、Jud. 数の力は馬鹿にできないわ。そして現状の武蔵の軍事力は、どこの国よりも、残念ながら弱いと言わざるを得ないの」

 

 

 試合ではない、戦争をしているのだ。とオリオトライは語る。仮にシロジロたちが勝ったとしても、武蔵そのものが戦争に負けては、意味がないのだ。

 言い訳は出来る。今の今まで武蔵は戦う力を持つことを許されなかったのだから、劣っていてもしょうがない。だが、そんな言い訳は何の役にも立たないのだ。

 

 

 ――だから。

 

 

「今ここで重要なのは、名のある武将でも、秘めた可能性を持つ原石でもないわ。

 

 

 

 ……数字でしか歴史に存在を残すことができない兵士。つまりはみんなの踏ん張りね」

 

 

 

 ――ニコリ、と本人は笑ったつもりだった。のだが、湯のみに大半隠された上に日頃の行いも加味されて、「うわぁ……」と引かれるニヤリ笑みにしか見えないのは、リアルアマゾネスの悲しいサガだろう。現在武蔵にいない弟分からは『七割方しょうがない』と諦め苦笑を向けられるだろうが。

 

 

 

――ピンポンパンポーン……。

 

 

 

「「「ん?」」」

 

 

 ――『えー、武蔵副王ホライゾン様。武蔵副王ホライゾン様。多摩激戦区で全裸の馬鹿が迷子です。お願いですから大至急迎えに来てくだ……っておい! しっかり取り押さえとけ!』

 

『だから立つな伏せろって! なにしに来たんだよアンタ!?』

『ああ!? これ見てわかんねぇのかよ! わかるだろフツー!?』

『――凄く……急須です。……え? マジでなにしに来たの? トドメ? 私たちにトドメ刺しに来たの?』

 

 

 

「……なんで、葵くんが多摩にいるんですか……? それも激戦区……」

 

「「さあ?」」

 

 

 

 ズズズーっと。二人は、事も無げに湯のみを空にした。

 

 

 

 

***

 

 

 奮えを隠し

 

 震えを晒し

 

 

  それでも退かぬ、理由はなにか

 

 

 配点【あの日見た背中】

 

 

***

 

 

 吾輩は……あー、だめだ。キャラじゃない。ドヤ顏で自分のこと『吾輩』とか無理だわ。

 

 ってことで悪い。テイク2だ。いいか? 

 

 

 ――俺は部隊長である。名前はあるが、教えるほどのモンじゃあない。

 

 

 三河生まれの三河育ち。普通の親父とお袋から生まれた、普通の男だ。特筆して頭が良いわけでもねぇし、力が強いわけでもない。豪運を持ってるわけでもねぇ。中等部くらいのときは『自分にもなにか大きな役目が〜』なんて夢見たが、とっくに覚めて『その他大勢』になってる。

 

 ただ――そうだな、人よりちょっとだけ『人を纏めるのが上手い』……らしい。自覚はあんまりないんだけどな。その所為で学生んときはクラス長をよくやらされてたもんだ。

 

 

 頭使うより体動かす方が性に合ってるから三河警護隊に入って、三河が消失して……武蔵に乗って、今に至るってわけだ。……だいぶ端折ったけど、まあいいか。こんなもんだろ?

 

 んで、武蔵が英国の代わり……ん? 代わりの代わりだったか? ――に、アルマダ海戦に出陣することになって、俺はなんと、『人を纏めるのが上手い』ってのをどっかから聞いたアデーレ・バルフェット指揮官に、十中八九激戦区になるだろう多摩艦の、部隊長に任命されちまったわけだ。

 

 

 

(反則だよなぁ、ありゃ)

 

 

 最初は、まあ、尻込みしたし、迷ったぜ? でもあんな小柄な女の子が、指揮官って大役背負って胸張ってんの見たらよ、断れねぇよな……いや、潤んだ上目遣いも、あれだ。わかるだろ? 

 

 

(格好いいじゃねぇか。……やっぱ、歴史に名を残す『男』ってのはなんか、違うもん持ってるんだろうな)

 

 

 

 ……ウチの指揮官様じゃねぇぞ? いくら絶壁ゲフンゲフン……。相手だ、敵方の指揮官のことだ。だから勘ぐるな。女連中に告げ口もやめろください。

 

 

 

 ――フェリペ・セグンド。レパントの海戦の英雄。

 ……全体通神で見た時は、冴えないオッさんにしか見えなかったんだが、でも、すげえ覚悟を持ってた。信念があった。

 

 

 怖いって震えながら、怯えていることを自覚しながら、それでも国を守るために命を張る――口で言うほど簡単じゃあねえ。

 

 

「うーん。これって結構やばくね?」

 

「ああ、やべぇな。さっきまでは『ちょっとキツイ』と『かなりキツイ』のちょうど中間位だったんだがな。ついさっき、とある『どうしようもない理由』で『あー、こりゃだめだ』になっちまったんだよ」

 

「おいおいマジかよ!? なにが起きたってんだよチクショウッ!」

 

 

 

「「「「「テメェがここに来たからだよチクショウッ!!」」」」」

 

 

 

 部隊の心が一つになった――なったってのに、微塵にも喜べねぇのはなんでだろうな……。

 

 

――「か、帰れよ! 今すぐお前帰れよっ!」

――「俺さ俺さ! 『上の連中は現場の苦労を知りもしないで』なんて思ったけどアレだな! 上の連中が現場に降りてくるとすっげぇ迷惑なのな!」

――「チェンジぃぃぃいいい! 上の人来るなら貧従士様とチェンジぃぃぃいいい!! なんなら鈴様――はダメだ! こんな危ねぇところに連れてこれるかぁっ!」

 

 

 フラッと急須とセンベイを手に現れた総――馬鹿に対して、当然トレス・エスパニアの連中は大将首を獲ろうと一斉攻撃。そしてその馬鹿を守るために集まった俺たちも馬鹿に対して一斉口撃。

 

 ……なんだろうな、この状況。

 

 

「――んで、総長。お前本当に何しにきたんだ? まさか、本気で茶を汲みに来たわけじゃねぇだろ?」

 

「おいおい勘違いすんなよ!? ……本気で茶汲みに来ただけだぜ俺! べ、別にアンタ達のために来てあげたわけじゃないんだからっ!?」

 

「「「きしょい!」」」

 

 

 ボケ一人にツッコミ数人を後ろに反撃で撃ち返すが――やっぱダメか。物量が違いすぎる。一発撃ち返したら十発で返してきやがった。

 

 

「……それで? 茶汲みのついでにここに来たのか?」

 

「おう。確かここだろ? 三河警護隊が一番少ねぇの。だーかーら、慰安に来てやった!」

 

「……なんでそれを知ってるんだーってことは聞かねぇが、それ知ってて来るか普通? 要はここが一番危ねぇって事だぜ?」

 

 

 馬鹿の言葉に、数人が反応した。そいつらは部隊の人数にしたら1割にも満たない……三河の同郷連中だ。つまりそれ以外の人員はつい最近『兵』になったばっかりの連中ってわけになる。

 ……正直、キツイだろうな。初めてのドンパチがこんなデカイ戦争だ。結構な人数が戦う気力を無くしちまってる。逃げ出してないだけ十分なくらいだ。

 

 まあもっとも、そうは言ってもドングリの背比べだ。右からは揚陸部隊、後ろと左はサン・マルティンの砲撃、んでもって前からは敵艦隊からの砲撃と。極め付けは全域で武神部隊の射撃が来る。どこもキツくて厳しいのは大して変わらねぇ。

 

 だから――

 

 

 

「あ、あの……本当に、本当に守りきれるんですか……?」

 

 

 そんな空気を読んだわけじゃないんだろうが運動するより本読んでそうな線の細いやつが、武器を抱きしめるように抱え込んで座り込んだまま、絞り出すように言った。悲観なその問いかけに……誰も、俺も含めて、なにも答えない。答えられない。

 

 答えがないのが答えで……そいつは、頭がいいからそれで理解したらしい。

 

 

「怖くないんですか……っ!? ――数も相手が上、武器だって相手が上! こっちが勝てる要素なんてなに一つないじゃないですかっ! だったら……だったらもういいでしょう!? ここで勝ったって、結局は世界が敵に回るだけなら……」

 

 

 もうこの辺で、終わりにしましょうよ。

 

 多分、コイツはそう言おうとしたんだろうな。でも、最後に気付いて、その言葉だけは飲み込んでくれた。

 

 

 

「――確かに、お前の言う通りかも知れねぇな」

 

 

 どれ、そろそろ苦し紛れの反撃――っぶねぇ掠った! 頬掠った!

 

 

「だ、大丈……」

 

「っち、あー、平気だ平気……ほんと、なんで頑張ってんだろうなって、思うよな。その『なんで』が見つけられないなら……悪いことは言わねぇ。お前、他の教導院に行きな」

 

「え……」

 

「誰も責めやしないさ。だって、誰だって思ってる事だ。頑張るための『なんで』を武蔵で見つけられなかった……ただそれだけの話だろ。

 ――悪いな。俺らみたいな馬鹿に付き合わせちまってよ」

 

 

 熱持った頬の傷から汗じゃない滑りと、鉄の匂い。痕残るなこれ……俺、軽く強面だから拍車がかかるな――ああ、そうだよモテない方向にだよ言わせんなチクショウ。

 

 

「見つけて、るんですか? 先輩は……」

 

「ん? ああ、まぁ……残念なことにな。あの日……三河でおっ始めたあの日。見つけちまったんだよ。だから、三河警護隊(俺たち)は、ここでこうして戦ってる。――怖いのを飲み込んで、震える足踏ん張らせて、虚勢張ってんのさ」

 

 

 息を飲む大勢と、苦笑するごく一部の連中。馬鹿は黙ってた。

 

 怖くないのか……んなもん怖いに決まってんだろ。証拠に見せてやった手だって、情けねぇことにずっと震えてんだぜ? さっきの掠ったのだって、あと5センチずれてたら俺普通に死んで――うっわ想像したら鳥肌立ってきた。

 

 

 

(けど……そんなのがドカドカやってくる本物の『死地』に、アイツはいたんだよな)

 

 

 

 ……俺たちが見たのは、圧倒的な数を前に無双する姿。……じゃあ、なかった。

 

 

 傷だらけで、ボロボロになって――それでも必死に繋げようとする男の背中だ。死が目と鼻の先に来てるのに逃げようともしないで、仲間がくることを疑わないで、一人戦い続ける姿だ。

 

 それを見て、魅せられた。そこを馬鹿に焚き付けられて熱くなっちまった、俺らの負けだ。

 

 

「それによ、そもそも、武蔵は世界征服と世界平和を同時に掲げてんだぜ?  ついて行けねぇって考えるのが普通だろうさ……なあ、今更だけどこの二つって本当に両立できんのか? そこんとこ、どう思うよ? 世界征服宣言者」

 

「ああ、やべえよな。……茶はホライゾンだからまだ良い――くねぇ! あいつ最近コークなスクリューに磨きかかってきてんだぜ!? しかもセンベイはセンセーのお使いだった! やべえよ……俺今月の厳罰内容やっべえのに……!」

 

「――……。ほらな? 総長からしてこんなんだ。難しく考えるだけ無駄だぞ?」

 

 

 苦笑が全員に伝染した――っていうか、この全裸はマジでなに考えて……まさか、考えてないとか? いや、いやいやいや? 流石に考えて行動してる、よな?

 

 

(……考える、か。むしろ、今はそれがいらねぇことなのかもしれねぇな)

 

 

 

 

 

 馬鹿を見る。全裸は俺が見てることに気付いて――王は、笑った。

 

 

 

 

 

「やってみろよ。……不可能は全部、俺が全部引き受けてやっからよ」

 

「っ! く、はは――ったく。いいぜ、Jud.!! 上等だ。やってやろうじゃねぇか!」

 

 

 笑うか? 普通。今にも敗走しそうなんだぜ俺たちは。

 

 不可能を俺たちから奪うのかよ。――だったらお前、腹括るしかねぇじゃねぇか。

 

 

 

「すぅ……はぁ。――全部隊へ通達! おい聞こえるかテメェ等! 馬鹿がなにトチ狂ったのか、『武蔵戦場巡り』をするってよぉ!! しかも! 劣勢になってるところから優先的に回るそうだ! うれしいなあおい!」

 

 

 一拍。あと耳をふさいでおく。

 

 

 

 

 

『『『『『『『『『――ふ ざ け ん な ぁ あ ! ?』』』』』』』』』

 

 

 

 

 

 おお、武蔵が怒ってら。怒号と罵詈雑言が通神通さないでも聞こえてくるぜ。

 

 

『おい嘘だろ? 嘘だと言えよう……!』

『お前らが生贄じゃなかったのかよ!? 頼むよそこで面倒見といてくれよ300円あげるから!!』

『く、来るなぁっ! 今来たら本当に負けるからぁっ!』

『あ、アンタ達! 突撃よ! 見せ掛けでもいいから優勢に見えるようにしなさい! ――ワカメはもういやぁ!』

 

 

 

「やっといてあれだけど、安定の嫌われ具合だな? 支持率とか大丈夫か?」

 

「バッカおめぇよく見ろよ。笑ってんじゃねぇかどいつもこいつも。だからツンデレなんだよ」

 

『『『『違うわい!!』』』』

 

 

 

 知ってるか? 人間ってな、メーター振り切ると笑い出すんだぜ? 三河にいた頃訓練に二代隊長が参加してくるときによくあった。

 

 んで、そういう時は大抵――考えることをスッパリ止めて、我武者羅になったほうが正解なんだ。

 

 

 

「照れるな照れるな♪ 俺ぜーんぶ分かってっから。

 

 全部わかってっから、だから、頼むわ……俺のダチが歯ぁ食いしばって守ってきたモン、おめぇらも守ってやってくれ」

 

 

 

 

 ――ああくっそ、また焚き付けられちまったじゃねぇかよ……!

 

 

 歯を剥き出す。口角が上がる。そう自覚できる。

 

 

 

「「「「「「「『『『『 ――Judgement.!! 』』』』」」」」」」」

 

 

 

 全裸から供給される流体が溢れる。心が折れない限り、俺たちは戦い続けることができる。

 

 壁から飛び出し、防御壁を張りながら全力で駆ける。後ろから急かしてくる大勢の足音で、踏み込む足に力が増した。

 

 

 

「――我ら! 既にこの身に、大罪を背負う者なり!」

 

 

『『『ああ! 我らの王の可能性と、我らの姫の感情を糧に進み行く大罪者なり!!』』』

 

 

 

 ――されど。

 

 

 

「「「「「「『『『『『『我らは! 王と姫を、喪失の哀しみから守り抜くものなりッ!!』』』』』」」」」」」

 

 

 

「守れ! あと少しだ、歯ぁ食いしばれお前ら!! あの馬鹿の頼み一つッ、聞いてやれねぇほど馬鹿じゃねぇだろっ!?」

 

 

 




読了ありがとうございました!!

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