境界線上の守り刀   作:陽紅

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振り返れば、四年。この境界線上の守り刀を描いて参りました。

ですがまだまだ、まだまだ先ははるか遠く。
この稚拙な作品にお付き合いしてくださる読者の皆様方、本当にありがとうございます。

これからも、お付き合いいただけると幸いです。


十六章 大海に立つは 『金 』

 守り刀の一族。

 

 

 『人斬り包丁』と揶揄される刀を使い、人を守ると宣い――それを行ってきた者たち。

 

 

 かの一族の歴史は、相当古い――と、思われる。……その起源(始まり)を何時とするのかすら定かではないのだから、この表現は致し方ないだろう。そして長く永い、膨大な歴史(時間)の奥底に埋もれてしまったそれを探し出すことは、今となっては不可能に近い。

 

 

 身に纏う鮮やかな緋色の和装。

 黒髪黒瞳。

 手足の数より多くの刀……その類に属する有反の片刃剣を帯びている。

 

 ……この三つの特徴を、多いと見るか少ないと見るかの判断はお任せしよう。

 

 

 その名が歴史に記されたことはなく、歴史の影にて生きてきた(戦い続けた)この一族だが、この現代――末世を目前にして三河で松平 元信公が全世界へとその名と有用性を示し、一躍歴史の表舞台に出ることになった。

 

 

 末世解決……の、保険。大罪武装による末世解決策が成らなかった場合、かの一族の彼が、その保険になるかもしれない、と。

 

 

 故に各国は、この一族の情報を手当たり次第に漁った。プライバシーとはなんなのかと思われるほど、徹底的に。

 ……漁ったのだが、これが恐ろしい程何も出てこない。個人ではなく国家が調べて、先代・先々代の名と、その二人が女性ということ。そして、二人がどちらもすでに落命していること……その程度しかわからなかった。

 

 ――尚、過程で得た止水の個人情報の中、彼の成績に関する内容で、座学系が軒並み超低空飛行で実技が関わる学科が高水準という、『典型的な頭より体派の学生』であることに、どこかの教皇が『いっそ清々しい』と笑っていたのは余談である。

 

 

 

 謎の多い一族。それが、各国の出した結論であり――

 

 同時に、『極めて高い戦闘力を有する一族なのだ』と生き残りである止水の戦歴を見て唸る。

 

 

 

 ……その一族の謎の一端が、今……妖精女王のもとで氷解しようとしていた。

 

 

 

***

 

 

 

 かつて。

 

 正純が、三河での決起の際、教皇総長に対して、重奏統合騒乱において『守り刀の一族の危機に何もしなかった極東の罪を贖罪する』と、こう宣言した。――かの騒乱で起きてしまった、止水の直系である祖先を除く全ての守り刀の死は、エリザベスも夢で見ている。

 

 ……だからこそ、友を犠牲になどしないと発言した正純を許せなかった。隣り合って当然とした態度に、会議の場で強く糾弾したのだ。

 

 

 

 

 ――守り刀の一族を裏切り、のうのうと生きながらえた極東の民が――と。

 

 

 

 だが……。

 

 

(もし――もしこれが事実であるなら……! 極東の民だけではない……それこそ、『この時代に生きる全ての者』が裏切り者の末裔ではないかっ)

 

 

 ――遥か古。この星の環境破壊が進み、その果てに、星が死を拒んだがゆえに起きた過剰な環境再生。巨大な都市が森に飲まれ、突然変異した巨大な獣が文明を滅ぼし……人類の滅亡が目前まで差し迫った【前地球時代】の末期。

 

 星に残っては本当に滅亡すると考えた当時の人類は、『残された全人類で天上(宇宙)登る(逃れる)』という荒技を計画し実行して、成功させた。

 そして、高度な技術力と力を持って天上で悠然と暮らす。大地を、星を離れて人類は滅亡の危機を脱したのだ。

 

 

 

 

 教科書でそれは、『偉業』と記され称えられる。

 

 だが……当代の涙に現れ、そして消えた一族の男……歴史の闇に葬られた彼の独白が、全てを塗り替えた。

 

 

 万人……多ければ億人はいたかもしれない全人類の宇宙進出が、短時間で済むはずがない。当然分散はさせただろうが、それだけ大量の人間が一箇所に集まれば、集中地は悉く狙われるだろう。

 

 ……変異した巨獣・暴走した機獣への囮にしたのか、はたまた、飲み込もうと迫る自然の力への抑止力としたのか……。

 

 

 

「――ざ、けるな……!」

 

 

 

 待てとも言わず、行くなとさえ言わず。ただ、今生の別れ……その最後に言葉を交わせなかったことだけに、消えた緋の一刀はほんの僅かな嘆きと悲しみを、小さく言葉に乗せただけだった。

 

 

 

(不幸で、済ませて言い訳がない。呪いなど、もはやその程度では生ぬるい……! 皆で背負うべき被害の全てを押し付けられてそれで、何故っ)

 

 

 

 何故。

 

 ――何故何故何故、どうして!

 

 

 

「どうして、笑っていられるっ!? ――裏切られたのだぞ! 生贄にされたも同然なのだぞ!? なのになぜ……なぜそなたらはそれを許せるのだ!?」

 

 

 

 

 ……純人種では考えられない、強大な器?

 

 ――当然だ。過酷を超え、熾烈極める環境下で生き抜いてきた祖先より受け継いできた血と肉が、逃げ出した軟弱な子孫と同じであるはずがない。

 

 

 

 ……星を流れる地脈に、何故守り刀の記憶がある?

 

 ――無い方がおかしい。手を振り払って見捨て逃げだした者共と、成り行きとはいえ残り寄り添ってくれた者達……どちらを好ましく思うかなど、問うまでもないだろう。

 

 

 エリザベスが見続けた夢の中で、地上から天上へ登った【前地球時代の末期】から【天上の時代】を跨ぎ、【黎明の時代】と呼ばれる人類種の星の帰還までの内容が一度として無かった事も、いくらでも仮説は立てられる。

 だが、そんな仮説や推察は、いま……なんの価値も持たない。少しでも知ることができれば、と思っていた一族の謎は、エリザベスに何の感慨も与えてはくれなかった。いや……そんなことに心を割いている余裕がなかった、とも言った方が正しいだろう。

 

 

 ……怒りにも似て、悲しみにも似ているその激情を、制御することが出来なかった。英国という強国の玉座に座り、統べる中で培った精神力でも――それを抑えきる事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

「……さぁて、な」

 

 

 エリザベスの叫ぶような問いかけに返ってきたのは……そんな、軽い言葉だった。

 

 

 

 

 

「なあ、起きてるか【鈍】。今のって……」

 

『ふあぁ……んん――オイオイ。眠そうな面だからって、俺の一派とは限らないぜ?

 

 ……いや、まあ、俺の一派なんだけどな。確か、あの時の頭領だったっけかね……強かったよ。懐かしい気配がすると思って起きてみたら――随分と、懐かしい場面じゃねぇか』

 

 

 

 止水の隣に浮いた、一枚の表示枠。『鈍』の一字を描くそこから出てきたのは、寝起きと思われるどこか気怠げな男の声だ。……その声に微かな哀愁と、隠しきれない誇らしさが混じっているのは気の所為ではないだろう。

 

 それを聞いた止水は何を思ったのか、特に曲げてもいなかった背筋を、意識して伸ばす。そして、先の守り刀が消えていった虚空に向かいスッと浅く……しかし、はっきりと一礼を行った。

 

 

 

 

 一秒、二秒。三秒目に姿勢を戻し、エリザベスに向かうことなく、その問いに応じた。

 

 

 

 

「……俺は、さっきの守り刀じゃないから……どんな思いだったのかーとか、どう思ってたのかーってのはわからない。でも――

 

 お前が言った裏切りだの生贄だの……多分、()()()()()――どうでも良かったんだと思う」

 

「どうでも、いい……だと?」

 

 

 Jud. と頷き、足取りは軽く――前へ。

 

 ――武蔵の進路はすでに天ではなく、垂直を超えていた。宙返りの行程を今や半分程終えて、後ろを取られていたサン・マルティンの後ろを取り返そうとしている。

 三征西班牙の対応は相変わらず早い。艦の前後を小型艦に押させて、強引に180度の方向転換をやろうとしていた。

 

 締めはトーリと姫さんかなぁ、と呑気に呟き、答えを続ける。

 

 

「結局さ、別れは別れでしかない……それは、変わんないだろ? そこに……裏切りだのなんだの、そんな無粋な付属品はいらない。――『じゃあな』も『また会おう』もないお別れは、そりゃあ寂しいだろうさ」

 

 

 だから、涙を流した。

 

 そして。

 

 

「それでも、笑って見送りたかったんだろうな……また、笑って会いたかったから。

 

 ――笑って一緒に、杯を交わしたかったから」

 

 

 

 ……もしも、自分ならば。

 

 自分が、あの守り刀と同じ立場にいたならば……きっと、今しがた消えた守り刀と同じように――きっときっと、笑うだろう。

 

 

 ――例え、それが今生の別れになると分かっていても、一縷の望みである『もしかしたら』の再会を願って。そして、そのもしかしたらの再会が成らずとも……あの世で笑って、杯を交わすために。

 

 

(ああ……そう、か)

 

 

「もっと単純な話、『そんな小難しい事どうでもいい』ってだけなのかもしれないぜ? ……なんて言ったって、ほら、俺のご先祖だからな」

 

 

 

 

 そう言って、子供のように屈託無く笑う止水を見て――ストン、と……エリザベスの中で、何かが落ちた。

 

 

 そんな言葉で、理解ができたわけでも、ましてや納得がいったわけでもないが……。

 

 

 

「……なる、ほど。それは、確かに凄まじい説得力だな」

 

「だろ? ……うん、わかってもらえたか。自虐した甲斐はあったか

 

 

 吐息とともに、苦笑を一つ。ションボリと肩を落としたのもわずかの間で、エリザベスの鬱屈したものが和らいだのを察したのか、止水はまた屈託のない笑顔を浮かべた。

 

 エリザベスの夢で見てきた、守り刀の一族。その幾度となく続いた裏切られる歴史の中で……ただの一度も、怒りも憎しみの感情も、見た覚えはない。

 

 

 風雅を好み、粋を愛し……止水と同じように、笑っていた。

 

 

 

「結局、『何故』と問うた……私がやはり無粋であったのか。本当に、そなたら一族は私の心をかき乱してくれる」

 

「いや、かき乱した覚えは欠片もないんだけど。っていうか、そのセリフを俺の状況かき乱しまくったお前が言うの……?」

 

 

 

 ――忘れろ、過ぎた事だ。

 

 ――過ぎてねぇよ。現在進行形だろ。

 

 

 ……そう言い合って並ぶ二人の姿は、どこか気安げだったと英国の副長と副会長は後に語る。

 

 

 

「……ところで、いまさらながらにふと疑問に思ったのだが……止水。何故先ほど武蔵の輸送艦が来た時に共に行かなかったのだ?

 動けなかったソナタを運ぼうとした半竜に断りを入れてまで、英国に残る必要があの時にあったとは思えんのだが」

 

「本当にいまさらだな……まあ、お前の言ってた、思惑だよ。……俺の掌は『それだけ』しかなかったってのに、随分予想外なことが起きてびっくりだ」

 

 

 

 苦笑し、左手で右の脇腹を超えて、背の一部を摩る。

 

 

 

 

「なあエルザ。……実は俺、英国でやり残した事が一つあってさ。それ終わらせたいから、ちょっと手、貸してくれないか?」

 

 

 

 英国女王の本気の「――はぁ!?」と、武蔵……悲嘆の大罪が放たれたのは、ほとんど同時だった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 友の背を押すこと

 

 友の門出を見守ること

 

 

 そして

 

 

 友の前に、立ちはだかること

 

 

 配点【友の役目】

 

 

 

***

 

 

 

 大罪武装『悲嘆の怠惰』。

 

 故・松平 元信公により、三征西班牙に送られた二つの神格武装に類する大量破壊兵器……その片割れ、だったものだ。

 三河で宗茂が二代に敗れ、武蔵に奪取……元の持ち主の元に戻ったのだからこの表現は適切ではないのかもしれないが……そうなったからこそ、この状況が生じたのだろう。

 

 

 大罪武装同士の、真っ向からの激突だ。

 

 

 

 

 

 ――大罪武装『悲嘆の怠惰』を繰るは、全竜の姫。嫉妬の大罪武装ともされる武蔵副王、ホライゾン・アリアダスト。

 

 対し。

 

 ――大罪武装『嫌気の怠惰』を繰るは、八大竜王が一人。三征西班牙副会長、フアナ。

 

 

 どちらも女性。その上、どちらも自国の総長兼生徒会長に支えられて……その超絶の力を解き放った。

 

 

 

 この激突だが……少からずフアナには勝算が有った。以前、英国に入る直前にだが、フアナ達は悲嘆の怠惰を完全に受け切った、という前例がある。ギリギリでその時の役者たちも、誾を除き全員揃っている。

 

 

 『勝てる』――フアナは、肩に添えられたセグンドの手の温もりを感じながら、そう直感した。

 

 

 

「くっ……!」

 

 

 一番最初に苦悶を発したのは、房栄だ。道征き白虎の両肩……咆哮劣化の砲身に破砕音が響き、さらに亀裂が入りこんでいく様に、細い目を見開き、顔を険しくしている。

 

 

「ちぃっ!」

「おいおい……っ」

 

 

 続くのは、隆包とベラスケスの聖譜顕装を使役する二人。『時間の倍加』と『回数減衰』の節制の力が押されているのに、驚愕していた。

 

 

「くぅ……!」

 

 

 最後は……フアナ自身だ。大剣型の嫌気の怠惰が、見えない圧力に押されてる。全力を注ぎ込むが、勢いをやや遅らせただけで、押され続けているのには変わりがない。

 

 

(前回よりも、力が上がっている……!?)

 

 

 有り得ない。同じ武装の威力が急激に上がることなどあるわけがない。しかし、現実に有り得ている。ならば、考えられることは一つ……前回の威力が、全力ではなかったのだろう。

 嫌気の怠惰を受けた直後だったからか、それとも、ホライゾン(主人)の感情に何らかの変化があり、大罪武装(姫の感情)がそれに答え、本来の力を発揮したのか。

 

 

(それでも……!)

 

 

 負けるわけにはいかない。勝つのだ。

 

 みんなで勝とうと、やっと、言ってくれたのだ。

 

 

 

 

「……それでも、ホライゾンは前に進むと決めたのです。世界の救済、末世に挑むと。……というわけで、トーリ様、そこちょっと邪魔です。あとドサクサに紛れてホライゾンのウエストを撫でないでください」

 

「ちげぇって! これはほらあれだ! ベストな支え位置を模索してるだけだから!」

 

 

 余裕そうなのもまた腹立たしい。

 

 睨むように見上げた先、全竜の姫が手を伸ばし、虚空から黒白の盾を引き出す。英国に預けられた大罪武装……『拒絶の強欲』だ。

 

 

 

「ホライゾン、おめぇ、それ……」

 

「Jud. 先ほどウルキアガ様から半竜速達便で届きました。……それも、いい感じにチャージされた状態で、です。容量的には、おそらく大罪武装の超過駆動一発分でしょうか」

 

 

 ――どこかの未熟者(ネシンバラ)黒歴史(ノルマンコンクエスト3)異端審問官(ウルキアガ)に朗読される、聞く方も読む方も絶大な精神苦痛でのたうち回っているのは、どうでもいい話として。

 

 

 

「ですが、大罪武装級の流体燃料を引き出すためには、単なる超過駆動では行えないようです。三河で行った第三セキュリティ……魂の起動を承認する必要があります。

 ――トーリ様。ホライゾンは、世界の全てを望みます。奪われた感情を全て望み、世界の救済も望みます……このホライゾンの強欲を、トーリ様は叶えてくださいますか?」

 

 

 ホライゾンの意思。それに呼応した強欲の大罪から、大量の表示枠が出現する。その中で、――《魂の起動》――最後の承認を待ち明滅する表示枠が、嫌に目立っていた。

 

 

「欲張りだなホライゾン。でもそれよ、今更確認することじゃあねぇぜ? 強欲いいじゃねぇか。もっともっと多くを望もうぜ! ――大丈夫だホライゾン。俺は、おめぇのそばにいる。これはこれから、ぜってぇに変わらねぇから」

 

 

 だから。

 

 

「行こうぜ。感情の創世へ!」

 

 

 王が支え、姫の手を取り、鍵を開く。

 

 溢れ出た感情の発露。そのありのままに紡がれた通し道歌に思いは乗って――。

 

 

 

 ……蹂躙の掻き毟りが、サン・マルティンを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

「っ、フアナ君っ!」

 

 

 ――セグンドのその咄嗟の行動は、無駄なものだった。大量破壊と名打つその威力を前に、生身の人間が一瞬たりとも耐えられるわけがない。だが、それでも……セグンドはフアナとの前後の位置を奪うように変えて、フアナを抱きかかえて己を盾にしようとした。

 

 サン・マルティンの艦首が砕ける烈音。続き、甲板に亀裂が走る裂音が響き、セグンドが悔しさと覚悟を奥歯で噛み締めて……。

 

 

 

 ――やはり、その行動は、無駄になった。

 

 

 

   「――っと、邪魔するぜ?」

 

 

 

 ……真横から、割り入るように飛んできた緋色が、無駄にした。

 

 

 

 

 無数に迫る掻き毟る大罪の手の軍列を、緋色の大炎を纏った大太刀の一閃にて『斬り開く』。そして即座に返す刀で一閃を繰り返し、緋の斬撃を飛ばした。

 

 緋色の炎は三日月の形を作って飛び、搔き毟る手群と拮抗する。その拮抗は僅かな時間だが……砲手が異変に気付いて引き金を戻すまで続いた。

 

 

 

「あ、貴方は……」

 

「ん? ああ、確か英国に入る前に……で、あってるよな? 隣の親父さんは初めましてっぽいけど。二人とも無事だな? ……今のが姫さんの大罪武装か。『結構本気』でギリギリ拮抗できる、ってとこか。全力か連閃なら届いたかな」

 

 

 

 ボソリと呟かれた、出来れば信じたくない爆弾発言に唖然とするフアナと、彼女を押し倒すような格好のセグンドが大きな背中を呆然と見上げる中で、その表示枠が開いた。どこか苛立っていそうな極東の姫と、目をパチパチ瞬かせている武蔵の総長兼生徒会長がいる。

 

 

「……。

 

 ほう。ほうほう、止水様。今の一言はホライゾンへ向けての宣戦布告ですね。良いでしょう。いろいろ物申したいことはありますが、売られた喧嘩です。受けて立ちます。……さあトーリ様、絞り出してください。もう一発ぶっ放しますので」

 

「おいおいおいホライゾン! ボケは俺だぜ!? ツッコムのおめぇだろー? ……で、ダム。おめぇ、妖女とのあれこれでアルマダ出られねぇんじゃねぇの……?

 

 つか……」

 

 

 

 なんで、三征西班牙(そっち)にいんだ……?

 

 ――その問いに、止水は大太刀を鞘に収めながら、答えた。

 

 

「いやいや、俺が出来ないのは『アルマダ海戦の参加』じゃなくて『武蔵勢でのアルマダ参加』だ。……なら、一時的に三征西班牙側について参戦するのは、アリだろ?」

 

 

 

 ――ねぇよ、と。

 

 武蔵・三征西班牙問わず、不特定多数の心情がこの時見事に一致した。

 

 

 

「君は、一体……いや、それよりもどうやってここへ……? 英国から来るにしたって、二艦のサン・マルティンが……」

 

 

 

 思わず呟いたセグンドが、止水が飛んできた方角――英国方面に視線を送る。そこに小型艇のようなものはなく……そのかわりに英国本土、巨大な光の柱が水平に伸び……消えていくところだった。

 

 

(あれは、王賜剣・二型? でも、消えて……使われた、後……?)

 

 

 思考が止まる。まさかと見上げた止水は、やたらと達成感の溢れる笑顔を浮かべて――。

 

 

 

 

 

 

「エルザに送ってもらったんだよ。……いや、意外とできるもんだな。     ――野球」

 

 

 

 

 

 バット = 王賜剣・二型。

 

 バッター = エリザベス。

 

 

 ボール = 止水。

 

 

 つまりは、こんな感じらしい。

 

 

 

―*―

 

 

女 王『……ふむ。言われた時は、とうとう狂ったか、と思ったが……上手くいくものだな。それに、うむ。悪くないな、この感覚は。うむうむ』

 

せしる『たのしいのー?』

 

女 王『そうだな。いや、しかし安全性が……よし、一件が終わったら練習するとしよう。いいか? 諸兄ら』

 

御 鞠『とうとう狂ったか……まあ、がんばんなよ、ジョンソン&ドレイク』

 

薬詩人

 & 『ひぃ!?』

半 狼

 

 

―*―

 

 

 

「で。まあ、なにをしに、ってのは――……『うやむやになった決着』と、『負けたまんまの勝負のリベンジに来た』……ってところかな」

 

 

 

 武蔵が英国に来て、止水が戦闘を行った数回。その中で、うやむやになってしまった勝負と、負けたままの勝負が、それぞれ一つずつ存在する。

 

 

 

「――そこにいるだろ、点蔵。そして、メアリ」

 

 

 表示枠が増える。

 

 万が一に備え、ホライゾンとトーリの後ろで王賜剣・一型をメアリと共に用意していた点蔵がそこに映っていた。二人ともいきなりの指名に困惑しているようだが、止水は構わず言葉を続ける。

 

 

 

「……俺はいまから、武蔵に対して全力で攻撃を行う。……これをお前らが止めきれなかったら、俺の勝ちだ。武蔵に戻ったら掛け直す『守りの術式』、その深度を――全員『最深』にする」

 

 

 

 

 止水のその発言に、武蔵のいたるところで灼熱が上がった。視界を覆い尽くす勢いで一気に増えた表示枠が、激怒に顔を歪めた関係者一同を映し出し……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして、お前ら二人が勝ったなら……みんなの深度はそのままで、点蔵とメアリ、二人を術式の対象から『除外』する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――沈黙が、海と空を支配した。

 

 告げられた点蔵が言葉を出すよりも早く、声をあげたのは……鈴だ。

 

 

 

『受け、て! てんぞ、くんっ、メアリ、さん! お、お願、い!』

 

『そうですっ、受けてください! 点蔵君! メアリさん! そして何が何でも、絶対に勝ってください!』

 

 

 女衆が受けろという。そして絶対に勝てとも。

 

 

『ほらー! ほらボクの言った通りだったー! これからはボクの話に少しは……』

 

『黙れセクシーダイナマイトビーム!  『ぐっは!?』 ……点蔵、貴様もし怖気づいているのなら、拙僧が代わってやろう――むしろ代われ!』

 

 

 男衆は、一部例外を除いて代われと叫ぶ。そしてやるからには絶対に負けるなとも。

 

 

 ……守り刀の守りの術式。

 情報だけならば、セグンドたちも知っている。武蔵の住民の傷と痛みを、各個人の深度のレベルによって度合い肩代わりする術式だ。三河では劣勢になるはずだった各戦場の特務や兵の損害を全奪し、危機的状況を回避したとも聞いている。

 

 

 

 十年。誰かが泣いても、誰かが殴っても――頑なに拒んだ、術式の解除。今宵だけのものではなく、それがずっと続くものだとしたら。

 

 それは、武蔵に住む者……取り分け、梅組の関係者は心から望んでいることだった。

 

 

『……その条件、本当でござるな?』

 

「――Jud. 」

 

 

 守られる立場ではなく――共に、並び立ち進む者になるために。

 

 

 

 

『……Judgement. その勝負、受けさせて頂くでござるよ』

 

 

 

 

 点蔵・クロスユナイトが、武蔵最強に挑む。

 

 止水はその返事に笑みを浮かべて頷き……構えた。

 

 

 

 

「――待たせに待たせて、悪かったな。ようやく出番だ。

 

 

 

 

 

 変刀姿勢・戦型五番ッ――相手を目前に錨を下せ。踏み止まりて守り勝つぞ……『(よろい)』!!」

 

 

 

 

 

 ――『よくぞ……よくぞ我が名を呼んでくれた! 感謝するぞボウズ!』

 

 

 

 現れたのは、小さな走狗……では、なく。

 

 大柄である止水を二回りは超えるだろう巨漢の大男が、大炎を猛らせて現れた。

 

 

 




読了ありがとうございました!

鎧のモデルは……!

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