境界線上の守り刀   作:陽紅

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七章 刀、離れず 【壱】

 

 

 

 重苦しい空気だな。と、正純は険しい顔のまま、緊急招集された一同を見渡してそう感想を付けた。

 

 ……尤も、その正純も、重苦しい空気にしている一人なのだが。

 

 

「さて……まず、この場に集まった皆に確認したい。()()()()()()()()()()?」

 

 

 対六護式仏蘭西――いや、もう『対人狼女王』と言い換えていいだろう激戦を超え、正純は梅組の全員とその関係者を多摩甲板上に集めていた。生徒会一同、総長連合一同は当然として、一般生徒も一人漏れなくだ。そこには里見教導院総長の里見義頼と生徒会長の里見義康の姿もある。

 

 

 正純の問い掛けに、いくつもの頷きといくつもの重い「Jud.」の声。二つを合わせて、集まった人数の合計と合うことを確認した。

 

 ネシンバラが眼鏡を直しつつ、口を開く。

 

 

「記憶を改竄し、恐怖を増大させる力。――しかしてその本質は、限定的に神の領域に至る力の具現だ。あの姿、三対六腕というと仏教の阿修羅かな。戦神であり、悪神の一柱だよ。顔も本当は三つなんだけど、流石に再現しなかったみたいだね。

 

 ……向井君がいなかったら、僕らも忘れたままだったろう」

 

 

 一同の視線が、何かを堪えるように俯いている鈴へ集まる。祈るように……いや、実際に祈っているのだろう。胸元で手を組み、集まった視線にも気付いていなかった。

 

 

 ――盲目であるが故、武蔵十万の人員の中で唯一、【鐚】による記憶の改竄を受けなかった鈴は、とにかく梅組の皆に向かって声を上げた。

 途切れ途切れ、辿々しく。しかし必死に、涙ながらに。

 

 

 『鈴が泣いている』……火事場だったあの時の現状を考えると無視しても決しておかしくない事なのだが、()()()全員が作業をしつつ、その言葉を一語一句聞き逃すまいと全力で耳を傾けた。

 

 

 

 

 

 思い出して。

 

 一番大きくて、皆が取り合う美味しいおにぎりを作れるのは誰か。鈴を主に、いつも誰かを背に乗せて、武蔵を走り回ったのは誰だったか。

 

 

 思い出して。

 

 きっと、何よりも綺麗な柔らかい緋色を。始まりの場所(後悔通り)でよく昼寝をして……なにかあったら、誰よりも真っ先に駆けつけてくれた、あの人を。

 

 

 鈴は一人一人に、自分が聞いたみんなの思い出を一つ一つ語った。

 ――好きな人を無意識に目で追ってしまうように、誰よりも彼を聞いていた鈴だからこそ、できた事だ。

 

 

 【鐚】の力は記憶の改竄であるが、記録の改竄まではできない。その上、改竄できるのは『守り刀個人(止水)』の記憶だけである。

 

 例えば、『止水と一緒に食事をした』という記憶が改竄されれば、『■■と一緒に食事をした』というように、止水の存在が塗りつぶされるだけ。『誰かと食事をし、言葉を交わした』という記憶はしっかりと残るのだ。

 

 

 記憶というものは存外曖昧なモノで、欠けたのであれば、欠けた分の整合性を保とうと脳が埋め合わせを行う――全員が忘れていれば、その整合化の中で止水という存在が忘れ去られるはずだったのだが……鈴が欠けた記憶をすぐに正したために、そうはならなかったのだ。

 

 

 何故という疑問は消えて……納得した。なぜなら、『鈴が泣いたら、なにをおいても駆けつける』――その理由となったのは、他でも無い止水だったのだから。

 

 

 

「事は一刻を争う。だから、今回ばかりは脱線とかいらないツッコミとか、色々全部抜きで頼むよ」

 

「今思いっきり仏教薀蓄を語った眼鏡オタクがそれを言うのね」

 

 

 止水から渡された緋衣(喜美談)という物的記録のお陰か、梅組内でも早期に記憶を戻した喜美がいつも通りの茶々を入れる。……制服の上に件の緋衣を着込み自身を抱くような立ち姿は、流石にいつも通りとは言えないが。

 

 その隣で火の点っていない煙管を上下させる直政が義腕を振り、反論しようとしたネシンバラを抑える。

 

 

 ――落ち着いているように見えるが、結構な綱渡りだ。明るく照らす太陽が消え、さらに、広く深く根を張った大樹を失って、地盤が脆くなっている。

 

 

「はいはい、先進めるさ。まず大前提さね。

 正純――止めの字たちが稼いだ十五分、それを要求した久秀の爺さんから、何か連絡はあったのかい?」

 

「なに一つ無い。ついでに、守り刀と深い親交があったと思われる義経公からもだ。一応、今も私の父を初めにした議会の方々が連絡を取ろうとしてくれているようだが……」

 

 

 成果は無い、と正純は首を横に振った。

 

 十五分間大国の攻撃に耐える事で、松永久秀・源義経が轡を並べるに値するという資格を見せる――その為の抗争だった。

 

 

  ……味方を得る為に戦ったというのに、得られるどころか失っ――……

 

 

「……っ。そして次に、六護式仏蘭西の動きだが――人狼女王と止水の戦いの余波で、かなり損耗したと思われる。人的被害は流石に少ないようだが、起動前の武神団や戦艦の大半がすぐには動けない状態らしい」

 

「――思われる、と、らしい、でござるか。その情報は一体どこから? 信憑性はあるのでござるか?」

 

 

 聞かれるだろう、と想定していた当然の疑問を点蔵に問われ、正純はチラリと視線を、義頼に向ける。

 

 それに義頼は小さな頷きで応じ、半歩前へ。

 

 

「それについては、私から答えよう。人狼女王が現れる前、六護式仏蘭西の生徒会副会長であるリュイヌ夫人――武神旗機パレ・カルディナルが抗争中に武蔵へ亡命を望んできた。食客である私では判断のしようがなかった故、副会長と書記に一報を入れて保留していたのだが……彼女が手土産とばかりに、新鮮な情報をいくつか開示してくれたのだ。

 

 現状の被害。そして、それに付け加えるように――」

 

 

 義頼の細い目が、強さを帯びた。息を吸い、一拍ほどの間を置き……

 

 

 

「――六護式仏蘭西領域内の森林地帯にある、人狼女王()()の拠点。そこの正確な位置情報があった。しかも『六護式仏蘭西からの命令に人狼女王が無視を決め込んでいる』という情報も合わせてな。距離は相応にあるが、あの移動速度ならば大した障害ではないだろう。

 

 私見だが……人狼女王が、止水と武蔵総長を連れてそこに向かった可能性は高いと思われる」

 

 

 

 ……一同の胸に、熱いものを宿した。

 

 

 その上で幾人かが、なるほど……と納得を得ていた。

 

 トーリと止水が人狼女王に連れ去られた。その内、止水は今生きているのかさえ怪しいというのに、指揮者連中の顔色は絶望に染まっていなかったのは、この情報があったからだ。

 

 

 

 ……状況は絶望的。控えめに言っても最悪だろう。だが、()()終わってはいない。

 

 真っ暗闇の中で見つけた、髪の毛ほどの細さの糸。どこに繋がっているかもわからないそれを、希望に繋がっていると信じて辿るしかないのだ。

 

 

 

「感謝する、里見総長。……続けて、大罪武装『拒絶の強欲』のことだが――そこ。あー、って顔するな。っていうかホライゾン、お前今思い出しただろ。

 ……そうだよ。厄介な事に、ホライゾンから止水に貸与されたままなんだ」

 

「ふう。『取り返した物をまた奪われた』と。幸いなのは、この情報が他所様に伝わってないということですか。

 

 

 ――で、もう現状を見るにホライゾンがやるべき事が決まっている感じがするのですが――どうしてホライゾンの出撃許可が却下されているのでしょうか。納得のいくご説明を十字以内でお願いします」

 

「お前が副王だからだ。……ナイト、ナルゼ。そのまま左右から押さえ込んでいてくれ。バルフェットは悲嘆の怠惰をそのまま抱えていてくれ」

 

 

 黒の堕天と金の墜天に両腕と肩を押さえられ、身動きができないホライゾンに正純は告げる。

 ――自動人形らしからぬ『わがまま』に、感情を少しずつ取り戻してきていると嬉しくなるが、それとこれとは話が別だ。

 

 なお余談だが……悲嘆の怠惰を肩に担ぎ、多摩甲板上から眼下の森へフリーフォールしようとしたホライゾンを寸でのところで止めたのが、召集を受けて集合場所に向かっている途中だった御広敷である。

 ……体格に似合わず機敏な動き方でホライゾンの前に立ちはだかり、それを抜こうとホライゾンも動き――その攻防を見た誰かが『カバ○ィ』と呟いていてから、まだそれほど時間は経っていない。

 

 

 

 そして、そんなホライゾンの奇行を見たためだろう。トーリと止水を奪われた直後だというのに、一同の混乱と焦りは最小限となり、現在は内心で焦りつつも冷静に努めることができていた。

 

 

 

「ここからは僕が引き継ぐよ。奪還の人選は、もう終わっているからね」

 

 

 ――奪還は行う。当然だ。ホライゾンを止めたのは、純粋に彼女がこの案件に不適格だったからである。ほぼ原生林に近い鬱蒼とした森の中を、高速で……かつ、戦闘の可能性も考えて移動しなければならないのである。

 

 

 かなり難しい条件ではある。が、これ以上ないほどに適任とも言える者がいたので、正純たちが迷う事はなかった。

 

 

 

「――点蔵君。君に、奪還部隊の長を頼みたい」

 

 

 皆の視線がまた別のところに集中する。武蔵でも上位の忍者である点蔵・クロスユナイトだ。

 

 ネシンバラ達からの突然の指名だが、点蔵に狼狽える様子はなかった。だからと言って逆に重く気負う様子もなく、至っていつも通りだ。隣に立つメアリが眼を大きくし、口を手で隠して驚いているせいだろうか、いつもどおりの様子が殊更際立って見えた。

 

 

「Judgment. すでに準備は出来ているでござるよ。……しかし部隊、という事は他のメンバーがいるのでござろう? その人選は?」

 

「これからだよ。部隊長である君に選んでほしいんだ。

 ――君が、『これ以上のチームはない』と思うメンバーを連れて行ってほしい」

 

 

 点蔵はそれに続く言葉を待ったが、どれだけ間を置いても、ネシンバラが人数の指定や『誰は残せ』といった類の制限を言うことはなかった。

 

 『誰でも好きなように連れて行け』――それだけこの奪還が武蔵という国の最重要なのだろう。

 

 

(――かと言って、それに甘えて戦力全員を連れて行くのは愚策でござる)

 

 

 速度・機動力・戦闘力・対応力。

 森林地帯・敵国内・最大障害。

 

 その他様々な篩をかけて、点蔵は『もし連れていくならば』と予め考えていた二人を呼ぶ。

 

 

「では、マルゴット殿。そして――ミトツダイラ殿を」

 

 

 呼ばれた一人はわずかに驚き、しかしすぐに真剣な顔で頷きを返す。

 

 呼ばれたもう一人は、全身に貼り付けた治癒術式がもうすぐ役目を終える。そうなれば動けるようにはなるだろうが……すこし困惑しているようだった。

 

 

「――……わたくし、ですの?」

 

 

 呼ばれた彼女は何故、とは言わない。人選ミスではないか、とも言わない。

 

 

 ただ、迷うことなく告げた点蔵の、正気を問うように聞き直した。

 

 時間との勝負になる、と誰しもそれを理解している。

 点蔵は言わずもがな、マルゴットは箒による高速移動が可能だ。だからこそこの二人は理解できるが、ミトツダイラは自分の名が呼ばれたことが信じられない。

 

 

 

 ――鈍足。それに加えて、先ほどの戦闘の体たらくもある。

 

 

 ネイトは、自分が役に立てるとは欠片も思えず……それどころか足手まといだ、とさえ考えていた。

 

 

 母に対して、手も足もでなかった。そもそも戦っていたとすら言えないとネイトは、その瞬間を思い出したのか唇を噛んでいる。止水が命を賭け、存在そのものすら賭けて戦っていたあの場に、自分はただ()()()()だ、と。

 

 

 

「Jud. ミトツダイラ殿を、でござるよ。正直に言ってしまえば、今の武蔵に人狼女王を抑えられる者は一人もいない。しかし、時間稼ぎならば……唯一ミトツダイラ殿だけが『いくつかの可能性』があるのでござる」

 

 

 機微に聡い点蔵が、明らかに沈んだ気配のネイトに気付かないわけがない。

 

 いいでござるか? と、点蔵は理由を告げる。

 

 

「まず、ミトツダイラ殿が先の一戦でギリ耐えられた攻撃でござるが、あれ、他の面々なら確実に『潰れたトマト』でござるよ? それをあの速度で打たれたら、自分とミトツダイラ殿の速度差など誤差でござろう。これが一つ目」

 

 

 回避不可能。そうなった際、モノを言うのは防御力・耐久力といった純粋な肉体の頑強性能だ。

 

 止水がいない現在、その手の最上者は言うまでもなくネイトかウルキアガになるだろう。しかし、半竜で高速移動ができるウルキアガだが、森というフィールドでは障害物が多過ぎて速度が出せず、さらには隠密性も求められるこの奪還作戦には不向きである故に、ネイトが選択されたのだ。

 

 

「そして、二つ目。おそらく……人狼女王が会話をしようと思う唯一の存在でござろう。自分らでは、交渉の可能性がもしあったとしても、視界に入っただけで一蹴され兼ねないでござるし」

 

「とどのつまりは早い話、ミトツダイラが顔パスチケット兼薄くて硬い盾兼ネゴシエーターってことね? 犬臭い上に噛みまくりのどこぞの忍者よりよっぽど可能性があるじゃない。……あら、アデーレ? あんたなんでちょっと悔しそうなのよ」

 

「――薄くて硬い盾って言われる前から悔しそうだったわよ。……一応聞きたいんだけど、私じゃなくてマルゴット、っていうのはどういう選考基準なの?」

 

「喜美殿の発言にせめて反論させてほしいでござ――あ、Jud. ええっと、マルゴット殿は黒魔女としての機動力と遠距離攻撃でござる。それに、英国での一週間サバイバルで森林地帯の動き方はおよそ理解してござろう? 箒での移動ならばミトツダイラ殿を運ぶこともできるでござるし……

 

 ――最悪の場合、武蔵に知らせを届ける者が必要でござろう?」

 

 

 点蔵の説明は理に適っていた。それを聞き、認め……幾人かが悔しそうに俯くようにして頷くことで納得を示し、点蔵も頷きを返す。

 

 

 

 ……ただ、一人。

 

 点蔵へ真っ直ぐ進む、ウルキアガを除いて。

 

 

 

「……また、貴様なのか。点蔵」

 

「ウッキー殿……」

 

「スマヌ……わかっているのだ。拙僧では、今回は不向きが過ぎる。貴様に任され、貴様の人選にも理解ができる。わかって、いるのだが……!」

 

 

 納得ができない。心が、受け入れない。

 

 ――自分も連れて行け。竜の爪を、竜の(あぎと)を。竜が宿るこの魂の怒りのままに、ぶつけてやりたい。

 ……自分を連れて行け。竜の翼で、竜の殻で。守る信念を教えてくれたその友を、救いに行かせろ。

 

 

「……ッ!」

 

 

 ――ガキリ、と鈍く強い音が、ウルキアガの下顎から響く。見れば、その甲殻に小さな亀裂が走っていた。

 

 心を押さえつけ葛藤を殺し――友に向け、差し出されたのは拳だった。

 

 

「……点蔵。パシリオーダーだ。止水とトーリ。……なるべく、早くだぞ?」

 

「自分の人生史上最大難関のパシリでござるなぁ……しかし、Jud. 全力を尽くすでござるよ」

 

 

 半竜と忍者の拳がぶつかる。……男臭い連中だ、と苦笑を浮かべる者に囲まれ、点蔵を筆頭にした三人が輪を離れていった。

 

 ――それに続き、どこか意を決したような表情のメアリが、輪の全員に勢いよく頭を下げて、三人についていくのも見送る。

 

 

 

 

「……私情を挟むとか、第一特務らしくないですね」

「嫁守りたいって旦那思考でしょ。森なんて、精霊術使えるメアリにとっては独壇場だもの。でも、流石にさっきの戦闘見てたら連れていきたくないんでしょ。それに、非公式だけど英国の次王の母だし……正純、止めなくていいの?」

 

「馬に蹴られたくないんでな。英国とのホットラインはしばらく閉じておくさ。さて……葵と止水の奪還はクロスユナイト達に任せて……次の案件に」

 

 

 ――「進まれる前に、少々よろしいでしょうか? ――以上」

 

 

 正純の言葉を遮り、現れたのは武蔵だった。大荒れの出航で各所に溢れた問題を片付けている彼女が、現在も処理中なのだろう大量の表示枠を引き連れるように輪に加わる。

 

 通神ではなく、わざわざこの場に赴くほどだ。よほど重要なことなのだろう――そう判断し、正純は口を閉ざすことで発言権を武蔵へ譲る。

 

 

「Jud. では――浅間様。緊急術式保存で保管された止水様の両腕の件ですが、そろそろ時間停滞限界です。直ちに浅間神社内にある祭場を使用した正式保存を至急お願いいたします。――以上」

 

 

 急げ、という意味の言葉が二度あったが、それだけ急いで欲しいのだろう。理由を聞いた正純達も一斉に視線を智へ向け、視線で急かそうと……。

 

 

「あ……っ。

 

 

 

 ――え?」

 

 

 ……言われた智は思い出して、しかし武蔵に疑問を返す。

 

 

「……浅間? ちょっと浅間? 今そういうギャグいらないから。ほら、さっさと家帰んなさい? あんた、止水の腕保管したんでしょ……したって言いなさい?」

 

「……――せん」

 

「お、おい向井が倒れたぞ!? 貴様今何を言った!?」

 

 

 

 

 

「して、ません。止水くんの腕の保存……その、私、両腕にあった傷跡見て、カッとなっちゃって……」

 

 

 人狼女王の攻撃に相殺ツインズドンを打ち込み、拝気枯渇で気絶。そのままナルゼ達に回収され、今に至る。

 

 

「あの、誾さん。その……整体義腕への加工処理のタイムリミットって確か……」

 

「……私の場合、宗茂様の技量のお陰で切断面が綺麗だったので三十分は平気でしたが……あの引きちぎるような形では……」

 

 

 経験者、というには些か語弊があるだろうが、それでも両腕を切り落とした経験の立花夫妻の言葉は重かった。

 

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 私がアンタを回収した時、腕も、磔にしてた刀もなかったわよ!?」

 

 

 残っていたら叩き起こしている。その時には止水を思い出していたナルゼが、それを見逃すとも思えない。

 

 智が気絶から、武蔵が止水とトーリを残し出航――【鐚】を用いた止水と人狼女王の決戦があり、それが終わって、ナルゼが彼女を回収するまでの、わずか数分。

 

 

「……ま、まさか、出航の時の大荒れで、下に落ちた、とか……」

 

「そ、それはないと思います! 止水くんの刀は相当深く刺さってましたし、装甲が歪んで噛んでましたし……抜けないと思ったから、袖を割いて……傷跡を……」

 

 

 

 ――じゃあ、どこに行ったんだ?

 

 

 全員が同じ疑問を、ほぼ同時に抱いた。

 

 

 

 




読了ありがとうございました!

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