境界線上の守り刀   作:陽紅

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七章 刀、離れず 【四】

(ひゃっほぉぉぉぉおおぉおおおおおおおおおおっ!!!!)

 

 

 

 

 ……男は冷静に努めていた。努めて努めて、努めまくっていた。

 

 案内された建物に入る。促された席に着いて、相手と向かい合う。目と眉の間は狭して、真一文字に結んだ口元を組んだ手指で隠した。

 向こうは複数だが、こちらは自分一人。多くの仲間たちが同道を望んだが、その全てを男は頑なに拒んだ。

 

 

 

(勝ち取ったのは私だ! 私が勝ち取ったのだ! 市長やっててよかったぁあああ!!)

 

 

 ――繰り返す。男は、ゲーリケは努めて冷静だった。冷静に、自分がこれから交渉を行う相手を一人一人観察し、情報を集める。

 

 

 

(ほあ!? あ、あの巫女装束……そしてあの超ド級の胸部装甲――! 間違いない、あの方が『浅射て(浅間様が射てる)』の主役である浅間様のモデルだ! ほ、本当に実名だったのか……!)

 

 

―*―

 

 

あさま『……あ、あのぅ、なんで私が真っ先に警戒心マックスな視線で見られてるんですか? 私、会議場の禊で来てるだけの一般生徒なんですけど……』

 

● 画 『目の前に戦艦の主砲級砲撃を十秒以内にズドンできる相手がいたら、浅間はどうする? 私だったらソッコーで逃げるわ。……気をつけなさいよ正純。このオカッパ、とんでもなく肝座ってるわよ……!』

 

副会長『いや、そもそもなんでナルゼがいるんだよ。呼んでないぞ私』

 

● 画 『私の書いてる同人誌の製本とか、マクデブルクにある印刷工房に頼んでんのよ。余裕あったら一言くらいかけておこうかなって。『もうちょい安くしなさいよ『浅射て』も艶シーン増やしてあげるから』って感じで。あ、建前でちゃんと玄関周りの警護してるわよ?』

 

 

―*―

 

 

 

 両腕に半球状の装置を備えた手甲と、髪型さえもほぼ半球と……やたらと半球強調している男――ゲーリケは、悟られぬよう静かに呼吸を落とした。

 

 

「(あの、あの柱の影にチラチラと見える黒い翼は……!)……失礼。最低限の礼儀として、会談の前に()()()()()()()()()()()の自己紹介を行いたい。

 多忙な中、地位ある方々に時間を割いてもらい、深く感謝する。マクデブルク暫定市長の任を受けた、オットー・フォン・ゲーリケの襲名者だ。――この非公式会議で、実り多き結果を切に望んでいる」

 

 

「……こちらこそ失礼した。ゲーリケ殿。私は武蔵アリアダスト教導院生徒会副会長、本多 正純。そして、こちらが副王ホライゾン・アリアダスト」

 

「率直な疑問なのですが、その髪型はどうやって維持して――」

「そ・し・て! 生徒会会計のシロジロ・ベルトーニとその補佐のハイディ・オーゲザヴァラー!」

 

「シロジロだ。で、袖の下はま――」

「場の禊! 場の禊として浅間神社の浅間 智と、会場の警護として総長連合特務のマルガ・ナルゼが同席させてもらうっ!」

 

 

 姫と守銭奴の言葉に被せるように正純が声を荒らげる。片手で画面を見ずに文字を連打した。

 

 

―*―

 

 

副会長『お(テン)(テン)(テン)ら……!』

 

約全員『慣れるのはぇな、コイツ……』

 

 

―*―

 

 

(や、やはりナルゼ様! くっ、サインを……! いや、いやだめだ! 今は非公式とは言え国家間の会議! しかし、美少女……!)

 

 

 ゲーリケは組んだ手の境界を、鼻の下から目の下まで上げる。その上で眼を閉じて、深く呼吸を一つ。

 孤軍。援軍は無く、一歩間違えれば敵陣のど真ん中に晒される……という覚悟を、改めて決めたのだろう。その上で、俯くような顔から見上げてくる視線に、一切の気後れはない。むしろ、爛々と輝く闘志のような気迫を正純は感じていた。

 

 ――ホライゾンとシロジロの梅組節は当然聞こえていたはずだろうに、一切動じていない。

 

 

(まてまてまて、本多 正純……?

 ま、まさか、ナルゼ様が『後書・次回書くかも』でご指名なされていた本多 正純様か!? こちらも実名だったのか……! 個人情報のアレコレで叩かれることすら恐れぬとは……! 時期的に見ても次回作は仕上がっているはず。なんとしても戦の前に請け負わねば……!)

 

 

 ――飲まれるな。

 

 一都市の代表、その存亡が彼の双肩にかかっている。その重責は並のものではないだろうにも関わらず、この気迫。正純は強敵と認め、重心を少し前へと移す。

 

 

(くっ! やる事がただでさえ多いのにさらに目標が増えるとは……! だが完遂させてみせる! 幸いナルゼ様と浅間様、正純様のご尊顔は拝見できた。これで四割ほどは達成できたが……くそぅ! 何故、艦長代理であらせられる武蔵が誇る至宝、向井 鈴様が居られぬのだ……!)

 

 

 1.ナルゼ様ご尊顔拝見 complete!

 

 2.ナルゼ様ご執筆の聖書の実在モデルを確認

   『浅間様が射てる』浅間様→complete!

   次回作本多正純様→complete!

   

   ???×随時更新

 

 特.英国に流れたという、ナルゼ様ご執筆の非公開本を入手

 

 お.マクデブルクの戦いでのアレコレ

 

 

 

(特務だ……特務だけはこの命に代えてでも成し遂げねば……!)

 

 

―*―

 

 

● 画 『典型的なタイプのドイツ人ねぇ。生真面目で堅物。ちょっと苦手なタイプだわ』

 

あさま『貴女どこの出身ですか……っていうかナルゼ? さっき結構聞き捨てならないワード流れたと思うんですけど?』

 

● 画 『なによ、浅射ての艶シーン? 大丈夫よ。ちょっと脱ぐだけだから。『あさまで止まぬ』みたいながっつり18シーンはないわよ』

 

あさま『アウト! 超アウトですよ! っていうか押収した原本にそんなシーンありませんでしたよ!?』

 

○ べ『あー、確か、高等部一年の時に厳罰でやった『十日徹夜で十本制作』ってあれ? 』

 

● 画 『ふっ。あれは過酷な戦いだったわ……アンタが持って行ったの全年齢版なんだからキス止まりに決まってるでしょ? そっから書き足したに決まってるじゃない。それがなんでか英国に流れたみたいだから、もう暴露しちゃっていいわよね』

 

 

 止浅『あさまで止まぬ』

 止鈴『風鈴の音色』

 止喜『ご注文は? お持ち帰りで』『キミの雫』

 止双『止飛(とべない)の!』

 止直『止めてよ姉御!』

 止狼『満月に吠えろ』

 白止『貴様の価値は私が決める』(全年齢)

 忍止『捕まった二人』

 乗止『兄貴の兄貴』(全年齢)

 従止『ムラっときたらしょうが(ry』

 止武『9タイ1』

 止先『職権らんよー』

 止喜浅狼『あさまできみと』

 

 

約全員『多いよ!』

 

● 画 『止水って絶対『誘い受』よ。そんで、気がついたら攻守逆転して――キタキタキタネタの神様!』

 

貧従士『自分だけ扱いが酷い気がします! あ、あと、ほら、名前の前後も! また自分男子扱いされてますよこれ!』

 

○ べ『よーっし、ナルちゃんあとで交渉ね。言い値決めといてね? 6桁までがんばるわよ?』

 

ホラ子『十冊なのに十四のタイトルがあるのはスルーなのですね皆様』

 

● 画 『なんか寝取られてる感覚がしてムラムラして気付いたら書いてた。後悔はしてないわ……!』

 

煙草女『ぐあああ思い出させんじゃないさね……あれ見てからしばらく止めの字の顔見れなくなったんだぞ……! つうかあれより先があんのか!?』

 

賢姉様『むしろ再現しようとしたわよ私! ブルーサンダーだったから「お前ん家だろここ」って素で返されたけど! 今ちょっと忙しいからこれで終わり!』

 

 

副会長『お前ら後で止水と一緒に超説教だからな!?』

 

 

―*―

 

 

 

 味方が味方として機能していない。この場において真面目なの私とゲーリケ氏だけじゃないか、と表情を苦くする。

 

 

「では、ゲーリケ殿。まず、何用で武蔵へ来たのか。それをお伺いしたい」

 

「Tes.……では、急ぎで交渉したいので率直に言おう」

 

 

 ――武蔵(うち)って、どうして会議が始まる前にほぼ完全燃焼しているんだろう……と思いつつ、正純は状況を進める。ゲーリケがこれから言うのは十中八九マクデブルクの戦いから略奪にかけての要求だろう。いくつかの候補をざっと十ほど想像し、ゲーリケの言葉を待つ。

 

 

 

 

「マクデブルクのために、武蔵を潰してほしい。――その対価として、P.A.Odaと戦える方法を渡そう」

 

 

 

***

 

 

…………あ。うん。

 

聞いてたよ? うん聞いてた聞いてた

 

だから、

 

 

 いっちょう……いつものおねがいします。

 

 

配点【←いまどこ?】

 

 

 

***

 

 

「……なにこれ」

 

「何って……見たらわかるでしょ?」

 

 

 ――わかんねぇよ。と全力で項垂れるのはショタ……否、止水。

 

 半竜という上位種族の共通意識なのだろうか、『弱く幼い者』を無意識に強烈庇護してしまうウルキアガは既に萌え倒れている。彼の復帰は絶望的だろう。

 武蔵各艦長はすでに処理能力のキャパシティを超過し、強制終了で倒れている。生き残ったのは総艦長武蔵一人だが、その彼女ですらヴヴヴヴ、という処理限界の唸りが聞こえ初めているので、落ちるのは時間の問題だろう。

 

 

「……もふもふ、だー♡」

 

 

 そして、鈴の機嫌が良くなった。それはもうべらぼうに良くなった。それだけがこの一件唯一の救済だろう。

 

 ……ショタ止水の腹部を抑えていた手は、首左右から胸を交差して腰の左右を掴む形にスタイルチェンジしていた。

 

 

(……四歳、ねぇ……)

 

 

 手を見る。十年以上刀を振ってきたそれは、硬く節立ち、石木通り越して鋼鉄並のゴツゴツした手になっていたのだが、幼児化によって『プニプニした紅葉』になっていた。

 

 ――だがいま、それすら見えなくなっている。モコモコした明るい茶色の毛と、デフォルメされた肉球と爪。毛は顔以外の全身を包んでおり、尾てい骨にはちょこんと尻尾らしきものがあった。

 

 同じようなモコモコフードには丸い耳と円な目が愛らしく、大きく広げた口から止水の顔が覗いている。

 

 

 所謂――「着ぐるみパジャマ」と呼ばれる、寝巻きの一種である。手先足先まで再現した本格派、お値段高めの品だ。上下一体で背中にチャックがあるタイプなので、トイレの時は全部脱がなければいけない、寝巻きとしては頭のおかしい作りをしている。

 

(あー……これ、クマか?)

 

 

 なお、一着目だ。……運搬係が倒れた拍子に紙袋が落ちて、その中身が見える。少なくとも、十着以上は確実にあるだろう。

 

 

 

「し、しすいっ! ちょ、ちょっとこの賢姉のこと『マッ、ねーね』って呼んでみなさい!? あと鈴! そこ代わって!」

 

「こえうらがえってるぞー。あと『まっねーね』ってなんだ? ……またなまえかえたのかよ」

 

 

 喜美の目が少し血走っていて中々に怖い。

 

 ――元々、止水は衣装に余りこだわりがない。……とは言っても、流石にこれは恥ずかしかった。……だが、抗いようがなく、そして抗えば抗うほどダメージが大きくなることを止水は経験則で知っている。

 

 

「あー、つうしんうちずれーな、これ……」

 

 

 なので、早々に諦めた。『絶対に譲らない一線』だけを死守し、それ以外の全ては捨てた。

 指で押せないので、やわらかい爪(布製)の先でゆっくり打つ。むむむ、と唸りながらも頑張って打っていくその姿を見た武蔵がついに落ちた。カメラを抱きしめたその顔は穏やかで、悔いの一つもなさそうである。

 

 

影 打『あー、いまどんなかんじ?』

 

 【あさま 様が ログを消去しました!】

 

 

「……いや、きいてもたぶんわからないけどさ。おれ、さんかするのもだめなの……?」

 

「しょぼんとしないでぇ……! こ、これはやばい、賢姉が良妻飛び越えて賢母にジョブチェンジどころかエクスチェンジしちゃうわ……!」

 

 

 胸を抑えて身悶えながらはあはあ息を荒らげてる喜美は置いておく。

 

 

―*―

 

 

賢姉様『ちょっとそこのおっぱい! このおっぱい巫女! うちの子いじめたらただじゃおかないわよ!?』

 

あさま『いままさに体ネタ系の言葉の暴力によるイジメを受けたんですけど私!?』

 

未熟者『あー、ちょっと未成年にはお見せできない有害図書がログ内にあってだね』

 

● 画 『ノルマンコンクエストを十八禁仕様で書き直して英国の嫁に送りつけるわよ?』

 

未熟者『おいよせそれは止め――

 

 

 【英国 より 眼 鏡 様が ログインしました!】

 

 【未熟者 様が 現行板を削除しました! 新規板をご利用ください!】

 

 

 

眼 鏡『もう、照れ屋なんだから……

 

 

 ――で? なに他所の女辱めて 悦に 浸って イルノカナぁ……?』

 

 

約全員『ひい!?』

 

 

―*―

 

 

「はずかしめ……? ゆーがいとしょってのか?」

 

「んふ、これよこれ! ……くっはぁなにこのお日様のかほり……!」

 

「それたぶんこのふくのにおいだぞ……? おまえそろそろばんやにつーほーするぞ?」

 

 

 鈴とは反対側に体を寄せてきた喜美に半分押しつぶされつつ、見せてくる表示枠を見る。武蔵艦内通神帯(ネット)の、検索板だ。

 

 

 『検索結果:オットー・フォン・ゲーリケ 1602〜1686没。

  聖譜きじゅつの人物史傍論によれば1646〜1676年までマクデブルクの市長を務めた。

 

  二つの球を合わせてちゅーちゅーして何度も引っ張って街中を大騒ぎにしたことがある。

 

  《この文章がトゥーサン・ネシンバラによって五分前くらいに編集されました》』

 

 

「え、っと……?」

 

「二つ、の球? ちゅーちゅー、って、なに?」

 

「んふふ。これ、私が説明キャラにならないといけない感じかしら……」

 

 

 しょうがないわね、と一言置き、まず鈴から止水を取り上げて鈴の隣に座る。止水を自分の膝の上に乗せ、そして、少し残念そうな鈴の肩を抱き寄せた。

 

 

「やだなにこの幸せ空間……!」

 

「……あの、きみ? あたまに、なんだ……その、むねがのってんだけど」

 

「ふふふ、乗せてんのよ? ……あらやだ、これ真面目に楽だわ。

 まず、さっきの『二つの球ちゅーちゅー』って準エロ単語だけど、『真空実験』のことよ。二つの半球を合わせて、中を真空にして引っ張りあって吸着力だかなんかの実験よ。そのゲーリケの史実になぞらえてあのパッツン親父が研究開発したのが、新型の防御障壁。

 たしか、英国の『花園』の技術がーとかどうとか言ってたわね」

 

「……おまえ、おれにこれきせてたのに、よくきいてるよなぁ」

 

 

 何気に凄い幼馴染の何気ない凄さを再認識しつつ、頭の上は意識しないようにしつつ……止水は妖精女王エリザベスと共に戦った、あの黒い軍勢を思い出していた。

 

 英国。その花園――刀鞘を用いた束縛式の結界を施してきたが、今の所破られた気配は感じない。

 

 

(――エルザが『英国で調べる。無用な混乱を招くから黙っていろ』って言ってたけど。正純くらいには教えといた方が良いのかなぁ)

 

(むー……別の女どものこと考えてるわねぇこのおバカ)

 

 

 喜美が背を丸める。――胸と膝によるプレスにジタバタする止水を見て溜飲を下げた。

 

 

「ま、途中の説明面倒だからバッサリ切るけど――早い話、『流体を注げば注ぐだけ頑丈になる盾』ってことよ。

 それで末世を防ごうとしたけど、末世がそもそも防げるものじゃあないってわかって脱力。しかも物自体も未熟で五メートルちょっとくらいしか展開できないから、マクデブルクの戦いやら略奪では使い物にならない。

 

 けど正直、末世が防げなくても……アンタがいる武蔵には、そんな未熟なものでも喉から手が出るくらい欲しい物かしらね」

 

 

 俺? と首を傾げる止水に、喜美は胸を軽く上げてまた落とすことで頷きの意を示す。

 

 

「五メートル四方でも、詰め込めば数十人は入るでしょ? そこに戦えない連中とか、アンタの守りの術式の深い連中――鈴とかミリアムとかまとめておけば、それだけで武蔵最高戦力であるアンタの『唯一の弱点』が消えるのよ。それが幾つも設置できるなら――武蔵にとっては十分すぎる品だわ」

 

 

 ……喜美のその言葉に、身を寄せていた鈴が大きく反応する。喜美も、止水の腹に回している手を少し強く寄せた。

 

 喜美の言った利用方法もそうだが、航空都市艦である武蔵の各艦の艦橋や機関部など、局所的に死守しなければならない場所が無数にある。そこに、強力な防壁を張れるならば確かに武蔵には必要なものだ。

 

 

「それを見越して、あのパッツン親父はそれを取引材料に交渉しにきたのよ。"武蔵の三分の一をマクデブルクの代わりに潰し、マクデブルクの市民も武蔵に避難させろ"ってね」

 

「さんっ、ぶんの、いち?」

 

「Jud. 武蔵の人口はおよそ十万人。マクデブルクはおよそ三万人。割り切れないから、ざっくり三分の一。そして、守銭奴が言うには浅草と品川がその条件に該当するらしいわ。

 ……武蔵は三河と英国で『歴史再現による死の強要を許さない』って世界に啖呵切って姿勢示しちゃったから、マクデブルクからの要請を断れない……ふふ。この一件、貧乳政治家と未来義妹ホライゾンがどうするのかしらね」

 

 

 そう説明を終えて、喜美は梅組メンバーにのみ閲覧できる会談の議事録を眺め出す。

 

 

 

(……じゃあこれ、結構重要な交渉、ってこと、だよな……?)

 

 

 止水は喜美の説明である程度内容を理解をしたが、残念ながら結構どころではない。

 

 

 ……それの交渉に、正純は一人で臨んでいる。しかも、周りがふざけて邪魔をしているのがわかった。いつもの悪ふざけだろうが、流石に今はダメだろう。

 

 だが、頭の悪い自分では、皆を諭すような言葉が出てこない。そして唯一の力――武力すら失ってしまってる今の自分では、彼女の後ろに立って支持することもできない。

 

 

 ――だから。

 

 

影 打『俺もいまからそっち行くわ。それまで……シロジロ。ちょっと頼んでいいか?』

 

守銭奴『……。Jud. 引き受けよう。だが、止水――お前は来るな。非公式とは言え、他勢力との会談だ。幼くなったお前を見て、万が一にも『武蔵の戦力が落ちているなら……』と思われるのは少しマズイ』

 

 

 着ぐるみパジャマ(こんな格好)で行こうものなら、侮られるどころか和まれるだろう。

 

 一拍置いて。

 

 

守銭奴『――ナルゼ。ネシンバラ。貴様ら、少しふざけ過ぎだ。止水が無事と知って浮かれでもしたか? ……この交渉に失敗すれば、全てが無駄になるとわからない貴様らではないはずだが?』

 

 

 守銭奴――シロジロの書き込みを最後に、表示枠の更新が止まる。ログが消されたため何が起きていたのか、止水にはわからないのだが、彼の言葉に反論することができないのだろう。

 

 

「……ちょっと止水? これ、本当にあの守銭奴なの?」

 

(この交渉ってそんな綱渡りだったんだ……)

「……? あの、って、べつにいつものしろじろだろ?」

 

 

 現在、M.H.R.Rから領域内の航行を禁じられている武蔵がM.H.R.R内を航行できているのは、マクデブルク代表のゲーリケが乗ってきた輸送艦に『曳航』してもらっているからだ。

 交渉に失敗し、ゲーリケ……マクデブルク側の反感を買ってしまえば、曳航の取り止めをされてもおかしくはない。そうなれば、どこぞに潜んでいるM.H.R.R勢の集中放火がすぐさま始まるだろう。敵地のど真ん中――アルマダ海戦の比ではない被害が想像される。武蔵の撃沈すらあり得るのだ。

 

 

 ――という説明を、止水はシロジロの説明を見て初めて知ったが、だからこそ置いておこう。

 

 

「……ふたりとも、あいつの『つうしんめい(はんどるねーむ)』のいみ、しってるか?」

 

「シロジ、ロくん? えと、しゅ、せんど?」

 

「じゃっじ。あれな――」

 

 

 

 

 

 

 

 ……止水。お前が『武蔵を守る刀になる』というのなら、私は『武蔵を守る商人』になろう。

 

 ――そうだな、守銭奴とでも名乗っておくか。『銭の力で守る奴』――くく、私に、ぴったり、な……

 

 

 

守銭奴『……正純、そして、ホライゾン。今回のマクデブルクとの交渉、私に任せてはもらえないだろうか?』

 

 

 

 ……それは、緋の雫を初めて飲み、その美味さに珍しく呑みすぎて酔っ払ったとき……彼自身が、どこか照れ臭そうに語っていた昔話だった。

 

 

 

 




読了ありがとうございました!

……ちなみに。


止浅『あさまで止まぬ』
   突然降り出した土砂降り。後悔通りを慌ててかける浅間は、慰霊碑の前に佇む男を見つけた。
   雨か涙か、その悲しげな笑みに心を駆られた浅間は……

止鈴『風鈴の音色』
   昼寝をしていた男に、膝枕。ちょっとドキドキ。
   周りには。誰もいない。
   ちょっとくらい、いい、よっ……ね?

止喜『ご注文は? お持ち帰りで』
   お持ち帰りされちゃった男の話
  『キミの雫』
   酒の席、酔い潰れてしまった女を自宅まで送る。送り狼ではなく、送らせ狼の計画はじゅんちょうだった。

止双『止飛(とべない)の!』
   台風。それは有翼種族の天敵。教導院から帰るに帰れなくなってしまった二人を懐に抱えて平然と進む男
   逞しい体にドキリとした二人は……
   
止直『止めてよ姉御!』
   煙管を止めろと医者からのお達し。やめようと思うが、どうにも口寂しい。どうしようかと思っていると、いつもは高襟に隠れた、なんか柔らかそうな唇が偶然ちらりと……

 止狼『満月に吠えろ』
   満月の夜。騎士は狼に変貌する。――本能を全開にした女狼が、今宵、自分よりも強い雄を見つけた。

 白止『貴様の価値は私が決める』(全年齢)
   武蔵の銘酒『緋の雫』。その卸値は最初、ゼロだった――。

 忍止『捕まった二人』
   偵察に失敗した忍者と、仲間を救うべく単身乗り込んだ刀。

 乗止『兄貴の兄貴』(全年齢)
   ……頭を撫でられたことはない。だから、頭の上に手を置かれた時、どんな顔をしたらいいのか、俺にはわからないんだ。

 従止『ムラっときたらしょうが(ry』
   真夏の機動殻の整備。男に手伝ってもらっていた従士だったが、事故で二人揃って機動格の中に閉じ込められてしまう!? 狭い空間、汗で滑る肌に欲情した従士は、身動きが取れない男の肌に舌を伸ばしていく……

 止武『9タイ1』
   さあ、お覚悟を。――以上。

 止先『職権ランヨー』
   アマゾネス、まじリアルアマゾネス。
   育てた男に我慢できず、その本性を……!


 真黒髪翼先生の直筆サイン入り?

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