境界線上の守り刀   作:陽紅

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前話ネタの真黒髪翼先生のマル秘本が予想以上に好評でびっくりしました……w

描けそうだったら書いてみます。


七章 刀、離れず 【五】

 

 

 武蔵アリアダスト教導院、生徒会会計。それは私だ。

 

 ハイディと共に営む『○べ屋』の(オーナー)。それも私だ。

 

 どこぞの教皇からぼったくって『冷面』と、武蔵の金ヅル共からは『金の使徒』と呼ばれる男。それで私だ。

 

 

 この世は金で回っている。物々交換から貨幣取引に代わり、世界に経済という怪物がこの世に生まれてから、この世の血液は金となったのだ。

 

 

 国の盛滞、栄退を示すのも金だ。借りているなら衰退、貸しているなら栄達。わかりやすいな、さすがは金だ。

 

 

 正義も悪も、愛でさえも金で買える。売らない連中も中にはいるが、札束が高くなれば眼が泳ぎだす。その隣に同じ塔をこさえてやれば、まいどあり。私の勝ちだ。つまり金の勝ちだ。さすがだろう?

 

 

 ……まあ、中には奇特な奴らがいて、それらを非売品にしているやつらもいるが、そこはそれ。買えないなら買えるところへ行くだけだ。ああ、言っておくが、愛はいらん。もうあるからな。

 

 

 

ホラ子『……任せろ、とは仰いますが。勝算はあるのでしょうか? ホライゾン的には少々フラストレーションを蓄積しておりまして、そちらのチューチューして街を騒然とされた方を完膚なきまでに論破することでわずかなりとも解消しようとしていたのですが』

 

約全員『外交でストレス発散とかどんな世紀末だ! いや確かに末世間近だけれども!』

 

副会長『勝算もそうだが、ベルトーニ。お前は何を意志とする? 非公式だが、これは国家同士の外交だ。任せれば、お前の言葉が武蔵の総意志になる。……うっわぁ、不安だ』

 

約全員『最後の一言が余計だよ! いやすっげぇ同意できるけど!』

 

 

 

 失敬な。これだから懐が寂しい奴はダメなのだ。

 

 

 勝算? そんなもの、有ろうが無かろうが、最善を尽くし最良を勝ち取りに行くに決まっているだろう。

 

 意志? そんなもの……。

 

 

 

 

守銭奴『……全てを守れば、良いのだろう? 止水』

 

影 打『Jud. それで、頼むわ。あ、報酬は? なにがいい?』

 

 

 ……流石にコイツは変わらんな。報酬の決定権を渡すなど、足を掬われても知らんぞ全く。

 

 

守銭奴『……一献()奢れ。それでいい』(※さかずき一杯の酒)

 

影 打『一献? まあ、お前がそれでいいならいいけど……』

 

 

 

 それでいい。それで……十分だ。

 

 

 貴様は知らんだろう? 私が貴様から、もう返しきれないほどに借りていることを。

 

 貴様は知らんと言うのだろう? 『……そうだっけか?』と、本気で忘れてしまうのだから。

 

 

 返済期限が無期限。利子も無ければ担保もない。そもそも貸主が貸したと認識していないのだから、まったくふざけている。

 ──だが、待っていろ。必ず、耳を揃えて返してやる。

 

 

 武蔵の上で借りたのだ。武蔵の上で返すのが道理だろう。

 

 きっと全額返すのは○べ屋の年収でも足りないだろうから数年はかかる、つまり末世を超えなければな。

 

 ああ、返す相手がいなければならんな。うむ。大前提だ。止水には死んでも生き残って貰わねばならん。

 

 大変だ。全くもって大変だ。

 

 

「──ゲーリケ殿。先ほどご紹介に預かった、武蔵会計シロジロ・ベルトーニだ。これよりの交渉は私が引き継がせてもらおう。さて……」

 

 

 ──さあ、始めるとしよう。私なりの『武蔵を守るための戦い』を……!

 

 

 

 

 

影 打『あ、なら新しくできた酒がいいか? 約束あるから義頼のあとになっちまうし、名前こそミツさんの太鼓判待ちだけど、俺的には『雫』より美味いと思うんだあれ』

 

 

 

 

 ……。おっと?

 

 

 予想外の報酬に、私の背筋が震えた。

 

 

 武蔵が世界に誇れる数少ない産品、それが『緋の雫』。

 

 『皆に振る舞う酒』として作られたあの酒の、完成前を知っているのはおそらく私だけだろう。蔵の中で日に日に強くなっていく芳醇な美酒の香り。未完成を試飲した時、既にそこらの銘酒もどきなど取るに足らない一品だった。

 にも関わらず、止水は満足しなかった。それからしばらくして、満面の笑みで渡された杯と、向けられた酒瓶の口……。

 

 

 あの一献のあの味は、今でも忘れることができていない。

 

 

 その止水が、酒にはかなりのこだわりがある『あの止水』が明言した。

 いや待て、雫に三つほど等級を作っていたよな? (……売るのは普通か上物で、皆と飲むために開けるのが特上とか貴様マジでバカだろう)──にも関わらず名前を改めるということは、つまり特上よりもさらに上、雫の括りでは満足できなくなったということだな? そうだな?

 

 

 ……うむ、うむうむ。勝つしかないだろうこれは。見ろ、懐が寂しい連中によって通神板の更新が早い早い。はっはっは。だが譲らん。黙れこれは私の報酬だ。ハイディ、安心しろ。同席すれば止水のことだ。杯は必ず人数分だ。

 

 

「──率直に言おうっ! 我々には時間がない。だが、それはそちらも同じだろう。だからここは、土下座による一発勝負を行ないたいと思うのだが、いかがだろうか?」

 

 

約全員『交渉しろよこの守銭奴っ!』

 

 

 

***

 

 

 

(……帰りたいなぁ)

 

 

 正純は、心の底からそう思っていた。交渉というか会談というか、そういう、論舌による国家の行方の左右というか、そういう感じのアレを予想してこの場に来たつもりだったのだが……。

 

 

(もうさ、交渉とか、いらないんじゃないか? だってどの道土下座勝負で決まっちゃうんだろ? 私いらない子じゃないか)

 

 

 一応正純の存在肯定のために説明を行うが、DOGEZA勝負を行うことができるのは職業的に『商人』にカテゴライズされる者だけである。ゲーリケはマクデブルクの暫定市長だが、印刷系の商売を行う商人でもあるのだ。

 

 秘匿する意味なくねぇ? ということで窓は全開。さらに、土下座競技場を広く取るためにシロジロとゲーリケ、そして審判的なアレでホライゾンだけが残り、正純と智、ハイディとナルゼは開けた窓の縁に腰掛けている。

 

 

副会長『……ホライゾンはなんで残ったんだ?』

 

ホラ子『公正な判決を行うには自動人形であるホライゾンが最も適しているという判断です。新作のネタを披露して、少しでもチューチュー騒ぎの意識を削ごうかと』

 

 

 ──とりあえずお前は公正って意味を広辞苑で調べてこい。

 

 内心でそうツッコミを入れつつ、ゲーリケとシロジロを見る。

 英国で食用肉の取引をする交渉の場。そこで見たのが正純のDOGEZAとの邂逅だ。ハイディに聞いたところ、『初めてが連名-DOGEZAなんて……持ってるわね!』と意味のわからん感想とサムズアップが帰ってきた。

 

 全裸のDOGENE、会計の回転DOGEZA、守り刀のHARAKIRI。

 

 

(なんだか、なぁ)

 

 

 最後のだけは除外するとして、好きにやらせてれば私楽できそうだなぁ、と緩んだ思考。──緊張を抱えていた反動だろうか、なかなかの脱力具合だ。片手が無意識に、肩に乗るアリクイの走狗『ツキノワ』の首をくすぐっている。

 

 対決者はお互い席に座したまま無表情で……しかし眼光は鋭く睨み合っている。開始の合図は、審判たるホライゾンの役目だ。シロジロとゲーリケは、まるで西部劇のガンマンのように、その唐突にくるだろう合図を、ひたすらに待つ。

 

 

 

あさま『えっと、なんかグダグダの内に公開仕様になったわけですが……これ、実況──』

 

 

 

「では……新ネタその1『オパーイを机に乗せて日頃の肩重責から逃れようとする浅間様』の真似」

 

 

 ──一瞬の間を置き、ゲーリケは呆然と審判を見た。次いで、何やら正純たちに救いを求めるような視線が来た気がするが、きっと気のせいだろう。

 

 

あさま『──いりませんね! 必要ないですよねっ!』

 

● 画 『胸の大きさ以外ほぼ同じ……! 素晴らしい再現度だわ!』

 

あさま『わ、私あそこまで無防備な顔してませんよ! 口半開きとかっ! ……え? 待って、まさか?』

 

煙草女『でかい連中皆やってんだろ? いまさらさね。……アタシも機関部の作業台とかでよくやるさ。アタシは片義腕だからか、変に凝っちまってね……そこらへん、立花の嫁はどうしてんだい?』

 

立花夫『誾さんですか? 結構凝りやすいので、合間を見つけては私が按摩してますよ。……そういえば、止水さんがすごい上手だと聞いたのですが、今度コツを教えてくれませんか?』

 

影 打『『早く終わらせたい』って一心でやると上手くなるぞ。

 ……喜美とか智とかネイトなんだけど、ひでぇんだよ……声が。それに『やめて』って言うから止めたのに続けろって怒るしさ……理不尽だぜ? 今更だけどあれ本当はどっちなんだ?』

 

賢姉様『うふふ、正解は『やめないで……っ』よ! 近いうちに同じような状況になるからよく、よぉーっく覚えておきなさい? ち・な・み・に、私結構意識してあの声出してるわよ! つまりズドンとドカンは素っ!』

 

あさま『そんな声も出してませんよーぅ!! 脱線し過ぎですから! はい戻して!』

 

 

 

 

「そのまま続けて新ネタその2『懐ではなく谷間から硬貨を出す浅間様』」

 

 

 

 

あさま『あっれ!? あっれ!? いつから私平行世界にダイブインしちゃったんですか!? 戻ってないっていうかなんか私に集中砲火きてますよこれ! そしてダウト! それは絶対にダウトです! そんなところにお金入れません!』

 

賢姉様『でも出来るわよね?』

 

● 画 『そして『浅射て』の鉄板ネタよ? 『谷間ポケット』』

 

 

 

 ……もうこの表示枠閉じようかな、と正純が本気で考え出す。『胸ネタでやらかす』という定評(?)のあるアデーレが静かなのが気になって所在を調べれば、彼女はどうやら機動殻の格納庫にいるらしい。佐々 成政に砕かれた機体の修理に集中しているのだろう。

 

 まともなのがいてくれた……! と謎の感動をよそに、ホライゾンが智の真似として、財布から出した硬貨を一度胸元に置いてから取り、そのまま流れる動作で上に弾くのを見る。高い澄んだ音と共に硬貨が上昇し……あ、五百円玉だ──。

 

 

 ──合図か!

 

 

 

 

 

 ゲーリケも男性、軽く開けられたホライゾンの胸元に意識を奪われていたが、即座に切り替える。コイントスによる合図は定番と言えるだろう。

 

 

「──ああ、そういえば武蔵側の要求を言い忘れていたな」

 

 

 ──ここでそれを持ってくるのか……!

 

 

 ゲーリケ……マクデブルク側の要求と対価は既に聞いている。だが、武蔵側は現在まで何一つ返していない。それを思い出したゲーリケの顔が、自身のとてつもない失態に歪む。

 

 

 

 こちらの手札は全て見せた。見せてしまった状態でのこのDOGEZA勝負。武蔵に負けようものなら、どんな要求を飲まされるかわからないのだ。

 

 

(──否! ならばこの陳情勝負に勝てばいいだけのこと……!)

 

 

 頂点に達した硬貨を睨む。両腕の半球機構を起動。真空発生による吸着で、いつでもこの身は大地へ伏せられる。椅子に座し、机を挟んでいる状態だ。まずは横……壁へ向かって術式を用い、DOGEZAを相手に見えるようにする必要がある。

 

 

「……武蔵の譲渡は行わない。だが、マクデブルクの半球は頂こう。そして」

 

 

 この場は、交渉の場などではなかったのだ。

 

 一方的な搾取。ゲーリケは双肩に三万人の命を感じ、奥歯を噛んだ。

 

 

 

 

 

「我ら武蔵は、全力を持ってマクデブルクを『救う』ために行動する」

 

 

 

 

 

 ──硬貨落ちる、澄んだ音。それを、ゲーリケは呆然と聞いていた。

 

 

 

 

―*―

 

 

 

 会場は○べ屋が所有する密会場。ならば、当然DOGEZA勝負になった時のことも考慮されて建築されている。

 

 つまり、ギミックだ。重厚そうな机は一瞬で沈んで床と同化したり、真ん中で割れて相手の土下座を隠す壁になったり。シロジロが座る椅子にだけ地面に膝を折って座りやすい形で壊れたり。相手方の椅子には引けないように強力な磁石が小賢しくセットされていたり。

 

 

 ……さらには、その結果を公然に晒すために、四隅の柱を残して壁の全てが外側に倒れるようになっていたり。

 

 

 

「うわっ!?」

「きゃあ!?」

「いったぁっ!?」

 

 

 壁についている窓の縁に腰掛けていた正純が真っ先に倒れる。その正純が伸ばした手が偶然にも隣にいた智の手を掴んで巻き込み、その智が同じように近くの壁に軽く寄りかかっていたナルゼの羽を鷲掴み──

 

 誰一人堪えることができず、黒髪女子トリオが一塊になって転がった。外は芝生、そして幸いにも綺麗に窓枠の中に倒れこんだことで、三人が身を打つことはなかった。

 

 芝生を背にした正純を下敷きに、智がその顔を跨ぐように膝立ちで座り。ナルゼは正純の股座に顔を埋めるような姿勢で倒れる。

 

 ──のと、惚けるゲーリケにシロジロのDOGEZAが決まったのは、完全に同時だった。

 

 

 

 

 ……さて。どちらの描写を詳細に行うべきであろうか?

 

 

  ──「むー!?「ちょ、ナルゼ!? お前どこをムグっ「ひゃん!? 正純、ダメ、動かないで、ちょ、姿勢が「む"ー!?」

 

 

「──会計補佐。ぶっちゃけ、このDOGEZA勝負というのは、なにを持ってして勝敗を決めるのでしょうか?」

 

「すっごい自信満々で審判やりに行ったよね?」

 

「いえ、判断しようもないでしょう! ……私の、負けです(負け! もう負けでいいから! 私に理想郷(アヴァロン)を見せてくれ!)」

 

「Jud.私の勝ちだ。……武蔵はマクデブルクからの要請で動くのではない。武蔵は武蔵の意思で、マクデブルクを救うために動く。……武蔵は言われてからでしか動けぬ国、と他国の連中に思われるわけにはいかんのでな」

 

 

  ──「ひゃ!? ちょ、まて、ナルゼ顔押し付けるな、そこは「ひっ、正純こそどこに手をっ、やぁ、まって、本当にダメ……!「む、むごっ(手退けなさいよズドン巫女ぉ! やば、マジ息が……!)」

 

 

「さて、大まかな方針は決まったわけだが……詳細を煮詰めよう。ハイディ、部屋を元に」

 

「Jud. それじゃあ、ぽちっとな♪」

 

 

(はぁ!? まて! せめて一目! 一瞬で良いから! ちょ……あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁぁあああああ……!)

 

 

 

***

 

 

 

ANA『……ねぇ、ちょっと? そっちからの映像、途切れちゃったけど、何かあったの?』

 

竜 犬『問題ありません。ええ、何事も。それよりもお嬢様。計画通り、そちらへ向かうことができそうです。皆様からのご伝言も、ちゃんとお預かりしてございます』

 

ANA『そう。……ここで伝えてくれてもいいのよ?』

 

竜 犬『いえ、お手紙の形にして頂きました。もちろん、皆様の直筆で』

 

ANA『──最高だわ、貴女』

 

 

***

 

 

『お手数おかけします、守り刀殿』

 

「あれ、なまえはしすいってさっきいったよな? べつにいーさ。むさしきたばっかでみちとかわかんねぇだろ? しょうがねぇって」

 

 

 綺麗な黄色はふさふさと、高い三角耳はどうなっているのかピコピコ動き、尾てい骨には大きな尻尾がゆらゆらと。

 

 着ぐるみパジャマver.キツネを着せられたショタな止水が駆けていく。小さい体に慣れてきたのか、その足は四歳とは思えないほど早く安定している。まるで、本物の狐を思わせる機敏な動きだった。

 

 その止水の頭……三角耳の間に乗っている走狗のような存在の道案内をしていた。

 

 

 自信満々で地脈間移動。しかし現れたのが、キツネになったばかりの止水の目の前。第一声が『ここはどこですか?』だった。

 

 

「よっと。……で、おまえがあのぶしん……ぱれ、ぱる、ぱら?」

 

『パレ・カルディナルです』

 

「──に、のってたやつってのはわかったけどさ。なんで、あれ、まくでぶるる」

 

『マルデブル……違います。マクデブルクです』

 

「──に、いくためにむさしにぼーめいしたんだ? よしよりからきいたけどさ、パレなんちゃら、かなりはやいだろ? それにのってちょくせついけばいいんじゃないのか」

 

『現在、六護式仏蘭西とM.H.R.R(神聖ローマ帝国)は三十年戦争の歴史再現を行っていますので……旗機であるパレ・カルディナルで乗り込めば国際問題になります。それを、あの方は望まれません』

 

 

 

 アンヌ・ドートリッシュ。史実においてはエクシヴ母であり、現代においては彼の妹がその名前を名乗っているらしい。

 

 生まれつき病弱であり、その上難病を患っていた彼女は武神パレ・カルディナルと合一することで延命をするはずだったのだが……。

 

 

「ひとじち、ってやつか?」

 

『Tes. 現在のアンヌ様はパレ・カルディナルと合一の為にお体を情報体としております。その状態でマクデブルク近郊の施設に入院しておられます』

 

「……そっか」

 

 

 武神と合一による延命。情報化による存在の保存。

 

 

(他人事……には、流石に思えねぇよなぁ)

 

 

 止水は、それを知っている。手順や手段などの細かい部分は違うだろうが、リュイヌの言ったそれは、直政と地摺朱雀の状況と非常に酷似していた。

 

 

 

 ──朱雀の心臓部に眠っている、直政の妹。その少女の名前を、止水はまだ知らない。……止水にはだけは教えようとした直政を敢えて止め、『名乗りは本人から聞く』と知らないままでいる。

 

 

 ──守り刀の緋色の流体は、青のそれより『生命』に類するものとの親和性が非常に高い……特化していると言ってもいいだろう。

 ……彼女は守り刀の血族ではない為、相応の時間が掛かるだろうが……『武蔵に来てから成長するはずのない情報体意識が年齢相応の体になっている』と直政から聞いて、もしかしたらと考えてはいたのだ。

 

 

 

「……まっせどうにかしたあとで、はなしてみっかなぁ」

 

『なんと大それたことを、と本来ならば言うべきなのでしょうが、『末世解決の保険』と言われている貴方が言うと、不思議と頼もしく聞こえる気がします』

 

「あー、そういやそんなこともいわれてたっけ。すでわすれてたわ」

 

『……前言撤回したほうが、よろしいのでしょうかこれ』

 

「よそのれんちゅうのかんがえとか、しょうじきどうでもいいからなぁ……ぜんぶまもるってきめたから、まっせもふくんでるだけだし。

 

 お、そろそろつくぞー。あのしばふのなかの、ほら、いまかべがもどっていったたても、の……?」

 

 

 自分で説明していてその建物に疑問を抱いたのだろう。ショタ止水の足が止まる。そして、芝生のど真ん中で真っ赤な顔と真っ青な顔で荒い呼吸を繰り返す三人に首を傾げた。

 

 顔が赤いのは正純と智。背を丸めるようにして俯き、時折震えている。

 顔が青いのはナルゼで、仰向けまま必死に呼吸して酸素を求めていた。

 

 

 

「…………。

 

 

 おーい、しろじろー。おきゃく……おきゃくでいいのおまえ? なんか、まるでぶるるのことではなしあんだってよ」

 

『マクデブルクです』

 

 

 ──とりあえず、放置しても問題なさそうなので華麗にスルーすることにした。

 

 

 

 

 

 

─おまけ─

 

 

 

「……止水。私は、ここに来るなと言ったはずだが? まあ、方針の決定は終わっているから構わんが……ふむ、おつかいの駄賃をやらねばならんか。ハイディ、菓子と飲み物を……おや、晩飯前にそれはダメか、なら食後のデザートをそれに当てよう。ハイディ、その方向で準備してくれ」

 

「Jud.!! 予行練習ね! っていうかキツネがエリマキに見えて……こ、これはあああああ! これ、だめ! ちょっとホライゾン! 写真とって写真! 私とシロ君と止水君、いまならガチで三人家族にしか見えないから!」

 

 

「きがついたらひざのうえにすわらせられてるってどういうことだよ……」

 




読了ありがとうございました!

次回からはトーリルート入るかと。

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