境界線上の守り刀   作:陽紅

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本当に何やってるんでしょうね私。完結していないにも関わらずもう一品。
反省はしています。ですが後悔はしていません。公開はしますが。

しばらくはアニメ沿いになります。お付き合いいただければ幸いです。


14/3/12 ご指摘を受け、『通し道歌』の歌詞を削除し、描写に置き換えました。


序章 刀、転がる

 

 

たとえ自分が無様でも

 

たとえ自分が傷ついても

 

 

 その結果で 得られるものはなにか?

 

 

 配点《笑顔》

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 通りませ――通りませ。

 

 

 例えていいのならば、それは、涼やかな音色の鈴だ。何処までも澄んでいて美しく響くそれは……しかし悲しいまでに、淡々としていた。

 

 吹き抜ける風に木々の葉がゆれ。

 小鳥達はそれぞれ枝にて羽ばたくことをせず。

 

 人目に出ない黒きもの達が、ひっそりと。

 

 

 耳を澄まし、聞き入る。

 

 

 

 極東の民であるならば、誰もが耳にし、そして誰もが口ずさめるその歌の名は、『通し道歌』。

 

 

 

 歌詞における意味の捉え方は、かなり多様にあり……一部では、意味をさして理解していないものも、いたりいなかったりする。

 

 

 

 だからこそ、歌う者が変われば、歌に込められた思いが変わるのは、当然といえるだろう。

 

 

 

 時間にして、一分。

 

 

 ……伴奏もなく、指揮もなく。

 

 

 ――水面に広がっていった波紋が消えていくように、余韻は長く、広く――。

 

 

「……また、聞きにいらしていたのですか?」

 

「…………」

 

 

 しかしその余韻は、歌声のあるじ自らの声で破られる。

 犯しがたい聖域のようだった空間は無くなり、いつもの早朝になった。

 

 歌声の主人は気配の元に歩み――長い階段の最上にて、『それ』を見下ろす。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 最上段より、数段下。幅にして30cmも無いだろう場所に、器用に寝転がる物体。

 全体にして緋色。所々に黒。おおよそ和服。大きな鉢金には無数の傷が走り、首を一周する高い『襟』が顔の大半を隠している――不可思議面妖な物体。

 

 動きづらくは無いのか、というどころではなく、それで本当に動けるのか? と問いただしたくなるほど――全身いたる部位に刀剣を帯びている。見ようによっては刀剣の塊が階段にぶっ刺さっているようにも見えるだろう。

 

 

 ……呼吸によるかすかな上下が無ければ、その物体を生物とも思わなかったはずだ。

 

 

「……無口である自動人形に無言で返すとは随分とSっ気が強いのですね。いい加減なにかしゃべりやがって下さい」

 

 

 綺麗な声である。涼やかな声である。淡々と罵倒が出てこなければ、聞きほれるものもいたであろうに。

 

 しかし、それでもその物体は反応を返そうとしない。一見して分かるだけで五振りの刀剣を帯びている腕を立てて、その掌の上に頭を乗せている。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 ――目上の者から、聞こえもしない『イラッ』という音が聞こえた。幻聴であろうきっと。動いていない表情の眉が、ヒクリと動いたのもきっと幻覚だ。

 

 ならば、と目上は階段をくだり、顔の高さが同じになるまで階段を下りる。

 

 

「いい加減に会話のキャッチボールをしてください。人間ですらない自動人形に人間の常識を言わせるとはどれだけ人格崩壊するおつもりですか?」

 

 

 いいからさっさとしゃべれよ馬鹿。と直訳しても大方間違いではない。

 

 刀剣の塊はなおも黙秘。一定の呼吸は一定のまま。それ以外の動きは、頭をかすかに上下――……。

 

 

「……zzZ」

 

 

 ――表情に、変化はない。しかし、命あるものならば、その急激な温度変化を感じ取ったであろう。

 木々に止まっていた小鳥達は、生存本能に命令されるままに羽ばたき、黒きもの達は人知れず、我先にと戦域を離脱していた。

 

 

「……いけませんね。このままでは、遅刻してしまいます。起こさなくては。ええ。きっと大変寝起きが悪い方でしょうから、少々手荒なことをしなければ起きてはくれないでしょう」

 

 

 そうして、彼女――否、自動人形P-01sは、自動人形ゆえの自己理論を完成させる。

 しかし、それでも無言。

 

 

 ああ、大変だ。そろそろ起きなくては遅刻してしまう。だから起こさなければ。

 

 起きた後のこと? ――知ったことではない。

 

 階段を再び上り、それの眠る一段上へ。

 

 

 

「それでは、おはようございま()()

 

 

 

  優しく、あくまで、優しく揺り押す。

 

 

「……ん? ああ、姫さんか。おはよ……ぉう?」

 

「Jud. そしてさようなら」

 

 

 え? という声は聞こえなかった。そうしておこう。

 揺り『押す』のがポイントである。押すだけなのである。そして、場所を考えてほしい。

 

 

 

 やたらと硬質な音を響かせながら、数えるのも億劫になって行政すら段数を把握していない階段を、加速しつつ転がり落ちていく。

 

 

 

「Jud.……これでオチが付きましたね。身体を張った甲斐があります」

 

 

 

 

「……お体を張ったのは止水様だけです、と念のためツッコミを入れておきます。――――以上。」

 

 

 

『市民の皆様。準バハムート級航空都市艦『武蔵』が、武蔵アリアダスト教導院の鐘にて朝八時をお知らせいたします。

 本日午後に主港である極東代表国・三河へと入港いたします。途中、山岳地帯の村を通過するさいにビックリされては()()()()()()ですので、情報遮断型ステルス航行に入ります。

 入港の際にアップダウンが生じる可能性があります。その際各艦を繋ぐ連結縄で【 今年一番の波が来たぜ! ごっこ 】などで遊ぶのはお止めください。拾うのがかなり面倒です。ついでに聖連側の武神が()()()()します。ご協力とご理解を徹底してくださいますよう。

 

 ……なお、奥多摩後方艦名物『何段あるかわかんねぇ階段(葵・トーリ命名)』前にて、止水様が絶賛『人間転石トラップ』になっておりますので、付近の皆様はご注意ください。あとで私が救護に伺いますので放置一択でお願いいたします――――以上』

 

 

 なにがあった最後の方!? と武蔵住民一同の総ツッコミが、あったとかなかったとか。

 

 

 




読了ありがとうございました。

続けるか続けないかは――はい。

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