境界線上の守り刀   作:陽紅

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一章 刀、駆ける 【中】

 

 

 店先で客達を誘うのは客引きでも売り子でも無く、香ばしい焼きたてパンの香り。朝であれば朝食、昼は昼食。夕方には間食……店の中でも飲食可能な青雷亭。品数豊富、お値段お手ごろで餓死寸前の育ち盛りな苦学生達には大助かりの名店である。

 

 武蔵公式ホームページにある『名物店いらっしゃい』のコーナーで幾度と無くご紹介されている。店主が元侍職の腕っ節自慢であるため、万引きや食い逃げには自警団よりも早く鉄拳+お説教のフルコースがご馳走されることでも有名だ。

 

 

 しかし、その名物店は営業時間であり、また朝食時にも関わらず、客の姿は見えない。一人ポツンと会計の前に立つ少女――いな、自動人形が静けさをよりいっそう強くしていた。

 

 

「……」

 

 

 店が、かすかに揺れた。地震ではない。

 揺れはまだ小さいが、だんだんと、近づいてきているようだ。現に、今の着弾で揺れて、天井から少し埃が落ちてきた。

 

 ――念のため、商品にかぶせ物をしておくことにしよう。出来れば遠くでやってくれ、というか町まで巻き込むな……そんな考えを持ってはいない。

 

 いないったら、いない。

 

 

 

***

 

 

手でも出来る 足でも出来る

 

頭でも出来る 言葉でも出来る

 

 

 でも『心』があり、『相手』がいないとまず出来ないこと 

 

 

 配点《助け合い》

 

 

 

***

 

 

 

「はーっはっは♪ いいぞいいぞ貴様ら! もっと浪費して攻撃して金を使えぇ!」

 

 

 無数に出現した契約申請の鳥居画面を合わせて手もみ、良ぃ笑顔のシロジロは全件の契約成立を認可する。

 

 

「はーい! 契約成立、ありがとうございましたあ!」

 

「よぉし受け取れぇ……『商品』だぁ!!」

 

 

 術式を空中に放り、それを受け取ったマルゴマルガのコンビが箒に射撃術式を追加していく。

 

 

「商品ありがとー! 喰らえせんせい!」

 

「だが、ことわぁる!!」

 

 

 ジャラジャラとばら撒かれた弾幕。当たるものと当らないもので、長剣一本で十分に対処は可能である。屋根上にて再び激走を再開した教師に当然、一撃も入っていない。

 

 やや悔しそうな顔になった魔女二人だが、概ね満足といったところか。

 

 

「速度、落としたよ! 後はよろしくねー!」

 

「Jud.!!」

 

 

 それに声高く応じたのは、金髪をお下げにした眼鏡の少女。小柄な身体を優に越える突撃槍と、無骨な脚甲が何ともミスマッチではないか。

 

 

「っと、ここでアデーレがくるわけね!」

 

「Jud.! 自分、脚力自慢の従士ですんで♪!」

 

 

 踏み出した一歩。屋根を砕き、踏み込みやすい足場を作る。修繕費のことは……後で考えよう。

 

 ――加速術式を展開、突撃のタイミングを計る。

 

 

「従士、アデーレ・バルフェット! 一番槍、お相手願います!!」

 

「その意気や良しっ! おっけぇかかってらっしゃい!!」

 

 

 オリオトライの相対了承の宣言を受け、アデーレは加速術式を発動。直後、砲弾でも着弾したのでは? と思わせるほどの爆音と、弾け跳んだ屋根の残骸。

 

 

「はぁあ!!」

 

(砲弾はむしろこの子ってね!)

 

 

 風を唸らせつつ突撃してくるその槍を背中に引っさげた長剣の柄で受ける。後ろに引っ張られる力を利用し、後方への移動速度へ転用。

 

 

「アデーレまた早くなったわね!」

 

「Jud.!! でもまだまだぁ!!」

 

 

 追加の加速術式。長大な槍を手放し、軸足を起点に回転。

 

 

(手先技も上手くなってまぁ!)

 

 

 オリオトライは、その小手先技術をおしえただろう刀ネズミを思い出して文句を言っておく。

 槍を持ったまま回転しては、槍の重さ+遠心力に小柄なアデーレの体重・筋力では些か厳しいものがある。だから、槍は回転に参加させない。アデーレの身体に生じた遠心力を激鉄として、槍を打ち出すのだ。

 

 去年まで、こんな技術は持ち合わせていなかった。一年で、十分使えるように鍛えられたらしい。

 

 

 二転、三転とクルクル回るたびに槍が打ち出され――しかし、健脚自慢の速力は、次第に失われていく。

 

 そして、四転目にて――オリオトライが反撃に転じた。

 

 

「止水に言っといてあげるわ! 槍の使い方! チャージ以外も仕込んどけってね!」

 

 

 槍を長剣にて受け流し、横に思いっきり弾く。槍の重さに引っ張られアデーレの軸はぶれた。

 

 そうして、おそらく二番手(?)だろう、ターバンを頭に巻いたインド系カレー提供者ハッサンが迫る。大皿に持ったカレーライスは……武器、なのだろう。

 

「カレェー!! どうですカ!?」

 

「お昼にもらうからとっといてくれるとありがたい、わっ!」

 

 

 体勢を崩されたアデーレが、後ろ腰を起点に引っ張られる。

 

 

 ……嫌な予感がした。

 

 

「え、先生、まって。まさか投げ」

 

「どっせい!!」

 

 

 ハッサンの腹部にストライク。ハッサンはカレーを死守するもあっけなくリタイヤ。アデーレは、体勢を立て直すまもなく――

 

 

「せぇ、の!」

 

「あいたぁ~っ!?」

 

 

 長剣にて、お尻をはたかれる。はたかれるなんて優しい威力ではないが、戦線強制離脱のホームランを受け――リタイヤ。これで二人だ。

 

 

「(いっけね、飛ばしすぎた?)……ほぉらハッサンとアデーレがリタイヤしたわよ!? どうするの!?」

 

 

「くっ……イトケン君! ネンジ君とでハッサン君のバックアップに回って! アデーレ君は飛びすぎだよ!! 誰かアデーレ君のバックアップにいける人は!?」

 

 

 指揮官の様に指示を矢継ぎ早に飛ばしていくのは眼鏡の少年、トゥーサン・ネシンバラ。彼の指示に答えたのは全裸のインキュバス、伊藤 健治ことイトケンと、性別男(自己申告)のスライム、ネンジだ。

 

 

『Jud.こちら止水、なんだけど……なんか、場外ホームラン級の進路で飛んでいくアデーレ確認したんだけど――あれ、拾ってったほうがいいのか?』

 

『ていうか拾ってください! この高さはマズイっていうかやばいですよっ!? 言ってるところから落下!? 落下始めてますから大至急!!』

 

 

「ナイスタイミングっていうか早いねやっぱり! バックアップは任せたよ!」

 

 

 問題解決――とネシンバラは再び視野を前方に戻す。

 

 

「……まったく止水のオバカ。早く来なさいよぶっちゃけもう疲れて走りたくないの、あ、鈴? 背中半分でいいから貸しなさいこの賢姉に。鈴ならいいわよむしろ一緒に夜のお布団でチョメチョメしたいくらいだもの!」

 

「な、なに、は、破廉恥なことを真昼間から堂々と言っているのよ喜美! 真面目にやりなさい! 大体淑女たる者もっと……」

 

「ベルフローレとお呼びと言ったでしょうこの妖怪説教女。大体なんでそんな地ベタ走ってるのよミトツダイラ。

 いつもみたいに鎖でドカンと破壊活動すればいいじゃなぁい!」

 

 

 葵・喜美は屋根の上を、そして巨大な五つの巻き髪を揺らして走るネイト・ミトツダイラ。ネイトは走りながら、先ほどアデーレが落とした突撃槍をちゃっかり拾い上げている。

 

 

「この近辺はワタクシの領地ですのよ!? それなのに貴方達は!」

 

「あらあら先生に勝てないツルペッタンな騎士が狼みたいに吼えているわ! そういえばアンタ重戦車系だったわね!

 それに、『破廉恥』ってなぁに? 夜のお布団で昔話をちょめちょめっとするだけのど・こ・が! 破廉恥なのか教えてほしいわぁ! ……アンタやっぱりムッツリね!」

 

「な、な、なんですってこのエロ女!?」

 

 

 

 

「……相変わらず羨ましくない方向でモテモテでござるなぁ、止水殿は……」

 

「お、そろそろ君が来ることだとは思ってたけど。まあ、止水も大変ねー、いろいろと」

 

「Jud.それより、今回の止水殿の罰でござるが――軽いがいささか厳しいでござるよ先生」

 

 

 オリオトライの少し後ろに点蔵が続き、走りながらの与太話。点蔵は表情が見えないが、帽子の眼が半眼になっていた。

 

 

「なによ、時間稼ぎ? ……まあいいわ。教師としてあの子とバトルなんてもう無理ね。っていうかアレでもかなり譲歩したんだから。もう二つ三つ枷があっても問題ないわよ」

 

 

 含み満載のオリオトライの言葉に、点蔵は短くJud.と答える。チラリと後方を見れば、後方組に追いつきそうな止水が見えた。

 

 

「うっそもう追いついてきた。……んで、点蔵。なにもしないんなら突き放すわよ?」

 

 

 オリオトライの言葉に、すぐには答えない。

 

 気配を探り――タイミングを合わせ、オリオトライの呼吸を読む。

 

 

戦種(スタイル)近接忍術師(ニンジャフォーサー)が点蔵……」

 

 

 地形が変わる。

 平坦な屋根は、角度のある瓦型の屋根に変わって、オリオトライがそれに対応するように、一歩目の通常より深く沈ませた。

 

 

「参る!!」

 

 

 悪路に切り替わった瞬間の、本当に小さな減速。それを好機とした点蔵が一気に自身の身体能力による加速にて距離をつめる。

 

 悪路ゆえにオリオトライは避けない――選んだ行動は、点蔵が予見した……『迎撃』!

 

 

 

「今でござるよ! ウッキー殿!!」

「応!!」

 

 

 半竜という種族、制空権というアドバンテージを得ているウルキアガの、太陽を背にしたほぼ垂直の降下突撃。

 

 

「小細工だわ! (っでもタイミングは完璧! ――あぁのやろう!! 枷足りなかったわやっぱ!!)」

 

 

 振り下ろし始めている長剣なら、点蔵は阻めるだろう。だが、上から来るウルキアガは止められない。

 

 それでも、ニヤリとした笑みを浮かべるオリオトライには、それだけの余裕がある。

 

 その笑顔に気付いたウルキアガが必死に制動をかけるも……鞘のロックをはずすことで伸びた攻撃範囲から逃れることは出来なかった。

 

 

「ぐあっ!?」

 

 

 一人目。そして、固定布を口で掴んで鞘を戻し、ウルキアガの真下にいる点蔵に打ち付ける。

 

 

「……それも、想定の範囲内にござる……!」

 

 

 剣で打ち付けた、点蔵。彼も愛用の短刀で受け止めているが、感触がおかしい。金属に打ち付けたというのに、()()()こない。

 

 

 点蔵が全身の関節を吸収剤にして、剣が帰るのを防いだのだ。いかにオリオトライが馬鹿力とて、振り切った長剣を戻すのに無拍子とはいかない。

 

 

「本命……! ノリキね!?」

 

 点蔵の、すぐ背後。彼の忍術により影に隠れていた青年が、既にその拳の発射体勢に入っている。

 

 

「わかっているなら、言わなくいい……!」

 

 

 あとは、ノリキが拳を打ち出すだけ――それで終わる……

 

 

「惜しかったわね!」

 

 

 はず、であった。

 

 オリオトライが、柄から手を離すまでは。

 

 ただ離したのではない。下に押し出すように、さらに言えば点蔵が受けている場所を支点にして剣先を跳ね上げるように。

 

 

「なっ!? っ、くそ!」

 

 

 ノリキの顎を打ち上げる軌道のそれを無視することは出来ず、オリオトライに向けるべき術式を延滞させていた拳を打ち出して長剣を迎え撃つ。

 

 

 長剣は遠く飛んでいき……さらには長剣という重量武器が無くなったオリオトライに追いつけるすべなど持ち合わせていない。

 

 

「ちっ……」

「むぅ、残念……」

「無念でござるな。……後はお任せするでござるよ――浅間殿!!」

 

 

 

 点蔵の呼び声にまだ後方――追跡者集団の後方組にいた浅間 智。展開式の儀式弓を延ばし、呼びかけに呼応した。

 

 

「Jud.!」

 

 

 と、勢い良く返事を返したものの、自分は弓使い(本職は巫女であるが)。走りながら弓を撃てるはずも無く、一時停止程度では狙いも甘くなる。

 逆に、本格的に止まればあのオリオトライ(リアルアマゾネス)のことだ。狙撃の心配もなくなってこれ幸いと距離をバーンと稼ぐだろう。

 

 

 つまり必要なのは――足場。それも、悪路でも移動できるやつ。

 

 

「あ」

 

 

 屋根の上を走る彼女がみつけたもの。それは、普通の陸路を、梅組の誰とも違うその独特の走法で跳び駆ける、緋色の刀剣塊。

 

 

「もう、先生も酷いですよねー。女の子のお尻をホームランするとか。けつバットとか今時流行んないですよ!

 ね? 鈴さん止水さん!」

 

「じ、Jud. お、お尻、だ、だいじょう、ぶ?」

 

「……突撃槍で突き以外かぁ……男なら力任せ、でいいだろうけど――ってアデーレ聞いてるか? お前のことだぞ?」

 

「Jud.Jud.!! イヤーでも鈴さん乗り心地最高ですねこれ。振動ないし良い匂いだし超安全だし!」

 

「こ、これ、じゃない、よ?」

 

 

 そういって、鈴とは反対側の背中に抱きつき、止水の顔のすぐ隣から顔を覗かせるアデーレ。ほんのり顔が赤いのは……まあ、多くは語るまい。

 

 いろいろな理由でご機嫌だったアデーレだが――ゾクリとした何かを背後から感じた。

 恐る恐る振り返れば、完全な無表情で射を構えているズドン巫女。アデーレの頭をロックオンなさっているではないか。

 

「し、止水さん防御形態! ……あ、刀剣使用禁止なんでしたっけ。……わ、ちょっとまって!? 降ります。降りますからズドンはご勘弁を!!」

 

 

「アデーレ! もう! ……止水君も止水君です! お、女の子になら誰にだって優しくして……!」

 

「……『女の子には優しくしなきゃ駄目です』って智が言ったんじゃないか……あれ、あ、違う。智だけじゃなかった」

 

 

 ぷっ、と噴出したアデーレを筆頭に、それなりの人数が『墓穴ほってやんの』とニヤリとしたとかしないとか。

 

 

「……あ・し・ば! お願いできますよね?」

 

「ん? おお。Jud.……鈴、ちょっと跳ぶから衝撃――は多分ないだろうけど、ちょっとゴメンな」

 

「じ、Jud.」

 

 

 アデーレがいなくなって、背中を再び独り占めした鈴が、慣れた様子で体勢を整える。

 跳躍の衝撃や増加する重力。また着地の衝撃などに身構えていたのだが……何時までたってもそれらの衝撃はこない。

 

 

「あ、あれ……? 止水、くん。とば、ないの?」

 

「あ、悪い。もういいって言うの忘れてた」

 

 

「……鈴さん、ちょっと乗り物お借りしますね」

 

 

 

 あれぇ? と首をかしげる鈴に苦笑し、浅間は右前に突き出した止水の右腕に乗りあがる。

 

 向かい風が強いくらいで、移動中――それも人の上とは思えないほど揺れがない。

 

 

 ……絶好の、スナイプポイントだ。

 

 

「地脈接続……!」

 

 奏上に反応したのは左目――ヒスイの義眼。展開した射撃術式。遠方を拡大し、かつ目標に照準を合わせる狙撃型だ。

 

「浅間神社経由で神奏術の術式を使用しますよ」

 

 次いだ言葉は申請。浅間の襟元の軽装甲が開き、そこから現われたのは、掌ほどもない、マスコットキャラのような二頭身の巫女。浅間 智の走狗(マウス)、ハナミだ。

 

 

【 しーちゃんおひさー また神社に遊びにきてねー 】

 

「ん。Jud. お土産は甘味詰め合わせだな?」

 

【 わーい♪ 】

 

 

「ちょっとハナミ! 止水君も!

 

 ――浅間の神音狩りを代演奉納で用います! 射撃物の停滞と外逸と障害の『三種祓い』! あと照準添付の合計四術式を通神祈願で」

 

【 ん 神音術式四つだから 代演四つ、いける? 】

 

 

 Jud.と小さく頷き。

 

 

「代演として――二代演分を昼食と夕食の五穀をそれぞれ奉納! 一代演として二時間の神楽舞! 最後の一代演として、二時間止水君を連れてハナミとお散歩+お話!

 

 これで合計四代演! ハナミ、OKだったら加護頂戴!」

 

 

 

「……。

 

 ん……あれ? なんか今さらっと代演の内容に俺の名前が含まれてなかった?」

 

 

 

【んー OK 許可でたよ 四代演目頑張ってね 《拍手》!】

 

 

 ハナミが小さな手をたたき合わせ、四つの加護を矢に添付する。矢は加速し、的の動きを鈍らせ、障害を避けて、追尾する。

 

 

 加護の光が臨界に達し――精密射撃の術式も、オリオトライを捕らえた。

 

 

「義眼・コノハ、会いました……いって!」

 

 

 光を纏いつつ放たれた矢は直線的――ではなく、予測不可の機動を無差別に取りつつオリオトライへと走る。

 

 オリオトライは長剣を僅かに抜き――また戻して鞘のまま迫る矢を叩き落とそうとする。

 

 

「無駄ですよ! 回りこみます!」

 

 

 今日こそ当てた! と意気込む浅間。事実矢は剣の一閃を回避し、オリオトライへと迫っていく。そして、派手な音とともに光が散った。

 巫女のガッツポーズと、小さく「記念にお高いアイス」と聞こえた気がしたが、気の所為と忘れることにしよう。

 

 

 

「やったでござるか!?」

 

「……!? 駄目です! 当たってません! 食後のアイスが――でも何故……?」

 

『──髪だ! 一瞬抜いた剣で自分の髪をチャフとしてばら撒いたんだ! 切った髪を術式の囮に使うなんて……』

 

「Jud.さらに補足で言えば、あの迎撃の一閃も髪を矢のほうに散らすための陽動だな。まあ……術式失っても相当矢の速度はあったから、手くらいはしびれてるだろうけど。一撃っていうには軽すぎるな。

 

 ……それより智、さっきの代演……」

 

 

「さ、さあ! もう時間がありませんよ! 早く追撃しないと!」

 

 

 

 今だ止水の上に立ったまま。浅間はラストスパートを宣言する。

 

 

 

「さぁ、そろそろ品川よ! 次の相手はだれ!?」

 

 

 品川へ続く連結縄――その上をひた走るオリオトライの上空。

 

 ――金と黒の魔女がいた。

 

 

「うわー、ありゃ智ちゃん降りる気ないねー。ずっこいなぁ」

 

「ちゃっかり座ってるわよしかも。――なら、私達はいいとこ見せて、ポイント稼ぎよマルゴット!」

 

「おーけいガッちゃん!! 超特急でお届けするよ!」

 

 

 そしてそのまま――飛行媒体であるはずのホウキから身を躍らせ、重力にとらわれる。

 

 

遠隔魔術師(マギノガンナー)の白と黒! 堕天と墜天のアンサンブル!」

 

 

  六翼を広げ、風を溜める。そのまま手を取り合い――圧縮させた空気を爆発させた。

 

 

双嬢(ツヴァイ・フローレン)のお出まし……術式主体が追いついてきたわけね!? 先行して時間稼ぎかしら!」

 

 

 

「ノン、それは《最低限》。だから言うわ。()()()()()()()()()()()()()()()()()? ってね!」

 

「さすがガッちゃんネタ台詞♪ そんじゃ私も、『狙い打つぜッ』♪ Herrlich(ヘルリッヒ)!!」

 

 

 

 マルゴットの力の抜ける奏上に反して、砲撃のような一撃がオリオトライへと迫る。

 しかし、先の浅間のような『面倒な術式のない』一撃は、むしろオリオトライの望むところだ。

 

 

「ざぁんねん! 足止めどころか全滅しちゃうかも、ねっ!!」

 

 

 バッターが狙うは、連結縄上にいる梅組全員。何人か「げっ」と顔色を悪くしている。

 

  

 しかし、その全員の前に踊り出て、なんと砲撃に自らぶち当たりに言った緋色がいた。

 

 

 盛大な煙と爆音。それでも間をおかずに煙を引いてきた止水。――服が僅かに煤けているだけだ。背中の鈴もあらかじめ耳を塞いで伏せていたため、無傷である。

 

 

「これってもしかして――いいところ見せるどころか、一撃受ける要因になっちゃった?」

 

「……後で謝っておきましょ。多分、忘れてるでしょうけど……」

 

 

 

 翼二人はため息を付き――そしてなぜか、オリオトライもため息をついていた。

 

 

 

(うっそ追いつかれた!?)

 

 

 

 ……オリオトライが、爆発的に加速する、それがおおよそ、二秒前。

 

 




読了ありがとうございました。

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