境界線上の守り刀   作:陽紅

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十五章 刀、不折 【下】

「……やーれやれ。あの子は、まぁーた無茶をしているのかい……」

 

 

 ガランとした青雷亭店内。夕日が差し込んでいることもあってか、店の中は店主曰く『有り得ねぇ』ほど静まりかえっていた。

 

 

 唯一の光源は、差し込んでくる夕日と――客全員が見れるように、少し高い、遠い位置にある大きな通神画面。そして唯一の音源も、同じ場所を元としていた。

 

 

 しかし、無数にある椅子の一つに腰掛けた店主は今、通神を見ることはしない。己の手を、よく見れば古傷が少し目立つ手をじっと見つめ、少し強く、爪を立ててグッと握る。

 そろそろ痛みがくる――というところで……うっすらと、本当にうっすらと、緋色の光が泳いだ。

 

 

「なぁ……なんで、こんな馬鹿げた術式(モノ)作っちまったんだい? アンタの息子が、とんでもない馬鹿になって、とんでもない馬鹿やっちまってるじゃないか」

 

 

 爆音が聞こえる。通神を通しての、そして、直接外から聞こえてくるものの、重なった重低音。

 それを気にも留めず――店主は、一枚の写真が収まっている一台の写真立てを……通神が見えるように態々置いていてソレを、手に取った。

 

 

 ――真ん中は若かりしころの自分。……うん、皺がない。あのころはモテた云々かんぬんはさておいて。その隣に佇む、お淑やかという言葉がそのまま人間になった様な、そしてどこか――異国風の女性。

 そして、木に寄りかかり……微笑とも、苦笑とも取れる笑みを浮かべた、明らかにサイズの合っていない袖余りな緋衣と無骨な鉢金――そして、六本の刀を帯びた、黒髪黒瞳の女性がいる。

 

 

 

 

 一人は、松平 元信の内縁の妻――つまりはホライゾンの母。

 

 そして……もう一人。分かりやすい特徴がそのまま受け継がれているから、もうお分かりだろう。この人物こそ、先代 守り刀が頭領――。

 

 

 『守り刀の紫華』……止水の、母親だ。

 

 

「――損な役回りだよ、まったく。あたしは二人の母親なのに、なんで倍の四人の心配をしなくちゃいけないのかね……」

 

 

 苦笑う。

 

 写真を撮ろうと言った時の渋り顔と、最後の最後、撮る瞬間まで抵抗していた、少し小柄な女傑。――あの後機嫌を取るために桃饅頭を買いに走ったものだ。

 

 

 次いで、歯を食い縛る。

 

 結局、生き残っているのは自分だけだ。生き残ってのうのうと、定食屋の女店主なんぞやっている。

 

 

 本音をぶちまければ、ふざけるな、と叫び喚きたい。その衝動のまま戦いたい。いま、すぐにでも。

 しまい込んでる相棒をたたき起こして、馬鹿息子に一撃入れて、タガのはずれまくっている娘に布かぶせて。

 

 

 力のままに、思いのままに……。――かつて果たせなかった約束を、その息子への義理立てとしてでも、果たしたかった。

 

 

 でもきっと……そう思って、そう考えて。同じように堪えているのは、自分だけではないはずだろう。それを考えれば、まだ、グッと堪えることが出来る。

 

 

「はぁ。本当に……損な役回りだね、あたしらは――ま、いまさら、だろうけどさ。

 ……ほーら、見てみな。あたしんとこの子と、アンタんとこの息子が一緒に戦ってるよ。あの人の娘を、取り戻すために。

 

 

 

 ――……アンタも母親なら、そっちからでもいい……しっかり、見守ってやっておくれよ」

 

 

 

 

 

 写真の中の彼女は、苦笑を浮かべたまま。『しょうがない』とでも言い出しそうな雰囲気のまま。

 

 

 

 

 ……母はただただ、勝利を信じて待っていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 戦況は、大きく――それはもう大きく動いていた。

 優勢であった武蔵側が、仕掛けられた策に対し、更なる白星を重ねることで優位を強めるという……『ソレ』を知らぬ者からしたら、おおよそ予測された、真逆の結果と相成った。

 

 空戦の結果は、片や撃沈。片や戦闘行為維持の限界という、どちらも戦えなくなった実質の引き分け。しかし、その内容は終始武蔵の乙女達の圧倒であったことは明白であり、事実、一人の負傷者も武蔵は出していない。

 

 地上戦においては、相手国であるK.P.A.Italiaの副長、ガリレオを完全に封殺。最終戦に向け、この事実はこの上ない起爆剤となるだろう。

 

 

 

 聖連が――いや、全世界が、絶対に無視できない『完全勝利』という結果に、武蔵は王手をかけている。

 

 

 

 ただ……初めての負傷者を、ここに出したことを除いての――完全勝利であるが。

 

 

 

 

「おい止水、頼む……返事をしてくれ……止水――ッ!!」

 

 

 ――これほど焦る正純を、果たして皆は見たことがあるだろうか。いや、意外と大体焦っているぜアイツと、どこぞの総長は言うかもしれないが。

 

 

 

 ……『今にも泣きそうな顔』で。必死に何とかしようとして、何も出来ない無力さに悔しがっている彼女はきっと……誰も見たことはないだろう。

 

 

 

 助けを呼ぼうにも、正確な現在地が分からない。

 

 担いで運ぼうにも、梅組巨漢組にカテゴリされる止水を、非力な正純が持ち上げられるはずもない。

 

 応急処置をしようにも、そのための道具など、絆創膏一つとして持ち合わせていない。

 

 

 ただそばに縋り。揺すろうとして傷に触れてはならないと手を引き――ただ、名を呼ぶことしか出来なかった。

 

 

 呼べば必ず応じてくれる。問えば、悩みながらも返してくれる。

 

 

 そんな止水が、直ぐ傍に居る正純に顔を向けることも、視線さえ向けることもなく……大きな体を力なく投げ出して、地に伏している。

 

 高襟の向こうから、かすかな呼吸が正純の耳に聞こえてきて『生きている』と希望を持つが――逆に、止水の緋衣を赤く染め上げ、地面にさえその領域を広げつつある血を見て……『生きているだけだ』とまた顔をゆがめた。

 

 

 このままでは、と最悪の――本当に、最悪の事態を考えてしまい――

 

 

 

 

「どう、どうしたら……!」

 

「……? あ、やっべ、意識飛んで――ん、正純? どうした?」

 

 

 その当の御本人がパチリと眼を開き、普段と余り大差ない返事を唐突に返してきやがった。

 

 

 ――安心したせいだろう、ブワッと出てきてしまった涙を隠すために、真っ赤な顔で、思わずゴンッと一撃を……後頭部にブチかました正純に非はきっとない。

 

 

 

 

 ……多分、ない。

 

 

 

 

 

「なあ……せめて、パーにしてくれよ。グーはさ、俺でも流石に、ちょっと痛いって」

 

「や、喧しい! 大体、お前が紛らわしいのがいけないんだ!!

 

 

 ……ほ、本当に、焦ったんだからな……」

 

 

 

 俯いて、ボソボソ言われた最後の言葉は聞こえなかったようである。

 

 悪い悪い、と苦笑を浮かべ――軽々と何の違和感もなく、うつ伏せの状態から全身を使った反動を付けて、勢いよく立ち上がって見せた。

 

 

「んー……マルゴットとナルゼ、あとノリキかな。……いや、久々にたくさん『やられた』からビックリしたぜ……俺も油断してたってことか」

 

 

 苦笑を浮かべ、体についた土――もう泥と言っていいだろう。無造作に叩いて落としていく。

 

 叩くたびに響く、顔を背けてしまいたくなるような乾いていない音。

 

 

「お、おい、大丈夫なのか……?」

 

 

 ただ転んだ、というだけならどれだけ良かっただろう。

 

 しかし、正純に『このまま死んでしまうのでは』という危機感を強く抱かせるほど止水から生気が消えうせ、力なかった。

 

 

 

 

「あー、やばいよな……洗濯して落ちるか「馬鹿! ふざけるな!!」……」

 

 

 頭をかいて、『参った参った』とおどける止水に――ついに正純が、感情のタガを外した。

 

 

(またか……またなのか……!? またお前は私をはぐらかそうと……!)

 

 

 いけない、とキョトンとした止水を見ながらどこかで考えつつ――「このままぶつけてしまえ」という想いが、強く強く、その背中を押した。

 

 

「……いい加減にしろ……!」

 

「えと、正純……?」

 

 

 脈絡とか、話の骨とか。

 

 きっとそんな些細なものは、もう、関係ない。

 

 

「……ああそうだよ! 私は武蔵に来て一年足らずの新参者だ! 融通が利かなくて、皆と今まで反りだって合わなくて……! トーリやホライゾン、お前のことも昨日今日になってやっと聞けたんだ!!」

 

 

 踏み込めといわれた一歩を正純が刻む。止水がその剣幕に思わず一歩下がり――ならばと正純はまた一歩踏み込み――。

 

 

 

「だがな……! 私だってホライゾンを助けたいんだ! 皆と同じ思いでな!!!

 だから……教えろ、教えてくれ……! その傷のことも、お前がやったことも! お前のことも皆のことも、私が知らない何もかも全部全部みんなっ!!!」

 

 

 呼吸を入れなかったせいだろうか、息がすぐ上がる。それでも、真っ直ぐ見下ろしてくる止水を、真っ直ぐ見上げ返し――

 

 

 

「……頼む……っ。

 

 

 ……私だけ部外者って――結構寂しいんだ……」

 

 

 

 言い切った。言い切ってやった。昨日から――いや、武蔵に来てから、ずっとずっと溜め込んでいた総てを。

 

 

 

 どんな言葉で返すべきか、そして、どんな言葉が返されるのか。

 

 そんな、いやに緊張してしまう沈黙が、ほとんど距離のない二人を中心に広がっていく。

 

 

 

 

 

 

『ンフ♪ はいパシャリ♪』

 

 

 

 ……もっとも。

 

 そんな空気も。二人の心情その他諸々も一切合切完膚なきまでに無視し抜いた『姉』に、完膚なきまでに、ぶち壊されてしまったが。

 

 

『貧乳政治家初のスキャンダルゲットよ素敵! ノブタンに高値で叩き売ってやるわ高嶺の女だけに!!』

 

「「…………」」

 

 

 

 ――もう、絶句以外の選択肢が、止水と正純には残されていなかった。

 

 別の沈黙が場を支配したのは、言うまでもない。

 

 

 

「……えっと、喜美? 今は、なんだ……タイミング、悪すぎじゃないか――?」

 

『ンフフ、なんかこのままGOさせたらヒロインの座取られるかもどうしようなんて迷いまくってるアサーマに代わって賢姉がJud.!! してあげたわよ!』

 

『kkkkkk喜美―――ッ!? 貴女なんばいっとっと!?』

 

 

 お前が何を言っているんだ、というツッコミは通神の後ろのほうから聞こえた。

 

 

『ちょっと二人ともガチで邪魔だよ! ……止水君、聞いてくれるかい? どうもトーリ君たちの状況がよくないんだ。――教皇総長が自ら出張ってきてね、大罪武装込みで』

 

『ククク三回回ってワンって鳴いたら伝えてあげるって言ったらパシリ忍者に六回回させてワンワン言わせてたわよあの愚弟。……意外とマジな救援要請かもしれなくもなきにしもあらず!!』

 

 

「……とりあえず、行ったほうがいいってのは分かった」

 

 

 三人の通神を、『邪魔をされた』と若干睨むようにしてみている正純に苦笑し――意味ありげな視線を送ってくる喜美にも気付き。

 

 ――喜美のアイコンタクトを的確に理解した。

 

 

「頼むな?」

 

『Jud.頼まれてあげるわでも高いわよ!? ――いってらっしゃい』

 

 

 ほんの数秒にも満たないやり取りの後、止水は俯く正純を一度見て――ネシンバラの通神を引き連れて駆け出していった。

 

 正純が乗っていた時とは比べようもないほどに早く。全身を使うような、誰を考慮する必要もない、まさしく全力の疾走で。

 

 

 

「……」

 

『今アンタ、『自分は結局足手まといだったのか』ー、なんて考えてるでしょ? 今更気付くなんてオバカね? でもWelcome! ……歓迎するわよ? だってそれ、私達と一緒じゃない』

 

 

 通神の向こうの、喜美は笑う。

 

 どこまでも優しく、慈しむ様に――。

 

 

 それは、あたたかく見守る、まさしく姉だった。

 

 

『……教えてあげるわよ。止水のオバカがやったことも、みんなのこともアンタが知らない何もかも全部全部みんな、ね

 

 ――まず、そうね。答えあわせでもする? (クエスチョン).止水のオバカが、なんで突然倒れたか?』

 

 

 おおよそ、見当はついてるんでしょ? と喜美は視線で問う。それを横目にチラリと見た正純は、小さくなっていく止水の背を見送りながらも、口を開いた。

 

 

 

「……(アンサー).負傷の……代行、肩代わり。もしくはそれに近いもの、だろ……?」

 

 

 

 

 

Jud(正解).――まぁ、むしろ分かりやすいわよね? これで分からないお馬鹿はちょっとこの賢姉でも手の施しようがないわ! 

 ……アンタが喚いてた一年足らず、思い返して見なさい? ちょっとした怪我も、『痛い』って思ったこともないでしょ?』

 

「それは……」

 

 

 空腹で倒れた時。前後不覚で受身など取れないから、大体膝をすりむいたり、最悪頭をぶつけて額を切ったり――三河に居たころは常備していた傷薬を、武蔵に来て一度も使ってないことを思い出す。

 

 運がいい――ではなく、不幸中の幸いだと思っていたことは、幸いでもなんでもなかったらしい。

 

 

『それが、オバカがとったバカバカしい手段。『みんなを守る』ってことを、がむしゃらな位に突き詰めちゃった結果よ。その術式の名前が――まあ、なに? ねぇこれいわなきゃダメ?』

 

『うっわ喜美、恥ずかしがってるフリしてニヨニヨしすぎですよー? 純情路線は私や鈴さんの役目ですからひっこんでくださいねー?』

 

 

 

「『『『『『『『『『『『『…………』』』』』』』』』』』』」

 

 

『あれ、なんですかこの沈黙……ハナミもなんでそんな『ナイナイ』って……!』

 

 

 

 通神の向こうの騒ぐ智に苦笑を浮かべ、正純はその一節を、そして、先ほど聞いた変節を思い出した。

 

 

「 『キミがため』 ……か?」

 

『ンフフ、Jud.♪』

 

 

 なるほど、君と喜美をかけているのだろう、と正純は苦笑する。

 

 

 

 『 君がため 惜しからざりし 命さへ ながくもがなと 思ひけるかな 』

 

 

 

 時は古く、百人一首という遊戯の中の、一首だ。

 

 意味を訳せば、『貴女()のためなら惜しくないと思えた命さえ、逢瀬を終えた後では、長く貴女と添い遂げるために長く生きていたいと思う』というものだったはずだ。

 

 ……女子からしてみれば、殊更想い人がいる女子から見れば、ぜひともその人に想ってほしい詩であろう。

 

 

 しかし、止水はこれを、改変した。いや改悪したと言ってもいい。

 

 

 

 

「――きみが、ため」

 

 

 

 

 ――最早、惜しまぬ。

 

 

 

 

「あの馬鹿……っ!」

 

 

 

 

 

 

      ……命、さえ。

 

 

 

 

 

『もう! あ、えっと……十年前に、止水君が大怪我をした、っていうのは、直政から聞いてますよね? あの時、止水君はなんの調整もしないで、その術式を刻んでしまったんです。そして今日にいたるまで――』

 

 

「その術式を、使い続けている――と。だが待て。そんな術式を使い続けているのだとしたら、戦闘職に就いている連中がたまに巻いている包帯やらはなんなんだ?」

 

 

 その当然の問いに、智はJud.と答えを出した。

 

 

『それは、父さん達がなんとか調整して、個人単位で『守りの深度』を変えられるようにしたんですよ。

 男子の、戦闘職に就いている人たちは深度は浅くて、致命傷でもなければ術式は発動しません。逆に、女子は職に限らず痕に残りそうな傷は全部持っていかれます。

 

 ……女子の中でも、特に鈴さんやミリアムは。最深度――些細な傷や、ぶつけただけの痛みなんかも、全部止水君が奪っていくんです――……きついですよ?』

 

 

 智はふと、昔のことを思い出していた。鈴が大泣きして――止水になんども何度も謝っている光景だ。それからだろう、鈴は自分に危機が迫ると、大声で泣いて自分の居場所を知らせるようになった。恥も外聞もなく、これ以上自分のせいで彼に傷ついてほしくないが為に。

 

 そして……周りに居る皆は、何をおいても、その危機にすぐさま対処するようになった。

 

 

 ミリアムもミリアムで、足の不自由を理由に在宅学習を選択しているが――果たして真意はどうなのか。たまにあの笑顔のせいで分からなくなる。

 

 

 なるほど、と頷こうとして――正純は、嫌な予感がした。

 智は、些細な傷さえ奪われる、と言っていた。

 

 

 

「な、なあ……まさか、私も……?」

 

『ンフフ、『気が着くと倒れてる危なっかしい奴だから最深にしとく』らしいわよ? アンタが倒れて、その毎度都合よく止水のオバカが駆けつけられるわけないでしょう?

 『またか!?』って言ってオニギリ片手に突っ走ったことあるんだから』

 

 

 ……そのオニギリに、大変身覚えのある正純は、もう俯くしかない。……俯く理由? 恥ずかしさに決まっている。

 

 

 

 ……だが、これで、なんとなく――分かった。

 

 みんなが、止水に対して――止水のあることに対して、憤りを感じていると同時に、何も出来ない自分達にも憤っているのだ、と。

 

 

 ……それを言ったら、何故か二人にキョトンとされた。

 

 

『まあ、そう思う人も、武蔵には少なからずいるとは思いますよ? でも、私達は多分ちょっと、違うんですよ』

 

 

 

 

 ――駆けていく背は、とうに見えなくなっているが。緋を赤く染め、しかしなお力強く進む彼を、容易く想像できる。

 

 

 

『感謝して、感謝を受け取ってくれる。でもあの人は、それだけなんですよ。

 

 ……痛いなら痛いって、つらいなら、つらいって言えってんですよ。高襟なんかして、食い縛ってる口元を隠して、鉢金を眼深にかけて顰めた顔を隠して。私達をまるで遠ざけるようにしてるんですよ。

 ――もう、マジふざけんなって感じですよね』

 

 

 ニッコリ笑っているが頭に無数の♯を刻んでいる智を無視し。

 ――ああ、それは、確かに。と正純はもう何度目か、数えることも億劫になった苦笑を浮かべて、空を見上げる。……夕刻、いやもう直に夜と言っていい時間が来るだろう。

 

 その前に、自分達は武蔵に戻らなければならないわけで。

 

 

 

「……さっきの写真、ちゃんと消しておけよ? 私たち(・・)が帰るまでに」

 

『!? ……ンフフ、はいパシャリ! いい女の蕾になった記念写真ゲットよ素敵!! ……帰ってくるときに+1されてなかったら全国通神で加工した奴ながしてあげるから覚悟しておきなさい?』

 

 

 

 言ってろ、とだけ返し、少し深呼吸すれば、まだ少し鉄の臭いが残っている。点々と続く赤の雫を辿れば、戦場だろう。

 

 

「――ああ、そうだ。もう少し、皆のこと、教えてくれ。向こうに行くまでの、少しの時間でも」

 

『ンフフ、さすがは貧乳政治家皆の弱点を探って弱みを握ろうっていうのね素敵! それじゃあ浅間の告白予行練習の一番古いので――!!』

 

 

 

 

 ――三人寄って姦しい。そのまま戦場に、結構マジな悲鳴を笑いながら、駆けていく。

 

 

 守られているだけの女など、武蔵には居ないのだと。

 

 それを、証明するために。

 

 

 

 

 ***

 

 

 十年前の大怪我 『それは事実』

 

 皆が知っていること 『嘘交じりの事実』

 

 誰も気付かない矛盾 『語ることはもうない』

 

 

 配点 《あの時の大怪我は誰のもの?》

 

 

 ***

 

 

 




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