境界線上の守り刀   作:陽紅

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十七章 王と姫と刀。三つ巴の平行線 【中】

 

 『アイツに似ている』――そう思ったのは、結構前のことだ。髪の色も違えば、声もどこか違う。面影が少し似ていて、「アイツが死なないでいて、一緒に生きていて―― 一緒に成長していたらこんな感じだろう」くらいの感じだった。

 

 そして……『アイツだ』と思った……確信したのはつい最近だ。

 

 

 エプロンをつけたときの後姿を見ていたら電撃が走っ――

 

 

「……トーリ、あのさ。お前の顔にゴッドモザイク(放送禁止)かかってんだけど……どんな顔してんだよ」

 

 

 ――おい神様、悲しんだら俺死ぬって分かっててやってんだよな? な?

 

 

『ンフ、とうとうこの時が来たのね愚弟! 倫理規定にいつかいつかは引っかかるとは思ってたわよ! アンタの顔=『――――』ってことよ!』

『うっわ本当だ――全裸でもないのに付けられちゃってるよ……主人公描写するときどうするのコレ。『首から上がモザイクの優男』? ないなぁ……楽だけど』

「別の意味で放送禁止でござるなソレ。どっちかというと、潰れたトメィト的な、……」

「いつものお笑いボケですわね、きっと。……あら、でも確か、我が王自ら『アレ』はオートだって……」

『つまり、神さまが『見せられないよ!』って判断したんですかねぇ……』

 

 

 

 ハッハッハ――皆ツンデレだから困るぜ全く。 んでなんだっけか、あ、そうそう、尻――じゃなくて。

 

 

   『 ……そろそろ 見せられるー? 』

 

   『 はーい 審査通りましたー ただいつでも準備しておけとのことー 』

 

 

 ……アイツなんだって思うようになってから、ずっと、ずっと――言いたかった言葉を、アイツにやっと言える。

 

 

 

「「迎えにきたぞー、さっさと起きろー(おーい、ホラッイゾォーン!!)」」

 

 

 

 ……。

 

 

 

「ダムゥ……! おいダムゥ……! ここはさ、俺だよな? こうさ? 今までのモノローグ的なの見てもさ? しかも俺のほうがルビられてる感じだよな今の」

「……ごめん、つい」

 

 肺活量・発声量その他諸々で、止水の声にほとんどかき消されてしまったトーリの声。

 ――トーリの、世のありとあらゆる無情を訴えてくるようなその表情には、止水も素直に謝罪した。敵を踏み込ませまいと陣を広げ、踏ん張っている一同の肩がガクリと下がって陣が狭くなった気がするが、気のせいにしておこう。

 

 気のせいにして、気を取り直して……Take2。

 

 

 

「スゥー……おーい! ホライz 「御近所迷惑です。お静かに願います」 ……」

 

 

 いきなりヌゥッと現われた要救助対象からの無情なJud. 無表情の中に明確な不機嫌さを見て――トーリは心の中で、必死に『悲しくない』と言い聞かせていた。

 そう、悲しくなど無い。助けたいと思い願った人が、一先ずは無事だった。――それで十分に喜べる……!

 

 

「ところで、コレは一体なんの騒ぎですか? ……ぶっちゃけ、結構いい気分で出来ていた簡易スリープ邪魔されて少々――いえ、なんでもありません」

 

 

 ――喜べ……俺! そう、笑顔のまま自分に言い聞かせるトーリ。隣の止水から聞こえる、怒ってる、絶対怒ってるよコレ、的な呟きも無視して咳払いを一つ。

 

 

「場の流れを変える気でござるな」

『古典的よね、ボケの一発でもかませば丁度いいのに。あ、正純、可愛い系? 綺麗系? 小悪魔系? とりあえず全部持ってきたから』

『頼む待ってくれ、いま大事なシーンだから、な? それは、箪笥に戻すんだ。今すぐに』

『姉系はないのであるか? ……不覚っ、姉系のコスプレがなんなのかわからん……!』

「……わかっていたが、緊張感の欠片もなくなっているな」

 

 

 

「う、うっせーよオメーら! 俺が覚悟決めて言うんだから錠剤の半分くらいの優しさくれよ! ……もっとくれてもいいのよ?」

「「『『『……はっ(鼻笑)』』』」」

 

 

 みんなの優しさを受け取り――再びコホンと咳払い、両手を広げる。誰かを抱きとめることが出来るように、こっちに来いと促すように。

 

 

「……助けに来たぜ、ホライゾン!」

 

 

 それを聞き、そしてをそれを見たホライゾンは、白壁の向こうで――無表情ながら僅かに眼を大きく開き……嬉しさかはたまた別の感情か、言葉を失っている。

 つい、と視線を隣に立つ止水に向ける。彼はトーリと違って何も言おうとはしないが――ただ彼女を見て、力強く頷いた。

 

 

 ――そうですか、と小さく呟き、眼を閉じること数秒。

 

 

 

「……大変申し訳ありませんが、お引取りください。ホライゾンはこの身をもって極東の責を、そして武蔵の安全を負いたいと思います」

 

 

 助けは、要らぬ。と。

 

 コレが、己の役目なのだ。と。

 

 たとえ、唐突に。いきなり押し付けられたような立場だとしても。自分が果たすべきことなのだと。

 

 

 救いに来たという二人に対し、『それは不要だ』という――明確な拒絶の言葉だった。

 

 それを受け取った二人は、取り合えずホライゾンの回答を置いておく。助けは要らない、という拒否発言()()()、圧倒的に気にかかることが一つ。

 

 

 その返答を、言葉にしたトーリではなく――ただ黙り、ただ頷いただけという止水に顔を向けて言うのか。

 

 

 

 

 

「更にところで、なのですが……どちらさまですか?」

 

 と、今度はトーリに――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――世界が、死んだ。どこもかしこも、ピタリと止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 ……あれ? と思う者が過半数を超え、そして、まさか――!? と頬を引きつらせた者が残った割合を占める。

 

 事、ここにいたり――なんと、ヒロインが主人公の名前を知らない疑惑が発生……最悪、名前は愚か存在そのものすら記憶にないという可能性も――!

 

 

 

『葵……お前、よくソレで告白どうのこうのって言えたな……』

『鈴が倒れたわよ愚弟! この賢姉の邪悪なクッションで受け止め……ねぇ鈴? 流石にね? 邪悪はちょっと、ほんのちょぉっと、ね? あれよ?』

『……ちっ、生きているか。あのくらいじゃ死なないのか。中々に耐久力があるなあの馬鹿』

 

「おう、流石にこれは俺も予想外……! 待った、待って! そう、そうだよ! 俺名乗ってなかったわ! 会ってるから!! 絶対会ってるからその超同情視線を止めろください……! あと誰だ! 敵か味方かわかんねぇやつ!!」

 

 

 ――やってない! 俺はやってない! と声高に叫ぶ何かを幻視してしまった止水。その妄想を頭を振って追い払い、ホライゾンを見て、次いで、トーリを見て……なんとなくある懐かしさに、苦笑する。

 

 

「覚えてねぇか!? ホラ、おめぇが青雷亭で店番してるときに何度も!」

 

(それってただの『客』だよなぁー、ってツッコミは……流石に酷かなぁ……)

 

 

 必死にヒントを出して思い出してもらおうと躍起なトーリに鞭打つことは流石に躊躇われる。どこぞの賢姉や作家などなどなどは、喜んで突っ込んできそうだが。

 

 トーリのヒントが功を奏したのかどうかはさておいて、思い出してきたのだろう。拳と掌を打つホライゾンに希望を見るトーリ。

 

 

「Jud. 言われて見れば見覚えがありました。――確か、よく菓子パンを買いにいらした方ですね。それもやたら大量に」

「そう! ソレだよソレ! なんだよしっかり覚えてんじゃ」

「そして釣り銭を渡す際にこちらの手を必要以上に握ってきた方ですね」

 

 

 彼女の眼が、若干――冷たい気がした。気持ち、眼と眉の間が狭くなっているようにも……。

 

 

「その時の手が大体湿っていて、ある種の嫌がらせだと思っておりました。こちとら食品を扱っているので衛生上毎度洗わねばなりませんでした。そんなお方に店主様が付けられた字名が――『湿った手の男(ウエットマン)』」

 

 

 冷たいのは彼女の眼だけではなかったらしい。一斉に開いた通神画面の向こう、中々にしらけている梅組面々がいた。

 

 

『えっと、とりあえずナイちゃん、マジ引きしちゃった。黒魔術(シュヴァルツテクノ)引き?』

『そうねマルゴット。私も白魔術(ヴァイステクノ)引きなうよ。んー、やっぱりミニ丈かしらね、いっそ……』

『逆にソンケーできるよね、ホント、真逆に』

「……自分、もうなにも言えんでござる」

「何も言うな……分かりきっていたことだ」

 

『葵! 告白は後日にしよう、な!? 今は彼女を救うことだけを、な!? あとナルゼ! 今チラって見えたけど何だソレ!?』

『それを言うが正純……好感度マイナスでのアタック未遂は……フラグであるぞ』

 

『ンフフ、やーね愚弟! こんな時にまで致命ボケかまさなくてもいーのよ!? ……ねぇ、ボケって言いなさい? 今なら多分間に合うわよ? 死因が『多汗症による告白前フラレによるショック死』の弟なんて嫌よ私』

『も、もう! 皆なに言ってるんですか!? トーリ君今まさに人生のドン底まで転がり落ちているんですよ!? もっとソフトに! 今の彼の精神防御力マジ紙なんですよ!?』

「あの、智……? 貴女何か我が王に恨みでもありますの……?」

 

 

 ――照れ隠しが激しいな? 皆素直じゃないツンデレだから本当に困る。人数分の真意を理解するのが大変じゃねぇか。

 などと思考するトーリの、クネリクネリと身体を波打たせる行為に何の意味があるのかは定かではないが。概ね悲しみの感情からは遠ざかっているらしい。

 

 

「あ、相変わらず容赦ねぇな姫さん……」

「Jud. ただ事実を申し上げただけですが……止水様も、昨夜ぶりで」

 

 

(……ん?)

 

 クネクネ身悶えが、ピタリと止まる。そのまま若干首の稼動域を無視した、ホラー映画張りの動きで顔を止水に向ける。

 

 

 俺 → アナタ誰ですか?

 

 ダム → 昨日はどうも止水様。

 

 

 

 

 

 『 様 』……!!

 

 

 

「だぁぁああむぅぅう!!! おめぇか!? まさかのトドメおめぇなのか!? 何ホライゾンに様付けさせてんだよテメェ羨ましいから代わって下さい!!」

 

「……いや、今の姫さん、基本皆様付けだろ? っていうか、真面目に時間とかやばいからさ、説得するなり、無理矢理腕づくで掻っ攫うなりしようぜ?」

 

 

(ヤダこいつ、男らしいじゃない……!)

 

 

 言葉でどれだけ言っても聞かない少女を、無理矢理力を持って、救い攫う。見せ掛けではなく、肩の大太刀に手をかけているあたり、本気なのだろう。

 嫉妬爆発させたことなど忘れて、一瞬思考がヒロインになりかけたトーリ。時間諸々のリミットがあることを思い出し、止水の意見に乗って強行しようと――ホライゾンに飛び掛った。

 

 あわよくば、いろいろとできるところへ――!!!

 

 

「あ、ちなみにこの白い壁、触れたら何やら即死する感じらしいので、お気をつけを」

 

 

 

 さて。さてさて。お気づきだろうか。トーリは、飛び掛かろうとした、のではなく、飛び掛った――つまり。

 

 

 

「「うをぉぉぉぉぉおおお!!!???」」

 

 

 空中で咄嗟に手を引けたトーリ。

 伸ばしたその手、僅か二本の指で、ギリギリ彼の服をつかめた止水。この二つの奇跡によって。

 

 僅か、後数ミリのところで、トーリは命を繋いだ。

 

 

「あ、あぶねぇ……!! なんつうデンジャーなトラップを……わかってねぇよ、こーいうときは普通触手モンだろ……!?」

 

「……抗争初の負傷がズッコケでさ、初のマジ焦りがボケ染みてるって……なんなんだよ、俺だけなんかずれてない?」

 

 

 二人そろって膝を突き、大暴れしている心臓を抑えながら、もっと早く言え、とばかりにホライゾンを恨めしげに見上げる。その彼女はなんとも涼しげな顔ではないか。

 

 それをしばし悔しげに見ていた二人だが、同じタイミングで互いを見やり、真剣な顔になる。互いに最後の手段としていた実力行使が出来ないと理解して、先ほど見事に撃沈された言葉による説得……それで挑むしかない事実に顔を引き締めたのだ。

 

 

 ――引き締めて、決意して……その瞬間。止水が、刀を振り()()()()()

 

 先ほど触れていた肩の大太刀ではない、『おそらく』腰に配刀していた長刀だろう。その刀で、『おそらく』トーリの背後を払うように。

 刀を抜いた瞬間も、振った瞬間も。それどころか、いつ立ち上がって踏み込んだのかさえ知覚させない一閃。――ソレが両断したのは、硬い音を立てて転がった、小さな弾丸だった。

 

 

「おいおい空気読めてねぇ連中が急かしてきやがったか? にしてもやり方ってモンがあんだろうに……」

 

 

 撃ったであろうK.P.A.Italia勢を一度見渡し、撃たれたという事実を目の当たりにして尚、トーリは不敵に笑う。

 

 その笑顔の前に、立ち塞がるは止水だ。トーリの背を守り、そしてまた、守るように立つ止水の背中を見て、トーリは再度ホライゾンへと向かい合う。

 

 

「……おい止水、そっち、まかせっぜ?」

「Jud. 任された。そっちもさっさとしてくれよ?」

 

 

 背中合わせの会話はそれだけ。交わした言葉はほんの数秒。

 

 二人は、それぞれやるべきことをなすために、互いに一歩、距離を離した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 王がいた

 

 姫もいた

 

 

   刀はソレを見守った。

 

 

 

 

配点【三つ巴】

 

 

 

***

 

 

 

金属の澄んだ、高い音。そしてそれに遅れて硬く軽いものが無数に落ちる音。ソレを背後のBGMに、トーリはホライゾンへと向かいあった。

 

 

「仕切りなおしだ、ホライゾン。おめぇが俺を知らねぇってんなら、今ここで伝えりゃあいい。……俺は武蔵で、生徒会長とか総長とか副王とかいろいろやってるただの馬鹿の、ただの葵・トーリだ! んでもってもう一回言わせてもらう! 助けに来たぜ! ホライゾン!!」

 

「Jud. 元P-01s、そして昨夜からホライゾン・アリアダストになった、ただの自動人形です。……では、これで」

 

 

 名乗りに対して名乗り返し、そして会釈をして――という自然な流れで奥へと戻ろうとするホライゾン。余りにも自然体過ぎたために見送りそうになったトーリだが、喚き慌てて何とか引き止めることに成功。

 

 ――その際小さな舌打ちが聞こえた気がしたが……。

 

 

「油断も隙もねぇな……ホライゾン……!」

 

「これ以上の問答の必要性を感じませんでしたので。――ホライゾンは、ホライゾンという存在が、世界に対し迷惑をかけぬ事を最善の判断としてこれを望んでおります」

 

 

「……世界か……関係ねぇな。世界が迷惑とかどうとか、俺には知ったこっちゃねぇよ。俺が困るんだよ……おめぇに死なれると」

 

「――疑問ですが、世界と貴方と、どちらが上なのですか? ……いえ、当然問うまでもなく世界のほうが上なのですが――」

 

 

 ホライゾンは、現時点での世界人口など知らぬだろう。知っていても意味の無い情報を、自動人形が得ることはないからだ。

 しかし調べるまでもなく、トーリ一人よりも圧倒的に多いことは確実であり、そして武蔵10万人の人口と比べても――それより世界のほうがまだ圧倒的に多いことは明確である。

 

 故に、トーリ個人の迷惑よりも、世界全体の迷惑のほうが、圧倒的に多いと判断できた。

 

 

 

 

「……だよな、『普通』は。俺一人と世界。比べるまでも無く世界のほうがデケェし多い。んじゃあ決まりだ。簡単じゃねぇか。

 ……俺が! 世界を従える【王】になればいい!!」

 

 

 

 ――俺は『王様』になる!

 

 

 

「ホライゾン。お前の大罪武装があれば、末世解決して、世界の王になることだって夢じゃねぇ! それに、全部の大罪武装がそろえば……お前だって元の自分を取り戻せる!」

 

 

 ――皆の夢がかなう国、それを作る王様になる!

 

 

「だから俺は、ホライゾン。お前と一緒に世界を征服しに行く! 末世解決しながらイチャつきながら! ……俺のせいで奪われちまったお前の感情のすべてを! 俺が取り戻してやる!」

 

 

 ――ホライゾンが、自分の夢を持つことが出来る国を作れる、王様になる!

 

 

 その王が、金の鎖を波打たせ、世界に対し振り返る……その少し前。

 かの王に降りかかる凶弾を払い続ける緋の刀が、唐突にその刃を収め……緋衣を大きく動かし見せ付けて――片膝と、右の拳を地面に付けて、顔を伏せる。

 

 

 

 

 

「おい聞いてっかよ全世界!! そういうわけだから大罪武装、俺にくれよ。イヤだってんなら戦争だ! 戦い、ぶつかり合い、相対、交渉、なんだっていい! じゃんけんでもいいぜ!? それがホライゾンの感情をくれる『言い訳』になるんならなんだっていい!

 

 

 ――神道、仏道、旧派、改派、唯協、英国協、露西亜(ロシア)聖協、輪廻道(ダンハイ)七部一仙道(オウト)

 

 魔術(テクノマギ)、剣術、格闘術、銃術!! 

 

 機馬、機動殻、武神、機獣、機凰、機竜、航空戦艦!!!

 

 人間、異族、市民、騎士、従士、サムライ、忍者、戦士、王様、貴族、君主、帝王、皇帝、教皇!!!!

 

 極東、K.P.A.Italia、三征西班牙、六護式仏蘭西(エグザゴン・フランセーズ)、英国、上越露西亜(スヴィエート・ルーシ)、P.A.ODA、清、印度連合!!!!! 

 

 金、権利、交渉、政治、民意、武力、情報、神格武装、大罪武装、聖譜顕装、五大頂、八大竜王、総長連合、生徒会!!!!!!

 

 

 男も女も! そうでないのも! 若いのも老いたのも生きてるのも死んでるのも!!

 そして……そしてっ!! これらの力を使って相対出来る武蔵と俺達とお前達の感情と理性と意志と、他いろいろ! ……多くの、もっともっと多くの俺がまだ知らない皆の中で――!!!!

 

 

 ――誰が一番強いのか、やってみようぜ? 一番強ぇ奴が、この世界の王様だ!」

 

 

 

 むちゃくちゃだ……と誰かが呟き。そして、誰もが思った。理論なんて用いる必要が無いほどに単純明快。一番強いものが、すべてを自由にできるという暴論にして極論。

 

 

「とりあえずそんな感じのルールで……あれ、んー? ……おいダム、なんか俺、告りに来たのに世界征服宣言してる。なんで?」

 

「……いや、ここで俺に振られても……」

 

『少しくらい考えてしゃべれ!!』

 

 

 でも、と。

 らしい。分かりやすくていい、と一同の中で、一番の笑顔を浮かべているのは止水だ。高襟の向こうの伏せた顔は、滅多に見せない血気溢れる笑顔を浮かべている。

 

 

 

 ―― 一番強い者が、王。

 

 止水には、天下無双やら世界最強やらに対する興味が、欠片ほども無い。無いのだが、ふと考える。……もし全世界が敵となったとして、その敵すべてから皆を守りきった果てにあるのは、無双と最強。その称号ではなかろうか。

 

 

 トーリを王へと押し上げるためには……4800刀程度では、足りない。

 

 皆を守りきるには、……たかが4800刀くらいじゃあ、足りない。

 

 

 ……もっと、高みへ。

 

 ――更なる、極みへ。

 

 

(……上等……!)

 

 

「……Jud. とてつもなく突飛な暴論ですが、とりあえず理解は出来ました」

 

 

 ……理解できちゃったの!? という一同(トーリ本人の驚愕も含め)の眼差しをガン無視し、ホライゾンはトーリと、そして止水を見る。

 

 

「ですが、それは貴方の考えであり、ホライゾンのものではありません。ホライゾンの考えではありません。お互いは平行線のまま――つまりは結局のところ、迷惑です。そのまま180度ターンして、お帰りください。……ホライゾンは、ホライゾンという存在によって、極東の礎になることを望みます」

 

 

「……ソレがイヤだ、って言ってるんだけどな、俺たちは……。

 なぁ、知ってるかよ? ベルさんがさ、泣きながら俺たちの背中、押してくれたんだぜ?

 知ってるか? 直政が俺たちを一度止めようとして、それでも皆を助けたくて、並んでくれた。

 ネイトなんかすげぇぜ? 武蔵の騎士全員の意見一人で覆して戦うって叫んでくれたんだ。

 

 ――あと、セージュンがよ、戦う力のねぇアイツが、戦場にいる。おめぇを助けたいからだ。皆もそうだ。理由は一人一人違ぇけど皆、お前を助けてぇって思ってんだぜ?」

 

 いまだ跪く止水が。そして、いくつもの通神を越して、皆が。それぞれ笑顔を浮かべて、頷いている。

 

 ホライゾンを救う。その行動が、全員の総意なのだと理解したホライゾンは、小さく何かを呟き……トーリに視線を向ける。

 

「Jud. 皆様の意思は把握いたしました。では貴方の――その皆様の意思の代表たる貴方はなんの考えを持ってホライゾンを救いたいと思い、ここに立っておられるのですか?」

 

「……え"っ?」

 

 

 ……いままで、一応ではあるが話の流れをトーリが握っていた。――気がするという感じもあるが、ホライゾンでも、当然止水でもなかったことは明確なので、トーリが主導していたと言えるだろう。

 

 そして、今。ホライゾンが、この状況で、ソレを握った。

 

 

(ま、まさか俺……告白『させられようとしている』……!?)

 

 

 思ってもみなかった彼女の切り返しに、トーリは固まり、戦慄する。よもやホライゾンが、超高度恋愛テクである『相手に告白させる状況を作り出す』を返してくるとは……!

 

「いや、そりゃあおめぇ……アレだよ。その、人前では恥ずかしいというか、ねぇ?」

 

『モジモジするなぁ! 時間が無いって言っているだろう!? 手短にしろ馬鹿!!』

 

 

 教皇の言いつけどおりに後ろにウルキアガをつれている正純からの通神――隅にある時刻表は、既に5分を切っている。

 

 

「おうおうセージュンが急き立ててきやがりましたよぉ……っ! 俺が、俺がおめぇを助けてぇ理由……!? んなもん決まってんだろ!! 俺が!! お前をっ!!!

 

 

 

 好 き だ か ら に 決 ま っ て ん だ ろ う が ! ! ! !」

 

 

 

 

 いくつもの通神を通して、その言葉は広く長く……延々と響いた。

 

 

 

(い、言った! おい言ったぞアイツ!)

(なんだ、なんの捻りもないのね……つまらない……)

(ンフ♪ 録画・録音はバッチリよ? これ一生のネタになるわね!!)

(待ってください!! まだ彼女が答えてません!! ……セットじゃないとネタとしては三割ですよ!?)

 

(……この外道共め!!!)

 

 

 誰が誰の内緒話かはさておいて――その言葉を受けたホライゾンは静かに首を二度三度振り――。

 

 

 

「……Jud. 真に残念ですが、自動人形であるホライゾンには感情がありません。故に、今の言動が理解不能です。以下同文――ではさすがにかわいそうなので、再度言います。お帰りください」

 

 

 その瞬間、武蔵で「うわぁ―!!」と一際大きな歓声が上がった。

 

 

 

 

「『この期に及んでフラれた―――っ!!♪』」

 

 

 

 




読了ありがとうございました。
次回は特別番外編にしようかと思います。

はい、そろそろ、あの季節ですので。

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