境界線上の守り刀   作:陽紅

74 / 178
四章 刀、そして英国へ 【中】

 

 焦る。

 

 ──焦るな。呼吸を整えろ。ペースを掴め。今ならまだ拮抗に戻せる。

 

 

「──ねぇ、ボクだけにしゃべらせないでくれないか? 折角、またこうして会えたんだ。昔話でもしようよ。

 ≪さあ行けマクベスよ、汝は王位の簒奪者にして、友を殺して安堵するもの。ならばその手は傷つけるものであるべきだ≫ 」

 

 

 焦る。

 

 ──落ち着くんだ。冷静に。相手の次手を読め。今ならまだ挽回できる。

 

 

「クッ……!

 <攻撃を絶え間なく叩き込め、衝撃は重ねるごとに強く>! 」

 

 青白い身体の、神代の時代より昔の、中世という時代であった西洋の装いの男。ネシンバラの『 幾重言葉 』により紡がれ生じた連撃により、その身が千々にほどけていく。

 

「≪おお、繰り返し告げようマクベスよ。汝は死することはない。何故ならそなたには動かぬバーナムの森があるのだから≫

 ……繰り返すね、君も。いらない文章を悪戯に重ねる時間稼ぎは作家としてどうかと思うよ?

 それよりも、答えておくれよ。No.13。かつて苦楽を共にしたじゃないか」

 

 少女……シェイクスピアが紡いだ言葉に応じるように、青白い男──マクベスはその姿を戻す。

 ……このやり取りも、すでに幾度目にもなることだった。

 

 

「そんなセンスの欠片も無い名前で呼ばれたくないね……!

 <倒れぬ相手を封じる壁が、高く高く聳え立つ。それは、その者の四方を覆うだろう>!」

 

 

 文字が形を作り、それは壁となりマクベスを捉える。しかし、どちらも不定形の流体で形作られた物ゆえ、長くても数秒の時間稼ぎがいいところだろう。

 

 

 故に、ネシンバラは大きく動く。

 脅威であるマクベスから距離を取り、しかしシェイクスピアとの距離を縮め、勝負を決する打撃を与える為に。

 

 

「やれやれ、トゥーサンって名前を使っていてよく言うよ。極東式の当て字で『 十三 』、ネシンバラも肖り元は榊原のだし。でも……写真で君と君の名前を見たときは驚いたよ。それに、武蔵が英国に向かってるって言うじゃないか」

 

 

 迫るネシンバラに、しかしシェイクスピアは焦らない。それどころか、雑談を交え──口の端を弓に上げる余裕すら見せる。

 右手を払う……たったそれだけの動作で、再び彼女の元に、青白い人影が現われる。──マクベスではない、かの男と同時代の装いの、女性が現われていた。

 

「≪おお、愚かなるマクベス婦人よ。嫉妬に狂い、夫の手をとり、玉座への道を盲進するがいい≫」

 

 

 決着の打撃を見舞おうとしていた、ネシンバラの右手首をマクベス婦人が片手で掴み止めて──残った片腕で、そっと右手を握った。

 力は弱く、一般的な女性の腕力ほどだろう。だが、一般男性の平均に届いていないネシンバラの足止めには、十分と言える。

 

 

 だからこそ、わからない。

 

 

 武器を携えていたマクベスではなく、非力なマクベス婦人を態々出演させた、その理由が。

 

 

「何を……!?」

 

 ネシンバラが問う前に、結果が出る。

 ネシンバラの腕を止めていた婦人が、文字列の流体に解けたのだ。それが右腕にまとわりつき、ネシンバラを縛する。

 

 

「配役だよ。劇の途中で役者が出られなくなったとき、代役を出すだろう? 君がマクベスを観客から隠してしまったんだから、その責任は取ってもらわなきゃ」

 

 

 ニコリとも、ニヤリとも取れる笑顔に対し、ネシンバラが何かしらの感情を持つ暇はない。

 

 『四大悲劇』──という、史実のシェイクスピアが描き上げ、傑作とも名高き四つの悲劇がある。

 

 その第二悲劇とされるのが『マクベス』。彼女、シェイクスピアがその開演を告げたわけではないが、しかし、マクベスという名が主役として抜擢され呼び出された以上、第二悲劇(マクベス)が開演されたのは間違いないだろう。

 

 

 そして、術式の形状からして、演劇を用いた呪いとネシンバラは判断する。そして、おそらくその配役と同じ運命を相手になぞらせるもの。

 

 

(マクベス、その内容は……っ!)

 

 

 

 ──王を暗殺し。

 

 ──その暗殺を知った、友も殺し。

 

 ……しかし王となっても、最期は悪政の果てに前王の子や貴族たちに討たれる。

 

 

 そのマクベスとなってしまったのだ、ネシンバラは。

 

 ほかでもない、執筆者(シェイクスピア)直々の御氏名(オファー)

 

 

 王は、武蔵の住民であれば、現武蔵王であるヨシナオを示すのだろう。しかしネシンバラにとっての王とは、まず間違いなく葵・トーリのことだ。

 そして友は、梅組の全員が対象と言える。

 

 そして最期は、ネシンバラ自身も討たれ……。

 

 

 ──英国や他の国々が何をするまでもなく、武蔵は自滅する。

 

 

 他でもない、マクベスとなってしまった……ネシンバラの手によって。

 

 

「くそ……警戒してなかった、わけじゃあないんだけどなぁ……!」

 

「Tes. 実際苦労したよ。 君はマクベスに触れないように細心の注意を払っていたからね。──だから、マクベス婦人さ。妻が手を愛おしげに取る相手は、夫だけだろう?」

 

 女心だよ、君も勉強しておくといい……とただ笑うシェイクスピアに、ネシンバラを顔をゆがめるしかない。

 

 

 出身を示され、焦った。

 

 その焦りのまま、勝負を急いた。

 

 

 ……その結果。ネシンバラの目の前に、『敗北』という二文字の事実が突きつけられていた。

 

 

 

「……呪いを解いてくれ、って言っても、キミは解いてはくれないだろうね」

 

「ご都合主義かい? ボクは嫌いだよ、そういうの。──主人公は足掻いてもがいて、そして手段を得てこそ輝くものだよ」

 

 言外に、『足掻け、もがけ』と言われている気がしないでもないネシンバラは、深いため息をつく。

 

 

 ──状況をどこからどう見ても、詰んでないだろうか……これは。

 

 

「はぁー……物語的には、ここらへんでカットが入って、次回に持ち越されるパターンなんだろうけど? ほら、ナレーションが入ってさ」

 

「その展開はアニメ的過ぎるね。ボクたち作家が使うべきじゃあない。……そもそも、次なんてないよ。これで、決着だ。

 ≪さあ気をつけろ、マクベス。バーナムの森がキミの命を狙っているよ≫」

 

 

 ──マクベスの進退はどちらもバーナムの森を起因としていたな、と、ネシンバラは小さく呟く。王の暗殺を急がせたのも、また王の子供を隠したのも、バーナムの森だった。

 具現化した偽りの森から、軽く数えても数百はいるだろう夢幻の軍勢。

 

 

「ああ、決着だ──<彼は迫る脅威に、その身を大きく大きく飛ばした。さらに生まれる風の流れを味方にして! 遠く遠くへ!> 武蔵さん! やってくれ!!」

 

『……Jud. 皆様、お近くの何かしらにお掴まりください。────以上』

 

 

 ネシンバラが大きく跳び、甲板上を転がっていく中、品川……否、武蔵全艦が、耐えるような軋みを上げた。重力航行の余韻を強制的に終わらせ、更には加速器さえ緊急停止させている。

 

 空に浮くだけの武蔵は、しかしソレまでに得ていた速度を持って『滑っていく』。

 揺れや遠心力は凄まじく……戦闘どころではなくなっている。

 

 

「──時間切れか……! Mate! 撤退するぞ! 船を回してくれ!」

 

「これは……艦首を英国に向けたまま……? そうか、入国の意思を示したまま英国の周りを……」

 

 

 ジョンソンの声に、シェイクスピアも事態を察する。そして、知らないうちに熱くなってしまっていたことを自覚し、少し顔を顰めていた。

 それを視界に収めつつ、ネシンバラとて良い顔はできていない。

 

 

「Jud. この勝負、僕の負けだ。それは認めるよ。だけど……最低限の目標は果たさせてもらう!」

 

 

 

 勝負には負けたが、試合には──これはお世辞に言っても『引き分けた』が妥当だろう。内容はどこからどう見てもネシンバラの終始劣勢だ。

 

 ……結果、ネシンバラ自身の戦績として、黒星を否定しようも無かった。

 

 

 

「やれやれ……あとで反省会だよ。団体的にも、個人的にも……ッ」

 

 

 

 ──やるべきこと、そして、やらなければいけないこと。それらをあげれば数はきりがなく……問題は途方もなく、山積だった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 いつだったか、『ある人』を『何か』に表現しようとして、『大きな木』と例えた少女がいた。

 

 

 ……体の大きさや力強さは、誰しもが「そりゃそうだ」と納得するので割愛する。

 

 照りつける太陽の中で木漏れ日を作り、そして、どんな災害にも屈しない、その根元。知らず知らずに人が集まってくるその様子を、一番良い枝を特等席として聞き続けたからの比喩だ。

 

 

 ……いや、まあ、少女が鈴であり、『ある人』というのが止水なのだが──

 

 

 一同は今現在、巨木に準えられたその理由を、ひしひしと実感していた。

 

 

 滑る武蔵。過ぎていく雲と海と、荒れる風。

 

 武蔵のように安定している重量艦ならばまだしも、小型の輸送艦ではまともに立つことすらできないほどに盛大に揺れている。

 牽引帯一本で繋がっていることも不安定に拍車をかけていて……右へ左へ振り子のように、更には上下にも──とにかく大荒れていた。

 

 

 床に身を伏せ、揺れに耐えるもの。腰を落とし、揺れに対応している者。

 

 身近にいた者にすがり付いているもの。すがり付かれても耐えられず転がっているもの。

 

 

 

 ──そんな中において。

 

 

「……掴まっておいてなんだけどさ。しーちゃんひょっとして、足に根っことか生えたりしてない? マジすんごいどっしり感なんだけど。……あとアリガト」

 

「いや、単純に足の指で甲板掴んでるだぐぇ……」

 

「う、わ、悪い止めの字! 今のは本当に悪かったっとと!」

 

 

 ……刀馬鹿は、小揺るぎさえもしていなかった。

 

 緋衣は風に揺られてバタバタと音を立てているが、それ以外は至って普通だ。関節のどこかを曲げて揺れに応じているようにも、そして、その行為に苦労しているようにも見えない。

 

 ──そして、そんな彼を、首の縄がキュっとまたもや命を狙う。

 辿れば、艦の揺れでバランスを崩したのだろう直政が、リードを吊り革代わりにしたらしい。……謝っているのにそのリードを手離す気配は無いのは、まあ致し方ないだろう。

 

 

 止水の命(を奪える)綱は、同時に直政の命(を繋ぐ)綱になっているのだから皮肉だろう。

 

 ちなみに、背中の六翼がもろに風の影響を受けてしまうマルゴットは、うきゃーなる悲鳴を上げて吹き飛んでいくところを早々に止水に捕獲され、現在両手足で止水の右足にへばりついている。

 

 

「あー……──悪い直政、ちょっと我慢してくれ」

「なんっ、~~っ!?!?」

 

 

 首を絞められて喜ぶ趣味など止水にあるわけがなく、そして、絞められるとわかっていてわざわざ放置するわけもなく。

 

 再びよろけてしまった直政のその義腕をヒョイと取り、自分にぶつけるようにして引き寄せ、腕の内に収める……なんてのは、当然の行動だろう。

 手っ取り早い上に、これ以上にない確実な安全確保の方法だった。

 

 

 ……これは余談だが、直政のバランス感覚は決していい方ではない。義腕と生身の腕の重さの違いや、梅組第三位の胸囲などなどの理由により、重心の位置が高く安定しないのだ。

 それでも、常に移動している武蔵上での生活や機関部の重労働などで鍛えられてはいるが……予測できない揺れはいささか厳しいものがあるのだ。

 

 

 だから、止水が『こうした理由』も理解できるし、心配に対してはむず痒くもありがたくもある。

 

 

 

 だが──。

 

 

 

 

(……こ、このやろう……! さては、なんとも思ってないね……!)

 

 

 見上げる位置にある、眼以外の殆どが隠された顔。故に表情はわからないが、『直政の安全は確保できた』とばかりに、すでに次の要救助者を探している。

 

 

(──そりゃあ確かにガサツだよあたしは。化粧っ気もなけりゃ洒落っ気だってないさね。でもいろいろ当たってんのにその反応かこの大木……!)

 

 

 ……ふと、直政は義手が下に引かれる感覚を得た。

 

 みれば、マルゴットが同情するような、なんとも言えない笑みを浮かべながら見上げているではないか。両腕で抱きついている彼女は、当然その豊かな胸を先ほどからずっと押し付けているわけであり……。

 

 

 ──ゴスッ、と。

 

 

「げっふ。……な、直政……?」

 

「ん? ああ、悪い。当 た っ た(なんか文句あっか?)

 

 ……ゴスッと入ったコブs──手は、なおもグリグリとされている気がしなくもない。が……止水は努めて気にしないことにした。決して、半眼で睨みあげてくる直政が怖かったからではない。たぶん。

 

 

(……浅間のおやっさんの占いって、結構当たるんだなぁ……。さて、と)

 

 

 ──気を取り直して。

 

 ぐるりと、誰よりも高い視線にて、周囲を見渡す。

 

 正純とホライゾンはネイトによって保護され、二代は自力で耐えている。点蔵は忍としての実力か、平然と甲板上を走り回って何やら作業中だ。

 

 この艦に乗り合わせている警護隊の面々も、見たところ問題はないだろう。詳しい内容はわからないが、英国からやってきた四人も撤退したらしい。

 

 

 ……みんな大丈夫そうだ、と安堵しようとして──。

 

 

「────?」

 

 

 

 それは、違和感。

 

 ……いや。

 

 

『……みん、なっ……!』

 

 

 突如、武蔵における全役職者、および襲名者たちに通神が走る。

 

 ……小さな声だ。

 うなる風にすら負けてしまいそうなほどか細い声だが、その通神が彼女からのものだとわかると、総員がその言葉を聞き逃すまいと耳を向ける。

 

 

 向井 鈴が、必死に、何かを伝えようとしている。それだけで、全体行動の理由足りえた。

 

 

『英国、じゃ、ないほう……! なに、か、飛んでく、る!』

 

『……ッ!? 対艦用の低速弾三発を確認! 二発は直撃コースです! ────以上!』

 

 

 

 

(……違う)

 

 

 突然の砲撃。その弾道は、ドリフト飛行を行っている武蔵の横腹を穿つ軌道。

 

 武蔵の声がいつも以上に鋭いのは、低速弾という大型艦でもなければ撃てないような砲撃をこの至近距離まで全く知覚できなかったからか。それとも、今現在も艦影すら補足できないからか。

 

 

 二度の爆炎が、同時に咲いた。左舷一番艦と二番艦の、左舷側前部が破裂。

 防御術式が間に合わなかったのか、それとも何かしらの理由があって張れなかったのかは置いておくとして。その爆発により……そこにいるだろう人々を守るべく、『守り刀の術式』が発動する。

 

 

 ──緋炎が、奔った。

 

 

「直撃……!? ッ止水!? だいじょぅおあ!?」

 

 

 それを問うた正純と、その正純と一緒にいたホライゾンとネイト。

 大丈夫か、と叫ぼうとして──奇声になってしまったのは、まあ仕方のないことだろう。

 

 

 ……荒れる風の中でさらに風をうならせ、緋の巨体が自分たちに覆いかぶさるように突撃してきたら、誰だって驚くに違いない。

 ……もちろん、何がおきたのか理解していないマルゴットと直政も込みだ。

 

 

 そして誰かが何かを告げるよりも早く、右手を甲板に付け、告げる。

 

 

「──変刀姿勢、守型【結刀界切(けっとうかいせつ)】・六刃鞘相(ろくじんしょうしょう)!」

 

  止水の全身の刀。そのうちの六刀が離れ、鞘と刀に分かれて十二。そのすべてが、止水たちを囲むようにして甲板に突き刺さる。

 

 すべてが突き刺さると……あれだけ荒れていた風が、消えた。

 

 

「し、しーちゃん、こ、これ、結界?」

 

「ん、似たようなもんだ。……みんな、ここから出るなよ?」

 

 

 全員の反応を確認する間もなく、その刀鞘の囲いから風吹き荒れる外へと一人飛び出し……止水は英国に向き、目を凝らす。

 

 

 

 先ほど感じたのは、違和感なんて軽いものではなかった。

 

 もっと強く、そして明確な方向性を持ったそれは、『警戒』と呼ばれるものであり……止水は、突如現れた砲弾ではなく、まったく別の何かに強いそれを抱いたのだ。

 

 

 そして、その何か。

 

 それを、止水は見つけた。

 

 

『……英国本土から強大な流体反応感知。術式照合完了、英国本土防衛用術式『 王 錫 剣 二 型(Ex.カリバーン) 』と判断いたします。────以上』

 

 

 距離が離れているためおおよその目測になるが、高さにして数メートル。幅にして、20から30メートルはあるだろう、光の帯。

 そして、有名すぎるその銘は、流石の止水でも知っている。──伝説の剣にして、王の選定剣だ。

 

 

「……そういや、一発残ってるのか」

 

 

 三発の砲弾。そのうち武蔵に当たったのは二発だけで、残りの一発がまだ残っている。

 そして、海洋側から武蔵を狙って外したのだから──当然、その砲弾は英国へと向かっている。それに呼応したのだろう、きっと。

 

 

(……本土防衛、ってことは、あれ()守る剣──ってことになるのかな)

 

 

 親近感──とまではいかないが、不思議な感じがした。

 

 知名度・認知度じゃ比べるまでもなく負けてるけど、歴史ならこっちが勝ってるし……と、割とどうでもいい上に子供地味た意地を張る止水が──自分自身に対して、首をかしげる。

 

 

 はて、何で自分は『 王 錫 剣 二 型(Ex.カリバーン) 』を、これほどまでに警戒しているのだろう、と。

 

 

 

 

「……。

 

 

 

 ……あ。これ、やばいかも」

 

 

 

 砲弾の位置。武蔵の位置。そして、今、天高くそびえた光剣の、根元の位置。

 高さも含めたその位置関係と、刀という剣を扱い続けた経験が、警鐘をかき鳴らしていたのだ。

 

 

 もし、あの光剣が上から下への振り下ろしではなく、左右どちらかのなぎ払いで砲弾を迎撃したら……?

 

 

「って考えたそばからやんなよな……ッ!」

 

 

 

 伸びる。伸びる。──その全体を伸ばしながら、横に。

 

 雲を散らし、波を逆立て──光の剣は砲弾を軽々と飲み込んだ。

 

 

 そしてその勢いのままに、武蔵へと迫る。

 

 

『ッ、衝撃来ます! 総員、対ショック体勢に──』

 

 

 

 そう告げている武蔵の声が、慌しく動き始めた周りの音が、遠くに聞こえる。

 

 全身にいまだ残る鈍痛はいつもどおり無視し──考える。

 あの剣は、武蔵の上をギリギリで()()。武蔵でギリギリ掠るということは、武蔵の真上にある輸送艦は、言うまでもなく飲み込まれるだろう。

 

 

 今から誰かに説明して、何かしらの対処をしようとしたとして。

 

 説明しているうちに、輸送艦は光の中に消えるだろう。

 

 

 

 

 

「……作戦1.この艦を今すぐ下げる」

 

 間に合わない。操縦ができないだろうし、今すぐ艦から飛び降りて武蔵に戻るのも危険すぎる。却下。

 

 

 

「んじゃあ、作戦2. 英国にあれを止めてもらう」

 

 砲弾はどうするのか。そもそもどうやってその旨を伝えるのか。却下。

 

 

 

 いよいよ迫る、光の奔流。数秒とないだろう。

 

 

 それに対し……止水はため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

「作戦3.

 

 

 

 あ と で 俺 が み ん な に 怒 ら れ る 」

 

 

 

 

 

 ……無理をするな、や、これ以上何もするな……などなど。アデーレなんて、それを楽しみにしている的な発言までしていたではないか。

 

 これ以上なにかすれば、一人石抱き耐久検査が始まるのだろうが──

 

 

 

 既に大太刀を担いでいる止水が、そこらへんまで考えているわけがなかった。

 

 

 

 




読了ありがとうございました!

次回、伝説の剣と無名の刀が激突します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。