境界線上の守り刀   作:陽紅

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八章 会談前の担い手たち 【狼】

 

 ──体に、灼熱が走る。それは一つ、二つ。三つ四つと増えていき、やがて数えるのが億劫になった。

 顔の内側を苛むのは、強い刺激を伴った柑橘系の香り。……滲む視界の中で、敵は朗々と歌うように告げた。

 

 

 ──late you "keeping wolf(首輪つきの狼).

 

 

 それは、哀れんでいるように聞こえた。野を駆けることを縛され、野生の象徴でありながら飼いならされていると。それを同情されているかのように聞こえた。

 こちらの攻撃は悉く潰され、しかし相手の攻め手は面白いように通ってくる。通ったと確信した攻撃さえ、あり得ないとしか言い様のない超反応で防がれるのだ。

 

 

 強敵で、そして難敵でもある。そう判断し、全力で力を振るったにも関わらず──。

 

 

「……っ」

 

 

 自身の相棒である銀の鎖。その一対を破壊されてしまったのだ。

 

 縛する鎖を破壊したその敵は、さらに朗々と歌う。無表情ながら、しかし誇るように。

 

 

 ──She call me "Nokeeping Gundog"(首輪知らずの猟犬).

 

 

 

 自分は猟犬だと告げた。

 狩猟のためにその牙を研ぎ、山野を駆けるべく繋がれることのない自分は、ただ一匹の猟犬なのだと。

 

 ……それを、己の主君が呼び称えてくれたのだと。

 敵は──彼女は。女王の盾符(トランプ)の『2』、F・ウオルシンガムは歌った。

 

 

 史実においてもウオルシンガムは国を守るために秘密警察を組織し、メアリ・スチュアートによって画策されたエリザベス暗殺を察知しこれを暴く。

 猟犬にして番犬。表の政治をウイリアム・セシルに任せ、裏の世界から謀略を用いてエリザベスの治世を守った。

 

 ……最も、史実ではエリザベス本人に『悪党』と嫌悪されていたようだが、この時代のこの主従には、そのような気配は欠片もない。

 

 

(……うらやましい、と──思わされた(わたくし)の負け、でしたわね)

 

 

 騎士として王を守るために戦い、そして、民草を守るために戦う。明確な戦力を持つことの許されない武蔵の中で、唯一武力を持つことを公的に許されているというのに……。

 

 

(我が王は──私の武力(ちから)を必要としてくれていらっしゃいますの……?)

 

 

 明確な戦力が必要なとき……王が呼ぶのは決まって親友(止水)の名だ。付き合いの長さから変な遠慮が必要ないのもあるだろうし、もしかしたら女子よりも男へのほうが頼みやすい、というのも若干くらいはあるかも知れない。

 

 もっとも、それが正しい選択なのだと理解もできる。

 

 

 ──彼は、武蔵最強だ。最たる強者なのだ。攻めても守っても、彼は他を圧倒していく。

 

 

 自身一番の特化と認識している力はかなりの差をつけられているし、総合的な戦力で見ても圧倒されている。

 

 

 それをどこかで、「しょうがない」と思ってしまっている自分もいて──それが──。

 

 

「あ……」

 

 

 そんなことを、グルグルと考え込んでいたせいだろう。

 

 どこか客観的に見えてた戦場()が薄れていき、意識の浮上を自覚する。暗闇は瞼を開ければ消え、代わりに、白い清潔そうな屋内の天井だ。

 

 

 

「……ここ、は……?」

 

 問いかけてみたが、答えは来なかった。

 見上げているのは見覚えのない天井で、どうやら自分は寝具に寝かされているらしい。薄着の下に引きつるような布感触を得て──それが包帯と治癒術式の札なのだと確認し、治療を施されていたのだと理解する。

 

 ゆっくりと身を起こし、深呼吸して状況を整理する。

 

 

「私は確か……ウオルシンガムと相対していて、一応の引き分けに持ち込んだ──」

 

 ──はず、ですわよね?

 

 

 残った二本の銀鎖に自分ごとウオルシンガムに巻きつかせ、噴水の水の中に沈んだ──そこから、記憶がない。誰かしらに回収してもらったのだろう。重量や状況を鑑みれば、候補は止水かウルキアガだろうか。

 

 

 しかしまあ……。

 

 

「……よ、よくよく考えたらかなり危ないことをしたんですのね……!」

 

 

 水の中で気を失うとか、もはや自殺行為でしかない。相手は自動人形で呼吸は必要ないのだろうが、ネイトはそうはいかない。回収が数分遅れただけでお葬式だ。

 外道連中のことだから、『人形レズ抱きで水没死』とか『リアルどざえもん』など不名誉な死因を書かれるに違いない。

 

 

 ……背筋にいやな冷たさを得たが、頭を振ってこれを追い出す。

 

 体に痛みはすでに無い。人狼の回復力がしっかりと働いている上に、治療符まで使っているのだ。薄い皮膚が少し引きつる感覚はあるものの、動く分には支障はないだろうし、全力戦闘もそう時間をかけずにできるようになるだろう。

 

 

「でも……これだけは、また最初からですわね……」

 

 

 ネイトは億劫そうに言って、己の利き手の指先──その爪を見る。一指し指と中指、そして小指の爪に、薄っすらとだが、確かに走る割れがあった。

 

 ──英国に輸送艦が落ちた際、子供を救出したのだが……その時に力み過ぎたのか爪が欠けてしまい──変に歪んではまずいと時間をかけて治癒していたところに、あの戦闘だ。

 

 これを言い訳にするつもりは毛頭無いが、むず痒い感覚で集中できず、また銀鎖の操作にもかなり難があったのも事実。──最初から、どころか完全に割れとして爪に刻まれている。

 

 またしばらくあの痛痒に──いや、それ以上のものに当分苛まれることになるのか、と若干気分を下げるが、自身の不手際と無理やりに切り替える

 

 

「──まずは我が王とホライゾンのデートが上手くいったのか、それを確かめなければ始まりませんわね」

 

 

 そのためにも、こんなあからさまに『私負傷してますわ!』と物語る装いを改めなければなるまい。心配されたくないわけではないが、罪悪感をもたれたくはない。

 

 とりあえず、治癒符やら包帯を取っ払ってしまおうと薄い白衣を脱ぎ──止まる。

 

 

「……こ、これ。やってくれたのは喜美か智ですわよね?」

 

 

 詳細は省くが、白衣と包帯と治癒符をとったらトーリ──ではなく全裸だった。穿いていたはずの下着すらない。

 きっと治癒符をつけるためか、濡れた衣類で体を冷やさないための考慮だろう。そうでなければドカンと一発かますことになる。

 

 

「うぅー……!」

 

 

 だがまあ、当然恥ずかしい。同性とはいえ、正当性があったとはいえ、余すことなく包み隠さず見られて平気なわけがない。

 それでも唸りつつ顔を赤くしつつ、包帯を外し、治癒符を剥がし──再び白衣を着ようと手を伸ばして。

 

 

 ──ガチャ。

 

 

 

「ふぇ……?」

 

 

 

 ──扉が、開いた。

 

 

 

「ほぉら見て! ほら見て愚弟! ミトツダイラったらあんなに、あ・ん・な・に! オパーイを削られてあんなストーン(↓)に! ややハードじゃなくてガチハードよ!! 」

 

 開いた先には空間が当然広がっていて、その広がった空間を作り出した狂姉が狂った言葉で狂った言語を構築している。

 

 そして、その隣には服を着ている目を輝かせた全裸と着飾っている目を光らせている武蔵姫がいて、左右の違いはあっても親指をあげて何かしらの意思をこちらに──。

 

 

「きゃぁあああああ!?」

「さ、サイドてーぶるぁぁああ!?」

 

 

 何かを投げた気がするが、詳細は知らない。持ち辛い何かだ。教員の教えどおりに第二撃を用意し、その傍ら、残った片手でシーツを引っつかむ。

 

 

 

   ──ひぃ!? ズドンか!? ズドンと誰かが撃たれたのか!?

   ──お、落ち着け! 今のはドカンだ! つまり……鎖で縛る折檻がハァハァ

 

   ──おいおい落ち着けよお前ら! ネイトは攻めじゃなくて受けって決まってんダロ!? ……ってか助けてくんね? ボケが地味に足りなくてダメージイテェイテェ……。

 

   ──なッ!? おい! 総長が服着てるぞ! 番屋に通報しろ! ……ん?

 

 

 

「なななななんですの一体!? 喜美!?」

 

「……あんた、一応病み上がり? なんだから大人しくしときなさい? 起床早々擬音祭りとか、テンションハイでも流石にだめよ?」

 

「誰のせいだと思ってるんですの!?」

 

 

 恥ずかしさと怒りで髪を逆立てつつ吼えるネイトだが、そんな抗議が喜美に通るはずもなく。

 涙目で睨みつけていると、トーリが帰還した。壁を二、三枚ぶち抜いたはずだが、無傷である。

 

 

「ただいまー……っつーかネイト、だめだぜ無理しちゃあ」

「だから誰のせいだと思ってるんですの!? き、着替え中に、そもそもレディの部屋にノックもなしで……!」

 

 

 非常識ですわよ、とさらに言い募ろうとした。だがそれより先にトーリが、だってよ、と言葉をかぶせてくる。

 

 

「──おめぇのことだから、たぶん怪我とかそういうの、隠しちまうだろ? だから隠す前に見舞いにきたんじゃねぇか」

 

 

 グ、とネイトは思わず尻込みしてしまう。負傷を隠そうとしたのは事実だからだ。

 ついで、心配され……理解されていることに対して顔に熱が上がってくる。それが原因かどうかは定かではないが、用意していた二撃目を掴んでいた手が緩んだ。

 

 それをとっさに、両手で、()()で支えた。

 

 

 ──体を隠すためにシーツを握っていた手を、思わず離して……支えた。

 

 シーツは当然、支えを失ったわけであり……。

 

 

 

「「……わぁお」」

 

「ふむ──つまり、ここでホライゾンがするべき行動はこれですね……

 

 

 こ、この泥棒ネコ……!」

 

 

 

 ──狼です。

 

 直後、イヤ、と尾を引くような大きな悲鳴と共に、一撃目より大きなドカンが艦内に響いた。

 

 

 

   ──お、また来た。ほらな、言ったろ? 賭けは俺の勝ちだな。

   ──く、くっそぅ! おい総長! 二度ネタしてんじゃねぇよ! 今月ただでさえピンチなのにぃ……!

 

   ──ヘイヘイ! 心配しようZE! ほら見て! ボロボロだぜ俺!

   ──……はっ(鼻笑)×25

 

 

 何気にトーリも頑丈なようである。──ボケ術式が仕事をしているのだろうか。

 

 そんな、壁に出来た出来立ての穴を覗き込み、喜美は優しげに笑う。

 

 

「んふふ、その様子だと、問題ないみたいね?」

「Jud. 大丈夫そうでなによりです」

 

「ど こ が で す の ! ?」

 

 

 問題しかないと息を荒げつつ、ネイトは同じ轍は踏むまいとシーツを体に巻きつける。

 怒鳴られたはずの喜美は、しかし笑みを浮かべたまま。

 

 

「なにって決まってるでしょう? 怪我よ、怪・我」

 

 

 吐息一つ。

 

 

「……あんたが寝てる間、止水のおバカがずっと傍にいたんだから。この賢姉が軽く嫉妬ファイヤーするくらい心配そうによ? ナルゼといいあんたといい、役得過ぎるじゃない」

 

「え……?」

 

 

 言われて、初めて。

 部屋の中に残る、その匂いを意識する。

 

 扉を開けてから入ってきた匂いは、姉弟と姫の匂い。同じ洗髪料を使っているから、わかりやすい。

 そして、部屋にずっといた自分の匂いと──それと同じだけ残っている、血の鉄と刀の鋼。

 

 

「はぁ……私の治癒力くらい、貴方はよく知っているはずでしょうに」

 

 

 一番強く残っているのは、ベッドの傍らだ。ベッドに寄りかかるようにして地べたにでも座っていたのだろう。

 

 その事実に、ネイトは呆れる。呆れながら、笑う。

 

 

「でも……ありがとうございます、と言っておきますわ。止水さん」

 

 

 

 

 

「ん、呼んだ?」

 

 

 

 

 

「「「…………」」」

 

 

 ……入り口から、ヒョイと顔を覗き込ませたのは止水だ。すぐ近くの喜美とホライゾンを見下ろし、ついで、穴から帰還したばかりのトーリを順に見る。

 

 

「お、ダムじゃねぇか! どうしたんだよこんなところで! ……あれ、おめぇ確か、浅間の父ちゃんに術式の云々見てもらうって言ってなかったっけか?」

 

「あー……俺もそのつもりだったんだけどさ、なんか智がいきなり乱入してきたから──その、逃げてきた。……お前こそどうしたんだよ? やけにボロボロだけど……」

 

 

 壁の大穴を冷や汗交じりに眺め、そしてそっと、部屋の中を見る。そこには当然シーツを巻きつけたネイトがいるわけで。

 

 

「まあ……ネイトだよな。でも良かった。大事なさそうで」

 

 

 そういって、高襟の奥で笑みを浮かべる止水。

 真っ直ぐ過ぎる心配やら喜びやらが気恥ずかしく、ソッポを向くネイト。だが、やはりまんざらでもないらしく。

 

 

 

「……ああ、ホライゾン? さっきのだけど、ちょっと減点よ?」

「? はて、ホライゾンの行動に減点要素がありましたでしょうか?」

「わからない? ンフフしょうがないわね。この賢姉がお手本を見せてあげるからしっかり見ておきなさい」

 

 

 喜美は徐に、男二人から心配をされて表情筋を必死に固めているネイトへと近づき──……その身を覆う唯一の布、その留め部を掻っ攫う。

 

 唸りを上げて舞うシーツを、つま先と掲げた手でピンと張り、即席の『壁』を作る。

 そこから顔を半分覗かせ、半眼で睨み付け。

 

 

「この……ッ泥棒ネコ……ッ!」

 

 

 ガチな声音で、告げた。

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

「Jud.小道具の有無ですか……ホライゾンとしたことが、失念をしておりました。今後の参考にさせていただきます」

「クフフ、その意気よホライゾン。いい女は常にこれからを見据えて色々と吸収していくのよ!? 

 あ、これ返すわね?」

 

 

 シーツを──プルプルと震えだしたネイトにかける。そのまま喜美はスタコラとホライゾンの背を押して、危険域から離脱した。

 

 

「……ダム、ダム。ヘルプ。俺もうたぶん次はボケ枯渇で死ねる」

「……そっか。でもさ、何をおいてもとりあえず──謝ろうぜ?」

 

 

 そうだな、と。王と刀の二人の馬鹿が横に並ぶ。

 

 

 

「「その……見ちゃって、ごめんなさい」」

 

「っ! バカァァアアアア!!!」

 

 

 三度目のドカンは、ベッドだったそうな。

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「──よし、全員集まったな。それじゃあ、明日に控えた『武蔵・英国合同会議』とその前にある立食会にいくメンバーを決めようと思う。

 ……んだが。

 

 あー、そこの馬鹿二人。真面目な話なんだが? わかるか真面目って言葉の意味」

 

 

「あ"あ"!? なんだよセージュン! この顔見ろよ! どっからどう見ても真面目くんそのものだろ!?」

「知っているか馬鹿。馬鹿はどんな顔をしても馬鹿にしかならんのだ。つまり価値はゼロのままというわけだ──ちっ、使えん奴め」

 

 のっけから毒舌フルスロットルな守銭奴シロジロと、強い呆れを見せる正純の二人が、そろってかなり高い位置にある二人を見上げる。

 

 

「……俺、最近こういうの多いなぁ」

 

 

 鎖巻きされたり縄リードされたり反省正座させられたり。

 

 

「っつかよくダム磔できたよな。ウッキーがなんかやたら張り切ってたけど」

 

 

 十字架に、磔刑されている刀と王の馬鹿二人。わざわざ十字架を体の大きさに合わせている徹底振りだ(半竜寝具店『今日も束縛』提供)。ちなみに片方は全裸である。

 そしてふと、何を思ったのか全裸のほうが目を閉じ、わずかに首をかしげるように──。

 

 

「……イ○ス・キ○○ト!!」

 

「止せやめろ各多方面に喧嘩売ってるぞそれ!!」

 

 

 一瞬だが本気でそう見えてしまったので笑えない。

 周囲を確認し、誰にも見られていないことを確認するとトーリに布をかぶせる。一応会議には形だけでも参加させなければ駄目なので、顔だけ出させていた。

 

 

「おいなんだよハダカシーツって! これじゃまるでさっきのネイっ……」

 

 

 馬鹿が何かを言おうとしたようだが、不自然に黙ってしまう。なお余談だが、二人の三種の首を縛するのは銀色の鎖だった。

 

 

「? まあいい。話を戻すが、基本的には生徒会ならびに総長連合の役職者はほぼ確定だ。だが立食会のほうには、向井とバルフェット──今回外交官として赴いてもらった二人にも参加してほしい」

 

「J、Jud.あっ、で、でも何すれば、いいの、かな?」

「──特筆してすべきこと、という内容はないんだ。英国との正式な立食会に一般生徒が参加する。これだけで各国は、向井の武蔵においての重要性を勝手に想像してくれるというわけだ」

 

「フフ、まあ、実際『至宝』なんだから事実よね? ああ、私も立食会には参加するわよ? 副王の姉と未来姉ですもの。あと着付けとか化粧とかのチェックとか、足らない連中ばっかだし」

 

 

 そう言った喜美をネイトが襲い掛からんばかりの本気睨みを向けているのだが、正純は努めて無視した。ただ飯に目を輝かせているアデーレにも以下同文。

 

 

「ふむ。葵姉が参加、か。ならば、衣装などの打ち合わせを後でハイディとしておけ。ある程度までなら生徒会の経費で落としてやる。

 それと、ネシンバラが現状役立た……役立たずか。なので、書記の代理として浅間、貴様に依頼したい。一般生徒とは言え、極東を代表する神社の一人娘だ。表立って文句は言えんだろうからな」

 

「うわ情けも容赦も無しですよこの守銭奴……でも、とりあえず了解しました。通神伝言板(チャット)の改良なんかも明日までに十分できますし、会議用に調整しておきますね」 

 

 

 シロジロの目の前に表示枠が現れるが、彼は一瞥もくれずに叩き割る。おそらく、どこぞの書記からの抗議文だろう。かれには一銭の価値もないらしい。

 

 正純はそれに苦笑しつつ、総長連合・生徒会以外のメンバーはこれで決定だろう、と内心にて一つ区切りをつける。ここからは逆……総長連合・生徒会のメンバーで欠席するメンバーだ。

 

 

「クロスユナイトは欠席するとのことだ。職業柄、公の場面は回避したいらしい。──それに負傷中だからな。まあ、直接戦闘をするわけじゃないから問題はないだろう。

 ナルゼも、一応問題はないが大事を取って今回は不参加にさせるつもりだ。

 

 そして先ほども言ったが、ネシンバラも欠席だ。腕の呪いの影響で武蔵の不利に動かれる可能性がある」

 

 

 点蔵はあれでなかなかに博識であり機転も利く。ありえないとは思うが、万が一の際には戦力としても頼れたろう。ナルゼも以前に見せた広範囲の妨害攻撃など、室内ではかなり強いだろう。

 ネシンバラは当然その知識量だ。会議という対話の場で、とっさにほしい情報が長文解説で知ることができるのはこの上ない『武器』なのだが──今回ばかりは致し方ない。

 

 

((……問題なのが……))

 

 

 守銭奴・副会長そろって、十字架を見上げる。布をかぶせられ、しかしそれを剥がそうとクネクネしている全裸がいるのだが……。

 

 

「──適当な人形にバカの顔写真を張って、『これが我が教導院の総長兼生徒会長です』と出席させるか」

 

「いや、失礼にもほどがあるぞそれ……」

 

「ふん。本物を連れて行って取り返しのつかない失礼をされるよりはマシだ。マイナスならより損害の少ないほうだ」

 

 

 トーリの評価は絶好調のようである。

 固定されていない胴体を前後に動かして布を取ろうとしていたようだが、臀部を柱に強打して呻くだけであった。

 

 

 だが、まあ、やるべきときにはやってくれる。だろう。きっと。たぶん。

 

 とりあえず、鎮圧用の縄や薬は多めに持っていくとする。

 

 

「では、生徒会からは、会計の私とその補佐としてハイディ。そして副会長の正純か」

 

「Jud. 総長連合からは副長の二代を筆頭に、ウルキアガ、ナイト、ミトツダイラ、直政の各特務。一般生徒からは向井とバルフェット、そして葵姉と浅間だ。浅間以外の三人は、立食会のみの出席となる」

 

 

 一息つく。そして、改めて一同を見渡し──。

 

 

「全員よく聞いてくれ。明日……明日から本当の意味での『世界への挑戦』が始まると思ってほしい。三河で決起した私たちの、言わば初戦だ。一歩目で躓くわけにも、ましてや転ぶわけにもいかない。

 ──頼むぞ?」

 

 

 

 ──Judgment.!

 

 

 

 

 ……そして、一同が結束している、その傍らで。

 

 

「…………」

 

 

 シロジロが難しい顔で、終ぞ名前が挙がることのなかった、守り刀を見上げていた。

 

 




今年一年ありがとうございました!

来年もどうか、お付き合いください!!

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