境界線上の守り刀   作:陽紅

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……難産でした……


九章 会談上の着飾り者  【伍】

 

 

 ベラスケスは、自分──いや、自分たちに集約される視線を適当に流しつつ、軽い足取りで歩を進める。

 それに半歩ほど遅れて隣についてくる誾。彼女が程よい適度な緊張を張ってくれているおかげで、ほぼ敵陣と言える真っ只中を、丸腰な上にそもそも画家であるベラスケスが歩けるのだ。

 

 

 

(……さぁて、オッサンもがんばるとすっかねぇ)

 

 

 咥えたパイプを、さらに強く噛む。

 全員の注意を引くことには成功した。あとは──と、次の言葉を続けようとしたところで、視界の隅で何かが動く。

 

 それは、下半身裸の男だった。

 

 

「あ! 『チーム・ベラスケス』の社長じゃんか!? 俺アンタんとこのエロゲにはいっつもお世話になってんだぜ! 肌色モザイクが王道かって思ってたんだけどよ、社長の肌色リアル系塗りで俺、一皮向けたぜ! 次回作も頼むわ!」

 

 

 シン、と静まり返っていたからだろう。半裸の言葉は無駄によく響いて、それはそれは反響した。

 

 ……心なしか、隣の少女の緊張が緩み、緩んだ分冷たい視線が此方に向けられている気がする。

 

 

「すみません書記。もう数歩、離れてもいいでしょうか。間合いのギリギリにはいるようにいたしますので」

 

 

 冷たい視線どころか冷たい言葉が叩きつけられた。

 

 

「おいおい勘弁してくんねぇか? 俺が直接戦闘力ほぼほぼ皆無なのは知ってるだろ? それにほら、あれは、あれだ。小遣い稼ぎっていうか趣味だからノーカンだろ」

 

 

 『小遣い稼ぎにエロゲか……』『趣味にしちゃまずくない?』などなど、左右の陣営から聞こえるが努めて無視する。

 

 咳払い。

 年長者としての威厳を早急に見せ付けなければ。

 

 

「あー、三征西班牙(トレス・エスパニア)を代表して、ちょっとこの会議に口出しさせてもらうぜ? 口出しっつってもあれだ、英国の提案に対して三征西班牙(俺たち)も武蔵に対して提案があるってだけなんだけどな」

 

「……両国間会議に割って入ってまで言う必要のある提案が、『だけ』のつく話で済むとは思えんのだが? 今この場で、招待していない客を追い返しても、私は一向に構わないのだぞ?」

 

 

 エリザベス(女王)の言葉に、盾符の面々は僅かに身構える。それに対して誾も緊張をさらに高め、ベラスケスの前に出ようとして……遮るように伸ばされた腕がそれを止めた。

 

 

「そう冷てぇこと言うなって。もうじき『アルマダ海戦』っていう面倒極まり……あー、まあ、なんだ。大変な歴史再現を一緒に乗り切る仲じゃねぇか」

 

 

 聖連所属の教導院の役員が言っちゃいけない言葉がチラリと聞こえかけ、それを盗聴していた某教皇総長が眼を鋭くしかけていた。

 当のベラスケスは危ない危ないと、どうでも良さ気にため息をつき、続ける。

 

「それに、俺たちの提案は武蔵に向けたもんだが、内容はほとんど『アルマダ海戦』のもんでな。英国としても、無視はできねぇだろ? ……そんで、武蔵にとっても益しかねぇ話だと思ってんだけどな」

 

 

 その言葉に、エリザベスは内心に舌打ちを。正純は困惑を、それぞれ打ち、浮かべた。

 

 三征西班牙(トレス・エスパニア)は敵か味方か──と判断しようとしたなら、間違いなく、正純は『敵』と即断するだろう。

 三河での抗争で武蔵はかの国から大罪武装の一つを奪還したばかりであり、さらに近日で言えば、英国の領海に入る前に奇襲されたばかりである。 

 

 ──敵に塩を送る。なんて諺があるにはあるだろうが。

 

 

(このタイミングで……?)

 

 

 上座に英国の長、下座の出入り口から三征西班牙(トレス・エスパニア)

 丁度、挟まれるように立つ正純はまさしく板ばさみだ。前を見、後ろを見……ちらりと止水へ視線を送ったのはまあスルーしてあげるとして。

 

 

「ふん……」

 

 エリザベスが、苛立たしげに背凭れに背を押し付けるようにして、()()()。アルマダ海戦は英国にとっても重要な歴史再現の一つである以上、それに関しているというその提案を、無下にはできないと判断したのだろう。

 

 暗に、ベラスケスの発言を許す、と。

 

 

「──感謝を。

 

 で、だ。なあ、武蔵。俺らと一緒に戦争しねぇか? ──英国相手によ」

 

 

 ……ベラスケスはいい笑顔で、そんな爆弾をヒョイと投げ落とした。

 

 

 

 

 ──絶句、唖然としている中を、ベラスケスの言葉だけが響く。

 

 

「聞いてりゃよ、武蔵は大罪武装を集めに行きたい。しかし英国は、それを許さず自国に留めたい。真っ向からの食い違いだな、ならもう、力尽くでいくしかねぇだろ」

「待て! その結論は短絡的過ぎる! 我々は英国との戦争なんて……!」

 

「望んでねぇのか? 本当に。……けどよ、アンタは三河であれだけの啖呵切ってたじゃねぇか。なぁ、武蔵副会長さんよ」

 

 望んでなどいない、と言おうとした正純を、ベラスケスが言葉を重ねることで遮る。さらに、まるで『英国に対して戦争しなければいけない理由がある』かのように……。

 

 

(三河……啖呵? ……まさか!?)

 

 ベラスケスの言わんとしたことを理解した正純が、彼女を見る。その彼女は無表情ながらどこかキョトンと──。

 

 

「なんですか正純様。──ホライゾンは現在飲食物などは持ってはおりませんが?」

 

 

 だれが腹ペコキャラか……!

 

 

「──『歴史再現を悪用した、ただの殺人行為』、だっけか。俺は現場にゃいなかったが……その意見にゃ大賛成だ。俺みてぇな年寄りならまだしも、若ぇ連中がその役目を負うなんざ間違ってるってな……まぁ、俺の意見はさて置いてよ。その主張、今の英国にもぶつけられるんじゃねぇのか?

 アルマダ海戦の引き金に、 ダブルブラッティ(重双血塗れ)・メアリの処刑をやろうとしている英国に、よ」

 

 

 ホライゾンを救う大義名分。正純は二つを掲げ、それを言葉とした。ベラスケスが今回持ち出したのは、その一つ目──。

 それが見事に、逆手に取られてしまった。

 

 

(いやな手を使ってくる……ここで三征西班牙(トレス・エスパニア)の提案を蹴れば、三河での私の言った言葉が『その場凌ぎの大儀』になる……そうなったら)

 

 

 ──今後、各国相手に交渉するであろう正純の発言のすべてが、何の信憑性もない戯言になってしまう。それどころか、三河での決起そのものが揺らぎ──聖連加盟国がここぞと叩きに来るだろう。

 かといって、三征西班牙(トレス・エスパニア)の提案を飲み、アルマダ海戦に参戦して英国と戦争をしようものなら……間違いなく英国との国交は絶望的になるだろう。また海戦時に三征西班牙(トレス・エスパニア)からどんな難役を押し付けられるかわかったものではない。

 

 

 結構な難題だが……まだだ。まだ巻き返せる。

 そう正純は判断し、ベラスケスに対して反論の言葉を作ろうとして──口を少しあけて、止まる。

 

 

 ──英国と、武蔵。この会議は、その二カ国による合同のものだった。気づけば、三カ国目が飛び入りで物言いをしていたのだが、まだ『想定していた想定外』として考えていた。

 事実、昨日の非公式の相対戦で三征西班牙が英国に来ていたのだ。もしかしたら、と可能性は考えていた。

 

 

 だが。

 

 

  ──「……やあ。ずいぶん面白そうな話をしてるじゃないか。僕らも混ぜてくれないかい?」

 

 

(いくらなんでも波乱が過ぎるだろ……!?)

 

 

 

 赤染めの制服は、M.H.R.R.(神聖ローマ帝国)にある教導院、A.H.R.R.S.のもの。足元が消えているのは、彼が生者でない証。

 

 

「一応自己紹介しておこうか。P.A.ODA……P.A.O.M.所属の──前田利家だ。いろいろ兼任している立場だから……まあ、参加資格は十分にあるだろう?」

 

 

 にこやかに笑みを浮かべるその男の乱入により──もはや、場の収拾は付かないだろう。

 

 

 

 

***

 

 

どうなるのか

 

どうなっているのか

 

 

 理解できず おいてけぼり

 

 

 

配点《ですよねぇー》

 

 

***

 

 

 

 

(……はぁ)

 

 

 ……肩こったなぁ、と。

 

 表情に一切出さず、しかし内心でもうグデングテンになっていた。

 

 

 酒井とヨシナオに連れられ、『男の決め服は黒だ!』と熱弁するおっさん二人に促されるままに黒の和装を着込み──そこにフル装備した武蔵が突撃してきて瞬く間に場を制圧。

 直後軽い足取りで現れた青雷亭の店主も加わり、止水を着飾った。

 

 武蔵の用意した、白の羽織り。背中にアリアダストの校章を紋として刻んでいるのだが……往来にして『ブラコン』と比喩される彼女がその程度で済ませるはずもなく。まさかの両面使用可能(リバーシブル)である。

 

 なお、裏面は色調を逆にした黒……その背には校章ではなく、達筆の白字で『武蔵』と刻まれている。武蔵という国を背負うという意味なのだろう……若干、『所有者の名前』に見えなくもないが、深読みはしないでおこう。

 

 

 そして、青雷亭の店主……ヨシキが、鮮やかな『紫』色の腰帯を用意した。かなり近づかなければわからないほどうっすらと『華』柄の刺繍のあるそれが、誰を示しているのかは、容易に想像ができる。ヨシキらしい心配りと言えるだろう。

 

 そして、黒、白、紫とあわせ──やはり守り刀として出るならば、と緋色の袷を黒と白の間に挟んだのが、今の止水だ。

 

 

 

 そんな止水は、がんばっていた。

 

 ──がんばって、話の内容を何とか理解していた。

 

 

 

 正純が言っていた内容はわかる。というより当事者の一人だ。(それでも若干怪しいが)

 英国の女王が返した内容も、まだわかる。ようは正純の意見に反対しているのだろう。(元が若干怪しい理解のため相当怪しいが)

 

 

(……この気配って、確か……宗茂の嫁さんの──あー、立花、ギン? だっけ。あいつだよなぁ)

 

 と。振り返ることなく、気配でなんとなく察知──そしてその隣にいる大体酒井と同年代くらいの男の言っていた内容も、ギリギリ、本当にギリギリで理解できていた。当然だが……説明しろ、と言われたら即刻ごめんなさいと頭を下げるレベルでだが。

 

 

 だが、そこにさらにもう一人──走狗的な存在も含めると二人だが──の登場で、もう理解する作業を投げ出した。所謂『もうどうにでもなーれ』である。

 

 投げ出したところで、ウオルシンガムが利家に向かってグラスを投げつけて『頭を下げろ』と言葉なく強要したり、そのグラスを飲み干した走狗、『松』が盛大なゲップをかましたりしたが、止水の耳を右から左だ。

 

 

(蕎麦だけじゃ足りなかったなぁ、これ……)

 

 

 そしてとうとう、会議の『か』の字も止水の思考から消える。思うのは軽く済ませてしまった本日の晩飯だ。

 

 ……蕎麦が特別好き、というわけではない。基本素朴系を好む止水なのだが、流石に今回は間違えたと、涼やかな表情の下で顔をしかめている。

 

 自分のいる場所は武蔵だと宣言しにきたはいいものの、なし崩し的に会議に参加する形になり──長丁場になる気配を見せていた。 

 

 

 早く終わらないかなぁ、と止水がこっそり息をつくと、新参──前田 利家が声を上げる。

 

 

三征西班牙(トレス・エスパニア)が武蔵に提案するっていうなら、こっちは英国に提案しようか。

 ──妖精女王。今ここで、武蔵を潰してくれないかい? なんなら僕らに命じてくれたっていい。『お得意様』の好で、今回は特別サービス。無料で引き受けるよ」

 

 

 そんな利家の、明らかな敵対宣言も。

 近くの正純や智の身構えた気配を感じて、それからようやく理解したのだ。

 

 本来ならそれは、武蔵の守護をその役割とする特務に就いている止水にとっては警戒すべき発言で、断固として許容してはならない発言でもあるのだが……。

 

 

(帰りに青雷亭に寄って……いやいや、でもなぁ……今米って気分だしなぁ)

 

 

 この通りである。

 

 一応弁護としてだが、馬鹿が馬鹿を突き抜けたわけではなく……今この場は、『会議』という言葉を持ってして結果を導く場だと止水は考えている。そして、武力や力技でしか解決策を持たない自分は、この場で動くべきではないと判断したが故の……故の……。

 

 

(ん。よし。あの店が開いてたらあそこ行こう。開いてなかったら適当に済ませるか)

 

 

 ──馬鹿が馬鹿を突き抜けただけかも知れない。

 ちなみに、もう一人の馬鹿は『おー』と何を関心しているのかわからないが、関心したように利家を見ていた。

 

 だが、そんな二人だからだろう。

 

 ほかの一同が少なからず身構えたり、わずかにでも気を尖らせている中で、二人はやけに目立っていた。

 

 ……いまだ振り向いてさえいない止水は、殊のほかに。

 

 

 

「……冗談じゃ、ないんだけどなぁ。知らないのかも知れないけど、僕らP.A.ODAには、大罪武装の振り分けがなかった。けど、それを補って有り余る武装を御館様から六天魔はそれぞれ授けられているんだよ。

 六天の四を預かる僕らのそれは、数の力。百万の軍勢を黄泉から呼び起こす逆治癒の"癒使(イスラフイル)"──何の用意もない今の武蔵なら、数分とかからず蹂躙できるだろうね。なんなら、今からやってみようか。主戦力がここに集合しているなら──二万もいれば、足りるだろう?」

 

 

 そう自慢気に告げた利家の頬が、わずかに──だがしっかりと、引きつった。

 

 蹂躙できると告げてやった。にも関わらず、『以前カチンとさせられた相手』は、今度は振り向くことさえもしない。

 肩先で浮かんでいる松も少々ムッと来ているらしく、眉を逆ハの字にして軽く唸っている。

 

 

―*―

 

貧従士『あ、あのー……武蔵の寄港しているあたりにすごい数が現れてるんですけど……大丈夫ですかコレ』

 

ウキー『本気、か。……しかし止水のやつ、ガン無視であるな』

 

賢 姉『んー。ちょっと浅間ー。こっそり止水のお馬鹿の顔映してくれる?』

 

  『あさま』 さん が 画像を添付しました。

 

銀 狼『……速過ぎますわよ智。さては貴女、すでに何枚か納めてますわね?』

 

金マル『え? ミトっつぁん撮ってないの? ナイちゃんお土産(ガッちゃん)用と保存(ナイちゃん)用でもう30枚くらいパシャッてるよ?』

 

煙草女『撮り過ぎだろ……それより、喜美。なんかあんのかい?』

 

賢 姉『ククク知りたい? 知りたいの? 教えてあげてもいいわよ!? その代わりベストショットを謙譲しなさい!?』

 

俺  『姉ちゃん姉ちゃん! ……これもうダムも参加してるってこと忘れてね? つか皆も』

 

 

影 打『あ、ごめん。考え事してた。何のはな』

 

 

 『 あさま 』 さん が 強制切断 しました

 

 

―*―

 

 

 

「……ふう」

 

 と、わざとらしく、大げさにため息をついたのは──会議が始まって以来、ずっと無言を貫いていた姫だった。

 

 

「で、どういうことですかトーリ様。これは武蔵と英国の会議だとホライゾンは記憶しておりますが、何ゆえ倍の四カ国でワッショイになっているのですか。

 それと止水様。……青雷亭以外の料理屋に行くとは、裏切りですか? いえ浮気ですね。店主様に報告させていただきます」

 

 

 そして、やや緊迫の様相を見せ始めた場を、完膚なきまでに、ぶっ壊す。

 

 

「え? それ俺に言うの? セージュンじゃね? セージュンか妖女じゃねそれ言う相手」

 

「……反論を。手前は青雷亭以外の料理屋も利用してございますれば、そのような謂れは不当と存じます」

( 訳:姫さん待った。それは本当に待った。ヨシキさんが絶対悪ノリするからそれは頼むから本当に待った)

 

 

「Jud. ホライゾンの考えですと、この二件は正純様よりも、そして他の何方よりも。それぞれトーリ様と止水様がお答えになるべきことではないかと。──報告は結果次第で、ええ」

 

 

 そう言って……ジッ、と二人を見るホライゾン。

 

 それに困ったのはトーリと止水だ。──お互いがお互いの顔を見て、そして、おそらく同時に同じことを思い出したのだろう。やれやれとばかりに、苦笑を浮かべる。

 

 

 ……昔からこうだ。何かにつけて、二人はよく駆り出される。

 誰がどう見ても適任でなくとも関係なく、当人たちが『俺たちじゃなくてもよくね?』と反論でもしようものなら、精神か物理かで結構なダメージを覚悟しなければならない。

 

 

 そして、どの道駆り出された先でも結構な被害を被る場合が多く……どっちの被害が少ないだろう、という即座の判断は否応なしに鍛えられた二人であった。

 

 

「あー……しゃあねぇ。やっか。ダム。 ……あ、もう普通にしゃべれよ? こう、対比的な感じで俺がバカに見えちまうから」

「人がせっかく頑張ってたのに──まあ、いいや。Jud. 」

 

 

 先んじて進むトーリに僅かに遅れ、エリザベスと盾符の面々にそれぞれ一礼し、その後に続く。

 

 

 トーリは三征西班牙(トレス・エスパニア)の二人へ。

 

 止水は、P.A.ODA……前田 利家と松へと。

 

 

 

「おい社長。おめぇさっき、いろいろ云々かんぬん言って英国と戦争しろー、って言ってたよな」

「……ああ、そうだな。三河で俺らと戦争した理由と同じモンが、今の英国にはある。こっちはよくてこっちはだめ、なんて真似はしねぇよな?」

 

 

「……で、前田って言ったか? さっき、数の力がどうとか──『百万の軍勢で、武蔵を蹂躙する』って聞いたんだけど、間違ってないよな?」

「……ないよ。そもそも、極東の贖罪って旗を君らは掲げてるようだけど、僕らからしたら、頼りなくって任せられないんだよ。何も知らない外様の連中が、我が物顔で何様だ、ってね。

 断言するよ。君らはこの先、地獄を進むような道を往く。ならいっそここで潰してあげるのが情けってもんだろう?」

 

 

 半裸を前に、ベラスケスが。

 巨体を前に、前田 利家が。

 

 それぞれの国、それぞれの立場からの言葉をぶつける。両雄ともに、先ほどと変わらぬ意見だ。利家は若干言葉なりが強くなっているが、些細な差だろう。

 

 

 ──対し、武蔵の『後悔通りの双主』は……。

 

 

「おいおい違うぜ社長! ホライゾンのときと今じゃ全然違うからな! トゥルーとバットのエンドくらいの差あっから! ゲーム作ってんのにその違いもわかんねぇのか!? いいか、よく聞け!」

 

「無用なお心使い、ありがたくもなく。……武蔵はな、『進む』って決めたんだ。その先が地獄だろうがなんだろうが。そして地獄ってんなら──俺はそれから、守るだけだ」

 

 

 言葉の質は、どちらかといえば真逆だ。片方は勢いに任せ、片方は、どちらかといえば淡々と。

 

 互いに、弁が立つとは言えない。頭が良いとも言えないが。

 

 

 ……それでもどちらも、この十年。その行動で、万言を示してきたのだ。

 

 

  「俺が! お・れ・が! ホライゾンを助けてぇって思ったんだよ! それを前例だのなんだの、あれだ! 難しい言葉でくくんじゃねぇよ! 今と前とじゃ違ぇだろうが!」

 

  「二万で足りる? ケチなこというなよ。百万千万、出せるだけ全部出してこい。アンタが納得するまで、付き合ってやるよ」

 

 

 

 語る語る。

 

 王と刀が、それぞれに。思いの丈と、己が丈を。

 

 

 ──思い返せば、勢いに任せた穴だらけ、確実性に欠けた穴だらけの言葉ではあったものの。

 

 

 

「「難しいことは大っ嫌いだ。文句があるならかかってこい!」」

 

 

「「…………っ!」」

 

 

 二つの国の代表を……それぞれ黙らせるだけの力は、確かにあった。

 

 




読了ありがとうございました。

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