俺は2月のとある祝日の木曜日から金曜を挟んで日曜までの4連休を取った。
「それじゃあ、行ってくる、金曜は千歳が俺の代行で指揮を執ってくれ、土曜の夕方には戻る予定だ」
俺は千歳に代理を託すと、隼鷹と東京行きの飛行機に乗った。
「紫苑…東京行きって、何か用事でも、私まで…」
隼鷹が聞いてきた。
「実家と同期で退役した明石の所に、用事があってね」
話はその前日。
「夕張、スープラお前にやるよ」
「えっ、お兄ちゃんいいの?」
「まだ秘密で夕張にだけ教えとく、グランドチェロキーっていう車に買い替えたから…明日、隼鷹と東京迄取りに行ってくる」
夕張が首を傾げた。
「グランドチェロキー?」
「そっグランドチェロキー」
「アメ車ね、気を付けてね」
「ああ」
こんなやり取りを夕張としていたのだ、隼鷹を実家に連れて行くという任務のついでと云うか…。
「ふぅ、やっと着いた」
俺は郊外の豪邸の前にいた。
「此処が紫苑の…」
隼鷹が家を見て言葉が出て来ない様子だったのだ、それもそのはず、紅東本家なのだから。
「私、変なとこ無いよね」
隼鷹がワタワタしながら容姿を気にしていた。
「大丈夫だ」
俺は隼鷹の手を取ると玄関の扉を開けた。
「ただいま」
俺の声にばぁちゃんが顔を出した。
「おや、紫苑と隼鷹さんかい、おかえり」
俺は爺さんの仏前に隼鷹を紹介すると、さっきから感じていた気配についてばぁちゃんに聞いてみた。
「何か、人の気配増えてね?」
「気づいてたのかい、出ておいで」
ばぁちゃんに呼ばれて5人の女の子が出てきた。
「紫苑さんお久しぶり」
そこには、時雨、夕立、陽炎、不知火、黒潮が立っていた。
「ワシの養女にした」
俺は頭を抱えた、そう妹が増えたのではなく、叔母がふえたのだ、それも見た目中学生位の…俺はもはや何も言わなかった、それは隼鷹も同じだったようで呆れていた。
その日は実家で陽炎達と過ごすと、翌日俺は同期が経営する外車専門店に向った。
「明美いるか?」
俺は事務所の扉を開けると声を掛けた。
「あら、紫苑早かったわね、車出来てるよ」
そう言うと、明美は車の鍵を寄越した。
「注文通り、ジープグランドチェロキーで色はサンドベージュ、注文通りエンジンはオーバーホール済み」
明美はグランドチェロキーを指差すと、
「ちょっと説明するね、まずエンジンはオリジナルスペックを維持を基本としてそんなに違いはないわね、エアクリーナーとマフラー、コンピュータを社外でまとめてあるわね」
そう言うと明美がボンネットを開けて説明してくれた。
エンジンルームはノーマルと云われても解らない状態だった。
「ハーネス関係はワンオフもので電装品も新品を使用してるから安心して」
明美が何処の部品を新調したかや改造箇所を丁寧に説明していた。
「それなら安心か…しっかしきっちりとナビやオーディオが新調してくれたのな」
俺は明美の技術を感心した。
「エアロ系は当時物の装備品よ」
「こんな古い車のパーツよくあったな」
まぁ切った貼ったはかなりやっているらしいが一見しても説明されないとわからないレベルだった。
「それじゃ、エンジン掛けるわね」
明美がキーを撚った瞬間、独特のエンジン音がガレージ内に響き渡った。
「内装は古めかしいけど、今の車とそんなには変わらないわね……」
俺は明美の説明を受けながら実際にシートに座ってみた、その後車を受け取ると、俺は一旦実家に戻った。
「あのローストビーフ作って、少し仮眠したら鹿屋に帰る」
母さんとばぁちゃん、時雨達にローストビーフを作ると、俺と隼鷹は少しの時間仮眠をした。
「じゃあまた来るな、時雨達も何時でも遊びに来ていいからな」
俺は見送りに来た、時雨達の頭を軽く撫でると、隼鷹と鹿屋に向けて出発した。
「紫苑…中広いね」
隼鷹が後部座席を覗いていた。
「確かに…」
フェリー船内では、同じチェロキーオーナーと知り合い楽しいひと時を過ごした。
そんな事を繰り返しながら何とか下関まで辿り着いた。
「なぁ隼鷹…フク刺し食べてかね」
俺は隼鷹をフク料理の店に連れて行った。
「ウソ!向こうが透けて見える」
隼鷹がはしゃぎながら食べていた、勿論俺も食べた。
「しかし、明美も凝ったな…」
ナビの音声が某ゲームのヘビの人になっていた。
「あと少しで家につくな」
夜九時、敷地内に辿り着いた。
「今敷地内に入ったよ」
隼鷹が千歳に電話していた。
ヘッドライトの灯りの中に夕張や間宮が浮かんだ。
「……グランドチェロキーって結構大きいね……」
夕張が呆れていた。
「お兄ちゃん、この車エンジンの音…V8?」
夕張が興味津々と云う顔でいながらエンジンが気になる様子だった。
「明美がセッティングしたけど、ノーマルだぞ」
「確かにノーマルみたいやっぱり4.7リッターのV8?」
車に穴が開くくらい見ている夕張を急かした。
「明日好きなだけ見ていいから、今日は寝ろ」
俺は部屋に戻った。
翌日、朝から夕張が俺の部屋にやってきてよく見せてと言って鍵を持ち出していった。