『LostHeaven―盲目のユメ―』フリーゲーム三次創作ファン小説/本編終盤のネタバレ・IFバッドエンド妄想含みます。 作:MEIKO
※物語の終盤以降等についてネタバレと妄想に因るifやキャラクター崩壊等が含まれてしまうかもしれませんので、先に深く御詫びを申し上げます。
※ザウアーさんがまた生き残ってしまう……最早、呪いでは;
◆もしも第二の『終末の日』、あの真っ赤に染まった世界でリアン様が外縁調査に出る事無く三百年から五百年程、新生世界統一国家『ヴェルンディア』にて生き続けたら……と云う妄想がお題となっております。
◆本編後半から終盤に掛けてのシーンは本当にしんどくて涙腺が緩みました。ライゼさん、こんな所を見せつけられて良く耐えられるなー、と思ってしまい。もしも精神的に耐えられずあの日、諦めてしまったら……。
◆ネタバレ配慮も兼ねてシークレット部分が有ります。後日、暫くして原作者様より許可を頂けましたら加筆修正しようと思います。
――全く、最後まで世話の焼ける坊やだな。
懐かしい声が聞こえる。朧に薄れていく意識の中で幾人かの女神達が、私の天上で何かを囁いていた。
小鳥の囀りにも似た声音は、時に悲しく悼みながらも晴れやかに他愛もなく談笑を交わして流れ去る。そよ風が優しく頬を撫でて遠ざかる意識の合間に、先程まで確かに感じていた温かさも消えてしまった。
誰かに名前を呼ばれていた気がする。どんな名前だったか、ずっと古くから皆に親しまれていた名であった筈なのに、思い出せない。
自分が生まれた意味も、どう生き抜いて来たのかも、もう何も思い出せなくなってしまっていたのだ。
しかしながら、胸中に薄らと残る郷愁と大切だった宝物の存在は色褪せる事無く『記録』に記されている。私は、嘗て彼女と交わした約束を果たしに戻らなくては。
さて、戻ると言っても何処に戻れば良いのだろうか。辺り一面に広がる柔らかい百合の花畑で行くべき道を見失い、途方に暮れていると不意に背後から近寄って来た何者かに手を引かれた。
突然の事に驚いて隣に視線を向けると、白い輝きに覆われた青年らしき者が私を穏やかに見詰めていた。
青年は何も言わず、優しく大きな手で私を導こうと包み込んで。一歩ずつ、一歩ずつ、互いに歩幅を合わせながらゆっくりと歩を進める。
『彼』とこうして手を繋いで歩いたのは初めてで、いつの間にか年月が経っていて身長も体格も追い越されてしまった。こんなにも永い間、己の時が止まっていて『彼』にもずっと苦労をさせてしまったのだ、と反芻して自然と涙が伝い堕ちる。
失ってから、壊れてから、何時も代えがたい者達の存在に気付く。
何もかもが手遅れでどうにも出来ないと云うのに、彼等は決して諦めなかった。
未だ……こんな私を待っていてくれているのだ。
進んだ道の先に黄金色の蛍火を深々と天空に伸ばす魔法陣が私を出迎える。
何処かで見た覚えの在る術式に興味深く観察していると、此処まで共に歩んで来た青年がそっと静かに手を離し私から身を引いてしまう。
どうしたのかと問い掛ける間も無く、魔法陣は足を踏み入れた私に呼応して眩い白光を溢れさせた。青年は少しだけ離れた所で私を見送っている。
腕はもう上げられなかった。声にも出せず唯、古傷を洗い落とすように涙を流しながら光の粒子に呑まれて消えゆく私を見詰めている。
別れの挨拶だとでも言いたいのか、何を勝手に弱音を吐いている。
これからも、ずっと一緒に生き続けて。また皆で旅に出よう、今度はもっと色んな所に行って、新しい思い出を沢山作ろう。
「もう、お前を……一人に何て、させないから! 一緒に、来いっ! ザウアーッ!!」
「……っ、嗚呼。やっぱり、憶えていてくれてたんだな……」
ライゼ……最後に、そう呼ばれた気がして。
消える直前、必死に腕を伸ばして青年の足元に俺の大切な物を捧げた。これさえ有ればきっと、何時の日か何処かで逢えるだろうと信じて。
こうして導きの石は一人の青年の元へ贈られる。騎士の魂は浄化され、純白に染まる天空に昇って行った。
小鳥の囀りが耳を擽る。爽やかな新緑の香りと水の潺に緩やかな微睡みから引き戻された。
起き抜けでぼうっとした脳を労わりつつ頭を振って、周囲を見渡すとそこは深い森の中で。私は知らぬ間に野宿をしていて、昼過ぎまで安眠を貪ってしまった様だ。
野宿とは云えテントも張らずに、どうして恰も道に迷い込んで行き倒れてしまった旅人みたいに寝転んでいたのか。
疑問に思うも寝ぼけた状態では思考能力が追い付かず、先ずは気を落ち着かせて普段の通りに散策から始めよう。立ち上がり衣服に付いた土埃を払い落として、道を探すと右手側から迂回して獣道が続いている事に気付く。
落葉を踏み締めて進むと小川に掛かる古い橋が見えて来る。昼下がりの陽光に照らされ、きらきらと踊るように輝く清水は何処までも透き通っていた。
渇いた喉を潤して旅の疲れを癒そうと、両手で掬った水がひんやりと心地良い冷たさで。ついでとばかりに顔も洗って一息吐く。肩に提げた鞄からタオルケットを一枚、取り出して濡れた顔を拭いつつ橋の先を眺める。
「おかしいな、初めて来た所だと思うのだが……私は此処を知っている。」
自分には直近処か、生まれてから数百年以上もの記憶が無い。別段、長命の種族ではない筈なのだが、どうも自身の記憶の中に複数の人物が『記録』として混ざっている様で。
この、幼い頃から絡み合う記憶の糸を解して辿ってみたくて。最初に目が覚めてからずっと世話に成りっぱなしだった小母様の御屋敷を出て、たった一人きりで歩む自分探しの旅が始まった。
嘗て王家の使用人として働いていたと云うシェリーヌ小母様は、とても優しい人で人望も厚く働き物の努力家で、御屋敷では良く御友人のクーシア小母様と二人で切り盛りしていた。
昔は少々、ドジっ子な一面も有ったりで何枚も皿を割ってしまったり洗濯したシーツを落として泥塗れにしてしまったり、と。クーシア小母様から聞かされる彼女の昔話は、どれも面白くて三人でアフタヌーンティーを嗜みながら談笑に花を咲かせたものだ。
そこに何時も訪れる御方が彼の有名な、新生ヴェルンディア王国の皇女殿下である。齢三十後半を超えても尚、御壮健で心根の美しさを体現したかの如き神々しさは誰が見ても幸福に満ち溢れていた。
彼女は私が王城内の庭園奥で倒れている所を見付けて離れの御屋敷に匿って下さり、こうして介抱をしてくれた、言わば命の恩人みたいな方だ。
もしも彼女の恩寵と優しさが無ければ不法侵入者として、牢獄に捕らえられ不当に処罰されていただろう。
私はこの御方に少しでも御恩をお返し出来たらと思い、最難関の王族騎士団入団試験を受けようと思っていたのだが。
彼女達には自身の本心など御見通しな御様子で、失われし記憶の探求を望み、勇み立つ私の背中を後押ししてくれたのだった。
少年の頃から剣を振るうよりも読書の方が好きで。王国の外について描かれた書物や歴史資料に目を通す事が多かった私は、何時しか内心で外界への憧れを強めていった。
そしてあの日、旅に出る決心が就いた私を彼女達は快く見送って下さったのだ。
「エルメルディア皇女殿下、ご機嫌麗しゅう。」
「リアン、貴方も健康そうで何よりです。本日付けで旅立たれると御聞きして、せめて御見送りをと思い参りましたの。」
「左様でございましたか、申し訳ありません。船を待たせてしまっております故、余り御時間を作れず。」
「ふふ、気になさらないで。クレオス迄はクーシア嬢が護衛に就いて下さるとの事ですので、どうか気負いせず旅路を楽しんで来て下さいね。」
「はい、有難き御言葉。感謝致します、私の記憶探しの旅が済みましたら土産話を持って帰りますので!」
「ええ、私も楽しみにしているわ。それではクーシア嬢、リアンの護衛は任せましたよ。」
「はい、クレオス迄でしたら命に替えましても御守り致しましょう。その後の事は彼次第、と云った所ですが。」
「リアンや、やっぱり一から剣技の練習をみっちりしておいた方が良かったんじゃあないかのう。私は心配で心配で夜も眠れないよ。」
「ははは、そんな事言ってぐっすり寝ちゃうんだろ。シェリーヌ小母様は。」
「リアン、そんな浮かれていると旅先で痛い目に遭っても知りませんからね。」
普段、剣技の鍛錬を怠けてしまっている事も知られているみたいで。麗しい黒髪を靡かせつつ旅の支度を済ませたクーシア小母様が、横目にこちらをじろりと見据えて小さく小言を呟く。
私は額を掻きながら困った風に受け流して船の停泊所に向かった。別れ際は何時だって物寂しい気持ちになるけれど、蒼穹の果てに未だ見ぬ世界と新たな出会いが有ると希望に胸を躍らせて。
シェリーヌ小母様が手塩に掛けて作ってくれたお弁当を大事に抱えて、私はクレオス行きの船に乗り込んだ。
クレオスに到着して神教会の足掛かりも任命されているクーシア嬢とは別れて、自分なりの旅路をのんびりと開始して何日経過しただろうか。
足を運んだ所と云えば主に遺跡群が多かった。元より歴史資料等で見た事の有る祠や神殿の跡地を実際に肌で感じて、肉眼で見て、自らの足跡を探る道則は純粋に楽しかった。
最も驚いたのはダルムスタの鉱山跡地最深部に在る遺跡だ。まさか嘗ての自分が無邪気にトロッコに乗って探索していた、何て誰が予想出来ようか。
雪の国に在る遺跡も、砂漠の都を超えた先に在る遺跡も、色々な場所に赴いて。各地で得られる意外な発見や数々の試練について遺された文献を集める内に、私には何かが欠けていると思うのだった。
全世界を転々としているにも拘わらず、収集した資料には一つも『仲間達』の事が記されていないのだ。私の『記録』には確かに、大切な思い出として遺っている彼等の記録が何処にも載っていなかった。
常に一人きりで旅をしている風でもないのに何故、と疑念を抱き。私は真相を探るべくジャングルへと向かった……と云う冗談は隅に置いて。
一つだけ、足を踏み入れていない箇所が有った。アルデオ大陸の端の方。小高い渓谷を抜けて青々と生い茂る樹海の何処かに、謎の遺跡が在ると聞き入れて後回しにしていた所だ。
どうして後回しにしていたかと云うと。お恥ずかしながら私は軽い方向音痴で且つ行き当たりばったりな部分も有り、樹海に行く事を躊躇っていたのだ。
だが、記憶を辿る上で残る手掛かりは此処以外には見当が付かない。仕方なく覚悟を決めて赴いた樹海は暗く、おどろおどろしい雰囲気も有ったが踏み込んでみれば神聖な静寂と安心感で満ちていった。
そうして夜更けまで森を散策して、いつの間にか疲れて眠ってしまったらしい。魔物に襲われなくて良かったと思いつつも、森の奥へ伸びていく獣道を眺めてまるで久方振りに帰って来た故郷でもあるかの様な不思議な懐かしさを感じる。
「この道を進んで突き当りを右に、一本杉を抜けて坂道を登ると……門が見えて来る筈。」
草を掻き分けて道なりにどうにか歩んで行くと、ちょっとした坂の上に崩れた正門が見えて来る。蔦が絡まった石柱は何処の遺跡にも存在していた建材であったが、建造様式がヴェルンディア王家のものと良く似ていた。
つまりは、この先に在ると言われている遺跡は恐らく、嘗て王国内で使っていた施設の一部と云う事なのだろうか。
門を超えて暫くすると少し開けた場所に出る。事前に蒐集した文献によると、この地には永遠の命を授かった民草がひっそりと隠れ住む小さな集落が在ったとか。
聞き覚えの有る様な記述に興味を惹かれ探索地の一つとして挙げていたが、実際に来てみると自分も此処で暮らしていたのではないかと云う奇妙な感覚を抱く。
廃墟と化した家々に住んでいた人達は永年、閉じ籠っていた世界から抜け出し。皆、散り散りに何処かへ旅立ってしまったのだと云う。
その過程で何が起きたのか詳しくは記されておらず、出迎えてくれたモニュメントが長い時を経ても風化する事無く、綺麗に遺り白亜の煌きを称えている。輝晶大戦時代よりも遥か昔の時代、未だ世界に神様が顕在だった頃。
この地は女神達が住まう聖地巡礼の名所として、多くの神殿が建てられていたようだ。此処もその一部で、以前はもっと大きな湖が在り。神々の王宮が絢爛に聳え立ち、地上を見渡す憩いの場になっていたと。
持参した歴史資料を片手に、輝晶石で形成されたと思しきモニュメントを興味津々に調べていると不意に誰かが私の背を押した。それも勢いよく、ど突いたと云う衝撃で。
「えい。」
「どわーっ!! あ、あぶなっ!! ええ、何事!?」
思わず素っ頓狂な、恥ずかしい悲鳴を上げてしまう程度に驚いてしまった私は、即座に態勢を立て直して振り返る。すると、背後には不思議な格好をした淑女がにやにやと笑いながら立っている。
紫色の法衣に身を包んだ女性は見るからに妖しく、一見すると魔女のようにも見えるが。
何故か嬉しそうに微笑む風貌に覚えが有った。度々、夢の中で私の『記録』に出て来る獣人の女性に似ている気がしたのだ。
気がしているだけで人違いかもしれないし、流石に初対面の人に自分探しの旅に巻き込もう何て変人呼ばわりされてしまいそうなので口には出さないが。
「あ、ええと……何か御用で? はっ、もしかして勝手に入ったらいけない所だったのでしょうか!? だとしたら、すみません! 今直ぐ許可を」
「いやいや、私も子供達に出す夕餉の支度で薬草取りに来てるだけだから気にしないでよ。それにしても、相変わらず眩しいね。旅人さんはさ。」
「は、はあ……眩しい、ですか? 太陽の日差しがきついのかな? あの、御帽子を御貸し致しましょうか。」
そう言って鞄から日除け用の帽子を取り出して思い至った。そういえば彼女は獣人だった、と。無意識に、法衣の頭にぽすっと乗せた麦藁帽子がずり落ちて傾いてしまう。
慌てふためきつつ弁明しようと手を伸ばすと、彼女は被せた帽子をぎゅっと大事そうに掴んでクスクスと吹き出し始める。
何が可笑しいのかとも思うが、私も釣られて笑ってしまった。
「いやー、全く。本当に物好きだねー、神教会の教皇様の御蔭で私ら獣人に対する差別意識も弾圧も無くなったとは言えさ。君みたいに何の警戒心も無く触れ合ってくれる人は珍しいよ。」
「そうですか。私はてっきり何か失礼な事をしてしまったのでは、と思って。」
「うんうん、やっぱり君は昔から変わらないね……この帽子、有難く貰っておこうかな。君からの初めてのプレゼントだ。大事にするよ。」
「え? あげるとは言ってない」
「くれないのかい? じとー……」
「う、うう……解りました、あげますよ。どうぞ、大事に使って下さるのでしたら幸いです。」
「えへへ、有難う。私は子供達の面倒で忙しいから此処で御暇するけど、何か有ったらダルムスタの孤児院までおいでよ。宿に困ったら一晩位、貸してあげるからさ。」
「ダルムスタの孤児院ですか、確か鉱山の近くに在った洋館……」
「そう、子供達と一緒に待ってるからね。それじゃあ旅人さん、良い旅路を。」
そう言い残して彼女は元気良く手を仰ぎながら白く染まっていく森の中へと去ってしまった。
結局、誰だったのかとか聞けない真間、別れてしまったけれど出会いはこれで終わりと云う訳でもない。彼女から招待されたダルムスタの孤児院とやらに赴けばまた出会える筈だ。
その時に自己紹介も兼ねて、改めて御挨拶を申し上げに行こう。きっと無邪気に賑わう住人達に出迎えて貰えるだろうな、と楽しみに思いつつ集落跡地を進む。
日夜、農作業や放牧に勤しんでいた村の名残を噛み締めるように堪能しながら段々になっている道を上がると奥から新たに複数の人々の声が響いて来る。
この声色も聞いた事の有る溌溂とした音で。陽気ではきはきとした少女の呼び掛けに合わせて、続く壮年の男性が好対照に重なって楽しそうな空間を感じ取った。
「もー! 何時までちんたらやってんのよ、さっさと帰らないと怒られるのは私の方なんだからね!」
「そんな事を言われてもだなー。ちょっと位、資料として輝晶石や建材のサンプルを持ち帰っても良いだろうに。」
「そう言って鞄をパンパンにしてる癖に、私に荷物持ちやらせるとか何考えてんのよー!」
「そんなに入れてないし。第一、僕は君の護衛で就いてる内の一人なんだから何が起こっても直ぐ対応出来る様に手は空けておいた方が良いだろう?」
「……ちょっとした魔物が飛び出て来ただけでビビって隠れちゃって。結局、彼任せになってる研究オタクが何言ってるんだか。」
「お、言ったな。君のフードに蛇の抜け殻ぶち込むぞ。」
「ギャーッ! ちょっとー、レディに何すんのよ。最低ー! 私、教皇なんですけどー! うっうっ……もうやだ、この男達。早くお家帰りたい」
敬虔な神教会の聖女様だろうか。清らかな巫女服を纏った女性がべそを掻きつつもフードに放り込まれた蛇の玩具をばたばたと払い落として、如何にも重そうな荷物をひょいと軽々しく担ぎ上げ自分の横を通り過ぎていく。
その後ろで玩具を拾いながら付き添う男性は、怒り心頭と嘆かわしさで複雑な心境を抱き愚痴を溢す女性の態度を心底、面白そうに眺めていた。
二人の談笑に割り込んで邪魔しては悪いかと、その場を素通りして奥へ向かおうと歩を進めた時だ。
白桜を思わせる長髪を三つ編みにして赤いリボンで結っている彼が通りすがり様、私の横顔を見て唐突に目の色を変える。
知り合いと似ていると思ったのか。彼は先へ先へとずんずん進んでしまう女性を態々、呼び止めて私の素性を一つずつ丁寧に聞き出す。まるで検閲ね、と女性に呆れられながらも訊かれた質問に応じていく。
「急に取り乱してすまなかった。君の姿がどうにも生き別れの友人に似ていたもので。ほら、教皇様も見覚えは無いかい? こんな感じで、ちょっと何処か浮世離れしていて。」
「うーん、どうだったかしら。私の『記録』ではもう少しポケーッとしてたと思うわ。」
「嗚呼、えっと……つまる所、その『ライゼ』と云う御友人と見間違えてしまったと?」
「さあ、どうだったろう……その『ライゼ』君、だったかな? 何故か僕達、昔の記憶がはっきり覚えていなくて。何かに封じられていると云うか。」
「それで、旅人さんも私達と同じく記憶が無くて『記録』を頼りに自分探しの旅をしているのね? 何て云う偶然なのかしら。」
「全くだよ、時間が有ればもう少しゆっくり聞いてみたいな。これから僕達、クレオスに帰るんだけど、そこでもっと詳しく」
「ちょ、ちょっと! この忙しい時に何勝手な事言ってんのよ。ま、まあ……復興の仕事が一段落、着いたらって事で。神教会のクレオス支部を訪ねると良いわ、旅に必要な準備も傭兵もこちらの方で手配してあげる!」
「御心遣い、痛み入ります。こちらでの探索が終わりましたら是非とも御伺いに参らせて頂きます。」
壮年の男性と神教会の教皇らは云々と目を輝かせて相槌を打ち、私達は互いに握手を交わしてその場を別れるのだった。
繋いだ手の温もりに旧懐の念を抱きつつも、再び奥に在ると伝えられている遺跡を目指して一歩を踏み出した。その瞬間である、後ろから活発に声を投げ掛ける二人の存在に意識を戻されたのは。
遠く朧げな森の中で呼び掛けているので何を言っているのか、余り聞き取れないが口の動きを読み取って何とか言葉を解読する。
どうにも、この先に魔物が複数蔓延っていてクレオスで雇った一人の傭兵が残って討伐任務に当たっているから気を付けろと。
そういうのは、もっと早い段階で教えて欲しかったな、何て困り果てるも進むしかあるまい。
集落の居住区を過ぎ、嘗て祭事の場として使われていたであろう広場を通って再び森へ踏み入れる。
表の樹海とは違い、所々に真新しい遊歩道やキャンプ地等が造られており神教会の整備が着々と進められているようだ。何れ、樹海も集落も綺麗に整えられて自然公園にでも成るのだろうか。
変わる事のない思い出と、変わっていく現実の狭間で空虚な心に虚しさを感じて。胸が詰まる程の孤独を振り払うように寂寞とした河原の片隅で、少しの間だけ休憩しようと野宿の準備を始める。
鞄からテントを引っ張り出して用意が終わる頃には夜になってるだろうし、丘の散策は明日の明け方に再開するかと思考を巡らせていた。
『記録』の奥底で眠る仲間達とも此処でテントを張って、皆で賑やかな夜を過ごした事が有った様な気がして。一人でこうしていると、やはりどうしても寂しくて何故だか涙が込み上がって来てしまう。
「全く、もう十九にもなるってのに……何で、泣いてるんだか。嗚呼、そういえば」
子供の頃から夜空の星を見上げては、無性に悲しくなって良くボロボロに泣き腫らしては小母様らを困らせてしまっていたな……何て、笑いながら涙を拭う。
『昔』はこんなに弱弱しい自分じゃなかった筈なのに、もっと強くて高潔で心優しい勇者様が何時も皆を導いて闇に立ち向かっていたんだ、と。子供ながら夢に現れる自分自身の幻影に固執していて、随分と理想が高くて現実との差で苦労もしたな。
夢に出て来る完璧な王子様にも英雄にも、もう成れないとは思うけれど。それでも今一度、今世で逢えるのならば彼等と再会してまた一緒に旅をしたい。
勿論、彼女とも……最後に私の手を握ってくれた、あの子とまた逢いたい。
そんな事を考えている内に、一時的な拠点が着々と設備されていく。
たまに避暑地への旅行も兼ねてピクニックやキャンプを興じていた為か、こういった準備には慣れていた。しかし、一つの事に集中していた上。自分の過去に思いを馳せていた影響で周囲の警戒を怠ってしまった。
未だ整備が行き届いていない奥の地下水路から、巨大な蛭を模した毒々しい魔物が這いずり出ている事を失念してしまう。
何なんだ、アイツは。未だ大なり小なり魔物がうろつき回っていると云うのに。
全く警戒する事も無く小河の水を拝借して口笛吹きつつ、のんびり夕餉の支度も始めるものだから危なっかしくて見ていられない。
大体、何でこのオレが一人でのこのことやって来た旅人の身辺警護まで気にせにゃならんのだ。そんなものは追加料金で尚且つ、最初から護衛対象を言伝して貰いたいものだ。
神教会に雇われている手前、下手な事は出来ないし困ったものだと思索しながら頬を摩る。今宵の聖痕は、どうしてこうも疼きやがるのか。
何故、オレはアイツの背後を狙う魔物をこうも無性に討ち滅ぼしたいと沸々とした情念に燃えるのか。どうして、こんなにも胸が痛むのか。
「ああー、ったく。しょうがねーなー! オイ、坊主!」
「へ、は……はいっ!?」
何を惚けた声を出してるんだよ。本当に『昔』から何も変わらないな……オマエは。
「頭を庇って横に避けろーッ!!」
担ぎ上げた大剣は何時だって大切な者を護る為に振るって来た。
その筈なんだ。あの頃からずっと願っていた、誰かの王子様になれる様にと。
だから、今度こそ救うんだ……オマエを。
【『LostHeaven―盲目のユメ―』第十一章/了】
モレナ夜デートイベントをやろう?
ロストヘブン公開二か月及び5000DLおめでとうございます、と云う気持ちも込めまして御送り致します。
こんなファンアート小説しか贈れる物が無くて真に恐縮ですー!
今後の戦闘ボイスやエクストラダンジョン等のアプデが楽しみです。末永く楽しくプレイさせて頂きます!
それはそうと、シークレット部分をうっかり入れちゃいそうになって焦ったわ;
では、此処まで御読み下さって有難うございました。いよいよ佳境です……これって、改めて思うのですが短編で良かったのでしょうか?;
※誤字脱字、表現が変な所等が有りましたら後でこっそり修正します。