『LostHeaven―盲目のユメ―』フリーゲーム三次創作ファン小説/本編終盤のネタバレ・IFバッドエンド妄想含みます。 作:MEIKO
※物語の終盤以降等についてネタバレと妄想に因るifやキャラクター崩壊等が含まれてしまうかもしれませんので、先に深く御詫びを申し上げます。
※ザウアーさんがまた生き残ってしまう……最早、呪いでは;
◆もしも第二の『終末の日』、あの真っ赤に染まった世界でリアン様が外縁調査に出る事無く三百年から五百年程、新生世界統一国家『ヴェルンディア』にて生き続けたら……と云う妄想がお題となっております。
◆本編後半から終盤に掛けてのシーンは本当にしんどくて涙腺が緩みました。ライゼさん、こんな所を見せつけられて良く耐えられるなー、と思ってしまい。もしも精神的に耐えられずあの日、諦めてしまったら……。
◆ネタバレ配慮も兼ねてシークレット部分が有ります。後日、暫くして原作者様より許可を頂けましたら加筆修正しようと思います。
彼の第一印象は『童顔の割には年老いた戦士に見える人』だった。
ついでに云うと呆れる程の酒豪で、エル様らの土産にと思い道行く先で買い付けた葡萄酒やウィスキー等の酒瓶を軽く二本から三本程度を飲み干してしまった。
まあ、重量もそれなりに有った為に荷物が少しだけ軽くなったから良いかと言ってしまえばそれまでなのだが。
惜しむらくは自国でも中々、お目に掛かれないヴェルンディア王国三十年物の高級ワインをこんな質素な野営の糧食と共に空けてしまった事だろうか。そればかりは実に惜しかった。
次に購入出来る機会など当然、滅多に訪れる訳でもなく。私の隣で焼いた川魚に舌鼓を打ちながら朗らかに呵々大笑しては上機嫌に振舞う男の無遠慮振りに苦笑を零す。
このツケはいつか払って貰わないとな、などと思いつつ空となった十万ゴールドの酒瓶を一本ずつ片付けて彼との邂逅を反芻した。
今から丁度、数十分前。私の心中で欠けている記憶を探す旅路の果てに辿り着いた、この森で行き交う人々との触れ合いに浮かれて自身に危険が近寄っている事など気付けなかった。
何処か気持ちがふわふわと泳いだ真間、一夜を過ごそうと野宿の支度を始めて夕餉の時間に差し掛かった時に、ソイツは突如として茂みから飛び出て来た。
一体、何処から現れたのか。人間の数倍は大きい体格を持て余した蛭とも土蜘蛛とも思える異形の魔物は、その図体に不釣り合いな挙動で俊敏に地面を這って距離を詰める。
完全に不意を突かれてしまい咄嗟に得物を取れなかった私は、目前にまで迫り来る魔物を睨み据えて覚悟を決めるのだった。私の旅もこれまでか、と。
そう、諦めて腕を下ろした具に声が響いたのだ。威勢が良く、ずっと古くから聴いていたであろう、懐かしい声音を。
「オイ! 坊主!」
「へ? は、はいっ!?}
「頭を庇って横に避けろーっ!!」
突然の事態に驚いたが、兎にも角にも日頃の鍛錬の御蔭か。背後の岩壁から現れた何者かの掛け声に従って、反射的に身体を転がし直線的に襲い来る魔物の攻勢を辛くも避け切った。
魔物は獲物を見失い反転しようと胴体を捩るも制御が利かず、暴走列車のように地面を滑って待ち構えている颶風の鎌に頭から突っ込んでいく。
今まで身を潜めていたと思しい、一人の剣士が放った薙ぎ払いからの十文字斬りに因って発生した剣圧が魔物を取り込み。その体躯を木っ端微塵に切り飛ばし、剣士は薪割りの様に真っ二つに割れた標的の合間を悠々と歩いて大剣を振り払った。
赤黒く濡れた鮮血が土に飛散する。これから夕飯時だと云うのに随分と派手な解体ショーを見せられた、とげんなりしながら答えると男は優しそうに笑って私に手を差し伸べる。
衣服に付いた泥や草をまたしても払いながら手を掴む。その手は冷水にでも漬けたのかと誤解してしまう程、ひやりと冷たく思わずびくついて放してしまった。
彼は強張る私を落ち着かせようとして、あくまでも朗らかに振舞い素性を明かしたり、こちらを気遣ったりと世話を焼こうとして来るが。宵闇にぎらぎらと揺れる眼光は少しも笑ってなどいなかった。
{怒っているのだろうか、それも当然か……こんな魔物も出るかもしれない、って言われていたにも関わらず呑気に野宿しようだなどと思っていたのだから。}
「いや、それにしても良かったぜ。未だオレが残っている内でよ。本当に怪我してる所とかは無いよな? ええと、リアンだったか……って、聞いてんのかオマエ?」
「え、あ。嗚呼、聞いています。一時はどうなる事かと。本当に助かりました、有難うございます。」
「ふーん、聞いてるなら良いけどよ。で、何処か怪我とかはしていないよなって。」
「し、してませんよ! 大丈夫です、ちょ……ちょっと」
魔物を倒してから直後、地に伏せた私を引っ張り起こした彼はじろじろとこちらの具合を念入りに確認して来る。雇われ傭兵と言っていたが彼等は皆、こんなにも他者との距離感が近いのか?
そういえば先程、行き会った研究員の人もこうして私を興味深く眺めていたな。まるで検閲か尋問のそれだと呆れていた神教会の女神様の顔が脳裏をふと過り。
堪らずくすくすと思い出し笑いをしていたら、彼は私を何か良からぬ思いを押し隠したような瞳で真剣に見詰めていた。
生まれ落ちてから初めて向けられる羨望とも独占欲とも取れぬ、複雑に絡み合った鈍色の双眸に悪寒が走る。
先の戦鬼にも似た振る舞いとは正反対の、主人を失った捨て犬のような弱さを垣間見て思う。
この人は何かしら心に傷を負ってしまっているのか、それとも戦い慣れているからこその態度なのだろうか。
『私』を見て、こんな表情をする人と出会ったのは今宵が最初で、また近い内に同じ顔をする人と逢う事になるのだと根拠の無い予感がした。何はともあれ、彼との邂逅はこうして果たされる。
邂逅と言うよりは『再会』なのかもしれないが。
「だーっ! もう! 折角、エル様の為に買った葡萄酒だってのに殆ど飲み尽くしてさ。挙句、何ですか! 酔っぱらって寝床に連れてってくれないと自分じゃ動けないだとうっ!」
「うー……ヒック、うええ、だってよー……あんな美味い酒、久々だったからぁー……」
「全く、アレねー。一本、十万ゴールドの貴重品だったんですよ! それを貴方は……って、重いですー! ちょっと、テントに入るまで耐えられないんですか!?」
「ん、んー……ふ、ふへへ……」
「笑ってるし、寝ちゃうし……もー、こっちの身にもなって下さいっての。ほら、寝床に着きましたから下ろしますよ。あ、此処で吐かないで下さいね!」
自分ですら驚く程の酒豪だと云うのに彼は、夜の細やかな宴会を思う存分に楽しんで唐突に、糸が切れたように倒れてしまった。
恐らく三本目の終わりに手を出したクーシア小母様への土産―鬼殺し殺し―と云う最高度数の酒には幾ら彼でも抗えず、一口含んだ所でころりと落ちてしまった様だ。
そして、テントから少し離れた場所で伸びてしまった剣士御一人様を介抱して此処まで引き連れて来た訳なのだが。
流石に私もこれには御冠で、酔い散らして無邪気に寄り掛かって来る男に文句の一つ二つ投げ掛けたが当然、聞く耳を持ってはくれない。
肩と背で支えて何とか簡素に設けられた寝床まで連れて来るも、伸し掛かった男は子供みたいににまにまと笑い首筋に腕を回す。
私にしがみ付いて放さないとでも言いたげに、ぐっと力を籠める腕に負担を掛けぬようにそっと下ろして一先ずは寝袋の上に転がした。
成人男性の。それも私よりも筋肉質な彼の重みから解放されて、どっと疲れが出るもずっと昔に同様の事柄があった気がして、胸中は何故か仄かな温もりに満ちていた。
何時も感じている寂寥感や孤独感ではなく、少しずつ私の心に何か大切なものが戻って来ているような感覚。
身体は僅かに疲弊しているのに精神は非常に安定していた。幼かった頃の悲痛な日々がまるで嘘のようだと思いながら、私も寝床に就く。今宵は良く眠れそうだ……――。
胸に提げた首飾りはオレの宝物だ。
産まれた時に、この石を握っていたのだと親族が語っていた。幼い頃の事など余り覚えてはいないが、気付けば昔から大事に持っていて常に御守り代わりにこうして首に掛けていた。
対して高価な品でもないのに何で家宝みたいになってんのかね、と思った事も有ったが何故か捨てる気にはなれなかったのだ。
これを捨ててしまえば、オレは何処にも行けなくなってしまう気がして。ずっと、手放す事が出来なかった。
紐が痛んで何度か付け替えたりもしたが、首飾りの先端で青白く輝く小さな輝晶石はいつまでも変わらずにしっかりと繋がっている。
新しく付け替えた筈の。金色に瞬く鎖もそろそろ金具が緩んで来ているな、クレオスに戻ったら装飾店に行って修理を頼むかと。
そう考えて胸元から出した青い石を落とさぬ様に、静かにゆっくりと衣服の中に戻すと鎖が擦れ合う音が耳に触れたらしく。オレの傍らで寝息を立てていた旅人が微かに身じろいだ。
「ん……」
オレよりも年下とは云え、それなりに成育している青年が童子みたいな寝相の悪さで寝袋から飛び出している。
最早、意味を成していない掛布団代わりのそれを鬱陶しげに足で払い除けようと藻掻く様は、まるで産まれたばかりの雛鳥に似ていて可笑しくてつい笑みが浮かんだ。
長い事、使われていなかった表情筋は硬く緊張していて相変わらず上手く笑えなかったが。それでも今、この世に生まれてから初めて『幸福』と呼べるものを感じている。
理由は依然として判別出来ず、この気持ちをどう整理したものかと持て余しつつ。安らかな眠りに就く旅人の金色に揺れる髪をそっと撫でて言葉を紡ぐ。
己自身のモノとは思えない程、暗く濁った声で吐き出された想いは宵の空気に溶けていった。
「やっと……逢えた。」
静かな夜が明けて温く爽やかな朝が訪れる。
再び小鳥の囀りで目を覚ました私は、隣で寝かせた筈の剣士が居ない事に気付き飛び上がる様にして起床した。
慌てて辺りを見回すと昨晩、敷いてあった寝袋も泥塗れになって脱ぎ捨てた真間だった衣服も姿形無く消え去っている。
まさか彼に盗まれでもしたのだろうか、いや。そんな馬鹿な、と思うも万が一と云う事も有る。
改めて気を張って側に置いていた得物を取り、恐る恐る慎重にテントの幕を上げて外を覗く。
すると、私の視界には驚くべき光景が広がっていた。何と、何時からやっていたのか知らないが私よりも先に起きていたと思しい剣士が腕捲りをして家事を熟していたのだ。
陽光が照り付ける小河の片隅に、ずらりと並ぶ出来合いの物干し竿に引っ掛けられている物は昨日、泥や返り血で汚してしまった衣服もしくは寝袋の数々で。
どうやらニコニコと人懐っこそうな笑顔を張り付けた、この男が一頻り洗濯をしてくれたらしい。おまけに朝餉の準備まで整っていて、テントから呆気に取られて出て来た私に優しく「おはよう、良く眠れたか?」等と話し掛けながら銀のカップにコーヒーを注いでいる。
てきぱきとサラダを盛り付けて街で買って来たらしい食パンを薄くスライスして、それも皿に盛って側にバターやジャムの瓶を置く。
その手際の良さと楽しそうな陽気さを見るに、一晩で酔いが覚めたようだった。あれだけ凭れ掛かって弱っていた人とは思えない。
しかし、それにしても。あの洗濯物の量は朝方から始めたにしては多過ぎて疑念を抱いた。まさかとは思うが、酔い覚ましとは言え夜更けからずっとやっていたのか。
そう思い、つい口から出そうな質問が言葉を発するよりも早く顔に出ていたらしく。目前で一頻り朝餉の支度を終えた彼は、精悍な面をニッと綻ばせて私を手招く。
「どうした、そんなオドオドしてよ。毒何ざ盛ってないから大丈夫だって!」
「あ、嗚呼……もしかして、とは思うが」
「あっちの洗濯物の事か? 悪かったな、昨日のアレで汚しちまって。ある程度は洗っておいたが、気になるなら街に来た時にクリーニング代程度なら出してやるぜ。」
「いや、別に弁償代を払えとは言わないが。夜更けからずっとやってたのか、と思って。」
と、殊勝な態度で弁明を述べて森の奥に隠したらしき魔物の遺骸に顎を送って、剣士は湿気った気分を変えようと屈託のない笑顔を浮かべる。
河原で顔や手を洗い席に着こうと水気を拭いながら歩み寄る私を待ちつつ、彼は予め用意されていた木製のベンチに座って話題を続ける。本当に朝から元気な人だ、いや。
こんなに突き抜けて明るい人だったろうか、昨日は燥ぎはすれどもっと大人しくて年相応処か少し老鼠地味ていた筈だ。
まるで、別の人格が彼に乗り移っているかのようで得体の知れぬ不気味さを紛らわせようと朝餉に手を伸ばす。焼きたてのパンにほんの少しバターを塗って齧るとさっくりとした心地良い歯触りに、太陽の光芒を一杯に浴びた小麦の芳香がすっと鼻腔を抜けて緩やかに食欲を呼び覚ます。
暫く振りのまともな食事に、ついごくりと生唾を飲み込んでしまった。
長く一人旅をしていると、どうしても金銭的に遣り繰りが難しくて久しく美味しそうな料理に有り付けなかったが為に。
「お、このパン美味いな! 何処のパン屋で買ったんだ?」
「だろ、クレオスに隠れた名店が有ってな!」
「へー。今度、私にも教えてくれると嬉しいな。」
「良いぜ、騎士様がクレオスに来る事が有ったらざっと観光案内ついでに連れてってやるよ。」
「やったー! 言質は取ったぞー、約束な!」
「おう、約束だ……約束。」
「ん……?」
「ハハッ、何でもねぇよ。ほら、もう一杯コーヒーは要るか? 騎士様!」
「やや、これは有難い。頂こう!」
無心になって朝餉を堪能して素直に談笑を交わしていく内に、胸に蟠った違和感が薄れてしまい彼の些細な変化に気付く事はなかった。
ただ美味しそうに朝食を摂る私を満足そうに眺めて、話の仕舞いに呟いた言葉だけがずっと耳に残り続けて。彼との別れ際、まるで今生の別離を哀しむような小さく細い姿が何時までも私の心に根付いて忘れられない。
誰も彼も、もう二度と逢えなくなる訳ではないのに。どうして一人ずつ私の胸中から零れ落ちていくのだろう。
どうして、彼等が白い靄に呑まれていく度に記憶が戻る処か『記録』が砂粒の様に消えてしまうのだろう……私は、忘れたくないのに。
――君達との冒険さ……眩しくて辛かったけど……でも、嫌いじゃなかったし楽しかったよ。
――全く、最後まで手間が掛かるんだから……ほら、ベソベソ泣いてないで真っ直ぐ前向いて歩いて頑張ってよね!
――やー、まさか僕がこんな年になるまで帰って来ないとは想定外だったよ。本当に、君は初めて逢った時から変わらないね……まあ、そこが面白いんだけどさ。
――嗚呼……シンデレラの時間も、もうすぐ終わっちまうな。オレは、今度こそ……。
「お前の王子様になれたか、だなんてさ……。」
「何か言ったか、騎士様。」
楽しい朝餉の時間も終わりを告げて、私は野営地として利用していた拠点から離れて愈々、頂上の遺跡を目指す。
張っていたテントを一頻り片付け、まだ乾いていない洗濯物はそのままに身支度を纏めながら先程の会話で締め括られた剣士の一言を反駁する。
朝っぱらから何故か一人で元気に盛り上がっていた、当の本人こと剣士様はこの通り。私の顔を相変わらず目に入れても居たくない程、じっと見詰めて密かに囁かれた声に反応を返して来た。
こちらを真剣に凝視する灰色の瞳には、さっきまでの陽気さは無く本当に別人みたいな無感動さと反発する情熱を滲ませて。
青年は脇目も降らず恥ずかしげも無く只管、純粋に計り知れない感情の塊をぶつけて来るので気恥ずかしさで目線を反らしてしまう。彼に背を向けて細々した荷物を整理する振りを見せると、どうやら諦めてくれたのか少し惜しそうに気配が遠ざかる。
「それじゃあ、騎士様。オレは未だもう少しだけ此処らの討伐を続けてるから。騎士様は丘の上に行くんだろ?」
「え、ああ。うん、遺跡の調査も兼ねてな。」
「そっか……じゃあ、気を付けてな。何か有ったら直ぐに呼んでくれよ。何処に居たって助けに行ってやるから、ああ! クレオスに立ち寄る事が有ればまた宜しくな。」
「それって、貴方を雇い入れる交渉ですか? 剣士様って抜け目無いなー。」
「くははっ! まあ、騎士様が雇ってくれるってんならサービスしておいてやろうか。」
「んー、考えておく。何はともあれ、また逢えたらな。」
「嗚呼、そうだな……また逢えたら。」
寂しそうに離れていく彼の胸に自身の言葉はどう受け止められたのかは解らない。
途中まで生返事で返してしまって悪い事をしてしまったのでは、と気が消沈するも本人は終始明るく振舞っていて察する事も出来なかった。
もう少し時間が有れば、この『幸せなユメ』がずっと続いてくれていれば。
彼等と再び世界中を冒険出来たかもしれないのに、お互いの軌跡をもっと知り合う事が出来て、分かち合えたかもしれないのに。
だが、時は待ってはくれないのだ。彼等には彼等の生きる道が有って、私にも逢いに行かなくてはいけない人が待っている。ずっと、この丘の上で。
言葉通り、シンデレラの時間は終わり。私と剣士様は互いに手を振って別れの挨拶を交わす。
深い霧の中に身を透かしながら、見えなくなる最期まで名残惜しそうな呼び声を投げ掛ける青年の面影を心に焼き付けて前を向く。
前を向いて、歩き出そうとして。ふと思い返す、そういえば『俺達』はまだ御互いの名前も聞いていなかったな、と。
青年も『俺』の名前を訊かなかったので気には留めなかったが、何で……そんな大事な事を、忘れていたんだ。覚えていたんだ、記憶は無くなっても。未だ『記録』は、この胸に遺っているんだ。
「……ルヴィス、ティサラ、アルバート」
涙が溢れて頬を伝い、落ちる。
蒼空に輝く輝石に『アイツ』の面影が映り込む。大切な想い出と共に、これからも独りぼっちになっても良いから永遠に胸に秘めようと決めて去ろうとした。
去ろうとして、温かく優しい風に乗って流れて来た声音に心が引き留められる。
耳を澄まして声のする方へと意識を向ければ、溶けて消え入りそうな白い世界の先から仄かに光を感じて。我ながら未練がましい血筋に困惑しつつ魂を奔り抜けていく歓喜に打ち震えるのだ。
『アイツ』が、『あの人』が、ずっと自身の名を呼んでいる。
『ザウアー』と……自身の名を、ずっと。
「ザウアー……ザウアー、忘れてなんかいないさ。皆の事……忘れるものか。」
涙が溢れて頬を濡らす。
産まれる前から刻まれていた聖痕が引き攣れて鈍い痛みが込み上がるのも気に留めずオレは泣き続けた。
白い靄が少しずつ森を浸食して行く中で、崩れた石柱の影に隠れて蹲りながら届く声に耳を傾ける。永い、永い時を駆け抜けて生き続けた奇蹟に深く感謝を込めて胸に提げた輝石を大切に抱く。
彼が繋いでくれた想い出を決して忘れぬように、あの人が繋げてくれた生命をこの先も継いでいけるように……願いながら。
「爺さん……やっと、逢えたよ。オレにも、生きる意味が出来たんだ。」
――有難うな、ライゼ……リアン。
――これで、やっと……嬢ちゃんに託せるな。
安らかに穏やかに、深い眠りに誘われる剣士の魂は懐かしい仲間達に迎えられて在るべき場所へ還っていく。
幾つもの笑顔が煌きに満ち溢れながら蒼穹に昇って、天から神々しくも儚い雫を降らせる。水滴に濡れる草花を豊かに輝かせて『カノジョ』は待っていた。
まるで桜の化身とも思えるような雰囲気を称えながらも、愛しい人の還りを信じて想い出の地に立ち尽くす。
ずっと忘れる事など出来なかった面影を探し求めて、此処に行き付いたのだった。
空は今日も青く、美しく。眼下に広がる海も広大で、何処までも続く青の世界を見据えて『カノジョ』は遠い彼方に想いを馳せる。
この世界の何処かに、私の運命が待っていると。何時、逢えるのか解らないが確かに感じている胸の高鳴りは時を追う毎に増して行った。
もしかしたら今日かもしれないし、明日かもしれない。直ぐには逢えなくても、こうして彼と共に生きて来た世界で待ち望む日々も辛くはなかった。
彼が愛した世界だから、私も皆も愛している世界だから……私は、ずっと待ち続けるよ。
「ライゼ……。」
そこに、一人の騎士が訪れる。
【『LostHeaven―盲目のユメ―』第十二章/了】
シークレット部分が有ります、と言いながらノリに乗ってしまってカット出来そうにない部分にシークレットを持って行ってしまった為、カット出来ず原文の真間で投稿します;
後で色々と直さないといけないですね、本当にすみません;
最後の水滴は天気雨です。文章力が足らずほぼポエムみたいになってしまっててお恥ずかしいやら。
もう少しだけ続きますが、気が向きましたら最後まで楽しく御読み頂けますと幸いです。それでは、また次回に。
※おかしな所や誤字脱字が有りましたら後日、こっそり修正します。失礼しました。