『LostHeaven―盲目のユメ―』フリーゲーム三次創作ファン小説/本編終盤のネタバレ・IFバッドエンド妄想含みます。 作:MEIKO
※物語の終盤以降等についてネタバレと妄想に因るifやキャラクター崩壊等が含まれてしまうかもしれませんので、先に深く御詫びを申し上げます。
※ザウアーさんがまた生き残ってしまう……最早、呪いでは;
◆もしも第二の『終末の日』、あの真っ赤に染まった世界でリアン様が外縁調査に出る事無く三百年から五百年程、新生世界統一国家『ヴェルンディア』にて生き続けたら……と云う妄想がお題となっております。
◆本編後半から終盤に掛けてのシーンは本当にしんどくて涙腺が緩みました。ライゼさん、こんな所を見せつけられて良く耐えられるなー、と思ってしまい。もしも精神的に耐えられずあの日、諦めてしまったら……。
薄闇が世界を覆う。
夢の終わりを察して名残惜しく感じながら、潮の満ち引きの様に揺れる微睡みに心身共に委ねて久方振りの惰眠を貪る。
これ程までに深い眠りへと誘われた日は、果たして何時振りであったろうか。
物心が付いた頃から長らく、王族の使い共に因る徹底した教育と政務に追われ。一時たりとも安らぐ日常も無く、多忙で熾烈な人生を送っていた。
責務が終わり自室に戻れたとしても一族の仕事が片付いた訳ではない。
王都を構える宮殿から少し離れた場所に建造された、離宮ことエリュシオン邸にとある御方が御静養に向かわれると聞いて準備を整えねばならないからだ。
その御方の名はエルメルディア・ヴェルンディア。我等がヴェルンディア王家の中でも純粋な血統を継いでいらっしゃる第一王家の御息女様である。
位も格式も名高い御方で、王国内外でも知らぬ者は誰一人であろうとも居ないと言わしめる程の人格者であり。
産まれ持って不治の病に苦しめられている、神の血を色濃く継ぐか弱き乙女でもある。
私や弟のレクセス等も若い頃に一度、彼女と御逢いする機会が有ったが。当時は未だ然程、病状も悪くなく互いに善き親交を交わした仲だ。
私は一族の務めで余り彼女の御相手をして差し上げられなかったので、それほど親密な間柄ではなかったが。代わりに弟と良く連れ立っては、庭園などを御堪能されていて。
あの時の彼女は病弱な身体が嘘でもあるかの様に、朗らかに振舞い華にも劣らぬ美しさを輝かせていた。
あれから数年の月日が流れ、幾つもの季節を過ぎ去って。爽やかな夏の訪れを肌で感じる時期に本家から一通の通達が届く。
それが今回、重い病床に伏せってしまわれた姫君の療養地として離宮を借り受けると云う旨の御一報であった。
突然の事に驚き深く心を痛めて、彼女の容体を慮って見舞いに赴こうとするも第二王家では簡単に通して貰えず。
上は急を要するからの一点張りで着々と手続きを済ませて、まるで一人の弱き少女を追い出すかの如く離宮に送り出して済ませてしまう。
こうなってしまっては自身がもっと高位の権限を得て、自ら彼女の騎士と成り進言を行う以外に道は無い。もしかすると弟の笑顔を守る為だったかもしれないが。
何はともあれ、その日から苦手な剣技を懸命に熟して王騎士の資格を賜るべく。どんな困難にも挫けず、一切の弱音を吐く事もせずに、只管に剣を振るい。
そして私が十四歳を迎えた祝いの日に、王宮内の訓練場でとある試験が執り行われた。
第一王家及び第二王家、その他諸々の上流階級に坐する名立たる者達に監視されながら一人の騎士に打ち勝てと云う。云わば御前試合と呼ばれる国を挙げての一大行事である。
観客席を占める貴族共にとって一生涯、涎を垂らしてでもしゃぶり尽くしたい話題の種がこんな遊戯だけとは暇な連中だと若い身空で思いもしたが。
よもや自分が矢面に突き出されて観衆の面前で狂った玩具の様に踊らされる羽目になると、あの幼く矮小で臆病者な自分が予想出来たか。
否、否である。恐らく未だ小さき頃の私では唯一つでさえも想像が付かず。カーテンの裏に隠れて悍ましさに戦慄し怯え、泣き喚く事も助けを乞う事も出来ずに。
暗い私室で孤独に見舞われ、ソレがにじり寄る靴音に震えながら息を詰めていた筈だ。ソレとは……たった今、私の目前に立つ一人の先代王騎士の事で。
五歳の誕生日を迎えた日に父君から贈られた、最悪のプレゼント且つ私の教育係だった男の事だ。
名前は無い、と言えば嘘に成る。奴は私が名付けてやった『名前』を呼ぶと仔犬の様に悦ぶので、二度とその名を呼んでやろうとは思わない。
あの男とは既に決別したのだから。
不死者の実験体として扱われていた囚人だったと聞く。
時の概念を忘れてしまいそうな悠久の彼方に何らかの原罪を負い、本家王宮より遥か遠くに離れた監獄塔へと収容された咎人。
紫闇に染まる長髪を煩わしさも感じずに乾いた風に靡かせて、甘く蕩ける様な琥珀色の瞳に根深く絡まった怨念と劣情を燃やして前を見据える。
訓練場のゲートから静謐に現れ出でた先代王騎士殿は、私の姿形を捉えると至上の喜びに打ち震えながらも口元を歪ませて微笑む。
真に嬉しそうな笑顔をしていた。まるで弟が私の雄姿に惚れ込む時と同じく、無邪気で妖しく不気味な笑顔で。
そうして執り行われた剣の舞は激しく鮮烈に、踊り狂い観客席を一時は魅了するも。五分と持たずに詰まらぬ終焉を迎えた。
短い間であったが剣技の師匠としても、座学や政務等のあらゆる教養を御教授してくれた最初で最期の師をこの剣で斬り伏せたのだ。
戦いの最中に何度か言葉を交わした気もするが、奴の雑音など覚えていられる程の気遣いは生憎、持ち合わせてはいない。
抉り飛ばされ地に落ちた自身の宝石を恍惚に嗤いを含ませ、己の腹に納める狂人の面など。記憶に遺したくもないし、声も何もかも存在そのものを忘れたかった。
こうして先代王騎士を玉座から叩き落し、空席となった騎士の地位を私と弟のレクセスで取り合うと云う残酷な舞台が出来上がる。
これで良かったのだ。私が敗北してしまっては第二王家に癒える事の無い傷が付き、騎士を目指す権利も尊厳も剥奪されて行く当ての無い惨めな人生が待っているだけだろう。
剰え弱く頼りない実弟が、あの冷徹無慈悲な気狂い共に因って態の良い玩具にされるなど……そんな凶事を許せる訳がない。
もしかすると負けた事で私の新たな人生が有ったやもしれないが、今まで積み重ねて来た苦悩を無碍に投げ捨てて呑気に過ごせだと。
そんな愉快極まる人生を選べる程の自由さえも与えては貰えない。私の命も生き方も全て王国の物で、自分自身の手でどうこう出来る権限は一つも無いのだ。
だからこそ、あの試練を乗り越えられた感激に何時までも酔い痴れている。
生まれて初めて自らの意志で『自由』を勝ち取ったのだと、当時の私は我儘を一つだけ許された童の様に浮付いていた。
――『自由』など、何一つでさえ得られてはいなかったと云うのに。
――……さん、にい……さん
何者かが微睡む私を呼び起こさんと声を上げる。
聞き覚えの有る子供の声色は次第に大きくなり、やがて揺り籠の様に我が身を揺さぶり始めた。寝具ごと手荒く揉まれて唸り声を出すと上からそっと気配を落とす。
まるで猫か小動物のじゃれ合いだと思いながら潜り込んで来る童に背を向けて、私は再び狸寝入りを決め込む。
「後、五分だけ」と寝言にも似た譫言を呟きつつ寝返りを打とうとして、背後で剥れながらも諦めずに起床を促す幼き弟の存在を身近に感じた。
「むうー、兄さん! 何時まで寝ていらっしゃるのですか、もう昼下がりになりますよ!」
「解った、解った……もう少しだけ横にならせてくれ。兄は疲れているのだ。」
「僕を払い除ける程度には元気ではありませぬか! 早く起きて下さい、エル様も心配なされておりますよ!!」
「お前が私の寝床に、勝手に潜り込んで来るから退いているだけだ。寝るのに邪魔なのでな……」
「もーっ!! 起きて下さいーっ!!」
流石にこれ以上のからかいは先が面倒な展開になるかと思いやられ、未だ久方振りの安眠を楽しみたい気分も有ったが仕方なく上体を支えてゆっくりと起床する。
眠り過ぎたのか、身体の節々が軋んで顔が歪むものの真剣な眼を輝かせて覗き込んで来る弟に根負けして嘆息するのが日課でもあった。
幼いながらも全力で揉みくちゃにした当の本人は、起き抜けで胡乱な目を泳がせつつ寝床からのそりと降りる私を追って床に転がり落ちた。
後先の事も考えずに、己が成すべき生き方を素直に選び真っ直ぐに成長して行く弟に羨望の眼差しを向けて小さな王騎士の器を抱き起す。
これもまた日課になりそうだ、と苦笑を浮かべると恥ずかしそうに身を捩る天使がくすりと笑みを溢した。
「えへへ……また、兄さんの毛布……落としちゃった。」
「全く、何時まで経ってもはしたないじゃじゃ馬だな。躾のやり直しが必要か?」
「申し訳ありませんー! 以後、気を付けます……?」
「何故に疑問形……はー、怪我を負っていない様だから構わんが。余り無茶をするなよ、エル様に泣かれでもしたらこちらが困るのでな。」
「はーい、兄さんもエル様を泣かせたら僕が許さないからね。」
くすくすと楽しそうに笑う弟をそっと下ろして身支度を整えようと鏡台に向かう私に、縋り付く様に袖を掴む幼き天使に呆れを抱くも。
これから訪れるであろう運命からは逃れる事など出来ないと、鏡に映る己自身が告げていた。
もう後戻りは許されない。例え希望に満ち溢れた自由なる世界を選べずとも、私はこの丘を登らねばならない。
黄金色に照り付ける陽光に身を焼かれようとも、蝋で塗り固めた翼を背負い天を目指す。その先にこそ唯一無二の『希望』が有ると信じて。
今日も理路整然と身を正し、成れる訳でもない王騎士への過酷な歩みを踏み出していく。
一歩、また一歩と。地道に実直に、素直に一直線とはいかないが確実に永い道則を辿って。遠い彼方で待つ太陽を追い掛けて。
私はもう一度、歩き出そうと心に誓い腑抜けた顔に気合を込める。
そういえば今日は離宮に新たな研究員が訪れる日であったと、予定表を思い出し。未だ甘えたがりの弟を引き摺る様にして慌てて支度を済ませた。
後程、到着した御客人を迎える際にエル様からこそりと笑われてしまったものだ。
まさか自分がブラウスのボタンを掛け間違えるなど、リアン様にしては珍しいものを見てしまいましたと困った風に微笑む女神達はとても可憐で。
中でも人の群れに紛れて身を潜ませる初心にも見える、一人の少女からは随分と気に入られてしまった様子で。
その日を境に実は慌てん坊な所も有る御人と思われたらしく、何かと気遣いを拱いてくれて。知らぬ間に彼女を側付きへと招いていた。
誰かに甘える事も出来なかった私が、唯一人の若い乙女に絆されてしまうとは……この日の思い出は自分にとって確かに人生、最大の汚点でも有り。
同時に忘れ難い記憶の一つとして後生、大切に胸の奥へと刻み遺そうと日記に書き記す。
――ディアナ・ガードナー……私の、十六歳を迎える誕生日の日にやって来た女神様で。
――恐らく、最初で最期の……初恋の人。
【『LostHeaven―盲目のユメ―』第十四章・最終話/完】
短編と言いつつも長々と綴って参りましたが、今回で一先ず最終話と云う事にして締め括らせて頂こうかと思います。
原作をプレイさせて頂いて楽しい事や面白かった事、しんどくて思わず泣いてしまった事、記憶を消して最初からプレイしたい追加要素等。
全てに於いて良い思い出となりました。ザウアーさんの回転ネタを見る事なく、知らなかった頃に体験してみたかったとも思いますが、それdも……おじ様かっこいいから困る。
頭の中で浮かんでいた妄想やら幻覚やら独自解釈に因る考察やら、書きたいシーンは未だ有りますが蛇足になりそうなので今は胸の内にこそっと秘めておこうと思います。
惜しむらくはロゼッタさんやアルバート君関連が書けなかった事でも有るのですが、それも有志の方々に御任せ致しまして。
私の拙い文章力で御送りさせて頂きました今作、ロスへヴ三次創作ファンアート小説はこれにて大団円フィナーレと致します。
それでは、最後まで御読み下さり真に有難うございました。また何処かで機会が有りましたら、何時でも気が向いた時に御楽しみ下さいませ。
追伸:本編出だしの回想シーンに繋がってくれると良いな、個人的二週目イメージです。では、また何時の日か!