『LostHeaven―盲目のユメ―』フリーゲーム三次創作ファン小説/本編終盤のネタバレ・IFバッドエンド妄想含みます。   作:MEIKO

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※元の御話が好きで語彙力が消失しています。全体的に稚拙な文章力で申し訳ないです;
※物語の終盤以降等についてネタバレと妄想に因るifやキャラクター崩壊等が含まれてしまうかもしれませんので、先に深く御詫びを申し上げます。
※ザウアーさんがまた生き残ってしまう……最早、呪いでは;

◆もしも第二の『終末の日』、あの真っ赤に染まった世界でリアン様が外縁調査に出る事無く三百年から五百年程、新生世界統一国家『ヴェルンディア』にて生き続けたら……と云う妄想がお題となっております。

◆本編後半から終盤に掛けてのシーンは本当にしんどくて涙腺が緩みました。ライゼさん、こんな所を見せつけられて良く耐えられるなー、と思ってしまい。もしも精神的に耐えられずあの日、諦めてしまったら……。

◆一部、血気盛んなド修羅場が含まれた戦闘描写が入ります。閲覧の際にはお気を付けて。

◆某おじ様は至って真面目にライゼ君の事を心配しております。決して変態さんではありません(本当にすみません;)。


『LostHeaven―盲目のユメ―』第八章

 

――ライゼ……オレがオマエに付けた新しい名前。新たな旅立ちを祝して、戦友の光り輝く明日を願い、戦って戦って戦って戦って。

 

――…………煉獄の先に未来は、果たして有ったのだろうか?

 

 

 今から千年以上も前の事。軍の上層部に招集を掛けられ司令室に向かったオレは、そこで一人の騎士様と出会う。

 名はリアン=ヴェルンツヴァイト卿。格式高く高潔なる王族『ヴェルンツヴァイト家』直系の第二王子、軍部で湿気た人生を送っているオレですら聞いた事の在る有名人が目前に立っている。

 それもオレと同じ、我がヴェルンディア王国軍隊所属の証である真紅の軍服を纏い整然と百合の様に佇みながら。何でも軍部の化学研究班にて人体改造を施されているらしく、王族ですら戦鬼として昇華させ利用しようとする上層部に驚愕を隠し切れなかった。

 連中は一体、何をお考えなのか。どうかしてる、気でも狂っちまったに違いないと挨拶がてら初めて間近で目にする騎士様と他愛ない言葉を交わす。

 オレ等とは違い、余り日の当たる戦場になど出た事が無いのだろう。焼けた様子が無い乳白色のきめ細やかな美しい肌に、砂金に照りつく陽光を思わせる黄金の御髪、ヴェルンツヴァイト家特有の翠緑色の甘やかな瞳がオレを捉えて離さない。

 神の血を継いでいると噂が立っているのを小耳に挟んだ事が有るが、この神々しさと魔性の魅力は強ち嘘ではないのだろう。

 これが女だったら色の付いた声の一つでも掛けていたかもしれないが生憎、同性には興味が無いと自分に言い聞かせて、揺らぐ心を理性で留めようと目線を反らした。そんな心の動揺を気取られたのか、当の本人である騎士様は儚げに笑むのだった。

 

 数日後、オレ達は何時も通り戦火に燃える戦場へ向かっていた。

 斥候部隊の援護を任命され、一個小隊の同胞と共に二台程の荷馬車に潜み街道を行く。目的地である敵陣営の野営地までは未だ半日程の時間が掛かる見込みで、検閲に悟られぬよう全員で身を寄せ合い息を潜めて上からの号砲を待つ。

 先に着いている筈の斥候部隊は既に情報を掠め取り、持ち場で隠れている頃合いだろうか。自分達がこれからやるべき事は敵陣に乗り込んで適当に攪乱して彼等の退路を確保する事で、悪までも派手に暴れて人殺しを愉しめと云う訳ではない。

 そこの所をきちんと認識して貰うべく予め前日から入念な事前準備をして任務に臨む。皆一様に理解はしているだろうと思っていたのだが、どうもオレの隣で何か考え込むような深刻そうな面で待機している騎士様が気に掛かる。

 思い詰めた熱い瞳は何処か遠くを見据えていて、これから死にゆく殉教者であるかの様な風貌を傍目に盗み見て嫌な不安感を覚えるのだった。よもやコイツは自らの命を無碍に扱い、戦場に投げ捨てる為に志願したのでは……と。

 そんな予感は杞憂であってくれ、と願うが現実は何時もオレが望んだ理想論を見せてくれる訳ではなく。案の定、彼は前線に単独で強行突破し破竹の勢いで野営地に居た敵軍二個小隊を壊滅に追いやり軍曹二人分の御首を持って帰還して来た。

 

 セントラル・クレオス手前の戦地にて華々しく初陣を飾った騎士様は、その後も冴え亘る剣技の腕前と知性の深さで次々と功績を遺し目覚ましい昇進を遂げていく。唯の二等兵如きがたった数週間で中尉にまで上り詰めるなど異例の事態だ。

 戦場で斬り伏せられていく敵軍の撃墜数が増える度に、彼の鬼気迫る戦いぶりに辟易として俺は遂に苦言を呈してしまった。勿論、始めの内は怪訝そうな顔で睨まれたが。

 それなりに抵抗感が有った様だが根気良く説得した甲斐も有って数日後、彼の戦闘スタイルが目に見えて変わっていくのを感じた。

 何よりも人として隊長として自軍の仲間達には死んでほしくはない。戦争なんぞで無駄死に何てさせるものかと思っていたからこそ、仲間の窮地に立って退路を確保したりと考えを改めてくれた事に安堵している。

 その上でオレとの連携も完璧に着いて来れるまでになったのだから関心の至り。

 

 だがしかし、隊長として新たに配属された軍にも慣れて来て仲間達との交流も深まり。漸く落ち着いたであろう頃合いに異変は起こった。

 騎士様ことリアンが任務中に激しい偏頭痛に見舞われ気を失ってしまったのだ。直ぐに救護班の手に因って医務室に搬送され治療を受けるも、彼は三日三晩の昏睡状態に陥りオレは何とか救えないものだろうかと担当医に懇願するが、非情な答えばかりが返って来る。

 何も手立てが無く、彼にしてやれる事も無い真間、苦しそうに魘されるリアンの額を伝う冷や汗を拭いながら己の無知と楽観振りにつくづく反吐が滲むような思いを抱いた。

 部下一人の命も救えないような男が何故、たった一人で生きて還って誇れると言うのだ。彼等は皆、オレと同じ人体改造を受けた身で誰しもがリアンの様に不調を起こしてもおかしくはない。

 オレとて何時しか身体も人格も破壊されてしまうかもしれないってのに、自分だけが救われたいなどと。今のコイツを見て同じ口が叩ける訳がない。

 もしも、そんな事を言える人物が居るとしたらソイツは人の心を捨てちまった狂人に過ぎないのだから。

 この日、何も夢や目標も持たずのんべんだらりと過ごして来たオレの心中に初めて芯が通ったのだ。何としてでも彼等とリアンを助けると……例え我が命を犠牲にしてでも救ってみせると。

 

 

 それから暫くして何とか意識を取り戻したリアンはオレ達部隊の皆で介抱した甲斐も有って、失神したばかりの病み上がりとは思えない程、元気に快調へと向かっていた。

 

「よお、リアン! その後、体調はどうだ? 何か副作用とか具合が悪くなったら直ぐに言ってくれよ。」

「御陰様で精神の不安定さも頭痛も治まりました。隊長が調合して下さった御薬も今の所、目立った副作用は感じません。恩に切ります。」

「いやいや、オレはまだまだ薬剤師見習いみたいな者だからよ。後で異変が生じたら折角、得られた資格取り上げられちまうから、本気で何でも気付いたら知らせてくれ! 嗚呼、そうだ……っと、明日の分の薬ついでにコレも渡しておこう。」

「何ですか、ビーカー何て物を……一体、何に使えと?」

 

 と、話し込みながらリアンの顔色を適当に診る。薬の束と一緒に鞄から取り出したガラス製の小瓶を手に取り、興味深く眺める彼の顔は血色も良く。先週まで焦点の合っていなかった瞳も今はしっかりしている。

 冗談交じりに談笑を交わす声もはきはきしていて、本当に嘘のような復帰振りに少しだけ不安を感じるも。余り過保護が過ぎると今度は隊員らから妖しい目で見られて妙な噂を流され兼ねないので、其処は程々に気遣いつつ。

 

「○検査だ。」

「は? あ、いえ……隊長、申し訳ありませんが今、何と仰いまして?」

「いや、だから○検査だっつってんだよ。何度も言わせんな。」

「その様な事は私の担当医に御任せを致せば宜しいのでは? 何故、隊長がそこまで……」

「オマエの担当医がオマエの検査をちゃんとやらないから、代わりにオレがやらざるを得なくなってんだろー! こちとら専門外だってのに医療の全てを勉強せなならんのだぞっ!!」

「はあ、私にやれと仰る? その、検査を?」

「おう、時間が空いてて余裕が有ればで良いぜ。出来れば薬を飲む前で、検査前はビタミン剤等の栄養剤を控える様に……ええと、後は中間程度のをだな」

「は、はあ……。」

 

 リアンの顔色がどんどん悪くなっている様に診える。何故だ、オレは真剣に身を按じていると云うのに。気付けば部隊の連中や仲間達も集まって来ていて軍の駐屯所はちょっとした騒ぎになっていた。

 やれ、皆して騎士様に対して、それも有ろう事か公衆の面前でセクシャルハラスメントなる破廉恥な行いに興じているだの何だのと。そんな趣味はねェってのに全く。

 この一連の騒動を切っ掛けにしてオレとリアンは看護部隊の御姉様方だけではなく、隊員達からも公私共々仲睦まじい双翼とまで呼ばれるようになってしまった。もう二度と皆の前では○検査の話は振らないぞ、と固く心に誓うのだった。

 

「そもそもだよー! オマエん所の担当医がさぁ、ちゃんとオマエを検査してやってればよー……オレの心配事が減るってのによォ、聞いてんのかライゼ~! うっ」

「隊長、少し飲み過ぎですよ。ほら、もう寝台着きましたから。いきなり吐かないで下さいね、水と気付け薬持って来ますので。」

「うう……何か、色々と気遣わせちまって……ごめん」

「良いんですよ、隊長の御蔭で私はやっと前に進めるのですから……って、もう寝ちゃってるか。ふふっ、全く布団も掛けないで。風邪ひいてしまいますよ。」

 

 部隊の皆で夜更けまで酒盛りをして久々に心の底から美味い、と感じたワインの風味を喉奥で反芻しながら寝台に横たわらせた隊長の安らかな寝顔を眺める。

 酔い潰れて眠り込んでしまった彼は譫言で愚痴を溢しつつも、幸せそうな笑顔ですうすうと遊び疲れた子供のように寝息を立て始めた。私は念の為、水でも持って来ようかと静かに寝室を離れて水場に向かう。

 使い古した銀製の薬缶を抱えて宿舎の庭に設置してある井戸へと赴き、地中の温度でひんやりと冷えた湧水を掬い上げる。木製の桶に汲まれた水は不純物など一切無く、空の月光や星々の光を含んできらきらと揺らめきながら己の姿を映し出す。

 何も得られず、何も護れず、汚れ堕ちて引き裂かれた、哀れな捨て犬の様な……私自身を。

 

 

 

――彼を斬った感触はとても重かった。

 

 脳天から袈裟切りに振り落とした凶刃は『彼』の額を掠めて左の頬へと凪いでいく。部隊の『皆』は全員、一人残らず我が刃の錆となったが『彼』だけは違った。

 元より技量も膂力も根性も人一倍、高く私と彼で双翼とまで言われていただけの事は有ると懐に飛び込み。下から顎を目掛けて放った剣先を軽く躱され、感嘆の意を胸中に込める。

 目前で我が攻撃を避け続けている彼、は……いや、彼は『敵』だ。我がヴェルンディア王家を揺るがす敵だ。私の暴走に動揺しながらも命を張って止めようとしている様で、凝りもせず幾度となく呼び掛けて来るのだった。

 その声が耳に障る。脳内を突き抜けて思考を汚染しようと奏でられる戯言に、酩酊感を味わいながら吐き気が込み上がって来る程の苦痛に侵される。

 

 どうか私を『ライゼ』と呼ばないでくれ、頼むから血塗れの躰を引き摺って立ち上がろうとするな。私はもう、とっくの昔に人ではなくなってしまったのだから。

 

 

「いい加減に諦めたらどうなのだ、ライゼライゼと良く吠える犬如きが。」

「は……ははっ、『元』軍部の犬で、諦めが悪くて、悪かった……なァッ!!」

「ぐっ……おのれェッ!! 何故だ、何故……どうして」

 

 どうして、こんなにも狂い転げ落ちていると云うのに未だ俺を『ライゼ』と呼んでくれるのか。

 奴の記憶など全て抹消した筈なのに何故、私はこの男を『憶えている』のか。最早、互いに救いようがない傷を負って血の池に覆われた地を駆け巡る。

 数えられない程の激突をマーチに例えて幾つも響かせ合った。その度に我が身と彼に刻まれる刃の痕が深さを増していく。致命傷も何度か与えてはいるが、どちらも一歩も譲らず唯戦い続ける機械兵器でもあるかの様に立ち上がる。何度も、何度も、何度も。

 屍人じみた男に頭上から振り落とす袈裟切りを幾度となく浴びせ掛け、尚も退く気は一切無く天を超えそうな程の長大さにまで成長した蛇腹剣を地面に突き刺すと一気に地面を抉り返した。

 轟音を響かせて剥ぎ飛ばされていく床面から即座に後退して、怪物の口から吐き出される瓦礫の魔弾を数百数千と迎撃し打ち払う。雨霰の如く射出される岩雪崩に因って視界が遮られる。気付けば奴の姿を見失っていた。

 

「これは目晦ましのつもりか。そんなもの、我が前では通用せぬぞ。」

 

 思えば前にもこの様な戦いに身を投じていた気がする、と奇妙な既視感に襲われ心身共に衰弱していくのが解る。

 兎にも角にも早くコイツを倒さねば、王国に未来は無い。未来が……無いだと。何故だ、何故。私は、俺は、未だ『この人』と戦っているのだ。解らない、倒さなくてはならないと云うのに気持ちだけが焦り身体が思うように動いては貰えない。

 自分の手足に重々しい枷を取り付けられたかと感じる程に硬直している。頭も痛くて息が苦しい、地獄の窯で茹でられた咎人であるかの様に地面をのた打ち回って苦痛に抗いたい。食い縛った歯がみしりと音が鳴り、顎先から冷や汗が落ちる。

 決して手放すまいと強く握りしめた細剣の柄が血で滑って、今にも痙攣で滑り落してしまいそうだ。『カノジョ』が私の事を慮って調整を施してくれた白銀の剣には、もう殆ど魔力が残っておらず後数十もの衝突を喰らえば折れてしまうだろう。

 そうなる前に決着を付けたかったが、奴も負けじと対抗手段を講じて来る。自身の得物を大いに理解しているのだろう、攻撃の繰り出し方に緩急とブラフを加えて私を翻弄する様は記憶の水底で眠るあの人の面影を感じて胸が締め付けられる。

 ずっと永い永い時が経っているのに彼の輝きは潰える事を知らない。それどころか何時だって、太陽のように明るくて温かくて……ずっと、その輝きに憧れていたのだ。

 

 あの日もこうして自暴自棄になって暴れ回った私を命懸けで止めてくれましたね。世界でたった一人だけ生き残って、どれだけの傷を負ったとしても必ず未来は有るのだと教えてくれた。

 俺が、最後の希望だからと。あの日からずっと待っていてくれたんだな、夢から覚めるか何て解らないのに探してくれたんだな。

 

 

――……ザウアー、隊長。

 

 黒い靄に包まれる戦乱の中心に、奴は静かに身構えて機を狙っていた。恐らく次の一手が互いに解き放てる最大の一閃となろう。

 であるならば、こちらも相応の膂力神力で以て応じよう。沸騰した熱量が急速に冷めていくのを体感して、震える腕に再び力を籠める。アルバ―からのカウンターへと繋げるが、そんな常人の剣技が通じるとは到底思えぬので此処で全力を出し切らねばならない。

 だが、果たして今の自分に彼を討ち取れるだろうか。半ば諦観が混じった心中を腹の底に呑み込んで我が空虚なる魂魄に神の御霊を請来する。

 全身を巡る血潮に満たされる人成らざる全知全能の賜物が心を蝕み、無我の境地へと送還して私の全てを支配していく。もう一歩ですら後戻りは出来ないと覚悟を決めて、最後の一閃が放たれる瞬間を待ち望む。

 

――初めからこうしていれば良かったのだ、やはり私は……。

 

 

 奴との交戦を開始して何時間、経過しただろうか。以前から良く見知っていた彼の剣技は、あれから三百年経っても衰えを知らず、剰え想定を上回る能力と力を有してオレの前に燦燦と降り立つものだから堪らない。

 無尽蔵に膨れ上がる神力はあちらも同様らしく、何百何千と突き出される剣技の切れ味は時間を追う毎に兇悪さを増す。苛烈を極めた剣捌きに打ち抜かれ、斬り飛ばされ、抉られ貫かれて、オレの身体は何度も何度も壊される。その都度、魂に深々と根付いた『神様』の群れが自身を駆り立て損傷部位を新たに造り替えていく。

 何だってこんな化け物に成り果ててしまったんだか、オレもオマエも。血反吐と共に重苦しい溜息を吐く。肉体の全換装に因り衰弱も激痛も瞬時に吹き飛ばされて、悪しき『神』を超越する武神と成るべく転化が施されていく中で心は無限に責め苛まれていた。

 あの時、今度こそ救えた筈だと性懲りも無く楽観してしまい、勝手に重荷を下ろそうとして足元を掬われ、甘さに負けてしまった事を後悔している。だからこそ、もう逃げはしない。

 

――次の一手で、奴を仕留める。

 

 軋む全身に鞭を打って血と臓腑で滑りを帯びた得物を固く強く握り締め構えを取る。肩に担いだ竜骨の重さなど、とっくに感じられなくなっていた。己の身に宿った神力の全てを今まで掛けて来た剣術の御業に注ぎ込んで願い奉る。

 オレの身体も心も壊れてしまっても良い、欲しければ全部遺らずくれてやるから、だからアイツの魂を浄化出来る助力を譲ってくれと。そうして振り絞った結果として一時的では有るが、最大級の火力で奥義を振るえる程の神力を得るも。

 視界は一気に闇へと包まれた。もう輝かしい陽光を拝む事も、仲間達の笑顔を見守る事も叶わない。やがて耳も聞こえなくなり、体中の全神経も焼き切れて、朝日を浴びる頃には完全な魔物へ変貌し堕ちているに違いない。それでも助けなくてはならない人がいるから。

 オレは二度、行使する事を許された異能の力を爆発させ奴に最期の剣閃を餞として贈る。どうか今世こそ届いてくれと、願いながら。

 

――……嗚呼、だってよ、オレは未だオマエに……本当の気持ちを伝えてないんだ。

 

――もしも、来世が有るのなら。その時こそは……。

 

 

 私はこのような事をやりたくて騎士を目指した訳ではない。部隊の同胞を、仲間達を、ザウアー……オマエの心を踏み躙って、リーン……愛する者を傷付けて悲しませる気なんて無かったんだ。

 もう戦いたくなかったし、殺したくなかったし、誰も目の前で死んで欲しくはなかった。例えそれが何処かで生きている知らない生命であろうとも、己の中に巣食っている邪神が勝手に貪り尽くすだなんて有ってはならないのだ。

 私以外の誰かが犠牲に成る『セカイ』など必要ない……では、此奴をどうするべきか。答えは至って簡単な事だ。死しても滅ばぬ魂を持った堕天使など自らこの手で、終わらぬ無間地獄に落としてくれよう。

 俺に出来る事何て、たかが知れてるからさ。上手くやれる何て保証は何処にも無いけれど、それでも私は今度こそ救いたいんだ。愛するもの達が生きているこの『世界』を。

 

――それが私と、オレの、最後の願いだから。

 

――どうか、死なせてくれ……隊長(ザウアー)。

 

 

 

「天地開闢――壱乃型。日出圀、黄泉平坂耀刺、我日向橘小戸禊之武神也、其御霊奉天照大御神(日出ヅル圀、黄泉平坂ニ光刺サン、我日向ノ橘ノ小戸ニテ禊シ武神也、其ノ御霊奉ラン天照大御神)!!」

「神請、我は闇の寵愛を享けし者也――招来せよ、楽園追放(Engage・Thanatophobia――Verbanntes Paradies)!」

 

 

 此処に二対の魔神が高らかに顕現する。

 一秒たりとも違わず同時に発露した奥義の乱流は互いの想いを呑み込まんと荒々しく激突する。神速をも超える尖刃が轟き嘶いて空間を猛然なる波濤で戸巻していった。

 終わらぬ死出の旅路に身を投げる殉教者と、死を許さぬ明日を輝かせんと奮い立つ武神と、双方共に解き放たれた神威が世界の理を創生し新たな神の世を祝福する。

 どちらが勝っても負けても、日が昇れば変性を完遂した悪しき神々は我が身許に再誕を果たすのだ。凍える檻の深奥で眠りながらも親愛なる神を蘇生させる機会を窺い、今まで画策して来たがこんなにも誤算が生じるとは推測が付かず。

 彼等、只人共の無駄な足掻きを嗤い転げながら愉快痛快と眺めていた我の胸に一筋の罅が入る。

 呆然と見下ろした胸元から翠玉の刃が覗いている。首元に下げた安物の装飾品をゆらゆらと引っ掛けて、それは徐々に深々と背中を貫き我が神の『心臓』を破壊せんと突き進む。

 これが狙いだったのか、と。輝晶石に映り込んだ彼等の面はしてやったりと我を見据えて光輝の最中に溶けていく。脆く儚い鎖が千切れる音が木霊した。

 飛び散る金色の鎖に、何故か手が伸びる。あの御方が下さった、大切な、大切な宝物が……。

 

「あ、ああ……リ、アン様……レクセス、私の王騎士、どうか、彼を」

 

――彼等を……護って。

 

 

 

 他者の死を恐れ、自らの死を願った殉教者の儚い思いは武神の心臓には届かず数センチ手前で刃先が静止していた。なべて『当初』の計画通りに事は成される。

 武神が解き放った最大火力の高位神力が魔王の魂を、その御身ごと吹き飛ばし地に叩き付け深淵を討ち払うのだった。三メートルを軽く超えている竜骨の頭部が餌を求めて倒れ伏した花婿の身体に殺到する。

 無数の魔物に腸を食い破られながらも彼は何処か満足げに微笑んで、傍らに立つ武神に哀悼と贖罪の意を乗せた声をそっと静かに掛けた。嘗てザウアーと名を呼ばれていた男は、自らの手で滅した剣聖の痛ましい姿を今にも泣き出しそうな表情で見下ろす。

 

「がフッ……は、はは……嗚呼、やはり私は、貴方に勝てない」

「どうして、躊躇った? 最後までオマエが刃を貫き通してれば、オレを殺せていただろうが。」

「ふ、ふふ。さあ、どうしてでしょうね……ああ、此処まで永く生きていると惚れた弱みの一つや二つ、遺していた方が面白いか……と」

「そうかい……全く、まあ気持ちは解らなくもないが。そういう台詞はリーンの嬢ちゃんに言ってやれよ。」

 

 徐々に焦点が空を彷徨って虚ろに黒ずんでいく剣聖を悼むように、ゆっくりと屈んで鮮血に濡れた髪を撫で上げる。額に凭れ掛かった金髪を梳いて退かしてやるとライゼは擽ったげに微かな笑みを溢し、か細く寝息を立てながら永遠の眠りに就いてしまった。彼を、殺すつもりなんて……本当は少しも無かったのに。

 

「オレは、還して欲しかっただけなんだよ……オマエと皆で過ごした、あの時間を。だから、ごめんな……リアン、ライゼ。もう少しの辛抱だ、オマエらの魂を連れて行ってやるから。」

 

 だから今は、もう暫く眠っていてくれと。別れの言葉を投げ掛けて神剣ヴェルンディアを振り落とす。そこに、剣聖の死を目の当たりにして神域の覚醒に目覚めてしまった残り二対の神が誕生する。

 砕け散ったステンドグラスから差し込む穏やかな陽光を背に、堕ちた天使の剣舞が飛翔して武神の魂を喰らわんと狙いを定めた。

 

「あの御方の居ないセカイなど、私が否定する。」

「そう簡単に死なれては困るのだよ。ねえ、兄さん。」

 

 世界は白く染まりながら、彼等の最終決戦が此処に一つの終焉を迎える。朝日は昇り、人も王国も魔界の坩堝へと落下して行く。

 もう誰一人として、この煉獄の世を止められぬ者は居ない……彼等の願いが新たな世を創生する。

 

 その時までは。

 

 

【『LostHeaven―盲目のユメ―』第八章/了】

 




 ザウアーさんの名誉の為に何度でも御詫びと共に申し上げます。決して変態さんではありません;
 おじさんと某あの御方の海辺デートが楽しみです!
 この作中では海辺デートクリア前をイメージして、拝む前に書いてしまったので彼等の真意は果たして……と云う事にしておきます。
ついでに申しますとエル様もリアン様も亡くなってはおりませんが一先ず詳しくは伏せておこうと思います。

 それでは物語も大詰めとなって参りました。後二話分、グダグダしてしまうと思うのですが。また次回も気が向きましたら楽しく御読みになられて頂けますと幸いです。
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