盛大に何も始まらない、なろう風小説   作:それも私だ

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連座は基本。
 ・後書きに表現についての補足を追加(2024/3/22)。

 キーワード:冒険者 追放 家族 妹 悪堕ち


真言

「きゃあああっ!」

 

「はぁぁぁっ、とぉぉぉっ!! ──お嬢さん、大丈夫かな?」

 

「あ……、ありがとう、ございます」

 

「私は旅の冒険者だ。ここへはある目的のために来たのだが……、おかげでお嬢さんの命を助けることが出来てよかった。この地域は魔物被害が多いのかな?」

 

「えっと、あのぅ……」

 

「……まずは無事に村へ送り届けると約束しよう」

 

 

────────────────

 

 

「あの、さっきはありがとうございました」

 

「礼ならもう受け取っているよ。むしろ私が礼を述べるべきだな。こんなに美味しい食事だけでなく、宿まで貸してくれるというのだから」

 

「い、いえっ、そんな! 助けてもらったし、当然のお礼ですよ!」

 

「……ふむ。では互いに礼を尽くしたということにしようか」

 

「はいっ! それにしても、こんな田舎村まで来るなんて、どうしたんですか? さっき目的が~、って言ってましたよね? あたしに何か手伝えることはありますか?」

 

「……君は記憶力が良いようだね。普通なら恐怖のあまり、細かいことを覚えている人は少ないというのに。……君は、ナウロン、という男を知っているかな?」

 

「えっ! 知っているもなにも……兄です」

 

「ほう」

 

「兄の身に何かあったんですかっ!?」

 

「いや。君のお兄さんが何かした、というのが正しいな」

 

「それは……?」

 

「少し長い話になるかもしれない。私と私の仲間はね、君のお兄さんにハメられたんだ。これでも私は都会ではそこそこ名の売れた冒険者でね、君のお兄さんと一緒にお仕事をしていたんだ」

 

「仕事って冒険者のですか? お(にい)……(あに)は冒険者になるんだって、小さい頃からずっと言ってましたから、もしかして」

 

「ああ、冒険者の仕事で合っている。ナウロンはね、私たちに実力を隠していたんだ」

 

「え? どうして?」

 

「さあ、それは分からない。彼との付き合いは長いものだったが、最後まで能力を打ち明けられることはなかった。彼は自分が無能だと演じていたんだ」

 

「……」

 

「先ほど魔物に襲われかけた君ならよく分かると思うが、冒険者とは基本的に生死にかかわる場所で働いている。そんな場所で自分に出来る事を隠している人をどう思う?」

 

「よくないことだと思います」

 

「そうだね。よくないことだ。では改善するためにはどうしたらいいと思う?」

 

「えと……、理由を聞き出してみるとか?」

 

「それが出来たら簡単だったんだがね。正解は、もっといい人と入れ替える、だ」

 

「あ……」

 

「残念なことに話はここで終わりではなくてね。あろうことか、ナウロンは私たちと離れた途端に実力を隠すことを止めたんだ。それからの彼は……妹である君の前ではとても言いづらいことなのだが……その、女漁りに()()しだしてね。常に見目麗しい女性を(はべ)らせている。実力者を追放した間抜けだと、私の評判を下げながら」

 

「なっ!? 本当……なんですね、……お兄ちゃん……」

 

「今の話を信じるのか?」

 

「信じます。あなたはあたしを助けてくれましたし、今だって話していてとても誠実な人なんだなってことは分かってます。だから、お兄ちゃんがおかしくなったんだって考えたほうが……」

 

「……嫌な話をしてしまって、すまない」

 

「いえ、いいんです。そんなことより、何かあたしに出来ることはありますか?」

 

「ふむ?」

 

「お兄ちゃんの様子を教えに来てくれただけじゃないですよね?」

 

「あぁ、ここへはナウロンのことを知るためにきたんだ。どうして彼はあんなことを仕出かしたのかとね」

 

「……冒険者さん。あたしも連れてってください!」

 

「君も、冒険者になるというのか?」

 

「はい! 身内の恥は()()()片付けたいんです!」

 

「つらい思いをしてまで?」

 

「かまいません!」

 

「……決心は固いようだ。わかった。今この時を()って、君は私のパーティの仲間だ。()()()、君のお兄さんの愚行を止めにいこう」

 

 




以下、雑な設定。

紳士的な冒険者:
 冒険者。30代くらいのおっさん。一見して人当たりがいいが、その裏には損得勘定や自尊心が潜んでいる。黒幕系にしてドクズの畜生。
 ナウロンの妹に語ったことはすべて真実であり、ウソはひとつも入れていない。単純に自身が被害者側であり、ナウロンが加害者側に見えるように誘導していただけ。
 ナウロンの故郷へ赴いたのは、彼から家族や故郷を奪うためだったが、実妹の申し出に兄妹同士、直接いがみ合わせる方向に計画は進んだ。妹さんを抱き込む気満々。色んな意味で。

ナウロンの妹:
 田舎暮らしの実家暮らし。故郷を離れて狂ってしまった兄を止めようと決意した。具体的にどうするかまでは考えておらず、協力を申し出たのも勢いによるもの。命を救われた恩と、話し合いの様子から冒険者の男を完全に信用しきっている。もはや洗脳を受けたようなものだが、それらの先入観により、その洗脳が解かれることはもうない。仮に兄に説得されても、男は事実しか述べていないので解きようがない。
 自ら人質へなりにいったのは間違いないが、男は彼女を鍛えるつもりであり、いますぐにどうこうという話ではなくなった。男の手駒や同志として利用されることが決定している。悪堕ち確定。

ナウロン:
 本文未登場。なろう系主人公。よくある、追放された後に頭角を現すタイプ。順調に功績を積み上げているが、先行きに暗雲が立ち込みだした。妹に雷を落とされるのは、そう遠くない未来。


真言(タイトル):
 文字通り「真実の言葉」の意だが、作中では、まやかしの言葉として利用している。うまいウソの吐き方は、言葉の何割かに真実を含ませて現実味を持たせること。だったら10割の真実で騙せば不足はなくなる。
 また、元を辿れば宗教関連の用語であり呪術的な語句のことを指す。一部では「真言はむやみに唱えてはいけない(意味を理解せずに口にしてはいけない)」と考えられている。転じて本作では兄妹の軽率な言動に対しての皮肉となっている。


Q.「無心」の使い方おかしくない?
A.故意の表現。辞書などに載っている通り、悪い意味として使っている。ヤツは人でなし(考えなし・思慮なし・分別なしの三重)であるというメタ的な皮肉。また、意志や感情がまるで感じられない様子=正気ではないとも語っている。芯(人の心)が無いとも。主人公といえば特別扱い。貴重な品々を無言の圧力で強請っていても不思議ではない。メタ的な嫌味としても機能している。タイトルの宗教用語つながりで思考停止しているとも。

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