戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第伍拾参話

 私たちにできる準備は終わった。

 後はもう出撃する二人が海を前に佇む背を見ながら、作戦開始時刻まで待つくらいだ。まぁ、急ごしらえで足りないことも多いんだけど、そもそも30分じゃどうしようもないのでそのへんは諦めた。

 

「そろそろ時間だ。二人とも準備は出来ているな」

 

「「……はい」」

 

 教師陣の指揮を執り終えたちー姉が岸にくるなりそう二人に声を掛けた。少し反応が遅れたけれど、ちー姉は咎めない。二人がただ佇んでいるだけではなく、立ったまま瞑想していたのだと気が付いているから。

 流派特有なのかな。自然に身を委ね精神を落ち着ける、それさえ出来るなら立振舞は関係ないらしい。

 

「来い、白式」

 

「行くぞ、赤椿」

 

 鎧袖一触の白を纏うのは一兄、

 疾風迅雷の紅を纏うのは箒ちゃん。

 

 ……紅白まんじゅう食べたいなー。

 

 ………………

 …………

 ……

 じゃなくて!

 ちー姉との最終確認を終えたので声を掛ける。

 

「箒ちゃん、頑張って。一兄がバカやったらフォローお願い」

 

「任せておけ」

 

「おい、俺が失敗するのは断定かよ!」

 

 一兄が喚くけど無視です。普段皆にボコボコされてるから油断しないでしょ。心配なのは箒ちゃんのほうだ。束さんの腕は信頼してるけど一時間程度の訓練でできるほど実戦は甘くない。ま、私の時と違って途中があるからまだマシだけど。

 それに打鉄の経験がどこまで生きるのか……、第二と第三(三.伍?)の世代差だけでも随分あるのに、第四との差なんて考えるまでもない。

 一兄のことでも考えて、気を紛らわせたほうが良いでしょ。

 

「まあ良いけどよ……。箒、先生も言ってたようにこれは訓練じゃないんだ。実戦じゃ何が起こるかわからない。十分に注意しろよ」

 

「無論、わかっているさ。何だ、怖いのか?」

 

「そうじゃねぇって……」

 

「ははっ、心配するな。お前はちゃんと私が運んでやる。大船に乗ったつもりでいればいい」

 

「…………」

 

 ……あ、これダメなやつだ。不安の倍率がドンッと増した気がする。

 

『一兄、一兄、さっきはああ言ったけどさ。箒ちゃん、ヤバいよね』

 

『ああ、わかってる。浮かれすぎだ』

 

 イアちゃんにお願いして一兄に個別で発信すると、そう反ってきた。一兄も気付いていたみたい。専用機をもらって嬉しいのはわかるけど、箒ちゃんがとても舞い上がっているのだ。

 

『あんなんじゃどんなことをし損じちゃうかわからないよ。私たちじゃ追いつけない。だから一兄、箒ちゃんのサポートお願いね』

 

『任せろ。ちゃんと無事に帰ってくる』

 

 私たちが心配した視線を送っているのにも気付かず、箒ちゃんはにやにやしたまま作戦の時間が来てしまった。

 

「今回の作戦の要は一撃必殺だ。短期決戦を心懸けろ」

 

「「了解」」

 

 速やかに二人は準備――箒ちゃんの背に一兄が乗った。

 

「作戦、開始!!」

 

 ちー姉の号令を引き金に、二人は大海へと飛び立った。

 

(二人とも、無事に帰ってきて)

 

 

 

 ゆらゆら揺らめくこの空を斬り裂いて一機の銀の鳥が羽撃いていた。

 

『見えたぞ、一夏!』

 

『……ああ!』

 

 その鳥の斜め後方より紅白の二人の戦士が、超音速をさらに上回る速度で追いかけている。相対する二つの速度、距離を合わせると接触まであと10秒といったところか。その時、紅……篠ノ之箒操る赤椿がさらに加速し急速に間を詰めていく。

 

『うおぉおおっ!!』

 

 赤椿から白……白式が離れ、一夏が瞬時加速を起動させる。超音速の世界の中でさらなる超音速に至った。

 それと同時に銀の福音が振り返った。減速も起こさない反転で、次には身構える。一瞬の迷いを覗わせるもすぐに振り払い、一夏は零落白夜を発動し、光を纏った刃を振り翳した。

 

『敵機確認。回避モードへ移行』

 

 だが、刃は届かない。回線を通し抑揚の欠いた機械音声が発されるや否や、滑るように福音が横に移動し光る刃をミリ単位で避けた。機械が故の異常な操作ということか。

 

『箒! 援護を!』

 

『任せろ!』

 

 初心者ながらも、良い判断を下した。一回きりのチャンスを逃したが援軍の来ない今、短期決戦の選択は正解だ。

 下手に距離を取られる前に果敢に一夏は攻め続ける。さらに箒が打突と斬撃を織り交ぜたエネルギー刃で逃げ道を奪っていく。

 

『くそっ! 当たらねぇ!』

 

『ええい、すばしっこい!』

 

 それでも妖精のような軽やかな舞いに翻弄され上手く捉え切れない。

 

『箒!!』

 

『ああ!』

 

 短い会話が二人の間で繋がれた。それだけで、一つの作戦が発案実行に移される。

 一夏の振った雪片が躱された。だがそもそも今のが当たるなんて期待、既に二人ともしていない。福音が引くと同時に追うようにして左右から挟み込んだ。

 

『……!』

 

 そして下がった先で福音が動きを止めた。学習プログラムでも組み込んでいるのだろう福音は短い戦闘から確実に回避できる距離を割だしてしまっていたがために。

 追撃とは少し異なる行動に僅かながらラグが生じた。一夏一人ならどうしようもない距離だ。しかし彼の向かい側には箒がいる。

 

『空裂! 雨月!』

 

 大きく広がったエネルギーの輪が福音を囲う。薄くなっても攻性は攻性、上下左右が防がり空いた道は前後の一夏たちが迫る二方向のみ。

 

『これで! 終わ――『敵対機の危険度を修正。迎撃モードへ移行。銀の鐘(シルバー・ベル)、起動』――りっ!?』

 

 彼の音声が淡々と告げた。そして福音は行動に移る。迫り来るどちらかを正面に捉えるのでなく、左右の肩をそれぞれ向ける形で。

 突然の変化に戸惑うが悩んでる暇はない。なにかされる前にこちらから先に、と言わんばかりのトップスピードで切り抜けようとブーストを噴かす。

 このチャンスを逃すわけにはいかないのだ。

 

『一夏!!』

 

 だが、福音の輝く翼に、声を荒げた箒の叫びに、一夏はその意志を即座に投げ捨てる。人の身では重かろう慣性の重圧に潰されそうになりながらも、下方へと身体を投げ飛ばした。その直後、幾十の小さな粒が通り過ぎ……爆散した。

 

『ま、マジかよ……』

 

 放出された光弾の数に呆れるしかない。一つでも当たれば大ダメージは必至というのに、それが一度の放射で30は下らない量を撒き散らすともなれば同情ものだ。

 攻守が一瞬にして切り替わる。

 俗に言う段幕ゲーか? 福音の左右それぞれで必死な回避が見受けられた。箒はまだ余裕がありそうだが、一夏が軽く絶望感を漂わせている。やはり迎撃方法が剣一本ではキツいものがあるか。……それでも躱せているのは努力の賜物と言えよう。

 

『くっ、近づけねぇ!』

 

『任せろ! 赤椿ならこのくらい!』

 

 第四世代だったか? 篠ノ之束の力作の性能に物言わせ光の弾幕を出鱈目に回避し接近を始めた。足らない技術を性能で補うというなんとも情けない光景ながら、確かに刃を届かせる。

 

『ナイス、箒!』

 

 一瞬途切れた弾幕を見逃さず、一夏も距離を詰めていく。

 問題点はまだまだ多いが及第点は与えてもよさそうだ。

 

『こいつで…………っ!?』

 

 予感は所詮予感。外れることもある。そう思っていた。だが、一夏は距離を詰めるのを止め、わざわざ福音の目の前――直前まで箒のいた場所までブーストを吹かせた。

 逃げ道を失い弾幕も荒くなった福音にトドメをさせたはずだというのに、一夏は目聡くも優しい行動を行ったのだ。

 

『一夏、お前何をやって!?』

 

『船がいるんだよ!!』

 

 福音が向けた翼の先端が捉えていたのは一隻の船。教師陣が封鎖して尚この場いるということは何処ぞの密漁船なのだろうが、それでも一夏は庇う。長い戦闘で心許ないエネルギーを躊躇無く注ぎ込み、起動させた零落白夜で斬り払った。

 

『密漁船だろう!! そんな犯罪者庇って何になる!』

 

 作戦が失敗すればそれ以上の被害が起きるかもしれない、と箒は暗に告げる。その考えは間違っていない。間違ってはいないのだ。だが、決定的に間違っている。

 

『そんな寂しいこと言うなよ、箒』

 

 小を切り捨て大を救う。それは正しい。しかしそんな考えは軍人だけが持っていれば良い話だ。

 ――目の前のものを助けるために力を揮う。

 とまでは言わないが、小一時間前まで一般生徒だった箒が力を得たからと切り捨てを考えることはない。

 

『力を手にしたら、弱いヤツのことが見えなくなるなんて……どうしたんだよ。らしくない、全然らしくないぞ』

 

『!? わ、私は……』

 

 一夏の愚か者が。その当たり前の言葉が心を穿つ杭と化す。気付かされた事実が箒に致命的な動揺を引き起こしてしまった。それは隠しきれない大きな隙になる。

 同時に発信された一つのパターン反応が状況を悪夢へと誘った。

 

「――――――ぃ!?」

 

『え…………?』

 

 密漁船と思われる船で何かが起きた。船内から誰かが飛び出して何かを叫んだのだろう。ここからでは見ることも聞くことも出来なかった。だが偶然にも、その姿を直に目撃した箒の顔から血の気が失せ、握った刀が指先からするりと落ちて散っていく様で、そんなものはわかりきってしまった。

 

――急げ! 急げ! 急げッ!!

 

 圧し掛かる水の分子共を薙ぎ払え。眠る装甲に火を叩き込め。

 

 あぁ、悪夢は余りにも重なりすぎた。

 

『何が……、っ!?』

 

 それを見た一夏は剣も捨てて駆け出す。瞬時加速が貴重なエネルギーを一滴も残さず喰らい潰していく。それでも止まらない。止められない。

 一夏の視界の奥で福音が動いていた……翼をかざし砲口をたった一点、箒のみを狙った一斉射撃の体勢に。

 

『箒ィィイイイイッ!!』

 

 真っ直ぐと飛んだ一夏は迫り来る光の前から箒を庇う。

 

『…………いち……か?』

 

『ウグゥ……ァ!』

 

 白式の装甲が容易く砕けていき、膨大な熱が一夏を侵食していく。激しい痛みが一夏の身を襲っているのだろう。間に合わぬこの身が情けない。

 

『一夏、一夏!!』

 

 巻き起こる黒い煙幕の中で、銀の鐘を受けてなお原型を留めていた白式も粒子となって散り始めた。煙を貫いて現れた一夏も疾うに意識を失い、自然にされるがままに落ちていく。すぐに箒が追いつき抱え上げた。

 懸命に揺さぶり声を掛けるが反応はない。何をどうすれば良いのか、もう考えることすら彼女にはできなかった。そんな彼女の背に向けて鬼気迫る声が轟いた。

 

『箒ちゃん! 一兄を連れて今すぐ逃げてっ!!!!!』

 

「ガァャァアアアッ!!」

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