戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第伍拾伍話

「し、信じられない……」

 

 衛星から届けられる映像を見て、誰かが呟いた。

 

「本当に……奴は人間なのか……」

 

 それは二機の人造兵器を相手に、海のど真ん中で立ち回る一人の生身の人影を捉えた映像です。その人は海面に点々と波紋を浮かべ駆け回る。

 

「あ、あれは……エネルギー弾、ですわよ……ね」

 

 そして襲い来る幾十の光弾、幾線の閃光を足場に空で拳を奮っていた。

 

「危ない!!」

 

 その人の背後を狙うように気持ち悪い色をした腕から爪が突き出された。けど身体をくの字に折り曲げて回避すると、その出鱈目に太い腕に指を食い込ませて逆立った。

 

――追撃をさせないよう離れないため?

 

 そう思わせた動きは見事に私たちを裏切った。

 そのままその人は急速降下で前に倒れる。食い込んだ指を緩めることなく、むしろさらに力を込めて空を蹴ってまで前から落ちる。

 気持ちわ(ry――面倒いから以下ノイズ(仮)でいいよね。配色そっくりだし、イアちゃんもノイズとほぼ同一っていってるんだし、てことで――ノイズ(仮)が悲鳴を上げる。

 ガッチリと固定された腕が回転の影響で180度以上に大きく捻られていたのだ。ノイズ(仮)に関節? とは思わなくもないけど大体の物体って思いっきり捻るとブチッといくわけで……。

 あと少しでねじ切れるところで、もう一方の腕がその人の胴を捕らえた。叩き落とされ海上を水切り滑っていく。

 

『――聞こえるているな? 響』

 

 さも当前のように向こうから回線が繋げられた。

 

「うん。聞こえてるよ、踊君」

 

 ここのマイクはイアちゃんのお陰で起動しっぱなしだ。

 だからちゃんと声は届いた……はず。後ろで皆が息を呑むのがわかったけど、それ以上に今目の前にある映像のほうが重要なので踊君の声に集中する。

 

『グッ! …………もうこいつが何かは気付いているな』

 

「ノイズ、なんだね」

 

 海面を無数の光弾が埋め尽くし炸裂を始めた。それでも踊君は、針に糸を通すような辛い衝撃の隙間を縫いて走り続ける。

 

 誘われてる!?

 

 私が発見した時にはすでに手遅れ。信じられないことに縦横無尽に敷き詰められた抜け道は全部ブラフだった。

 踊君の逃げた先には20を超える光弾が鎮座していて、追い立てていた分も合わせたら100に迫る量だ。

 

『ッ!』

 

 一面が真っ白の泡で包まれ――!? 白を祓う突風を吹かせノイズ(仮)が瞬時に飛び込み一つの穴ができる。

 その穴に意識を向けた次の瞬間、画面にも納まりきらない程の巨大な波紋を海面にも空にも生み出して、互いの拳を突き出す姿が映った。

 互いに譲らぬ拮抗状態に見えた。けど踊君の腕の辺りには、鮮血もどきが舞っていた。

 

「いったい何がどうなってるのよ!? ノイズって何よ! さっきの声は?! アイツはいったい何なのよ!!」

 

 皆の驚きや戸惑いを代弁するように鈴ちゃんが私を睨んだ。振り返ると他の人たちも似たような感じです。

 でも鈴ちゃんやセシリアちゃん、シャルちゃんにラウラちゃん、そしてちー姉の目は他の誰よりも鋭く殺気立ち、この場にはいない束さんの憤怒の気配が漂ってきていた。

 

「それは……」

 

 でも私には説明ができなかった。仕方ないじゃん! 私だって今の状況がわかってないんだもん!

 こっちの世界にいないはずのノイズがいるとか思わないし、踊君やイアちゃんのことは機密だもん……。

 いや、そうじゃなくても上手く説明できる気はしないけど……。

 

『遙か昔、先史文明期の人類によって造り出された対人専用殺戮兵器通称ノイズ、それが奴の正体です。そして私はイア。響さんの搭乗するニールハート、正式名ガングニール・イアハートのアーティフィカルインテリジェンス……AIです』

 

 回答に詰まっていると、ペンダントを点滅させながらイアちゃんがそう答えた。……て、光るんだ。こんな状況だけど、隠されたギミックにちょっとビックリ。

 

『(置いてかれたせいです)』

 

「(ごめんなさい)」

 

 胸の中で怒られてしまった……。そんなことはつゆ知らず代表したちー姉の視線が胸に注がれた。

 

「彼はいったい何者だ」

 

『聖踊……。私の生みの親であり、ノイズ殲滅に効果ある唯一の構造を持つ真槍の機人です』

 

 イアちゃんに説明はお任せして踊君の戦いに向き直る。1対2の攻防は苛烈さを増していた。

 高速の連打が交差する中、ノイズの力に圧し負け踊君が弾き飛ばされた。でもすぐに体勢を立て直し、今度は離れて危険物を巻き放題の福音との間を一息で詰め飛び蹴りを。そして息継ぐ暇無く直後に現れたノイズの口撃に曝され皮膚を焦がしながら、その脳天を踵で打ち抜いた。

 ……あれ? 今、何か変な感じが?

 

「キジン?」

 

『ロボット、アンドロイド、ヒューマノイド、機械生命体。呼び方は多種多様ありますが全てに通用しどれにも属さない……ただ人なら去る者とご理解下さい』

 

 イアちゃんが解説していると不意に外が切羽詰まる怒鳴り声で騒がしくなり始めた。

 

「報告します! 篠ノ之箒、織斑一夏、両名が帰還しました。篠ノ之箒に外傷はありませんが、織斑一夏は危篤……現在緊急オペが行われています」

 

 扉を開けた先生から告げられたのは二人の帰還だった。けど内容は最悪に近い。作戦失敗だけなら今後の対策次第で何とでもなるのに、一兄の危篤という現実は私たちの背に重く圧し掛かった。

 

「イアちゃん、一兄の状態わかる?」

 

『そうですね……。一夏さんはおそらく生死の狭間に滞在しているのかと。3時間から4時間といったところでしょうか』

 

「……そうか」

 

 イアちゃんの診断を受けてちー姉は知らせに来た先生に何か小さな声で指示を出す。そしてすぐにモニターに顔を向け直した。組んで隠した拳をギチギチと鳴らして。

 

「戦況は」

 

「聖君が圧されている模様です……」

 

 送られてきた映像を見る限り戦闘そのものは互角でどっちが優勢かなんて決められないほどのものだ。

 けど止まれば最後沈んでしまう踊君は動き続けなければならなくて、浅くない怪我をいくつも負った身体からは動く度に赤い液体が噴出していた。

 

 有利なのがどっちかなんて火を見るよりも明らかだった。

 

『すま……ない、皆。説明、頼んだ』

 

「ふぇ?」

 

 踊君が福音を蹴飛ばした。強烈な一撃は何十メートルどころか何百メートルも彼方先へ遠ざける。でもそのせいで僅かに踊君の動きが停止した。

 それを見逃してくれるほど奴は甘くない。薄く研がれた5本の爪が踊君の腹に叩きつけられた。

 踊君の姿が消える。衛星の監視から外れたんだ。後を追ってノイズも火を吹かせた。

 

「映像どうした!」

 

「福音と正体不明機が分裂したためエラーを起こしたようです。どちらを追うか指示を!」

 

「そんなもの決まっている! 聖の追跡を――『その必要はないみたいですよ』――それはどういう……ッ!?」

 

 大太鼓よりも深く締め作るような衝撃が旅館全体を貫いた。

 

「な、なになに!?」

 

「どったの!?」

 

 慌てて部屋を出るとさっきよりも騒ぎが大きくなっていた。

 室内待機を命じられて退屈していた生徒達が今の喧騒(ネタ)に食いつかないわけがなかったのです。窓やら扉やらから身を乗り出して同じ方向を見ている。

 丁度コの字隙間で砂がモクモク漂っている。あれがさっきの原因らしい。

 

「何あれ!?」

 

「そ、そんな! なんでアイツが!?」

 

 一人の生徒が指差した先には奴がいた。まっすぐこの場所を目指し接近してくる。ノイズがこっちに向かってるって、ことは……。

 

「キャアアァアッ!?」

 

 砂煙を見ていた生徒が悲鳴を上げた。

 

「こいつは……俺が仕留める」

 

 一般人、それもまだ成人もしてない子供が見るにはグロテスクすぎる姿だったから。血管一本でぶら下がっていた右腕を引き千切って、頭の左上部失った踊君がそこに立っていた。

 

「だから響、アイツの……銀の最期の願い、叶えてやってくれ」

 

 それだけを言うと踊君は大地を踏み締め上体を低く落とした。

 

「それってどういう?!」

 

「ここから先は通さねぇ! ……共に海に散ろうや」

 

 私が質問しきる前に踊君は足を伸ばした。何十トンの力で押し込めていたバネが突然解放されたかのように、迫っていたノイズごと風になった。

 私にもイアちゃんにも残像さえ認識できない速度で消えたのだ。今見ていたのが幻だったといえば納得出来てしまうくらい。

 でも現実なのは間違いない。それは天に届かんばかりに高く高く登った水柱が証明していた。

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