戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第伍拾捌話

――暗い世界だ。

 

 浮くも沈むも分からない何もない黒の世界。暖かみも冷たさも感じられない無の世界。いつ終わるともわからない永久の世界。

 

――だが、それで構わない。後は若者の仕事だ。もう老兵の出る幕はない。

 

 ノイズは潰しておいたやった。こっから先、何を為すもお前の勝手だ。

 

――だろう? …………達よ。

 

 聞こえることを信じ、『聖踊()』はそっと呟いた。

 

 

 

『作戦開始まで残り5秒! ――3、2、1、オペレーション・スタート!』

 

 イアの言葉を口火に遠く離れた場所で光炎の砲哮が上がった。

 

「初弾命中。引き続き砲撃を行う!」

 

 1対の門を肩に担ぎ4枚の強固なシールドに包まれたラウラとレーゲンは隙無く交互に、確実に狙い撃った。

 今のレーゲンの武装は普段とは大きく違う。メンバー内最高火力の砲撃パッケージ『パンツァー・カノニーア』、以前までのラウラなら選ぶことはなかった銃器を装備していた。

 

「『接触まで残り4000……3000、情報より早い。』」

 

 福音が接近を始めてから僅か数十秒で残り1000mを切る地点まで迫っていた。

 無論、レールカノンの砲撃は止めていない。むしろ撃ち始めの頃よりも間隔を限界まで搾り高速化していた。

 だが福音の翼から放たれるエネルギー弾は4,5発で相殺できるほどの威力を秘めていて、怒濤の連射に撃った半数以上が意味を為せなかったのだ。

 威力も機動力も予測データの上を行った。

 

「『しかし(だが)イアさん(イア)の予測とドンピシャですわ()!』」

 

『――セシリア!』

 

「お任せ下さい!」

 

 躱すことの出来ない福音の突撃は突如空より襲撃した蒼いランスに弾かれた。

 6機のビットをスラスターに差し替え新たなパッケージをインストールしたブルー・ティア―ズとセシリアだ。ティアーズ用パッケージ『ストライク・ガンナー』、乱戦の心得がないセシリアが選んだそれが推し上げる性能は……紛う事無く機動力。

 垂直に飛来し海へ突き刺さろうとしていた機体がラウラの目の前で完全に勢いを変換し、蒼い筋を残して反転した。

 そして高速下の中でセシリアは迷わず星屑と名付けられたライフルの引き金を引く。

 

『――! 敵機Bを確認。迎撃行動に移る』

 

 僅差で福音が避けた。脚部の表面が多少焦げたが被害はその程度だ。先刻の戦闘で経験を得た福音からしたら無に等しい。

 ライフルから放たれる速射も難なく躱し攻撃に転じる。

 

「ふふ、デュノアさん!」

 

「任せて!」

 

 それは不意。福音の意識の外、背後から大きな衝撃が突き立てられた。

 

『敵機Cを確認』

 

 ご名答。セシリアと同様に気配無く現れたのはシャルロット(Charlotte)とラファールだ。組み込まれたパッケージもお初の代物だったが、先の2人とはまた別の機能に特化した物だった。

 2丁のショットガンを近距離かつ無防備に浴びたはずの福音は前に体勢が傾いた程度でしかなく、機動力は依然そのままでシャルロットからもすぐさま距離を取って、『銀の鐘』を起動し多面射撃へと反撃に出た。

 

「おっと、悪いね」

 

 セシリアがラウラを引っ張る形で適正距離に離れる中で、シャルロットがけはその場に留まった。

 躱せない?

 そう。確かにラファールの発揮できる加速では目の前に押し寄せる弾の壁から逃れるほどの距離は稼げない。

 しかしシャルロットとラファールには、端から避ける必要なんてない。

 2枚一組の光の盾がシャルロットと弾の間に境界線が引かれ、数多くの光弾が直撃し炸裂した。

 

「この『ガーデン・カーテン』は、そのくらいじゃ落ちないよ」

 

 だが盾を構えたままでシャルロットは無傷だった。

 それもそのはず、実のところこの盾、枚数的にはレーゲンに劣っているも性能面は遙か上位に座しているものなのだ。

 いくつもの銃火器を外すことで漸くインストール可能なこのパッケージは、対実弾用と対光学用で二種、さらにそれぞれが大小で2枚あり、合計4枚で成り立っている。

 そして各盾は単独でラウラの装備する4枚と同格の役割を果たせるほどの強度を誇り、どちらかに特化させたり優先させたりと2枚を重ねることであらゆる状況で使い分けることのできるほどのものだった。

 『銀の鐘』もその例外にならない。光に込められたエネルギーは前面の盾に大幅に散らされ、襲いかかる衝撃も2枚目が綺麗に呑み込んだ。

 

『――優先順位を変更』

 

 シャルロットのアサルトカノンから逃れんとすればセシリアが、

 

 セシリアの高速機動射撃を止めようと狙い澄ませばラウラが、

 

 固定砲台と化したラウラを潰そうとすればシャルロットが。

 

『現空域の離脱を最優先に』

 

 綿密に組み上げられた3人の連繋が確実に福音を消耗させていき、想定通り遂に福音のシステムに逃走を選ばせた。

 

『『『鈴(さん)!!』』』

 

「任せなさい!!」

 

 福音が進んだ先の海面が不意に爆ぜた。

 中から現れたのは禍々しく形を変えた衝撃砲を肩口に浮かせた鈴と甲龍。姿を海上に曝すや否や、閉ざされた門が開き4門の砲口を伸ばした。

 甲龍の機能増幅パッケージが一つ、破壊力一点特化『崩山』が火を噴いた。……元来の不可視ではなく、文字通り真っ赤に燃え上がり全てを焼き尽くしそうなほどの強烈な炎の塊を。

 

『――回避不能』

 

 一撃の重さだけに全てを注ぎ込んだ甲龍の破壊力は断トツだ。

 今まで大して揺らがなかった福音が初めて衝撃で打っ飛び、高く高く雲へと打ち上がった。

 

『行ったわよ!』

 

 雲の切れ目から紅の鋼が覗いた。

 

「わかっている! ハァアアアッ!」

 

 クルクルと回転していた体を立て直したところの福音に刀が振り下ろされた。箒と赤椿の新人ペアだ。長年培ってきた剣術と授かったエネルギー刃を用い怒濤の連撃で福音と落下しながら打ち合った。

 

『そろそろよ!』

 

『あぁ!』

 

 だがある高度を切った途端、箒は二振りの刀を福音に叩き付けると離脱した。

 

『行け!!』

 

 遙か遠く場所から1人の少女がクラウチングスタートを決め、海面をただ真っ直ぐ走っていた。

 僅かしかない飛行機能をフルに使い、ガンッ、ゴンッ、とブーツを荒々しく鳴らし、あらゆるISを置き去りにする速度で駆け続けていた。

 そして今、戦場に到達する。

 

「テェェイッ!!」

 

『――ッ!?』

 

 響とニールハート(ガングニール)が最も慣れ親しみ、師匠直伝の最強の拳が、最速最短一直線で突き刺り近場の島に大穴を穿った。

 今頃、福音は混乱の極みにいるだろう。

 忍ぶ気も隠れる気もない真正面から突っ込んできた響を認識できなかったのだ。そのため福音の認識ではもうすぐ海に叩き付けられるという予測しかしておらず、既に島に叩き付けられていたという結果は想定外どころの騒ぎではなかった。

 

「陸地ならこっちのもの! 皆、一気に攻めるよ!」

 

 響の合図で6人が一斉に動き出す。響が正拳突きや回し蹴りなどの武術で打撃を加え、箒が剣術で挟み込んだ。

 すぐさま不利を悟り福音は福音は翼を拡げたがシャルロットとラウラの連射重視の武装に阻まれ余り高所へは逃げられない。

 そして速度でセシリアが福音を攪乱し、破壊力重視の鈴が福音を削る。

 

『――離脱不可。撃滅行動開始』

 

 いくつもの攻撃に曝されながらも福音の翼が瞬いた。

 

「箒は僕の後ろに!」

 

「すまない!」

 

 白式の展開武装と同じ方式を用いエネルギー効率がすこぶる悪い箒を、シャルロットが背に回し庇う。

 鈴はセシリアに掴まり光弾を振り切り、ラウラは元々ある距離の利を使い被弾を最低限に4枚のシールドで防いだ。

 

「当たるかぁっ!」

 

 空間把握能力を遺憾なく発揮して、雨のように降り続ける光を響は縦横無尽に陸地のみで避け、引かずにむしろさらに近づき続けた。

 

『――!?』

 

 福音が慌てて響への弾幕を厚くしたがすでに遅い。多少のダメージですり抜けた響はもう目の前だ。その鉄拳が福音の頭部に吸い込まれた。

 

『今ですッ!』

 

「「「「「「了解!」」」」」」

 

 トドメと言わんばかりに、各自が出せる最高火力を構える。地面に張り付き動けないものを相手に外しはしない。

 

 破壊の砲が福音を呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

『――――――――――――まも……る……ん…………だ――!!』

 

 されど、最期の願いはまだ終わらない。

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