戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

106 / 139
第伍拾玖話

「皆、無事か?」

 

「ああ、大丈夫だ。やった……のか?」

 

 ちょっと全力ダッシュで荒れてしまった呼吸を落ち着けて皆と合流する。

 

「箒ちゃん! もう、そんなこと聞いちゃダメだよー。こういう時にそんなこと言っちゃったらえっと、なんて言うんだっけ? ほら一兄も良くやる奴のお仲間の」

 

「ああー、フラグが立つって奴ね」

 

『――――護るんだ!!』

 

「「あっちゃー」」

 

 聞こえてきたのは機械の音声、なのにとても強い思いが込められた声だった。

 

「なんだ!?」

 

「福音さんの強化フラグがたっちゃったんじゃない?」

 

 派手に爆発して煙たい空気が碧い光で消し飛んだ。

 

「っ! まずい、この光は『第二形態移行(セカンド・シフト)』か!?」

 

「それって結構ヤバいかも……」

 

 まだ見ぬ第二形態と戦闘ですか。

 専用機持ちでもそこそこの人数しか達していない、形態移行(フォーム・シフト)の第二段階。

 それまでの経験から導き出されるその能力は第一を大きく凌ぐものなのだそうだ。そしてその意味は私たちからすればいやんなるくらい絶望的です。

 何せ、たったの今の今まで相手をしていた私たち全ての動きから生まれるというわけでありまして、ことこの戦闘においては私たちの動きに完璧に合わせてくるってことなのでありますよ。

 しかも……

 

『エネルギー増大、測定不能! 皆さん、攻撃に備えて下さい!』

 

 イアちゃんでも予測が付かないと来た。

 

「――ッ!」

 

 嫌な予感に従い拳を突き出すと、高速で飛び出してきた何かとかち合った。

 

 ――100%じゃ全然足りない――

 

「うぐっ!」

 

 それは福音の拳。恐ろしい力を秘めたそれに、迎え撃った私は丸ごと圧され地面を削らされていた。

 

 ――だけど、叶えてあげたい。だから!――

 

「響ッ!」

 

 引く訳にはいかない。何度も両拳を打ち合って競る。

 

「ダァアアアアッ!!!」

 

 ――120%でも200%でもいくらだって出してみせる!――

 

 

 

 響さんが福音さんと殴り合って引きつけてくれてる。

 だから私はその間に皆さんに指示を送ります。

 

『私も援護します! 今のうちに散開し体勢の立て直しを!』

 

 福音さんの急進化に愕然としてした5名の頭に大声を叩き込み覚醒させる。

 遠距離支援を任されているラウラさんと防衛の要を担うシャルロットさんがいち早く動き、フォーメーションを正した。

 

「すまない。助かった。……これより響の救援に入る! 行くぞ!」

 

「「「「了解!」」」」

 

『はいっ!』

 

 流石、現役軍隊長さん、戦況を見る目は確かなようです。これなら指示はお任せして、私はスペックデータの更新に努めたほうが賢明ですね。

 

「箒、2人に追いつけるか?」

 

「…………」

 

『箒さんと赤椿の性能なら不可能ではありません』

 

 迷いを見せた箒さんにそう助言した。

 進化で格段に性能が上がってはいるようですが、それでも天災さんのお手製なだけあって赤椿の推定される最高スペックにはまだ届いていなかったのです。

 箒さんが引き出せさえすれば、ですが。

 

「し、しかし……!」

 

「迷ってる暇なんてないのよ! このまま響一人じゃ、あの子までやられる」

 

 箒さんたちの目の前では互いの腕に亀裂が入るほどの激しい殴り合いが繰り広げられていました。

 セシリアさんとシャルロットさんが狙撃しようとしているのですが、刹那で攻守や位置が立ち代わるせいで何もできないでいる。

 その中で響さんの体内に眠るガングニールが叫びを上げて急速に稼働を始めました。

 

『(何か嫌な予感が……)』

 

 お二人のタイミングを計るのと同時進行で響さんの身体データを測る。そして過去のデータと掛け合わせ予感の究明を急ぐ。

 

「うをぉおおおっ!!」

 

 外内ともにそれといった損傷は無し。外的影響も見受けられず……。

 まさか暴走の前兆? ……でも精神は安定。不可解な振幅は検出せ……した!?

 

「これなら、どうだ! ――ッ! ハァッ!!」

 

『――ッ!』

 

 一瞬感情が大きく膨れたかと思ったら、信じがたいことに拳の威力が跳ね上がった。同時に動きのキレも鋭くなり福音さんから余裕を奪っていく。

 絶対おかしい。これ以上響さんに余力はないはずなのに……。

 

『内部に損傷あ、えっ? 消失!? まさか、響さんっ!?』

 

「響がどうした!」

 

「ご……ひゃく、パーセントだぁああああアッ」

 

 過去の文献で見た何処かの世界にいる宇宙人なんかが使ったらしい技のように、赤くはないけれど響さんの身体内で能力が異常な上昇が起きいていた。

 ガングニールの稼働はこのせいということですか!

 

『箒さん。迷っている暇はありません!』

 

 崩壊に再生が間に合わなくなったために、響さんの口元を伝い真っ赤な血が外に零れ出た。

 

「響! ……やるしかない! デヤァーーーッ!」

 

 二人のど真ん中に箒さんは刀を突き刺した。

 

『今です!』

 

「シャルロット、弾幕を張るぞ! セシリアは誘導! 鈴は響と箒の加勢に入れ!」

 

「任せて!」

 

「わかりましたわ」

 

「やってやろうじゃないの!」

 

 広がった空間に一斉射撃を行いさらに距離を拡げる。そして逃げないように遠距離仕様の装備を持っているラウラさんたち三人掛かりで抑え込んだ。

 

「ごめん、ありがと」

 

「礼を言うのは私たちのほうだ。響が庇ってくれていなかったら全滅していた」

 

「そ。今度はあたし達が頑張る番よ。アンタはちょっと休みなさい。随分無茶したようじゃない」

 

「えへへ、これくらい、へーきへっちゃ、ら?」

 

 むんずと響さんは力こぶを作って笑う。のですが、

 

――パカッ! ……ぴゅー

 

「「「………………」」」

 

 き、気まずい空気が流れてます。

 

「「大人しくしてようか」」

 

「はぃ……」

 

 青筋立てた二人に大人しく止血されて響さんが島の林に身を移す。

 

「うぐぁっ!?」

 

 突然、青白い光が空を一瞬塗り替えたのを観測した途端、重なり合う2枚で鉄壁を誇っていた『ガーデン・カーテン』が砕け散りました。

 

「シャルロットさん! うぅっ!」

 

 響さんに追随する格闘能力に高度な機動力だけでも厄介だというのに、ただ直線状に散るだけだった『銀の鐘』までもが強化され、指向を付与できるようにまでなっているというのですか……ッ!

 いけない!

 

『鈴さん! セシリアさんに向けて崩山を! 早く!』

 

「えっ!? いいけど、どうなっても知らないわよ!」

 

「ちょっと、こんな時に本気ですの?! キャァアアッ!?」

 

 すぐに鈴さんは撃ってくれました。

 そしてまっすぐ進んだ砲はセシリアさんに……ではなくそのすぐ後ろ背中に着弾しようとしていた一粒の光を撃ち抜いた。

 連なる爆発物は連鎖してセシリアさんを追っていた全てを一掃する。

 

「させん!」

 

 鈴さんを庇って箒さんが福音と剣を交えた。

 

「――――――――ァァッ!!」

 

 けれど、打ち合えたのはわずか二回。

 拳に『銀の鐘』を纏うという荒技で、福音は赤椿のアドバンテージを覆し剣を弾いた。そこに叩き込まれる鉄拳は重く、鋭いものだった。

 

「やらせるかぁっ!」

 

 その一撃が箒さんに届くことはなかった。

 直前に箒さんの身体は突き飛ばされていたから……。

 

「鈴ッ!? 何故だ!?」

 

 鈴さんが身を挺したことで。

 

「はん……。勘違い……してんじゃないわよ。イアが赤椿ならっていうから、やっただけ。あたしは……赤椿を助けただけよ」

 

 突き立てられた拳は容赦なく甲龍の草摺を粉砕し脇腹を抉っていた。さらに地面に叩き付けられた鈴さんの身体は痣ができ変色していた。

 

「グゥッ!」

 

 ISの支援を受けても鈴さんは立ち上がることができなかった。候補生と言っても一介の少女にすぎない身体には余りにもその傷は深い。

 けれどそのことを知らない福音はあの人と同じ存在だと考え、完全に動けなくなるように加減した先程の砲()を鈴さんに向けていた。

 

「――――――ISの一撃というのは……例え、絶対防御と……言えども、これほど痛い、のだな」

 

「アンタ……!?」

 

 死はすんでのところで防がれた。

 

「闘え! 篠ノ之箒! 後ろは全部、私が引き受ける!」

 

 シールドを失い機体も半壊してなお、ラウラさんは叫んだ。

 

「隊長のアンタが何やってんのよ! アタシなんかより、箒を助けることに――「これは、私の贖罪だ!」――え?」

 

「私は決めていたのだ。いつか何かが起きた時は必ず守ると!」

 

 ずっと閉ざしていた金の左目を開きラウラさんは鈴さんの、皆さんの盾となった。

 幾十の光に焼かれながらも鈴さんを抱え上げ、撃ち落とされたシャルロットさんの腕を取り、地上に不時着していたセシリアさんと響さんと合流する。

 

「必ずッ!」

 

 戦えるのはもう箒さんしかいない。

 あれから4時間……、まだ来ないというのですか!

 

「ハァアアアアッ!!」

 

 赤椿が一際強く輝き、箒さんの身体が前に押し出され再び二つは衝突した。

 紅蓮の輝きと蒼穹の煌めきが鎬を削る。

 唐竹と鉄槌、薙ぎと裏拳、刺突と正拳、次々と繰り出される互いの技が触れ合う度に空気が震撼した。

 

『――!』

 

「うがっ!」

 

 終わりは突然に訪れました。

 膨れあがるエネルギーが爆ぜたのです。

 二人の距離が大きく離れる。

 先に動けたほうが勝つ、それは見ていた誰もが理解した。

 そして体勢を立て直し攻撃に転じたのは…………

 

『――La――』

 

 ……福音でした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。