戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜 作:円小夜 歌多那
前回消える前は確かに1話で押さえられていたはずなのに、書き直したら2話に分かれてしまった……
「どうしよっか……」
死神を殴り飛ばした翌日、俺と響は死武専内の食堂で暇をもてあましていた。
いや、次元転移の用意をしなければならないから実際は暇なんて言ってる場合ではない。だが必要な材料が午後にならないと全て揃わないということで、暇になってしまっているのだ。
「おーい! ケンカだ、ケンカ! ブラック☆スター達がケンカ始めるってよ!」
「お、またか!」
「およ?」
「なんだと?」
ここまで聞こえてくるほどの声量で生徒の一人が叫んでいた。さらに聞こえてきたのは、またという楽しそうな返事だ。
いやいや、待て。なんでそんなに楽しそうなんだ? ケンカが起きているんだろう。誰か止めろよ。
響を見ると丁度視線が交わった。響も頭にハテナを浮かべていたようだ。
「ふむ。行ってみるか」
「うん」
意見一致で決まりさきほどの生徒を追いかける。辿り着いたのはまさかの正門玄関の真ん前だった。
こんな人の往来の激しい場所でケンカするとは恐れ入る。それに見物客も多く誰も止めようという気は無いらしい。
「全員、準備は出来ているな」
なんだ、教員が立ち合っているのか。それなら生徒が平然と見ているのも頷ける。これはケンカというよりも決闘だな。止めるのは無粋だと理解したので、より近くで見ておこうと観客の間を縫って最前列を目指した。
「で、今日の相手は誰なんだ? やっぱキッドか? それともキリクか?」
「そ、それが……あのヒーロなんだ」
抜けた先には向かい合う4人の少年がいた。
「しかもブラック☆スターだけじゃなく、キッドとキリクも同時に闘うらしい」
「はぁ?! あのへっぽこヒーロが!?」
ブラック☆スターとキッドは知っているが、2人の少年は生憎知らん……いや、キリクとやらは見た覚えがある。……確かキム嬢に話しかけていた響のヘッドギアのような意味不明なとんがりヘアをした少年の友達だった、気がする。
しかし対峙するヒーロという少年はまったく知らないな。立振舞からして大した実力者ではなく、正直ブラック☆スターやキッドの足下にも及ばないだろう。
「何やってんのあいつ、身の程を弁えろよ……。あの学園トップクラス3人に挑むとかバカか?」
「ち、違うんだ。ヒーロが挑んだんじゃなくって、ブラック☆スター達が挑んだんだ」
「は? あいつらがなんで?」
「わかんねぇけど、ヒーロがバケモンみたいに強くなってんだよ。もう10人以上の職人がやられてる」
その手に持っているのがあのバカでなければ。
話していた野次馬も他の者もそれが何か知らないらしい。だから代わりに俺が言葉をついでやる。
「聖剣エクスカリバー。あの剣が原因だ」
「エクスカリバー? て、あのアーサー王伝説のエクスカリバー?」
「世界が異なることを忘れてないか。まぁ、発揮する能力は同等と考えて差し支えないだろうが」
顔色の悪い教師の合図で決闘が開始された。
「いくぜぇぇえええっ!!」
初手はブラック☆スター。その姿は旧友にそっくりだ。暗器に含まれる小太刀を手にし一気に間を詰める姿はまるで生き写しのよう。
さらに左右に分かれて後に続いたキッドの二丁拳銃とキリクの……ボクシンググローブのような二つの拳固を振り翳した。
「遅いよ」
「早っ!?」
しかし当たる一瞬手前、少年は消えるような超速で3人をまとめて避け立ち位置を逆転させていた。
「今度は僕の番だ」
その場で少年はバカリバーを振り上げると無造作に地面に叩き付ける。なんの精練もされていない素人同然の振りだ。普通なら恐怖でも何でもない吐き捨てるような一閃未満の代物だというのに、それは簡単に地面を砕き破壊の波を巻き上げた。
そして見切ろうとしていたブラック☆スターや、ブロック体勢を取って備えていたキリクだけでなく、死神のみに扱える特殊な守備の構えで警戒していたキッドまでもをすべからく呑み込んだ。
「まだだよ!」
辛うじて受け身に成功していたブラック☆スターの目前に不意に現れると何もさせぬままにさらに二筋の斬撃を加えて吹き飛ばした。
「ブラック☆ス……ガァッ!?」
それを目で追ってしったキッドの意識が僅かに揺らいだ。一瞬だがそれは大きな致命的一瞬だ。
叫ぼうとしていたキッドの下腹に高速下の膝蹴りが突き立てられ浮き上がった。吐き出た胃酸が地面に散るよりも早く、棍のように振り下ろされた剣に打たれ地面にめり込んだ。
「ハハッ! 見たか、これが僕の力だ!」
否、それはバカリバーの力だ。ヤツは職人が持つ魂の波長を極限まで引き出し、さらに数十倍に膨らませて自在に操る才を持っている。その恩恵を受けているに過ぎない。
とはいえ消えるような速度や圧倒する力は驚異だ。…………だが俺たちからすればその程度でしかない。
「ま、マジかよ……」
キリクが悪態を吐いた。まぁ、彼は仕方がないか。まだまだ成長段階の彼らではアレを超えるのはキツかろう。
――しかし、
立ち上がることを期待し俺はじっと見守る。
「「…………」」
――お前達2人ならこの程度越えられない壁ではない。
死神の血を、星の血を、俺の認めた奴らの血を引き努力を怠らず生きてきたのならただの勘違い少年に負けることはありえない。
なのに、なのに、
「こ、これが聖剣……」
「強過ぎる……」
立ち上がらなかった。
そしてあろう事か情けない言葉を吐き、無様に泥で膝を汚しやがった。
「勝てねぇ……」
まだ若いからと納得しようとしていた。だが俺のもここらが我慢の限界だ。俺の堪忍袋のようなものの緒は切れた。
「ふざけるなよ」
「よ、よう君?」
響が止めようとするのを目で制し、膝を突いたままの2人の前に立ち塞がった。
「き、君!? 何をしている、危ないぞ!」
「やれやれ、僕の活躍の邪魔をしないでくれるかな?」
「黙れよ、クソガキ」
騒がしいガキに殺気を混ぜた視線を突き立てる。たったそれだけでガキは呑まれたらしく一切の動きを止めた。
――……こんなものに屈するというのか、こいつらは!
心の底から怒りが沸々と湧いてくる。
「情けないにも程がある。この程度で負けを認めるか。先代達が泣いているぞ」
キッドは死神という俺やダンナを優に超える者の倅だ。そして能力は完全に引き継がれている。条件が揃うまで万全に発揮できないという難点はあれど、バカリバーを持っただけの素人になら増されるはず。
「んなもん知るかよ!」
しかしキッド以上に怒りを覚えるのはブラック☆スターだ。素で破天荒を行く様、その目に映る気概、滾った魂が放つ闘志。彼のあらゆる全てに星達の輝きが宿っていた。それはキッドに全く引けを取らない才で、キッド同様に受け継ぐ力は絶大なもののはずなのだ。
だが彼はあろうことかそれを拒み、狂人のような殺意に溢れた目で俺を睨んだ。
「……何?」
「過去なんざ関係ねぇ。俺は俺だ! あんな奴らと一緒にすんじゃネェ!!」
「聞き捨てならんな。自分の先祖を、俺の認めた旧友達を否定する気か」
「たりめぇだ!」
あいつらほど素晴らしい奴らなんてそういないと思うんだが……、それとも何か? 星族の役目にかまけて蔑ろにされたりでもしたのか? あぁ、……あいつらの一族なら十分あり得そうだ。
苛立ちはまだまだ続いているがそういうことなら押し込める。
しかし否定させたままでは先には進めなかろう。だから軽くお節介を焼いておくことにした。
「やれやれ。お前が何を思っているのかわからないが、一つだけ言っとく」
「……?」
「自らの意思で世界を股に掛けた
この時、俺は選択を誤ってしまった。
ほんの軽い応援のつもりだった。『否定しているのが全体の一面に過ぎず、他の誰かから見た面はまた違っている』と遠回しに伝えられたら良い。そう思っていた。
だが、俺は知らなかった。
ブラック☆スターのこれまでのことも、歴史上に記される星族のことも…………。
もしこの時俺が何も言わず頭を振る程度で済ましてやっていればあいつがあんなことにはなることはなかっただろう。
後悔してももう遅い。
『あなたの方こそふざけたことを言わないで下さい!!』
……まぁ、後悔してやる気など這いずるGにかける情けと同じ程無いのだがな。