戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜 作:円小夜 歌多那
「世話になったな」
「いんやいんや~、対したことはしてないよ~。僕とひー君の仲じゃな~い~。気にしないで~。……でも本当にもう行っちゃうの?」
「うむ。向こうには俺たちを必要とするものがいる。その頼みに応えてやらねばならぬゆえな」
次元転移の用意が調ったということでよう君と一緒に厄介になってお友達になった人たちにお別れの挨拶回りをしているところです。
夜も良い時間だったけどみんな快く迎え入れてくれました。そして今は最後の人(?)死神さんの元を訪れてます。居合わせたのはマカちゃん達の担任なんかもやってる先生方、しゅわっちさんと会った人たち――えっと頭にねじ刺したシュタインさんとマカちゃんのお父さんのスピリットさん、そして立会人してたゾンビの死人さんです。
帰ると伝えるとみんな似たような表情で残念がった。
ちょっと受け入れてもらえたようで嬉しくなってくる。
「僕達も必要としてるんだけどな~。せめて阿修羅君をどうにかする算段くらいは一緒に建てて欲しいかな~って」
名残惜しいんじゃなくて戦力減少を嘆かれてる!?
「大丈夫だ。俺たちがいなくなっても必ず全部円満に解決できる。呵々、俺たちの影響は既に世界に伝播済みだからな」
「? 魔女達のことはひー君のお陰でなんとか仲が取り持てそうだけど……、どうにもならないことことも結構多いんだよ~。ほら、伝染する狂気の波長……とかね」
キョウキノハチョウ?
初めて聞く言葉が最後になって登場した。でもここでの生活のことを考えると魂とか精神関連のワードだろうから、狂った人の波長ってやつかな。変人同士は結構共鳴するって聞くけど伝染するとはいかに?
「あれれ? そういえばだけど、ひー君たちは大丈夫だったの? この町には僕の加護がかけられてるけど完全じゃないんだよね~」
「???」
え、何が? 特に変わった事なんて起きてませんけど……。
「まさか、君は何も感じなかったのかい? あんな濃密な狂気の傍にいながら……」
死神さんからの視線に首を傾げてイミフとお答えしてみたら、シュタインさんが眉をひそめて見られてしまった。……あ、よう君以外の皆からでした。
「えっと、いったい何時のことなんでしょか?」
「しゅわっちと顔を合わせた時だな」
「あぁ、最初の」
あの時思ったこと、思ったこと…………………………。
「声量凄いな~ってことくらいしか思わなかったんですけど。……あ、あと三日月が怖かったです」
最近の三日月さんはにたにたしてるだけなんでもう慣れたけど、あの赤くドロドロした液体流す三日月さんはホントに怖かった。……激昂した踊君の次の次くらいに。
「……それだけなのか? もっと他に何かなかったのか? 苦しいとか恐ろしいとか。キッドや魔女エルカの話ではナニカに殺されるという幻覚まで見えたという話なのだが」
「いやいや、そんな怖いもの見てませんよ!? よう君だって見てないよね?!」
「一往見た……んじゃないか?」
「なんでそんな曖昧なの!?」
「いや、一睨みしたらすぐ逃げたし」
「「「狂気が!?」」」
踊君ならあり得ると納得してたら、先生たちのツッコミが飛んできた。
「そんなバカな……。狂気は空気と同様でただ世界に漂うもの。逃れようはないはず……」
「はぁ、つまりひー君はやっぱり規格外だったってことだね。その関係者もそうなっちゃうのかな~……」
「心外な」
死神さんの疲れたように付けた結論によう君がちょっぴりむっとするけど、自覚があるのか何も言わなかった。
「あ、でもこれって良いことだよね~! そっかそっか、そう言えばひー君は彼を使ってマカちゃん達にいろいろ教えてくれたんだったよね。それにキムちゃんやエルカちゃん、彼女たちもまた君の関係者、ってことは規格外化が進んでるってやつになるかな~。十分戦力が上昇してるってことになるんじゃな~いかな? シュタイン君」
「……なるほど。そう言う考えもできなくはないですね」
よう君が病原菌扱いされてる気がしなくもない。
死神さんが一気に上機嫌になった。併せてシュタインさんも内心嬉しそうに口元を緩める。でもそこに水を差す人がいた。
「なんだと? シニ君はまだ気付いていなかったのか?」
「え?」
喜ばせた本人よう君だ。
上げて堕とすやる気なのかと心配になったけどそれは私の杞憂、よう君の次の言葉は死神さんのテンションを天元突破させるものだった。
「シュタインを蝕んでいた狂気自体は既に消えているんだぞ?」
「!? そうなのかい、シュタイン君」
「…………………………どうなんでしょう?」
「い、いや、確かに最近のこいつは結構落ち着いてます……。狂人なのは昔から変わってねえけど、阿修羅復活直後とは比べものにならないぐらい、昔のまんま」
「だそうですよ。先輩曰く」
……昔から狂人ってそれはそれでどうなんだろう……教師してるのに。
ビミョーな気分に私は陥ったんだけど、慣れた彼らにはその言葉は信じられないほど良い知らせだったみたいです。
「それにさっき上げた奴らもそうだが他にも、多分この街のほとんどの人間はもう狂気に取り付かれることはないだろう。職人、武器、それ以外問わず」
「そうなのかい!? でもどうして……」
「言ったろ? 俺たちの影響は伝播済みと。こっちにも色々あるんだよ。…………主に響にだがな」
悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべて言うのだけど、最後の呟きだけはかみ殺されちゃったのでちゃんと聞こえなかった。でも歪んだ口元から察するに悪いことではないんだろうと推測しときます。
別に私を見てるからってわけじゃないよ、ホントダヨ?
「そういうわけで俺たちがいる必要は無いんだよ」
「そういうことだったんだね~。あ、だからってひー君たちが行っちゃうのを手放しで喜んだりはしないからね? 引き留めることができないだけで悲しいのは悲しいんだよ。これでも」
「呵々、言わずともわかっている」
よう君が死神さんの目の前に立つと拳を向けた。
「会えて良かった。『また』な、友よ」
「うん……。僕も会えて嬉しかったよ。『また』ね、僕の友」
その小さな拳に死神さんも大きな拳を当てて返した。
二人の柔らかな横顔はいつまでも私の心に残り続けるとってもあったかいものだった。
「……なぜだ、なぜだ、何故!!」
ただの八つ当たりでしかないつまらない拳にコンクリートの壁が壊された。
「俺はこの世界の主人公だぞ! 何故俺がこんな目に遭わなければならないんだ!!」
再びその男は壁を殴り、砕く。
「クソクソッ! 最強を寄越せと言ったのにこの役立たずが!」
さらには自身の手首にあるそれを投げつける始末。
「他の特典もまともに使えねぇしよぉ! 他の女共に効いたところで肝心の奴らに効かなきゃ意味ねぇだろうが! 堕神が!」
――特典
それは踊達も持つ転生者の持つ権能の呼び名の一つ。つまりこの男もやはり転生者だと言うことに他ならなかった。
だがその叫びを聞かなければならなかった者達はここにはいない。
もしもここに、彼等がいたのなら……。
「あのイレギュラーのせいだ。……ああ、そうだ。それしか有りえねぇ。この俺のいるべき場所を奪いやがって!」
このイカれた歯車が嵌められることはなかっただろう。
「絶対にブッ殺してやる……、『聖踊』!!」
「随分いい目をするようになったネェ、キミィッ!」
「っ!?」
『偶然』という名の神のイタズラが、
「やぁ。久し振りだね、『桐生龍也』クン♪」
「て、テメェは!?」
その歯車を今、埋め込んでしまった。