戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜 作:円小夜 歌多那
第Ⅰ話
二つの学校に通うことになってからの初登校……ようするに先に始業式が行われた学校はIS学園だった。
それもそのはず、体感時間的にものすごーく昔のことになっちゃってるから忘れてたけど、フィーネさんとの一件でドンパチ繰り広げたのがリディアン校舎ど真ん中だったんだよね。
いくら建物が直せても、机や何やらの不足確認をしたりだとか、焼けたり埋もれたりで消えちゃった教材の洗い出しとかで、時間がかかっちゃったのだ。まぁ、それでも二日遅れで始めちゃうんだから、流石政府管理の学校ですとしか言えないんだけど。
そんな感じで始まった私の学校生活、今日はIS学園での授業アーンド訓練日です。
「シャルちゃん頑張れー! 一兄なんてぶっ飛ばせーッ!!」
『兄そっちのけかよ!?』
「もちっ」
映像通信が届けられたのでサムズアップでお返ししておいた。
そしたら項垂れちゃったけど、果たしてそんなことやってる暇はあるのでしょうかね~。
『鈴じゃないんだからぶっ飛ばすのは無理だけど、ぶっ放すくらいは期待に応えてあげる!』
「響と同類にしないでくれない!?」
「酷い!?」
いったい、私はどんな分類をされて……。
「「「肉体言語の扇動者(だろう/よ/ですわ/だな)」」」
「字が酷い気がする!?」
『いや、間違ってないよな』
『い、一夏……そんなこと言ったら』
「イーチーニィー? 次ハ私トヤラナイ?」
『げっ』
一兄ったらどんな感じを思い浮かべたのかな~。
「シャルちゃん、早く終わらせてネ、オネガイ」
『りょ、了解。ごめんね、一夏。悪いけど今すぐ倒されてくれないかな!?』
『終わらせられるか!?』
それじゃあ私は一足お先にピットに向かっとこうかな。
「久し振りね」
「はよ?」
骨を鳴らして移動してたところ声をかけられたので一往反応してはみたものの、何故だかその女性は頬を引きつらせてて声色もどこかお堅い。
で、久し振りってどちら様だろう?
でもあの水色の癖毛、どこかで見かけたような気もするんだけど……そう言えばちょっと前にもこんなことを思ったような……。
「あ、かいちょ~さんだ」
「ご名答♪」
ぽむっと手を鳴らして納得してみたら、『正解』と達筆に描かれた扇子を口元に拡げて女性が笑ってくれた。いや、正しく言いうとこの前って簪ちゃんを見た時のことなんだけど、気付かれてないからいいはず。
そうそう、かいちょ~さんって誰? て話なんだけど、それは中止になったクラス対抗戦、その時の乱入騒ぎが起きた時に最前線で避難誘導の指揮を執っていた先輩さんです。雰囲気は真逆だけど、顔立ちとか髪の癖もそっくりなのです。
ちなみに『かいちょ~さん』が『かいちょ~さん』なのはのほほんちゃんが『かいちょ~』と呼んでたからなだけ。
いや~、……お名前聞いてなかったもんで。
「ど、どういったご用件でしょうか?」
「簪ちゃんのことで、ちょっとお礼をね」
「は! まさか御礼参り?!」
「違うわよ!!」
やけに含んだ言い方をするもんだからてっきりそっち系の人なのか身構えたんだけど違うみたいで良かった良かった。
もしもあんなおっとり優しい簪ちゃんがそっち側の人だったら……、私はよう君に頼んで殴り込みに行ってたかな。簪ちゃん解放運動とかそんな連盟組んで。
「……な、なんだか寒気が……」
「どうかしたんですか、かいちょ~さん?」
「あ、いえ、なんでもないわ。こほん。えっと、ここのところ色々あって簪ちゃん落ち込んでたんだけど、響ちゃんと会ってからは少しだけど明るくなったのよ。そのお礼が言いたかったの」
あれ以降、私的には朝の日課の途中にお話するようになったくらいのことしかできてない。クラスが大きく離れてるせいで中々合えないのですよ。
だから感謝されるようなことはしてない、んだけど受け取らないのも失礼なので『感謝』と書かれた扇子のその気持ちだけもらっときます。
「私は簪ちゃんとお友達になりたかっただけですから」
「ふふ、これからも簪ちゃんのことお願いね」
「はい! ところでかいちょ~さん」
「なぁに?」
「かいちょ~さんは簪ちゃんのお姉さんってこっとで良いんですよね?」
それ以外ないとは思うけど尋ねといた。ほら、従姉妹とか叔母姪の関係とかの関係かもしんないし。
「あら、いけない。そう言えば私ってばまだ名乗ってなかったわね」
扇子を閉じるとかいちょ~さんは赤い瞳をした吊り目を丸くさせ、しまったと呟きながらほっぺを掻いた。
「私は更識楯無。ちょっとした二年生で、簪ちゃんのお姉ちゃんよ」
「既に知られてるみたいですけど私も一往。織斑響です。織斑先生や一兄の義理の妹やらせてもらってます」
かいちょ~さん改め、楯無さんは簪ちゃんのお姉さんに間違いなかった。
……それにしても2人のご両親って変わってる。綺麗な響きだけど名前に簪とか楯無を使うって珍しいよね。……響もそこそこお仲間か。
「今日は話ができて良かったわ。また近いうちに、ね」
「はい!」
「簪ちゃんのこと、これからもよろしくね」
楯無さんは踵を返して帰って行った。
あ、1つ伝えておくの忘れてた。去りゆく楯無さんの背中に一言だけ付け加えておかないと。
「よう君にもお礼言ってあげて下さい! 私以上に頑張ってますからー」
1人でやろうとする簪ちゃんのために少しでも有意義な情報を、て時間を見つけては試行錯誤してたからね。明るくなったのにも一役買ってくれてるはずです。
ひらひらと手を振る楯無さんを見送った後、時計を確認。
結構時間経っちゃってる。そろそろ一兄達の試合終わってるかも。ちょっと急威打法が良さそうです。
「よう君にお礼を、ね」
響ちゃんから見えない位置に着いた私は思わず苦笑してしまった。何故かっていうと……。
「どうだった? うちの子は」
「……素直で真っ直ぐな良い子ね。貴方の義妹さんは」
とっくに何度もあってるのよね~。
神出鬼没、自由奔放。
そんな言葉を地で行っていそうな彼はうちの監視するりと抜けていつの間にかいなくなって本当に困らせてくれる。
今も響ちゃんと二人っきりだと思っていたのに普通に現れてくれるし……、これでもう
「貴方って本当に何者なの? 気付いたらいなくなってるし、いなくなったと思って探し回ってたら当然のようにいてるし……」
「何者とな。うむぅ……、俺としては言うても構いやしないのだが、俺は自身を混乱を招きかねない事柄でもあると認識している。俺の予想以上に君が混乱せぬとも限らぬし、俺からは控えさせてもらう」
自分自身で自身のことを事柄と呼ぶとはねぇ……。
やはり臨海学校で起きた福音事件でのことと何か関係があるのかしら。
一往、現場に居合わせた教員、何より指揮を執った織斑先生から話は聞かせてもらっているのだけれど、『織斑一夏を筆頭に専用機持ちの奮闘によって撃破、パイロットを救助した』という旨の内容ばかりで詳しい内情に関しては報告が上げられていない。
詳しい説明の要求を出した際も、一夏君のISがセカンドシフトし撃破に至ったという話とそれまでに行われた専用機持ちの子達の奮闘の説明だけではぐらかされてしまっている。
けれどそれだけではありえない話なのよね。少なくともうちの諜報員が尽く排除されるくらいに。
事件発生直後に応援で送った人たちは辿り着けず、最初から潜伏してもらっていた人たちもその事件前後は何故か意識不明で、記憶が抜け落ちていた。隠そうとする動きがあったのは確か。
それに事件の最中、彼が動かなかったとも思えない。前回のラウラちゃんの事故の時に単独で独軍に乗り込んだことしかり、その前の対抗戦の時も最前線で彼らを守り抜いてもいる。そんな風に自身を危険に冒してまで前に出続ける彼がこの事件の時に限って見ているだけだったはずがない。
「聞くのであれば千冬嬢に聞いてくれ。彼女には全て伝えてあるし、大丈夫だと判断できるならできるだけ話して欲しいと伝えている。俺よりよっぽど君を知っているだろう彼女が話したのなら俺も安心できる」
「織斑先生が嬢……ね。君はやっぱり見た目通りの年齢じゃない、と」
「呵々。むしろ聞くが、こんなころころ見た目が変わる奴が見た目通りと思うか?」
「それもそうね」
何処からどう見ても小学生にしか見えない彼に諭され、聞いた自分のバカさ加減に呆れるしかないわね……。
「ちなみに言っておくと、俺から見るとここの学園長であり用務員でもある轡木殿も子ども同然だったりする」
去り際に残されたその言葉には、流石の私も目を瞬かせることしかできなかった。
いったい、彼は何歳なんだろう……。