戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第Ⅴ話

「…………それでここに来ることになったと」

 

「うん……、ごめんなさい」

 

「いいえ、貴女が気にすることではありません。あの子にしっかり注意しておかなかった私の責任です」

 

 リビング(?)で楽しそうにあの人と話している切ちゃんになんとなくぱるぱると唱えながら、マムに今日あったことを報告した。

 マムの反応にちょっと意外。とっても怒られると思っていたんだけど、まったく仕方がない子達です、と硬い表情を崩して許してくれた。

 

「うちの子を助けていただいたようで誠にありがとうございます。それに荷物まで持っていただいたようで」

 

「いえ、お気になさらずいつものことですから」

 

 困った風に頬を二掻きした彼はおもむろに3つの袋を持ち上げた。

 突然の行動に私達が疑問符を浮かべるのは仕方ないと思う。私たちが見つめる中、彼は数度辺りを見回して、目的の物を見つけたのか歩みを始めた。

 そして何をするのかと思ったら……、慣れた手つきで食材を冷蔵庫に詰め込みだした。

 

「あ、それは私が!」

 

 彼はお客様だ。荷物も持ってもらったし、なにより切ちゃんの命の恩人。いくらなんでも家の中でまで迷惑をかけるわけにはいかない。

 慌てて変わろうとしたけど彼は気にした素振りを見せず、さらには私の頭を撫でてやんわり断った。

 

「君のような女の子が持つには一袋でも大変な重さだろ。そちらの女性は足を悪くしているようだし、そっちの男性も線の細さを見るにあまり役立つようには見えない。素直に甘えておけ」

 

「……ありがとうございます」

 

 食い下がっても意見は変えてくれそうだ。しぶしぶ手を下ろして彼が詰めていくのを見守る。

 線の細い男(ドクター)が役立たない発言に納得ちゃったのはここだけの話……。

 

「これで最後か。後は常温保存などだが何処に置いておけば良い?」

 

「それはあっちです」

 

 全部片付いた後、お茶を5人分用意して席に戻る。ちなみにこの時もやっぱり彼に持ってもらってしまった。どうやら彼は凄くお節介焼くのが好きみたい。性分なんだとか……。

 マムの真向かいに彼が座り、その左右に私と切ちゃんが、そしてマムの横にはドクターが座った。

 

「ハッ、そう言えばデェス!」

 

「? ……どうしたの切ちゃん」

 

 とりあえずお茶で一息吐いていると、ハッと本当に声に出して切ちゃんがババッと彼の方を見る。無駄に身を乗り出しているからちょっと首を捻るだけでよく見えただけ。別に体の一部が揺れるのとか見てない。

 

「お兄さんの名前、まだ聞いてなかったデス!」

 

「そういえば」

 

「……確かに名乗ってなかったな」

 

 彼と顔を見合わせること十秒ほど、うん、確かに聞いてない。

 

「俺は芦屋アイラだ。まぁ、好きに呼んでくれ」

 

「アイラ……、女みたいな名前してるデスね」

 

「そう……なのか? 俺は結構気に入ってるのだが……」

 

「ぜんっぜん悪くないデスよ! お兄さんにぴったりな名前デス!」

 

 切ちゃんの物凄く大げさな反応にアイラさんの体は逃げるようにして跳ねた。イスに座ったまま下がろうとしたアイラさんが倒れるのは当然のことで、逃げた先にはもちろん反対側にいた私がいるわけで……。

 

「おっ!?」

 

「わっ!? ふんっ! ん~っ!? お、もぃ……」

 

 咄嗟に両手を出してアイラさんを支えた。でもアイラさんは私より10センチ以上は身長が高くしかも男性。体重は私が想像していたよりも遙かに重かった。

 それはもう余りに重くて腕が折れてしまいそうなくらい。

 

「悪い」

 

 その声と共にドゥッと鈍い音が部屋を揺らした。そして今まで伸し掛かっていた重さがウソのように消える。

 

「大丈夫か?」

 

「だ、だいじょう――bぁwljッ!?」

 

 アイラさんの優しい声に答えようとしただけ。

 でも前を見た私は自分でも何言ってるか分からないくらいの奇声を発していた。

 だ、だってアイラさんにだだきっ抱きついて、だきしっしめられるような感じになっていたから。

 

「し、調が壊れたデェース……」

 

「うるさいっ」

 

「あたっ!?」

 

 好奇の目で私の顔を覗き込もうとしていた切ちゃんに思わず手が出てしまった。でも後悔してない。いくら切ちゃんでも今の顔を見せるのはヤだから

 

「ど、どうした? いきなり手を挙げるのはどうかと……」

 

「きにしにゃいでください……」

 

 うぅ……噛んだ……。

 どうしたじゃないんですよ。これ以上顔を近づけないで下さい。切ちゃんみたいに立ち上がってない私はめ、目と鼻の先の距離まで近づかれたら逃げ道がないんです。

 できるだけ体を後ろに倒して距離を取ろうと……。

 

「あ……」

 

「っと、いくらなんでもやり過ぎだ。本当にいったいどうしたんだ?」

 

 背中を支えられていた。

 勿論、距離はちょっと離れただけでほとんど変わらない。むしろ顔全体がよく見えてしまうから余計に……恥ずかしぃ。

 

「大丈夫ですか、調?」

 

「は、はい。マム」

 

 そ、そうだった。ここにはマムもいるんだった。

 顔から火が出る思いだったけど、マムは普段通りの冷静な表情だったので少し落ち着いた。でも、ドクター。貴方の目はニタニタ顔と一緒に後で潰します。

 

「――ッ!? ん!?」

 

 急にドクターが首を振り回しだした。相変わらず変な人。

 

「…………おj「調」……」

 

 言葉を遮られてちょっぴり悲しそうだったけど、アイラさんはマムに言葉を譲って口を閉じた。

 

「はい?」

 

「お客様の湯呑みが空ですよ。お茶を」

 

「あ……、はい!」

 

「それは俺が「お客様は座っていて下さい」……ハイ」

 

 あれが笑顔という圧力……! なんてバカなことを考えてないでマムに言われた通りお茶を取りに行こう。

 そして心を落ち着けよう。

 

『少し落ち着いてきなさい』

 

 私を見たマムの目がそんなふうに言っているように思った。

 私は切ちゃんのように人と話すのは苦手だ。えっと勿論、切ちゃんが誰にでも人懐っこいというわけじゃない。警戒心は強く持っている。でも心を許せば切ちゃんは私よりよっぽど話すことができる。

 一方、私は心を許しても人とほとんど話さない。むしろ一歩引いて話を見ていることの方が多いと思う。

 だからあんなに人の顔をまじまじと見たことなんてないのです。それも気色の悪い下種の顔ではない善意100%の綺麗な顔なんて遠目でだって始めて見た。

 いくらなんでもあんな顔を目の前でなんて……、私のキャパシティーを軽くオーバーするに決まってるじゃないですか。しかも噛んだし……。

 

「し~らべぇ~」

 

 何とか気持ちを抑えないと……。たしか素数――

 

「早く持ってくデスよ~……痛っ!? 二回もデスか!?」

 

 ――回叩けば良カッタんだっケ?

 

「ギャァーデェ~ス…………!?」

 

 デェース……デェース……デェ-……ス……ェース…………

 

 

 

「……悲鳴が聞こえるんですが」

 

「放って置いて大丈夫です。すぐに元に戻ります」

 

 そ、そうなのか。

 台所へと向かっていった2人の少女、切歌ちゃんと調ちゃんの見た目に反した過激ぶりに恐々としながらも意識から切り離す。

 そして反対側、今まで見ないようにしていた線に目を向けた。

 

「……どうかしましたか?」

 

 彼女の警戒がわずかに上がった。

 これで俺はこの横にある図形や線の正体を察せてしまった。

 

「これは月の予測軌道ですね」

 

「ッ!?」

 

 ただの模様にしか見えない散りばめられた細やかな模様は全て数式、それも一般的(?)な月と地球の作用だけでなく近づく惑星までも含めた非常に難解なもの。恐らく正確な解は求まっていなくても、その最後に行き着く結論だけははっきりと示されていた。

 地球と月の星間距離、0と。

 

「何のことでしょう?」

 

「取り繕わないで下さい。俺もこのことは知っています」

 

(…………まさか政府の?)

 

 彼女と隣の男の目がより一層険しくなる。その目を見ていると言いしれぬなにかが俺の背を駆け抜けた。言葉にできない感覚だったが、このまま黙っていたらなにか良くないというのは理解した。

 だから即行で両手を挙げ戦意がないことをアピールする。話ぐらいは聞いてほしい、と意志を伝える。

 

「俺が知っているのは、あくまで計算したからってだけですから」

 

「へぇ~、こんな複雑難解な式をねぇ-。それはすごい。で、どうやって計測したんだい? アイラ君」

 

 すごく疑われている……。

 2人の勘ぐる視線に曝されながらも俺は理由を話した。……といっても毎晩天体観察を主にしているからなだけだが。

 俺は毎晩ある決まった地点から全方向に見える星を全て記録して収集するのが趣味だったりする。やってる内容は至極簡単、新たに生まれた星と消えた星を照らし合わせて記録していくだけだ。

 一種の間違い探しのようなものだな。暇つぶしには結構もってこいだぞ。毎日変わるとは限らんが。

 

 ……まぁ、そんなことをしていて当然月も観察対象になっていた。

 だから俺は気付けた。

 月が欠けて以降、月が見せる姿が徐々に変わってきていることに。満ち欠けに狂いが出ていることに。

 

「それで過去の記録を引っ張り出して計算してみたら発覚したというわけです。また後で資料持ってきましょうか?」

 

「え、ええ。お願いするわ」

 

 ちょっと女性の方が引いている気がする。しかし男性の方はむしろ目をぎらつかせ俺を見ていた。

 同類がどうのという言葉が微かに聞こえてきたがいったい何だったのだろうか……?

 

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