戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第Ⅸ話

 月も照らさぬ暗黒に一つの音が響き渡る。

 ただそれだけで聞けし者らは狂喜に呑まれ、闇は一瞬にして点の光に染められた。

 

『QUEENS of MUSIC』

 

 液晶で掲げた文字に白の閃光が弾ける底より、二つの影を乗せた舞台は天上へと登る。

 

「見せてもらうわよ。戦場に立つ抜き身の貴女を」

 

 仁王の如く堂々たる立ち姿を魅せ、白の衣装に身を包むは歌姫が一人『マリア・カデンツァヴナ・イヴ』。

 鋭い意志を瞳に宿し膝を落とし、黒の袖を棚引かせるはもう一人の歌姫『風鳴翼』。並ぶ朋こそ違えどもいつかの時と同じく左翼を担う。

 2人の歌姫の手には金のレイピアが逆さに握られていた。それは武器、されど傷つけあうためでなく、切磋しあう彼女たちの奮えを表現するための拡声器。

 

 身を焦がすが如く噴き出す焔を纏い彼女らの唄は過激を極める。

 

 

 

 翼さんとマリアさんの一夜限りの共演舞を飾る幕開けの一曲が終わった。

 マリアさんの歌だけでも凄まじいほどに湧いていた観客さんたちの盛り上がりは今や爆発寸前です。公然の舞台じゃ初公開にもかかわらずコールは完璧、ライトの動きも一糸乱れぬ完全一致をしてのけるほど。

 ファンの人たちの前準備が凄すぎる、なんてことはないよ。だって特別席の個室で見ていた私たちまでピッタリに体が動いてたもん。誠に恐ろしきは知らなくても体を動かさせる翼さんたちの魔性の歌声であります。

 気付いた人は少なそうだけど、そんな人たちは二人の神々しさに涙を流し祈りを捧げたり、発狂したのかと不安になるくらいの激しい踊りでこれまた祈祷の儀もどきをしてる。

 私と未来は前者、弓美は完全に後者、創世たちはその他大勢派、でも私たちの涙は他とはちょっと違います。

 

「翼さんのデュエットがまた見られるなんて、幸せすぎる」

 

「うん。もう、誰ともないって思ってたもんね……」

 

 私たちの涙は感激だ。裏を知ってるのもあるけど、ついこの間までの翼さんはペアを組むのは考えられないほど鋭く尖っていた。それはもう他者を拒絶する勢いで奏さんじゃないと無理だと言われてたくらいです。

 それが今じゃ丸くなって(目付き怖いけど)、凄く楽しそうに(獰猛な笑みに見えるのは私の気のせいなはず)、歌で殺りあっていた(誤字であれ)。

 二人とも歌が大好きすぎるのが痛いほど分かります。

 

『ありがとう、皆!』

 

 翼さんが一歩前に出て観客に言葉を贈った。それに応えるように観客も雄叫びを上げてライトを振る。でも、

 

『私はいつも皆からたくさんの勇気を分けてもらっている』

 

 ちょっぴり意外な翼さんの感謝の言葉に静まりかえった。

 だってそうでしょ?

 

 "戦場に生きる"

 

 今までの翼さんは暇さえあれば研ぎ続けてるのに鞘にしまわない、そんな怖さがあった。

 いや、だからって盛り上がりに欠けてたわけじゃない。ただやっぱり翼さんがちゃんとした礼を言うとは思ってなかったから皆して不意をつかれて呆けてしまった。

 

『だから今日は、私の歌を聴いてくれる人たちに少しでも勇気を分けてあげられたらと思っている!』

 

 狂喜乱舞、まさにその一言に尽きる光景です。あ、観客を見渡す翼さんの口元がゆるんだ。どアップされてるからよくわかっちゃう。

 主役の邪魔をするようなそんな迷惑な人はこの場にいるわけはなく、数秒で観客さんたちは黙る。そして今度はマリアさんが口を開いた。

 

『私の歌を全部、世界中にくれてあげる!』

 

 腕を揮い強気な発言で会場を呑み込む。

 

『振り返りはしない。全力疾走だ』

 

 観客だけでなく中継から見ているであろう人々全員に叱咤を轟かせ、

 

『ついてこれる奴だけ、ついてこいッ!!』

 

 まさかの置いてけぼりも辞さない宣言をしてくれた。

 

 なるほど、なるほど。どうやらマリアさんは『貴様等ごときについてこれるかな?』と言いたいらしい(被害妄想)。

 はっはっは!

 

「その喧嘩、勝ったァアアアアア!!」

 

「ひっ!?」

 

 二人がどんな激しい舞台にするつもりかは知らないけど、最後まで付き合ってやろうじゃあーりませんか! むしろ終わった後も元気ハツラツに余裕綽々なところを見せつけてやる。

 師匠仕込みの私の体力を舐めるないでもらおうか!」

 

「そう言う意味じゃないから、黙ってようねー」

 

「もががっ」

 

 未来が容赦ないよぅ……。

 

『今日のライブに参加できたことを感謝している。そして日本のトップアーティスト、風鳴翼とユニットを組み歌えたことを』

 

『私も素晴らしいアーティストと出会えたことを光栄に思う』

 

 おっと、脱線してる間にお二人が握手を交わしてる。

 

『私たちが世界に伝えていかなきゃね、歌には力があることを』

 

『それは世界を変えていける力だ』

 

「っ?!」

 

 マリアさんと翼さんが話している最中だというのに、いきなり胸の中でざわめきが起こり始めた。それに背筋がおかしな凍えを訴える。

 マリアさんが翼さんに背を向けて歩き出す。

 

「! みんな、絶対動かないで! 心を強く持って」

 

 思い至った時には既に手遅れ、せめて同じ室内の人だけでもと指示を飛ばした。

 

「「「「え?」」」」

 

『…………そして、もう一つ』

 

 ドレススカートを巻き込むほどの勢いでマリアさんの手が振り上げられた。

 そして、会場の隙間全体を埋めるかのようにノイズの集団が一瞬にして出現した。

 

 パニックは必至。高潮だったムードは消え去り残されたのはサイリウムの光と慌て震える人の衆。

 なんとか私たちのいる部屋はさっきのもあってパニックは逃れてる。でもご丁寧に室内席にまでノイズは出現していて即座に動くことはできそうにない。

 

『――狼狽えるなッ!!』

 

 会場を劈く一声が響き渡った、元凶だろうマリアさん当人の口から。

 

「そっか、これがさっきの挑戦状の正体!」

 

 こ、これは確かについていくのは至難だ。でも全員がついていかざる終えない。なぜってここで言う『置いてけぼり』はそのまま死を意味するから。

 

 文字通りのデスマーチですね、わかりたくありません。

 

『私たちはノイズを操る力を以てして、この星の全ての国家に要求する! そして――』

 

――――――――……gungnir zizzl

 

マリアさんが不意に口吟んだそれは聞き間違えじゃなければ聖詠、しかもそのフレーズは今も鮮明なままのあの唄と同じ。

 カメラの前でマリアさんの衣装が変わっていく。黒と主に現れた色は黒ずんだオレンジ、私のとは異なりかつての奏さんにより近しい装甲が覆った。

 

「……黒い、ガングニール」

 

『放置するんじゃありませんでしたね……』

 

 黒のガングニールを纏ったマリアさんを見てイアちゃんがそんな呟きを零した。

 

『……以前から米国にガングニールの破片があることは知ってたんです。これでも私は本体の踊さんから生まれた存在ですから、いくら隠そうと分体の居場所くらいはわかるのですよ。ですが完全体がこちらにあり櫻井理論も世界に発表されてまもない以上優先度は低いと見ていました』

 

 各国のノイズ対策になるのなら是非もなしなので、と付け加える。

 そう言われてしまうと文句は言えなくなっちゃうな。ノイズに対抗出来るのはシンフォギアシステムのみなのは相変わらず事実だから。一部例外はあるけどそれだって急造品でコストと結果が全然釣り合ってない一時しのぎで論外です。

 

『だといいますのに、まさかテロ行為に用いようとは甚だ遺憾で仕方ありませんね。響さん、確実に取り返しましょう。我々を犯罪の道具にする輩に掛ける慈悲は不要です』

 

 い、イアちゃんが凄く怒ってます。

 

「イアちゃん、ちょっと落ち――『私は……、私たちはフィーネ』――はい?」

 

『終わりの名を持つ者だ!』

 

 ……それはいったいどういうことなのかな?

 

「イアちゃん、フィーネさんって踊君のお陰で逝ったんだよね?」

 

『は、はい。観測の仕様はありませんが、そのはずです』

 

 なのにここに来てフィーネさんの名がでてくるっていうのはどういうことだと思う?

 

『…………大きな目的を達成するために名を借りたのだとお、思われます』

 

『我等武装組織フィーネは各国政府に対して要求する。……そうだな。差し当たっては国土の割譲を求めようか』

 

「……あれが?」

 

『もしも24時間以内にこちらの要求が果たされない場合は各国の首都機能がノイズによって不全となるだろう』

 

『信じがたいことですが』

 

 全力で恋に走った女性の名を騙ってやるのが、世界侵略ですか。そうですか、そうですか。よーし、一回ぶっとばそう。

 

「お話はそれからでも遅くはないよね」

 

「「「「『え?』」」」」

 

 まずは皆の安全確保が最優先かな。

 ペンダントにはお留守番してもらって、胸にある傷に意識を向ける。

 コッチの世界じゃISは御法度だからね。既に踊君から使い分け方の仕方を学んでいるから問題はない。強いて言うなら全国にタイツ姿をさらすことになる羞恥くらい。

 あー、あと師匠とかには叱られるかな?

 

「ま、それも関係ないよね。イアちゃん、行くよ」

 

『はい!』

 

 そして私は、歌わなかった。

 

『なにッ!?』

 

 一時の破裂音が鳴り響いたのだ。一発にしか聞こえない超多数の銃声という長い残響を以て、会場を支配していたノイズが一匹残らず消し去られていた。

 

「……随分と面白そうなことをしているようではないか、そこな若人よ」

 

 何かを引っ提げたドーム型の傘がゆらゆらと会場のど真ん中に降り立つ。

 

『もう来たというのね……』

 

 それはどこかのお嬢様のようなゴシックドレスで身を着飾って現れた。会場は突然のことに戸惑うも、壇上に立つ二人に勝るとも劣らないその美貌に見とれる。私たちのいる部屋でもまたその()の姿に大体の人が呆然となった。

 

「私も混ぜてもらおうか」

 

影の英雄(シャドウ)!』

 

 はい、どう見ても踊君です。本当にありがとうございました。

 

「「「「なんでゴスロリ!?」」」」

 

 ……私たちのシリアス返して下さい。

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