戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜 作:円小夜 歌多那
マリア嬢の前に二人の少女が立ち塞がった。
その少女等の纏うシンフォギアを見て、あってほしくなかったことが二重三重に重なってしまったことを悟る。
「……知り合いか?」
「ああ。さっきすこし。まぁ、よくいる聖遺物持ちの迷子だ」
潜入している最中だったの可能性もあるため迷子と呼んでいいのか微妙なところだが、売店方向に進んでいたのに教えたら即行で控えの方に走っていったのだし、道に迷っていたのは確かだろう。
「そうか……」
「中学生にもなって……貴女たちは……」
「迷子違う!」
「迷子になんかなってないでーすっ!? てか、聖遺物持ってる子がよくもいるもんですか?!」
簡潔に述べただけなのに、なぜか二人の少女に睨まれた。
「こんな幼気な美少女に向かって、迷子なんて許せないデスッ! やっちゃうデスよ、調!」
「うん。わかった。でも切ちゃん、自分で幼気な美少女なんて、恥ずかしくないの? 私は言えない」
「はいそこ、余計なこと言っちゃだめデース!」
……仲間なのに普通に弄られてる切ちゃんという少女には同情した方が良いのだろうか。親友っぽそうな子にまであっさり発言を真っ二つにされて泣きそうになっているんだが……。
「もう! とにかくやるデスよ!!」
切嬢が緑の鎌を構え突撃してくる。調嬢も息を揃えて飛び上がり高速回転する鋸らしきものを飛ばしてきた。
――先に接触するのは僅差で切嬢のほうか。
それは脅威的な一撃を秘めている代物だ。だが複数の鋸を相手にするよりも対処がしやすい。とはいえ傘で止めるということではない。てか正直無理だな。
なにせ切嬢がキレているのだ。理由は定かではないが、キレた彼女は我武者羅に鎌を身長ほどに巨大化させて、あまつさえ盛大に振りかぶりおった。そのため手持ちの傘では軸で突けたとしても軽く真っ二つにされてしまうこと間違いなし。
だから打ち合えない。
……ま、打ち合う気が端から無いから関係ないから問題もない。
「質量は力になるが、あまり無闇に大きくするのは感心せんぞ。そんなことをすると――」
小柄な見た目からは想像も付かないような強大な力で地表が鎌に薙がれていく。当然、目の前にいる俺も一緒に斬り裂かれるのが常だ。だが、
「――こんなことになる」
「なんっ!?」
残念ながら俺の前にはお誂え向きの足場があったりするのだ。
「デスとっぉ!?」
エメラルドのような淡い光沢を放つ刃、通常サイズだったならばあってないような取るに足らないものだった。しかし巨大化したことによって鋭さが増し、その分だけ先端は鋭角になり、そして同時に付け根を鈍角にしてしまった。
濃い緑の面と刃の側面合ってないような角度だが、靴底には十分引っ掛っかる角度だ。先端部で面を踏み、踵の厚いヒールで刃を抑える。ただそれだけであら不思議、人間砲台のできあがり。
「呵々、逃がしてくれてどうもありがとう。礼を言う」
「逃がしてあげたつもりはないのデスよ!?」
力一杯振ってくれたお陰で簡単に鋸の範囲からも抜け出せた。
「甘いッ!」
「気付いている!」
着地に息つく暇もなく、脇を打ち抜かんとする槍がすんでのところに来ていた。叫ぶのも確実に当たるだろう寸前とミスはない。でも俺は彼女から一度たりと目を離していないのだ。逆手で握る傘に対処は命じてある。
槍の腹に傘を押し当てる。着いた足も浮かせ上体を捻ると腕を後ろに振り抜いた。
「アームドギア、奏嬢と同型か」
槍、それもランスの形状に近いそれをずらすのは困難を極める。
ランスというのは真円に近い穴を大気中に開けることに長けており、空気圧を全方向から一様に受けさせ直線軌道を描くことが得意な武器なためだ。生半可な力では妨げるなんて事は叶わない。
だからずらすのは俺の体自身、後ろに向かおうとするベクトルを傘を軸にして誘導する。
首輪で繋いだ犬がいきなり走り出した時、前につんのめるのと同じだ。前に行こうとする方向を足で止めたことで力が半端に止められ、より行きやすい方向に逃げて結果下に体が持って行かれる。
それを傘で再現しているのだ。後ろには行けないように塞き止めて、さらに前向きの力を上乗せする。あとは切嬢からいただいた力が前向きの力に便乗して回転させてくれるというわけだ。
「風鳴翼! キミも今の内に行け! ここは私、ライブ会場の仕掛け人たるこの聖踊が承った」
とはいえやはり三対一はキツいものがある。いつぞやの襲撃戦より数は少ないが武装がバラバラで厄介さはこっちの方が上だ。
本音を言えば翼嬢にも協力を頼みたい。がそれはあくまでカメラのないところだったらの話、ここでは無理をしてでも俺と彼女が無関係であると示しておく。
「すみません! ありがとうございます」
「逃がさん!」
「させんよ!」
「マリアの邪魔は!」
「させない!」
翼嬢が俺の指示に従い舞台裏を目指し駆け出す。マリア嬢がそれを追い、俺は邪魔をするために前を遮ろうとしたが、その前に調嬢と切嬢が俺を阻んだ。
翼嬢の身の熟しならば装者相手でも十分回避できるはずだが……最近響のドジが翼嬢の周りに伝染しているのではないかと愚痴られた記憶があったりなかったりする……。こんな所でポカがおこるなんて
「――あっ」
ないことなかった。
あの靴ようした奴は後でお仕置き決定だな。
翼嬢のヒールが付け根からポッキリと折れたのだ。この一大事の最中にもかかわらず、それも翼嬢が飛ぼうといた時に限って。
「貴女はまだ、舞台を下りることを許されてないのよ!」
「ちぃっ!」
流石にそんな大きな隙を見逃してくれるほど優しくない。
「「いかせない(デス)!」」
-- α式・百輪迴 --
-- 双斬・死nデRぇラ --
踏み出す前に、またも大量の鋸々が振ってきた。前に出ると回避は不可能、下がるしかない。やってくるなら踏んで止まる緑の物体にしてくれって話だ。
さらに倍に増えた鎌が迫ってきたせいで、二度もたたらを踏まされた。
「翼嬢!」
倒れ行く翼嬢の腹部に鋭い蹴りが突き刺さる。
シンフォギアで強化された脚力は個人差はあれどそれでも極一部の例外を除く人間の力を逸脱したものだ。人一人を大きく飛ばすことくらいわけない。いくら戦いに慣れているとはいえ翼嬢はダンナ並の体格でも俺のような高密度の機人でもないのだ。その例外にはなり得ず体を宙に躍らさせられた。
高く持ち上がり向かった先には、
「しまっ!」
「っ!? 余計なことを!!」
数多のノイズ。
不甲斐ない、油断した。確かに潰したと思い上がったツケか。操る術があると高らかに行っていたばかりというのに、装者の少女らに集中して再招集が掛けられていたことに気付けなかった。
「――決別だ」
その小さな声は良く通り、この身を犠牲にしてでもと構えた姿勢のもとにも浸みるように伝わってくる。
「ならん! 必ず私が!」
「歌女であった私に」
足が壊れてでも駆け抜ける。
決死を誓い、体を構成する聖遺物の出力を引き上げた。
爪先に力を、大地を砕けるほどの力を蓄える。
だが、それを解放することはなかった。
『任務完了! 遮断成功!!』
その一つの声が会場に響いたことによって。
『思いっきり、やっちゃってください! 翼さん!!』
「ようやくか! 遅いぞ、緒川殿」
「なんだ!?」
それは翼嬢のマネージャーを任される緒川殿の声であり、装者でありながらアーティスト活動も行う翼嬢が両立できるようにと遣わされた忍者の末裔の声。
彼の役目、それは有事の際真っ先に動き風鳴翼が全力で装者の任務を遂行出来るようにサポートすることだ。そして今もまたその任が執行されていて、先程の放送が終了を告げた。
つまり、彼の言うその言葉の意味、それは――
「放送が止まったってことだよ!!」
「「「な!?」」」
「土砂降りな、十億連発ッ!!」
-- BILLION MAIDEN --
「ハァッ!」
-- 蒼ノ一閃 --
天空から飛来する超多数の豪雨が降り注ぎ、足下からは蒼き刃が蹂躙を開始する。
「くっ!」
マリア嬢がマントで全身を覆い自ら的に、そしてその隙に調嬢と切嬢は左右へと散って舎弟から逃れる。
仲間を逃がす点ではその選択は正しくも、激射をしてくれたやつ――クリス嬢のさらに上空をちゃんと見れていたならば、大いなる空から真っ直ぐ墜ちてきたもう一振りの槍が迫っていることに気付けただろう。
だが時は遅い。
「うおぉおおおおっ!!!」
「キャッ?!」
……そんなことなかった。
あの
まぁ、ブチ砕いたガラス片が派手に飛び散り疑似的な爆砕斬と化していたから及第点としておいてやるか。
「大丈夫ですか、翼さん? あと踊君も」
「ああ。助かった」
「ついでみたいに呼ぶな。これでも一往左腕は動かないんだぞ」
「へ! どうせ、油断でもしたんだろ」
「違いない」
「(奏嬢は?)」
「(公に出たくないつって、外の警戒してんよ)」
それもそうか。
だがこれで人数は俺が抜けてもイーブンになった。それに裏事情を考えればこちらが有利、確保もできそうか?
互いが互いににらみ合い得物に手を添える中、唯一得物を持たないバカが真っ先に動いた。
「やめようよ、こんな戦い! 今日であった私たちが争う理由なんてないよ!」
説得という手段を以て。が、聞く耳は持たないだろうな。それがあったのならもう少し話にも付き合ってくれていたはずだもの。
話し合う姿勢は認めるが、今し方自身のやったことを顧みてからものを言って欲しいところだ……。俺には三人の中で一番強烈な一撃放っていたように思うんだが。
「……そんな、綺麗事を!」
「キレイゴトで戦うヤツの言うことなんか、信じられるものかですッ!」
だがその冷たい目と共に吐き出された言葉は、鎌を突きつけ拒絶の意が篭もった絶叫は、予想外な悲しみを宿していた。
「そんな! 話し合えば分かり合えるよ!! 戦う必要なんか!」
「偽善者」
響の説得がその一言で止められた。
「この世界には」
その冷たい視線が深い憎しみで濁る。
「貴女のような偽善者が多すぎる」
呟くような静かな声は伸し掛かるような重圧となり響に伸し掛かる。
「――だからそんな世界は」
突如、歌に声が乗った。いや、逆だ。彼女、調嬢の声に歌が乗りやがった。
「切り刻んであげましょう!!!」
ちっ、休息を取りたかったんだがな。
まったくそうは問屋が下ろさないとでもいうのか。
甚だ残念なことに、俺の目は調嬢と切嬢の適合率が上昇していく様を確かなことと捉えてしまっていた。