戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜 作:円小夜 歌多那
「ここは……?」
目の前に白い壁があった。いや、違うな。あれは天井か。隣には確か生体情報モニタと言う医療機器が備えられていた。
つまりここは病院なのか……。何故私はこんなところにいるんだろう……。私はノイズと戦って、その後……。
「……ッ!!」
そうだ。ネフシュタンの鎧を身にまとった少女に私は敗北したのだ。取り返さなければならなかったのに! 完敗だった。手も足も出ないほど力の差がそこにはあった。
だからとて、負けたままでは終われない。私は剣だ。勝たねばならない。
絶唱の影響か体の節々が痛むが、それでも立ち上がり外に出る。あれからどれ程の日が立ったか分からない。落ちた筋力はすぐに取り戻しさらに鍛えねば。
向かった先は屋上だ。吹き抜ける風が私の髪を持ち上げる。誰もいない。とても静かな場所だ。ここなら少しくらい動いても気付かれまい。
まだ私が幼かった頃、司令に教示を頼み教わった特殊な武術を思い出す。結局私や彼女には完全に会得することは出来なかったけれど、それでも今の私の糧になっているのは確かだ。今一度、初歩を見直してみるのもいいだろう。
「…………クッ!」
ゆっくりと手を前に突き出す。たったそれだけのことで腕は悲鳴を上げた。ほんの僅かに体の軸がぶれ、体を支える足から力が抜け……。倒れるそう思った時だった。誰かが私の脇に腕を回して受け止めた。
「す、すみま…………ぇ?」
振り向くとそこには信じられない人が立っていた。聖さんが必ず目を覚ますと言っていたけれど、心の何処かで諦めていた、私がずっと待っていた人――奏が笑っていた。
「よ! 相変わらず無茶してんな」
「う、うそ…………奏……なの?」
「おう。アタシは正真正銘、天羽奏だぜ! ……て、おいおい。折角帰ってきたってのに、何で泣くんだよ」
奏に指摘されて気付いた。気付かない内に涙が溢れていた。
「どう……して…………」
目の前にいるのは確かに奏だ。頭でも理解出来ているし私の心もここに奏がいるといっている。けれど、それが私には信じられなかった。
「どうしてって……。言ったろ。すぐ会えるって」
「早……過ぎるよ……」
まるでいたずらが成功した子供のように無邪気で澄んだ笑み。起きる前に見た夢を思い出した。あれは、夢じゃなかったんだ。
「…………あ」
私はあれを”私が作り出した都合の良い夢”だと思っていた。だからあんなに色々と話すことも出来たし、あんな大胆なことを……!!
「だ、大丈夫か?」
「だ、大丈夫だから心配しない……――ッ!」
腕が、体がー!?
何も考えず手をばたつかせてしまい、激痛に襲われた。あ、意識が……。
「お、おい! 翼!?」
遠ざかる意識の中で見えたのは、大慌てで私を受け止める奏だった。
*****
翼が倒れるなんて思っても見なかった。受け止めるため腕を伸ばし支えたのは良いが一緒に倒れてしまった。
「……どうしたもんかね」
はぁ……あたしだって目が覚めたのはついさっきなんだ。翼よりも随分長いこと眠ってたし、筋力なんて全くと言って良い程ないに等しいぞ。踊や他の皆がしっかり見ていてくれたから体がやせ細ったりとかはしていないけど、正直立っているだけでさえきついっての。
しかも今は翼が乗っかっている。俗に言う膝枕だな。退かすことも出来ねぇし、まあ幸せそうに寝ている翼をカッタいコンクリートの上になんて寝かせる気もないから、そのままでいるしかないか。
「翼嬢も奏嬢もここにいたのか」
「しー」
「おう? 呵々、寝てるのか……。疲れてんだな。奏は立てるか?」
「ちと辛いけど、何とかってところだ」
踊が来てくれて助かった。このままだったら尻が痛くなるところだった。踊が翼を背負うのを確認してアタシも立ち上がる。
「丁度良いし。このまま奏嬢の部屋に連れてくか。もうすぐ弦十郎のダンナや響がくるぞ」
「へぇ。ダンナとあの子が。ししっ、そりゃあ早く戻んねぇとな」
三年ぶりになるんだったか? あたしからしたら数週間話せなかっただけな感じなんだけど、ダンナ達からしたら違うんだよな。
あたしはあたしで背とか微妙にズレがあるし変な気分だ
「これからどうするんだ?」
部屋に向かっている最中で、そう聞いてきた。
「?」
「力がない。それは君が一番分かっているだろ?」
「……ああ。確かににはもうあれはない。あれはあの子のもんだ」
あたしが使っていた力は砕けて、今は響のもんだ。今のあたしには何もできることはない。理解してるさ。
「けどな。あたしは諦める気も、止まる気もねぇ。あたしは誓ってんだよ。ノイズを全部ぶっ殺して、家族の敵を討つ。そのためなら素手でだって殺ってやる。そして、もう誰にもあたしの大切なものを奪わせやしない」
奴等は憎い。だけどあの頃みたいに憎しみだけで戦ってるんじゃねぇ。これはあたしが決めたあたしの意地だ。
「そっか。……『ならば、待つが良い。もうすぐ、主に力を与えられる者達が現われるであろう。その者に頼めば良い。今は耐え、生きよ。そして己が力を高め、再び相見えようぞ』」
「っ!?……何でそれを!」
覚えている。あたしが憎しみに囚われていた時、あの死神があたしに向かって言った言葉だ。何で踊が知ってんだよ。て、そう言えば仲良さそうにしてたな。で、何で今その話が関係するんだ?
「呵ッ呵ッ!!」
踊が豪快に笑った。大きな瞳を細め、どこか憎めない豪快な笑みであたしを見た。これが響の感じていた気持ちか……。確かに可愛いかもしれない。
だが、翼の方がもっと! ……て、あたしは何を考えてんだ。ふぅー……一度落ち着こう。
「奏嬢、良く生きて帰ってきてくれたな。ディバンスから話は聞いていたんだ。『強さの意味を見つけられたなら、その時は頼む』と。……今がその時だ」
「なっ!? それじゃあ、あいつが言ってたのは踊のことだったのか!」
「じゃあ、あたしは……」
……無駄な努力だったってことになるじゃねぇーか。
「無駄じゃないよ。俺が渡せる力はとんでもなくピーキーなもんなんだ。適合していないガングニールを使いこなした経験はしっかり活かせるはずさ。それに、この力なら奏嬢に合うはずだから、そう嘆くなって。まあ、まだ用意できてないから待ってもらうことになるけど」
あたしの心を感じ取ったように、すぐに踊は否定した。
「……なんだそりゃ。はぁ、そうかよ。別に慌てる必要ないけどさ、早めに頼むぜ」
「分かってるって。嬢も早く体力取り戻してくれよ。流石に今のままじゃ渡せなんよ」
こんな状態で戦えるとか思ってねぇーっての、当面は筋トレとか走り込みになりそうだ。あ~あ、面倒くえぇな。
「ま、俺にもそれなりの考えはあるし、すぐに前線に戻ってこられるようになるさ。それが本当に良いのかは別の話だけどよ」
「こう見えてもあたしって、もう二十歳だぜ。あたしの好きなようにやるさ」
「そのうち三年間は寝てたろ。それに俺からしたらそう変わらん」
……そういや踊は聖遺物が出来た頃から生きてんだった。そりゃ変わらねぇな。
「ま、今は新たな仲間を含めて生きてることを噛みしめたら良いんだよ」
「そうだね~。ダンナや了子さん、それに
扉の前に立った。中に複数の人の気配がする。軽く一度、深く息を吸いゆっくり吐く。心を静めてから扉を開け放った。
そこには、あたしがずっと話したかった人達が待ってくれていた。
長文になると少々見難くなるので、全て一字下げに変更いたします。
指摘していただいた方、今までご覧下さった方々には大変ご迷惑をおかけします。