戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第二十七話

 はぁー……、鬱です……。

 

 未来と喧嘩してしまった。まあ、悪いのは全部覚悟を決められない私のせい。でもどう説明すれば良いと言うのさ。

 例えば……ノイズと戦う力を手に入れちゃったから戦ってるんだ、みたいな? ……うん、言えるわけないよ。ただでさえ未来には心配掛けさせてるのに、こんなこと言ったら余計に心配する。それに巻き込んで未来を危険に曝したくなんかない。

 せめて、クリスちゃんとサージェの問題を片づけて、後ろにいるだろう何かの……杖を持っている人をどうにかしてからじゃないと。

 でも、それでも、やっぱりちょっと辛いな……。

 

「心配掛けて、本当にごめんね……もう少しだけ待ってて」

 

 誰もいない真っ白の部屋の中に私の呟きは溶けていった。

 

 けど、私はまだ戦えるのかな……。自分の手を見ると小刻みに震えていた。翼さんに謝ったからと言って忘れられるようなことじゃない。踊君が見透かしたように私の心はぼろぼろだ。

 この間は運良くディバンスがいたから、踊君もすぐに動けて止められたんだ。でも次にまた同じことが起きた時、止められるかどうかわからない。うっすらした意識の中でも森を更地にしてしまったことを覚えている。

もしあれを町中でやってしまったりなんかしたら……、怖くて震えが止まらない。自分の力が恐ろしい。

寝ようと思ったけど無理だった。少しでも気分を晴らすために、院内を彷徨い歩いた。

 

「もう動いても大丈夫なのか?」

 

「あ、奏さん。もう大丈夫です。退院したんですね」

 

 声を掛けてきたのは奏さんだった。翼さんよりも遅いとは言え、医者も驚く程の早さで3年前と遜色ない身体能力を取り戻して、丁度手続きを終わらしたところみたいです。

 

「漸くな。本当はもうちょい早く退院したかったんだけど、ここの医者共がまだダメだって引き延ばされてさ」

 

 やれやれ、みたいな態度で肩を振るけど。それが普通だと思う。3年間も寝たきりだった人が一週間程度でリハビリを終わらせられるだなんて誰が信じられるでしょうか。何処か異常がないか、念入りに調べるのも仕方がないことです。それでもこの早さで退院できるのは奏さんの強い信念があるからなんだと思う。

 

「それで、奏さんはこれからどうするんですか?」

 

「あたしか? そうだねぇ……取り敢えず、聖のとこだな。その後は旅にでも行くか」

 

「へぇ-、そうですか……て、もう行くんですか!?」

 

 退院してすぐ直行ですか!? 旅支度が出来てるとは思えないけど……。

 

「ああ。それと。昨日のことは翼から聞いたぞ。何か大変なことがあったらしいじゃんか。他の奴等が頑張ってるってのに、あたしだけゆっくりしていんのは我慢ならねぇ。それにとっとと行った方が良さそうな気もするからな」

 

 奏さんの視線の先の窓から見えたのは、何処までも青く壮大な空と、人々の培ってきた努力の結晶とも言える建造物、そして草原で遊ぶ小さな子供達の姿。

 奏さんは誰よりも守りたいんだ、この窓から見える景色を。師匠から奏さんの過去は少しだけだけど聞いている。突然、家族を奪われる悲しみを知っているこの人は、ノイズに対する恨みがあるから一秒でも早く戦いたいんじゃなくて、他の誰にも自分と同じ経験をして欲しくないから一分でも早く戦いたいんだ。

 

“早く動けば動いたその分だけ誰かの命を救える”

 

 ……ああ、そっか。そうだった。

 

「奏さん。ありがとうございます」

 

「おう? いきなりどうした?」

 

「私、師匠の所に行こうと思います」

 

 私が戦う理由は最初からずっと変わってないんだ。困ってる人の助けになりたい。たったそれだけだった。そして今もノイズという未曾有の恐怖に怯えている人達が沢山いる。

 今、ここで立ち止まってしまったら絶対、翼さんに、そして何より奏さんに顔向けできなくなる。私の中にある小さな欠片は奏さんが命がけで守ってくれたから、今もこうしてこの胸の中にあるんだ。

 ガングニールを失っても奏さんはまだ進み続けているのに、それを手にした私が足踏みしている訳にはいかない。例えこの力がどんなに恐ろしいものであっても、私は変わらず前に進むんだ。困ってる人を、大切な人達を、私の帰る暖かい場所を守るために。

 

「へへ、そうか。私のいない間頼んだぞ、響」

 

「はいッ!!」

 

 何か忘れているような気もするけど、私は病院を飛び出しそのまま師匠の住む家を目指して走った。

 

 

「この戯け、大人しく入院しとらんか! それかせめて退院手続きを済ませておけ! ド阿呆!!」

 

「ごめんなさい……」

 

 何の手続きもしてなかったです、はい……。着いて早々、こってりねっちょり絞られた……。

 

「はぁー、やれやれ……君の熱意は伝わった。仕方がない。こちらで手続きはしておこう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 師匠のおかげで警察の厄介になるのは免れた。あ、でも二課って政府機関だから政府の厄介にはもうなってるんだ。……あれ? そっちのほうが問題じゃない?

 

「だがやるからには徹底的にやるからな」

 

「はい!」

 

 こうして力の制御を習得するため師匠との猛特訓が再び始まった。

 

 

     *****

 

 聖の奴はここ、懐かしの二課本部にある研究室にいるらしい。

 

「うっす。調子はどうだい?」

 

「んあ? おぉ、ちーっす! すこぶる良好だ。俺もあいつも」

 

 人懐っこい笑みを浮かべ、ニシシと笑うと強化ガラスの奥を指差した。

 

「そいつは良いや。早く直した甲斐があるぜ」

 

「ちょいと待ってな。今、フィッティングが終わったところだから。軽く熱処理はしとかいと」

 

 ガラスの先の部屋にが小さな特殊なガラスの筒が中央に一つだけある台の上に置かれていた。よく見ると筒の中に小さな石のようなものがある。聖がパネルに何か打ち込むと、筒の片側が動き白い煙が筒の中を満たした。

 

「冷めるまでもう少し掛かりそうだな。丁度良い。渡す前に一ついいか」

 

「何だ? 変なことじゃなけりゃ構わないぜ」

 

「呵々、そんな構える程のことじゃないさ」

 

 聖に言われて気付いた。聖のマジな目で咄嗟に身構えていたみてぇだ。けどそれだけ重いプレッシャーは掛かったのは事実だ。リラックスはしても適当に答えていい問いではなさそうだ。

 

「ここまでしてお前の戦う理由は何だ?」

 

 静かに告げられた問いに唖然とした。んなもん、最初から変わらずノイズを殲滅するためだ。と言おうとしたが、できなかった。

 家族を殺された恨みが心に根付いているのは分かる。それ以上にあたしと同じような経験を他の人にさせたくないという思いも強く主張しているのも気付いてる。なのにあたしは言葉に詰まった。

 

「残された時間は少ないが、この質問の答えは明確にしとけよ」

 

 不意に聖が中にあったそれをあたしに放り投げた。

 

「おいおい。聞いといて答えは聞かねぇのか」

 

「呵々、今すぐ答えて貰おうなんて思ってないよ。旅を終えた頃にでも教えてくれたらいいさ」

 

 受け取ったそれをポケットに突っ込んで、あたしは部屋を後にする。でもこのまま何も言わずに去るのは負けた気がしていやなんで、

 

「あんたらが戦うのはどうしてなんだい?」

 

 通り過ぎざま軽く意趣返ししてやった。

 

「…………これはしてやられたなー」

 

 うっすら聞こえた声にあたしは満足だ。

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