戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第二十九話

 いろいろと面倒ごとを済ませた後、私が未来とクリスちゃんに本部まで案内することになった。師匠たちは未来が来ることにあんまりいい顔をしなかったけど、無理を通してもらった。

 

「へぇ~……学校の地下がこんな風になってたなんて、信じられない」

 

「ほんとだよね。あ、ここが二課の中心の司令室だよ。ここのことを知ってから随分経つのに、今だに慣れないんだ」

 

 他愛もない会話を交えながら二課の事を説明していった。案内とは言っても全部知ってるわけでもないから曖昧に誤魔化してる部屋もあるんだけどね……。未来も気付いてるようで深く聞いてこないのがありがたい。

 

「…………」

 

「クリスちゃん、どうしたの?」

 

「クリス?」

 

 エレベーターに乗る前は舌打ちしながらも会話に混ざってくれてたのに、司令室に近付くにつれてどんどん口数が減り、気付けば黙ってしまっている。

 見ると何か悩んでいるのかうつむいて口をもごもごさせていた。未来もわからないみたいで二人でじっとクリスちゃんを見詰めていると、不意に顔を上げたクリスちゃんとバッチリ目が合った。

 

「……こんなところにあたしを連れてきて良かったのかよ? あたしはお前等の敵だぞ」

 

 見ていたのに気付いたクリスちゃんは顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。もごもごしてるのも可愛かったけど、真っ赤なクリスちゃんも可愛かった。……て、そうじゃなかった。

 

「へ? ……そう言えばそうだったっけ。まあ、良いんじゃないかな? 私は気にしない!」

 

「お前がしなくてもあたしが気にするんだよ!」

 

「何で?」

 

「そ、そりゃー、そのう……。……だぁあ! もうあたしは知らねぇからな!」

 

 あ、キレた。この子、口が悪いだけで根は素直な子だ。私と同じで踊君たちによく弄られるタイプだ。……あれ? 何故か目から汗が……。

 

「……なんだよ、その人を哀れむような目は」

 

「強く生きてね」

 

「どういうことだ?!」

 

 踊君がいなくても私の横には第2の踊君がニッコリ……

 

「まだ入らないの?」

 

 ええ、入りましょうとも! 私は何も見ていない! 決して「それ以上言ったらシメル」なんて恐ろしい笑みを浮かべた女の子なんて見てません! 見てないったら見てない!!

 

「説明無しか!!」

 

 クリスちゃんが何か叫いているけど、気にせずは背後に回って背中を押す。未来はクリスの腕を掴んで逃げられないように引っ張った。司令室に入ると破裂音が鳴り響く。

 

「んだ?! ……は?」

 

 咄嗟にクリスちゃんは構えちゃったけど中を見て唖然とする。未来も驚いたようで固まっていた。

 

「よ、ようこそ。防人の砦、特異災害対策機動部二課へ」

 

 おお! 初めて私が来た時と出迎え方は同じだけど、翼さんが先頭に立って出迎えてくださるなんて思わなかった。最初の頃の翼さんとは雰囲気がまるで違う。憑きものが落ちたように晴れやかな笑みをしている。

 やっぱり奏さんが元気になってくれたのが良かったのかな。物腰も随分柔らかくなったと思う。今のもちょっと照れが入っててクリスちゃんに劣らず凄く可愛い。

 なんと言ってもやっぱり普段凜々しい翼さんがちょっと挙動不審な感じを見せておろおろしてるところが、ギャップがあって良い! しかも、それを隠すため必死に普通を装って、さらに動きがぎこちなくなってしまってて凄く萌える!

 

「な、なんだ、立花。その顔は」

 

「ツバササンモエー……。……はっ!?」

 

「モエ? ……大丈夫か?」

 

「モエ?」

 

「クク……。ひ、響のバカ……」

 

 ものすごい言葉を口走ってしまったぁぁぁあああああ!? 周りから堪えきれなかった笑い声がちらほら聞こえてくる……。何という言葉を言ってしまったんだ、私の口は……。本人(+クリスちゃん)が萌えという言葉自体を知らなかったらしくて、それだけは本当に助かった。

 

 

「す、すまん、これ以上は……」

 

 ……師匠の言葉を皮切りに結局私は笑われた。意味の分からなかった二名は互いに首を傾げて不思議そうにしていてさらに笑いは激化していった。

 

 

 

「――ということだ。一往理解してくれたかな? 今の響君の状況を」

 

「は、はい。全部とは言えませんが、大体のことはわかりました。あの、踊さんも関わってるんですか?」

 

「ああ、そうだ。今はここにいないが俺たちと深く関わっている。その辺りのことは踊本人から聞いてくれ」

 

 笑いに笑った後、私と師匠を中心に今まで起こったことを未来に説明した。あの三年前の事故の時に私に起こったことから全部だ。けど踊君のことはほとんど言ってない。勝手に言うわけにもいかないし、言っても証明の仕様がない。実はロボットだ、なんてどう説明しろと。

 私たちは、引き千切られた腕を一日足らずで治したり、それを自在に付け外しする場面見たりしたからすんなり信じられただけで、踊君の構造については理解出来ないことだらけだ。出来るとしたら了子さんレベルの専門家くらいじゃないかな。

 ……て、了子さんは何処に?

 

「わかりました」

 

「すまんな。よし、次はクリス君についてだ。どうして二人は一緒に?」

 

 あ、それ私も聞きたい! ノイズの前だったから横に置いといたけど、凄い気になる! 

 

「4日ほど前、路地裏で倒れていたところを見付けたんです。酷い熱があって服もびしょびしょでほっとくわけにもいかなかったのでふらわーのおばちゃん、響が助けてくれた女性に部屋を貸してもらって看病してたんです」

 

「ふむ……。病院には連れていかなかったのか?」

 

「あの日、まだクリスが目を覚まさないようなら連れていこうと思っていたんですけど、取り敢えず叩いてみたら起きたので良いかなと」

 

「だから頭にたんこぶがあったのか……」

 

 クリスちゃんが頭のたんこぶを触ってしまって、若干涙目だ。

 

「病人を殴ったのか!?」

 

「響で慣れてますから」

 

 ……明後日の方向ってどっちだろう。

 

「そ、そうか。……ではクリス君、君の身に何が起きたのか話してくれないか?」

 

「………………」

 

 クリスちゃんは口を閉じた。不意に浮かんだ悲痛な表情が空気を重くする。誰も無理に急かそうとはせず、クリスちゃんのペースで話せるように静かに待った。それだけ、クリスちゃんが深く傷ついていることがわかったから。

 

 そしてしばらくして気持ちの整理を付けたクリスちゃんは語り出した。

 クリスちゃんとサージェに裏から指示を出していたフィーネという女性のこと、その人に裏切られ殺されかけたこととサージェのおかげで逃げられたこと、そしてクリスちゃんがしたかったことを。

 

「……カ・ディンギル」

 

「カ・ディンギル?」

 

「フィーネが言ってたんだ。それが何なのか分からないけど、そいつはもう完成してるとか何とか……」

 

 凄そうな名前……、ゲームにでも出てきそう。

 

「……それは、本当か?」

 

「チッ……、やっぱあたしの言うことなんて信じられないってか。……そりゃそうだよな、私はお前等の敵だもんな」

 

「いや、そういうわけじゃない。『フィーネ』、『カ・ディンギル』……。一体どういうことだ……、聖踊、君は何者なんだ……。何を掴んでいる?」

 

「踊君がどうしたんですか?」

 

 不意に出てきた踊君の名前、師匠以外の二課の人たちも知らなかったらしく怪訝な顔をしていた。

 

「『フィーネ』、『カ・ディンギル』、共に……踊の書き置きに気を付けろと書かれていた言葉だ。それと『ソロモンの杖』という言葉に聞き覚えはないか? 踊が言うにはこの日本に持ち込まれているらしいが、現実に見た覚えがないのだ」

 

「……あるぜ。あたしが起動させた、ノイズを操る為の聖遺物だ。でもあたしも良く知らねぇんだ。いつもあいつが使ってたから……」

 

 うむむ……、話がどんどん暗くなってく……。ここは頑張って話を変えますか!

 

「ところで了子さんはどうかしたんですか? こういう話なら了子さんが適任だと思うんですけど」

 

「昨日から連絡不通でして、今日もまだ出勤してないんです」

 

「ふむ……、そうか…………」

 

 ……あれ? これはこれで暗くなりそう? 私、ミスった? あ、でも了子さんなら大丈夫か。

 

「了子さんならきっと大丈夫です。何が来たって、私を守ってくれた時みたいにドッカーン! とやってくれます」

 

 あの時は凄かったな~。

 

「いや、戦闘訓練もろくに受講していない櫻井女史にそのようなことは不可能だ」

 

「うぇ? 師匠とか了子さんって人間離れした特技とか持ってるんじゃないんですか?」

 

「響、風鳴さんにもその了子さんっていう人にも失礼だよ」

 

「え~、でも素手でコンクリート叩き割ったり地面をくり抜いて畳替えし出来たりするんだよ?」

 

「……えっ?」

 

「それに了子さんも……ん?」

 

 小刻みな電子音、『CALL』?

 

『や~っと繋がった』

 

「……ッ!?」

 

 あ、通信か。

 

「了子さん、大丈夫ですか?」

 

「ええ、大丈夫よ。何かあったの?」

 

「……ならば良い。それより聞きたいことがある。カ・ディンギル、この言葉が意味するものは?」

 

 了子さんなら多分知ってるよね。

 

「カ・ディンギルとは古代シュメールの言葉で高みの存在。転じて天を仰ぐほどの塔を意味しているわね」

 

 ほへ~、天を仰ぐほどの塔ですか、……なんだ、必殺技的な兵器じゃないのか、残念。

 

「物騒な妄想を蔓延らせないの」

 

「てへっ」

 

『追加で説明するなら後に使われた言語、古代アッカド語でバブ・イリと言い、現在の時代に語り継がれるバベルの塔のことだ』

 

「踊君!?」

 

 いつの間にか新たに『SOUND ONLY』と書かれていて、勝手に通信が繋がっていた。

 バベルの塔ってッ!!

 

「…………なんだっけ?」

 

「響ったら……、えっと確か聖書に書かれていた話だったかな? 元々世界が一つの言語で成り立っていたとされる頃、人間を世界各地に散らばらせようとした神に反抗して建てようとした天まで届く塔のことだよ。因みに神様かその関係者か忘れたけど、こんな真似をしたのは人間が同じ言語を使うからだってそれを見た人が言語を幾つにも分けてしまったって言われてるの。そうでしたよね」

 

『おお、それであってるあってる。ここでは本当にあったことなんだぞ。あの日は世界が阿鼻叫喚となって大混乱に陥ってな、結構大変だった』

 

 ここでは? あの日? ……え? もしかして踊君、その頃から生きてたの!? いったい何歳なんだろ……。

 

「……色々ツッコみたいことはあるが今はいいとしよう。それで何者かがそんな塔を建造していたとして、何故俺たちは見過ごしてきたのだ?」

 

『いくつか理由が考えられますけど、聞きます?』

 

「ほう。聞かせてくれ」

 

『一つ、相手がウチよりも格段に高い能力を有した組織である。まあこれはないと思いますけどね。二つ、何かの建造に紛れ込まして塔を設計したものである。カ・ディンギルがどんな形かわからないことを考えると可能性は高いです。三つ、塔とは名ばかりで実際はそんなに大きなものじゃない。カ・ディンギルの意は、飽くまで天を仰ぐ高み、実際は天まで届く塔ではなく、何かの装置のようなものである可能性もあります。長時間打ち続けられるエネルギー砲を空に向かって撃てば塔のようにも見えますし』

 

 あ、確かに。以前翼さんが絶唱を歌った時、天に伸びる光も塔と言えないこともないかも。けど、もしそうだとしたら見付けようがない。

 

『ま、どうあれ大掛かりな装置であるのは変わらないさ。天まで届かせる必要がないってだけだ。おっと、こっちも色々立て込んでるんで切るぞ』

 

 もうやっぱり勝手だな……。

 

「……!! ノイズの反応を検知! ひ、飛行タイプの超大型ノイズが一度に3体、いえっ!? さらにもう1体出現!」

 

 4体も!? 何でこんな時に来るかな、もう少し未来に説明したかったのに!

 

「響、行って。わたしはここで響の帰りを待ってる。……響がどんな遠くへ行ったとしても、ちゃんと戻ってこられるように響の居場所、帰る場所を守っていたいから」

 

「私の、帰る場所」

 

「そう、だから行って。わたしも響のように大切なものを守れるくらいに強くなるから」

 

 不安もあったけど、打ち明けて本当に良かったと今なら声を大にして言える。信じて待っててくれる人がいるだけで私はこれからも戦える!

 だから、もう一度伝えたい。

 

「小日向未来は私にとっての日だまりなの。未来の側が一番あったかいところでわたしが絶対帰ってくるところ」

 

 翼さんがいて、クリスちゃんがいて、踊君や師匠たちがいて、そして未来がいるこの場所が私は好きなんだ。

 

「これまでもそうだし、これからもそうッ! だから、私は、ううん。私たちは絶対に帰ってくるッ!」

 

「ふふっ、そうだな。剣として、防人として誓おう」

 

「ハッ、あたしは誓わねぇ……な、なんだよその目は。お、おい!? なんで涙目なんだよ!? くぅっ……わ、わかったよ。誓えば良いんだろ、誓えば。ちゃんとこいつ等と帰ってくるからその……なんだ、別に心配する必要はねぇから、な」

 

 未来の涙に屈したクリスちゃんも一緒に誓ってくれた!

 

「よーしっ、ノイズ共をブッ飛ばすぞぉおおっ!!」

 

「「オオーッ!!」」

 

 翼さんは自前のバイクで、私とクリスちゃんは外のヘリを使って各地点のノイズを蹴散らすために出撃した。

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