戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜 作:円小夜 歌多那
それは突然のことだった。
響たちがノイズを退治しにいったあと、わたしはいつも通りの生活を、響の何気ない生活を守る為に普段通りの生活を心がけて、友達の三人の子たちと普通に話していた時だった。
学校にノイズが現れたのは……。
「落ち着いて! 落ち着いてシェルターに避難して下さい!」
前回ノイズと対面したことのあったわたしはまだ他の先生や生徒より落ち着いていて、すぐに避難誘導を買って出た。教室にいた人たちに呼びかけ動き出す頃には銃を自衛隊も駆けつけてくれた。
けどどうにか出来るとは思えないのが現実だ。ノイズに現代兵器は効かないと聞いたことがある。
そう考えると、皆に走ってもらい急いだ方が良いと思うけどそれで指示が通らなくなってしまったら、もっと困る。
落ち着け……落ち着け……落ち着け……。
「皆さん、こっちです」
自衛隊の人と最短ルートで案内を始める。でもずっと聞こえる銃声音が私たちの恐怖を掻き立て思うようにいかない。
焦るな、落ち着け、と言い聞かせ何とか導いてきたのに、そんな私たちを嘲笑うかのように最悪なことが目の前で起こる。
先頭でクラスを励ましてくれていた自衛隊の人が目の前で炭化した。
突然壁に穴が空き、中から針のようなものが現れるとそのまま貫いたのだ。誰一人も反応できなかった。針はそのまま真っ直ぐ反対側の壁を破壊して見えなくなったけど、その衝撃は大きすぎた。
「あぁ……ぁ……」
一人の子が頭を抱えて崩れ落ちた。ノイズに襲われて炭化したのではなく、ずっと堪えていた恐怖に呑まれてしまい、パニックに陥ってしまったのだ。
その子はアニメが好きでよく響のことをアニメみたいと例えたりするほど好きで、たぶんこういう光景もアニメでなら見たことはあったんだと思う。でも彼女はちゃんと現実とアニメを分けて考えていた。
「皆、死ぬんだ……。もう、終わりなんだ」
だからパニックになってしまった。だってアニメにしかないことだと笑っていたことが、目の前で起こってしまったのだ。それはアニメが現実になったということで、他にもアニメだけしかないと思っていたことが現実に起こるかもしれないということ。
そして今の状況は最悪。
アニメ知識が膨大な彼女にはどう映るか、自衛隊も戦えず響たちのことを知らない、そう考えたらもう救いのない悲劇しかない。
だからって……巫山戯ないで!
「終わりなんて言わないで! まだ、私たちは生きてるの! 勝手に一人で生きるのを諦めないでよ!」
頬を叩いてでも言葉を届かせる。こんなところで死んでたまるもんですか! 絶対生きて、響に会うんだから!
「皆、急ごう! 立ち止まってたって意味はない。皆で生きるのッ!」
パニックに陥った子は何時も一緒にいる他の二人が抱え、私たちはシェルターに向けて走り出した。窓越しにひび割れた校舎が見える。守れないのは悔しい……、でも校舎はいつか立て直せる。だから私が守るべきなのはここにいる人たちだ。
響の帰ってくる場所は私が守る!
「くっ……」
「ウソでしょ……」
シェルターまであと少しというところで二足歩行するノイズと出会ってしまった。T字路でなんとか隠れられたからまだ見つかってはいないと思う。引き返せば何とかなるけど、シェルターが一気に遠ざかることになってしまう。
……皆はもう限界。遠ざかるわけにはいかない。
「(私が囮になる)」
「(何言ってるのよ!)」
「(ヒナ!?)」
「(大丈夫。私が見えなくなったら、皆でシェルターに駆け込んで)」
皆の制止を遮り、私はノイズの前に立ちはだかった。響ほど反射神経が言い訳じゃないけど一度くらいなら躱してみせる。
こっちを向いたノイズの形が液体のように崩れ、針のように尖り始めた。さっきのはあれだったんだ。世界が遅くなってくような感じがした。ゆっくりとノイズに背を向ける。
「させません。……皆さん大丈夫ですか?」
ノイズの背後から女性の声がしたと思ったら、突撃寸前だったノイズが砕け散った。この人に見覚えがある。確か二課のオペレーターさんだ。
「こちらへ」
戸惑いはしたけど素直に従う。ノイズが一匹もいなくて安全にシェルターまでいけてしまった。シェルターについた途端子たちが何人か倒れてしまったけど、安心したからなようで大丈夫みたい。意外なことにあの三人は倒れたりせず落ち着きを取り戻していた。
「あんな姿見せられたら、取り乱してたんていらんないわよ」
「ヒナ、かっこよかったよ」
「かっこよかったですわ」
かっこいいなんて言われるのは響の役割だったから、ちょっと照れる。
「皆さん無事でなによりです」
「あ、ありがとうございました」
シェルターを見渡せば生徒意外にも沢山の人がいるのがわかった。先生は当然として他にも住人の人や。……でも二課の人がいない?
「他の方たちはどうしたんですか?」
「ノイズと交戦中です」
「ノイズって現代兵器が聞かないんじゃ……」
「聖さんが送って下さったのです。対ノイズ専用の銃弾です。どういう仕組みかは本人にしかわかりませんが、世界中に残されている聖遺物の破片を利用してシステムと同じようにノイズの特性を無効化できるようになっています。でも弾丸の周りだけしか効果はありませんし、弾も僅かできついのですが……」
「聖さんってヨウ先生ですか!? あの人って何者……」
安藤さんの言う通りだ。本当に踊さんって何者なんだろう……3年の付き合いでもよくわからない。あ、安藤さんっていうのは板場さん――アニメ好きの子――を運んでくれた一人だよ。それともう一人は寺島さんね。
「響たちに連絡は?」
「……いえ、まだです。現在彼女たちはスカイタワーにて戦闘中。今の我々に連絡手段はありません」
「そんな!」
「ち、ちょっとどういうことよ……。響が戦闘中って何よ!」
「そ、それは……」
言って良いのかわからず女性を見る。でも彼女もどうするか迷っているようで何も言わない。
「話し、て……やれ……」
「し、司令!? ……ッ!?」
「弦十郎さんッ!? その怪我どうしたんですか!」
二人の男性に背負われて、腹を血で紅く染めた弦十郎さんがシェルターに入ってきた。一応手当てはしているようで包帯が巻かれているけど、まだ完全に出血は止まってないようで少しずつ紅が拡がっているのが痛々しい。
弦十郎さんをイスに下ろすと一人が携帯型の端末を動かし始めた。
「よろしいのですか?」
「隠し通せるようなことじゃない。現にここにいるべき響君たちがいないのだ。すぐにバレる」
「! スカイタワーのノイズ反応消失を確認! あちらの戦闘が終了しました!」
説明する直前、端末を弄っていた人が叫んだ。
「そうか! 連絡は取れそうか?」
「残念ながら。通信の機能までは……」
「携帯なら届きませんか?」
微弱だけど、圏外じゃない携帯を見せる。少しくらいなら電話出来るはず。
「……これに掛けるしかないか。試してみてくれ」
響の番号はいつでもすぐ掛けられるように一番最初になるようにしていた。ワンコール、ツーコール、そしてスリーコール目がなった時、響と電話が繋がった。
『もしも~し』
いつもと変わらないのほほんとした声が携帯越しに聞こえてくる。雑音が多く混じって聞き取りにくいけど、何とか繋がってる!
「響ッ!! 学校が……リディアンがノイズに襲われ――ッ!」
じ、地震!? 今まで経験したことがないほど強烈な揺れに間違えて電源を切ってしまった。しかもどんどん揺れが大きくなる。
いったい、今度は何が起こったの……?
*****
「急いで学院にッ!?」
「どうしたん……!」
「? ……あ!」
振り向いた翼さんが言葉を止めた。クリスちゃんもわからず後ろを向いて固まって、私も後ろを見て驚いた。
「踊君!」
「ディバンス……」
「サージェ!」
「「「……」」」
しばらく見なかった三人がそこにいた。静かに立って私たちを見ていた。何だかいつもと雰囲気が違う気がする。
「無事だったんだな、サージェ」
クリスちゃんは特に怪我をしているようにも見えないピエロのサージェを見て嬉しそうだ。それに比べて翼さんは微妙な顔でディバンスを見ている。あの人はよくわからない人だから、仕方ないちゃ仕方がない……。何度も助けてくれたけど、敵対したこともある。……まあ、敵対というかいきなり乱入してきて翼さんと乱闘して勝手に帰るだけらしいから、少し違うかもしれない。
「おい、……サージェ? 何か反応しろよ。いつものヘンタイな物言いはどうした?」
「「「……」」」
ん? ……やっぱり何か変だ。誰も反応を返さない。顔もピクリと動かず無表情。不気味だ……。
『三機から不審な熱源反応感知』
キ……?
『回避して下さい!!』
「「「ッ!?」」」
慌てて左右に散らばった。さっきまで私たちが立っていた場所から後ろが削り取られている。その手前には拳を突き出す踊君と鎌を振り下ろしたディバンス、二丁の銃を構えたサージェがいて、三人が何をしたのかすぐわかってしまった。
でも頭は追いつかないのが現状で、信じたくなかった。
「な、なんで……なんでなの? ……踊君ッ!!」
さらに動き出す踊君の拳が私の横すれすれを通り過ぎた。拳圧で髪が何本か持って行かれる。武術だけなら何とか出来ると思ったのに、武術の動作以外が今までと全く違う。パワーは桁外れ、スピードもギリギリ目で追えるかどうか、しかも手足……だけじゃない、体全体がいつもの人肌の感じがなく金属的な硬さになっている。はっきり言ってガングニールでどうにか出来るかというレベル。
他の二人を見ると、それぞれ翼さんとクリスちゃんで別れて狙いを付けたようだ。
『シンフォギアをまとって下さい。生身で勝てる相手ではありません』
「でも相手は踊君達だよ! そんなの出来ない!」
「フィーネの野郎が何かしやがったのか……クソッ!」
「止める方法はないのか?」
『……力尽くしかないでしょう』
そ、そんなの出来ないよ……。