戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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遅れました……。申し訳ないです。

ちょっぴり編集しました。


第三十四話

 男は拳で語る言葉があるそうだ。けれど、それは本当に男だけなのだろうか。女にだって拳で思いを語れるはずだ。だって今、私は……。

 

 

 

「たぁぁああアア!!!」

 

「ッ!!」

 

 勢いに乗った両者の拳が擦れ合い、お互に後ろに押し下がる。でも離れることはなく、ほんのわずか滑った程度で、その場で身体を捻り、蹴りを放った。でも踊君も全く同じ動きで打ち消され離れる。

 同じなのは当然だ。なんと言っても、踊君は私が師と仰いだ人で、同じ人を師に仰いだ兄弟子。戦い方や技は共通している。 ……練度とかは全く届かないけど。

 新たに 4本の筋が地上に描かれることになった。でもそれは既にある線の一分にも満たない。踊君の一撃を受け止めた時、また私の攻撃を受け止められた時、逸らし逸された余剰の力が抜けた時、私たちが動く度に長短深浅様々な線が刻まれている。

 

「デェイッ!!」

 

「 ……ッ! ッ!!」

 

「な!?  ……まだまだァアア!!」

 

「 ……! …… ッ!?」

 

 再び踊君の領域に跳び込み胸目掛け拳を突き出す。けれど届く前に踊君の腕に打ち払われ、浮き上がった身体に膝が入りかける。それに下げていたもう片方の手と足で押さえ、勢いを利用して上に飛び上がった。

 頭を下に踊君を見下ろして、狙いを定める。最高地点まで上がるのと同時に小さくてもここぞと言うとき頼りになるバーニアを噴かし、全体重を乗せた踵を振り落とす。

 当たっても歪にクロスさせ、ひねりを加えた腕とバネのように沈み込む足にほとんどが地中に流れる気配がした。

 

「 ……ッ!」

 

「かっ!? しまっ ……! うわっ …… 」

 

 硬直しているうちに、クロスさせていた右手を返すことで足を捕られてしまった。振り解く間もなく投げられビルに叩き付けられる。

 痛い、でも痛くてもまだ戦える。まとわり付く破片を振り払う。

 

「!」

 

「!?」

 

 踊君の姿を探すが、既に攻勢に転じていた。咄嗟に横に跳んで避ける。突き立てられた拳に壁は丸い穴を開けられていた。

 踊君の全ての動きが今までとは段違いだ。動きに付いていくだけでも正直かつかつ。

 

 これが、踊君の本気か……。

 それにしても、

 

「かったぁ~ ……」

 

 組み手のようなある程度加減したものじゃなくて、これは本気の闘いなんだ。当然、踊君は全力を出してくる。

 いくら踊君が人感あふれてても、限りなく本物に近い皮膚をしててもアンドロイドはアンドロイド。金属性のもので出来てるんだから、そりゃ硬いわけだよ。

 

「でも、負けられない!」

 

 側転やバク転で距離を稼ぎ構え直す。

 一瞬たりとも気は抜けない。踊君の全て、一挙一動だけでなく、彼の視線や息遣いにも意識を向ける。 そして動き出す。

 

「!!」

 

「ラァアアッ!

 

 足払い。それは跳んで躱された。続けざまに掌を地面につけての二度蹴り。一度目は逸れ、二度目は腕を盾にして止められてしまった。けどこれは予想内、踊君にほんの一瞬の硬直が出来た。

 そのまま立ち上がり裏拳に繋げ、踊君の腕を打ち上げる。

 

「ッ!!」

 

 踊君のガードに大きな隙間が空いた。

 

「そこだぁあああ!!」

 

 振りかぶり、一直線に踊君の腹に拳が突き刺さる。でも浅かった。踊君はたった半歩斜めに下がるだけでスルスルと服を擦らせ、そのまま甘いとでも言うように、

 

「!」

 

「ヴッ!? ……カッ!」

 

 懐に入られて頬に強烈な一撃をもらってしまった。口の中に鉄の味が拡がる。口元にヌルッとした液体を拭うと赤かった。あ、やっぱり血だ。

……結構一方的な状況だ。

 

『大丈夫ですか?』

 

「ゲホッケホッ……(まぁなんとかね )」

 

 今まで静観していたイアちゃんの声が聞こえた。

 ほとんど相打ちしているとはいえ、今まででまともに攻撃を受けたのは 8割方私の方だ。ガングニールが守ってくれている御陰でまだ耐えられているけど、このままじゃ、そう遠くない内にやられる。

 

『やはり踊さんは強いですね ……』

 

「 (うん…… 。初めっから強いのは知っていたけど、こんなに強いだなんて思ってなかったよ! )……くぅ!?」

 

 追撃で襲い来る連続パンチを全員を使ってとにかく捌いて受け流す。目が慣れてきて見えるようになってきたんだけど、だからって身体が追いつくかどうかはまた別の話でどんどん体勢が悪く ……

 

『響さん!』

 

「 ……ぬわっ!?」

 

「 ……ッ!?」

 

 足下の注意を怠っていたせいで何かに躓いた。気付いた時にはもう遅く、重力に逆らうことなく引かれるがまま後ろに倒れる。咄嗟に両手で掴んだのは眼前まで迫っていた踊君の腕で、驚いたことに、倒れる拍子に突進中で前のめりだった踊君を持ち上げていて背中から叩き付けられた。

 受け身を取れなかった私も痛いけど、自身の勢い付きで地面に叩き付けられた踊君にはより大きなダメージが入ったはずだ。

 

『余り参加したくはなかったですが、そうも言っていられないようですね。予想よりも遙かに踊さんが強くなっているようです。ここからは私も援護します』

 

「(お願いっ!)」

 

 イアちゃんがそう言うと、ガングニールが勝手に動き出した。別に分離して独立可動したとかではなく、手のユニットが小さく伸び縮みしたのだ。

 

「これって ……」

 

『ユニットに意識を向けられますか?』

 

「(え、えと ……やってみる)」

 

 言われたように意識をユニットに持って行く。するとそこに何かいることがわかった。淡く輝くあったかい黄色い光が溢れているような感じがする。

 

「(もしかしてイアちゃんなの?)」

 

『そうといえばそうですし、違うといえば違います。やっているのは私ですが、それが私なわけではありません。裏技というか荒技というか、無理矢理響さんとガングニールの中を流れるエネルギーに干渉しているんです。これぐらいしか出来ませんが後は説明しなくても分かりますよね?』

 

「(うん。大丈夫)」

 

 私が光に意識を向ければ簡単に動いた。それに併せてユニットも動く。踊君が立ち上がる前に光を動かすことに集中する。

 手で引っ張ったりしなくても勝手に引き絞られるユニットを見て、すこし感心してしまった。こんな状況でさえなければ声を上げて大喜びできたのに ……。

 

『踊さんの使う流しの技も肉体構造も強固です。恐らくただのパンチやキックでは当てても、ダメージが 1割程度にまでカットされていると思われます。ですが一定以上の破壊力を込めた一撃などであれば貫通できるはずです。現に体勢を崩しただけでただの叩き付けが有効になっていますし』

 

 立ち上がった踊君を見ると、無表情の顔にうっすらと苦痛の色が見えた。攻撃が通らない理由に流しの技なんてものがあったとは思わなかった。けどこれえで僅かに勝機が見えたかもしれない。

 考えてみると正面から防がれてはいない気がする。何度かした正面からのぶつかり合いも思い返すと一秒も当たることなく、一瞬のうちに内側に逸れた。そしてクロスさせて防がれた時も腕の捻りに誘導され地面にすっぽ抜けたような感じもあった。そして最後のあれも踊君は完全に躱さず、掠らせている。

 

『踊さんは決してとてつもなく硬いというわけではありません。ガングニールの一撃を叩き込められれば必ず抜けます』

 

 とてつもなく硬いと思っていたけれど、いくら瓦割りが出来る人でも大した勢いも付けずに瓦を叩けば痛いのと同じで、巧みに攻撃を流されて力が足りなくなっていただけなんだ。

 今までユニットを引けばいいだけだけど、そんな暇なんかなかったから使えなかった。でもイアちゃんが協力してくれている今ならその心配もない。

 

「 ……ッ!」

 

 たった一回しか出来ないだろうけど今まで以上に踊君の動きに意識を注ぐ、そして一気に攻め込んできた踊君が視え、黄色の光と共に左腕を振りかぶった。手で引っ張ったほうがもう少し伸ばせるけれど、触らずともちゃんと伸びてくれるのがわかる。

 後は踊君の拳に当てるだけだ。

 

「デェェエエエイ!!」

 

外側に逸れていく踊君の左拳ど真ん中にぶつかった。

 

 弾けるガングニールが拳に勢いをくれる。

 

そして私の力が踊君の力に打ち勝った。

 

「 ……ッ!?」

 

 けど、まだ踊君は倒れなかった。踊君は右拳を突き出す。そこには踊君の意思が込められているような気がした。何のためかは分からなくても、これが踊君の意志なんだと、なんとなく伝わってくる。何度もぶつかり感じたとても真っ直ぐで純粋な……、)

 

「ッ!」

 

「……うん」

 

 ……後悔の意思。

 私も右手を固く握り締める。本当は何の為なのかちゃんと説明して欲しい。でも、言葉で交さなくても、伝わるものがあると信じてこの拳に願う。

 

「第3号聖遺物ガングニール、立花響。踊君の声を聴くために、いきます!」

 

『……立花響が付き人、イア。大切な人達のために!』

 

 右手に私と、イアちゃんの思いを全て込める。後のことは後で考えればいい。今ある全てで踊君に応えたいから。腕を引き、ユニットを限界まで振り絞る。手では引けないくらい、後ろへ、遠くへ、私の身長よりも遥か先へ。

 互いの拳が光を放ち始めた。

 一方は太陽のように淡い黄に。

 もう一方は濃い山吹色。

 

 お互いの準備は整った。これが最後の激突だ。

 

「響けぇぇええええ!!!!」

 

『いっけえ!!』

 

「ッ!!!」

 

 一歩も引かない互いの全力で、辺り一面が吹き飛んだ。近くにあった建物も砕け散り、吹き飛んばされていく。それでも衝撃は止まらない。腕がぎしぎしと悲鳴を上げ、全身に危険を知らせる。けれど私は引いたりしない。踊君だって前に進み続ける。

 

 途轍もなく長いぶつかりは、針が一刻を刻んだだけの一瞬に過ぎなかった。訪れたのはやっぱり静寂だ。砂煙なんて立ち籠めることもなく踊君の顔がはっきり見えた。

 目と目が合う。

 

 そして、踊君は笑った。

 

「強くなったな」

 

 たった一言だったけれど、触れ合う拳が、踊君が言葉に出来ないくらいの喜びで満ちているのを教えてくれた。崩れ倒れかかる踊君を抱き留めて、まだ残っていた瓦礫にもたれかからせる。

 フィーネさんを止めたら、聞かせてもらうからね。だから今は、

 

「踊君、行ってきます」

 

 これだけ伝えたら良いかな。

 

 

 

 ……拳で誰かの言葉を聴けたのだから。

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