戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜 作:円小夜 歌多那
原作をご存じなら、後半だけ読んでいただくだけでも十分かと思います。
急いで駆けつけた少女達に待っていたのは崩壊した校舎の残骸と、狂って色を間違えたのか真紅の月だった。学院を襲っただろうノイズも既にいない。いつものように沢山の生徒の笑い声が響き、騒々しいくらいに人が集まっていたはずのその場所には誰一人いな……
「未来……? 皆……?」
「そんな……リディアンが…………ッ!」
……否。崩れた校舎の屋上にまだ女性が一人いた。
「櫻井女史?」
櫻井了子。シンフォオギアシステムをはじめとする聖遺物を動作させる“櫻井理論”を提唱した人であり、特異災害対策機動部二課が誇る才女がまだそこにはいた。だが、何故こんな場所に生身で立っていられるのか。
その答えを知っていたのは当人を除いて、一人いた。
「フィーネッ! これはお前の仕業かッ!!」
彼女と共にいたクリスだった。
「フフ……、ハハハッ、アッハッハッハッ!」
クリスの声を聞き、奏者を見下し彼女は嗤う。
「……そうなのか。……その嗤いが答えなのか。…………櫻井女史ッ!!」
「ああ、そうだよ! あいつこそあたしが決着着けなきゃいけないクソったれ」
「フフフ……、遅かったな」
了子の髪が風に揺れる。含み笑いを浮かべ彼女の身体が光に包まれた。
「フィーネだ!」
腰まで伸びる金色の髪。身に纏うのは金色の鎧。それもまた……ネフシュタンであった。
「……う、ウソですよね。そんなのウソですよね?」
クリスの声を聞いてもまだ、響は信じることが出来なかった。響は了子にこれまで何度も体内の聖遺物について相談に乗ってもらっていた。それに加え、
「だって……だって私を守ってくれました」
命を救われたこともある。けれど彼女の答えは無情だった。
「ふん。あれはデュランダルを守っただけだ。希少な完全状態の聖遺物だからな」
「じゃ、じゃあ、了子さんがフィーネというのなら、本当の了子さんは?」
「櫻井了子の肉体は先だって食い尽くされた。いいや、意識自体は12年前に死んだと言っても良い。超先史文明期の巫女フィーネは遺伝子に己が意識を刻むことで、その血を引く者がアウフヴァッヘン波形に接触した際、その身に記憶と能力が再起動する仕組みを施していたのでな」
「あ、アウ……アウ……?」
「アウフヴァッヘン波形、それぞれの聖遺物が個別に放つ波形のことだ。…………12年前とは、私が天羽々斬を起動させたあの日か!」
「フフ、その通り。12年前貴女が偶然引き起こした天羽々斬の覚醒が、同時に実験に立ち会った櫻井了子の裡に眠る意識を目覚めさせた。その目覚めし意識こそが、私なのだ」
妖艶とでも言おうか、彼女は口元にうっすらと微笑を浮かべていた。奏者達は彼女の複雑に並べられた言葉を噛み砕き、理解する。
「……貴女が了子さんを塗り潰して…………?」
「フィーネと覚醒したのは何も私一人だけではない。歴史に記される偉人、英雄。世界に散った私たちはパラダイムシフトと呼ばれる技術の転換期にいつも立ち会ってきた」
「…………シンフォギアシステム」
翼の中でそれはすぐに思い当たった。
「ハッ! そのような玩具、為政者からコストを捻出させるためのものに過ぎぬ」
だが彼女にしてみればそれはただの金を集める為の遊びでしかなかった。
「なっ……!? ……お前の戯れなんぞの為に、奏は死線を彷徨ったというのか!!」
「あたしを拾ったのも、あいつを利用したのも、そいつが理由かよ!!」
「予想外の邪魔が入ったが、漸く準備は整った。そうさ、全てはカ・ディンギルのためっ!」
「「「ッ!?」」」
大地は猛り咆哮を上げた。世界に何を訴えようというのか、地の底より轟きて、それは学院を突き破り聳え立つ姿を現した。
「これこそが地より屹立し天にも届く一撃を放つ荷電粒子砲、カ・ディンギル!」
「ほ、本当に兵器だった……。あれ? あれって地下の模様と同じ……?」
「く、そういうことだったのか……。道理で二課でも気付くことができないわけだ!」
異様な模様が敷き詰められそびえ立つ塔、その模様は二課本部に向かう度に何度も見ていた景色と全く同じ。……二課そのものがカ・ディンギルだったのだ。どれだけ二課が優秀だったとしても、自分達の本拠地そのものが探しているものだとは思うわけがなかった。
「そんなもんでバラバラになった世界が一つになるとでも思ってんのか!」
「ああ、今宵の月を穿つことによってな!」
空に登る紅い月がまもなく塔の真上に到着しようとしているのを見上げても、世界の統合と月の関係性は見いだせず戸惑う。
「あの小娘が言っていたことは概ね合っているが、私はただあのお方に並びたかっただけだ。そのためにあのお方に届く塔をシンアルの野にたてようとした。……だが、あのお方はヒトの身が同じ高みに至ることを良しとはしなかった。そしてあのお方の怒りを買い、雷霆に塔を砕かれたばかりか人類は交わす言葉まで砕かれる果てしなき罰、バラルの呪詛をかけられてしまったのだ」
小娘とは恐らく未来のことだ。
「……月が古来より不和の象徴と伝えられてきたのは、月こそがバラルの呪詛の源だからだ。人類の相互理解を妨げるこの呪いを、月を破壊することで解いてくれる! そして、再び世界を一つに!」
「そのために私たちの学校を? ……未来や皆を?」
「……イかれてやがる。呪いを解く? ふざけんな! それはお前が世界を支配するって事じゃねぇか!」
「二人ともやるぞ!!」
「「はい!/ああ!」」
聖詠――それは奏者である証。
心に宿る色を映す思いの結晶を彼女たちは口吟む。
「-- Killter ichaival tron --」
「-- Imyuteus amenohabakiri tron --」
「-- Balwisyall nescell gungnir tron --」
月に這い寄る闇の中、小さな光と共に彼女たちは己が魂の現身を纏いまっすぐ構えた。
「聖踊は気付いていたみたいだが、ついに間に合わなかったようだな。
先の闘いからたった数時間。大破に近い損傷の修復はままならず、既にその身に纏うシンフォギアは傷付きひび割れていた。誰がどう見ても、どちらが不利なのかは一目瞭然だ。だが、今、了子……フィーネはなんと言った?
「10体の?」
「大型ノイズ、だと?」
「……やっぱり、そうだったんだ」
あの場にいたのは最初に響が潰した1体とクリスが仕留めた3体の計4体。そして満身創痍になったのはノイズにやられたからではなく、踊達が前に立ち塞がったからだ。
しかしフィーネはその場には10体いたと言った。出した本人が数を数え間違えるなどとは思えない。本当に最初は10体いたのだとすると、一体誰が半分以上ものノイズを倒したというのか。
……もうその答えは少女達の中に出ている。
「やっぱり、踊君達は操られてなんかいなかったんだ……」
そんなことが出来たのは、ずっと姿を現さず、そして最後に姿を現した、熱い思いをその胸に詰めた彼らしかいないのだから……。
*****
誰もいない静かな戦場跡……。
「流石に連戦はちとキツいな……。よいしょっと」
蒼白い火花を散らしながら人らしきものが一つ、おもむろに起き上がった。
「呵々ッ。俺はやっぱり負ける定めか。それにしても随分強くなったな……。二人はどうだった?」
「……うむ、いけるか。あの者の憑き物も漸く晴れたようだ。太刀筋に込められた信念は誠であった」
「――損傷は少なそうですね。……ええ、こちらも同じですよ。ふふふ、もう何も心配することはないみたいです」
最初に起き上がった者と同じように、バチバチと火花を散らし倒れていた二人がゆっくり歩き寄ってくる。三人はそれぞれで身体の調子を調べていた。
『心配事はもう晴れましたか?』
「呵! ああ、大丈夫だ」
何時ものように
「随分派手にやったな」
「んん?」
そしてどこからともなく人が現れた。辺りの惨状を見て驚いているみたいだ。一つはボコボコと幾筋の穴がある更地、もう一つは気付かないうちにざっくり斬り捨てられ階層がズレてしまったビル群、そしてまた別の場所には白と灰色と茶色の煙が混じり吹き出す地下通路。一面が混沌と化している。
「「「『…………』」」」
やった当事者たちも見渡してやり過ぎたことに気付いた。若干、ばつの悪い顔をしてそれぞれが別の方を向いて目を反らす。
「やれやれ……。ま、取り敢えず行こうや」
女性に促され、彼らはボロボロの身体を引き摺り歩み始めるのだった。