戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

39 / 139
第三十七話

………………

…………

……

 

「へへへっ……」

 

「どうしたの?」

 

 学院を目指している時だ。クリスちゃんが突然笑った。

 

「んや。ちょっとな」

 

 状況は緊迫していても、何だかとても楽しそうに見えた。

 

「あたしにも夢ってのが出来たんだな、って思ったらよ」

 

「夢?」

 

「……足は止めるなよ」

 

 翼さんはそう言って、一瞬だけ速度を落として近づいてきた。翼さんも興味があるみたいだった。

 

「前さ、あたしは歌が嫌いだって言ったけど、あれ撤回する。やっぱりあたしは歌が好きだ」

 

「上手だもん。最初っから嫌いだなんて思ってないよ」

 

「私も思ってなどいない」

 

 翼さんとはまた違った力強い歌で爆発感が堪らない。

 

「っ……。う、うっせぇ……。パパとママが歌で世界を救おうとしたようにあたしも頑張ろうと思ったんだ!」

 

「照れたな」

 

「照れましたね。パパとママですって」

 

 顔の赤いクリスちゃんを見ながら、うふふと笑っていたのを覚えている。

 

「う、うるせぇえっ! んなもんどうでもいいじゃねぇか! そ、それでよ。てめぇのダチにも礼言っといてくれねぇか? もう一度、夢を見ようと思えたのはあいつのおかげだからよ……」

 

『いい大人は夢をみないかもしれない。でも、それって夢を諦めたからじゃなくて、夢を叶えている最中だからと思うよ。子供の時には見ることしかできなかった夢を、大人になったからこそ叶えられる。二人はそこに夢を見に行ったんじゃないんじゃないかな。多分貴女に夢が叶う姿を見て貰いたかったんだよ』

 

「……そう言われたんだ。思い返してみると、夢を語るパパとママは楽しそうだった。そのお陰でパパとママの思いをやっと受け取れた気がする。だからあたしは二人の夢を叶えたいと思えたんだ」

 

 ふへぇ、未来がそんなことを……。知らないうちに心配性な未来もすごくかっこよくなったなぁ。そんな風に感心したっけ……

 

「そっか。でも、未来は私だけの友達じゃないよ。もうクリスちゃんも未来の友達だよ。だって心に抱えてる思いを話せたんだもん。だからちゃんとクリスちゃんの言葉で言ってあげてよ。もちろん翼さんもです」

 

「ふふ、そうか」

 

「……ちっ、わぁったよ」

 

 なのに、なのにっ!!!

 

……

…………

………………

 

 

「もっと、もっと沢山話したかった。話さないと、喧嘩することも、もっと仲良くなることも出来ないんだよ! やっと仲良くなれたのに……。やっと自分の夢を見れたって、両親の気持ちがわかったっていってたのに……」

 

こんなの……こんなのって、酷過ぎる!

 

「はっ。見た夢も叶えられないとはとんだ愚図だな」

 

「な!?」

 

「愚かにも程がある。いつ誰がカ・ディンギルは一発しか打てないなどと言った。カ・ディンギルがいかに最強最大の兵器だとしても、ただの一撃で終わってしまうのであれば兵器としては欠陥品に過ぎない。必要がある限り、何発でも撃ち放ってこそ、最強最大の兵器!そのためにエネルギー炉心には不滅の刃デュランダルを取り付けてある。それは尽きることのない無限の心臓なのだ」

 

 ……さない。

 

「ッ! 嘲笑ったか……。命を燃やして大切な意志を守り抜くことを、お前は無駄と嘲笑ったのかッ!!」

 

「…………ソレガ……」

 

 ……さない。…るさない。ゆるさない。ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさなイゆるさナイゆるサナイゆルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ、イカサナイ……!

 

「ソレガ、夢ゴト命ヲ握リ潰シタ奴ガ言ウコトカァアアッ!!」

 

 殺シ尽クス!

 

 

     *****

 

 

「ちゃんと帰ってくるって、皆と帰ってくるって言ってたのに、なのにどうして……」

 

 モニターに、堕ちていくクリスが映った。壊れかけのマイクが、響の悲痛な声を拾う。

 

「お前の夢……そこにあったのか。そうまでしてお前が夢の途中と言うのなら俺たちはどこまで無力なんだ……」

 

 流れ落ちる星のように紅い光を散らす姿を見て、風鳴さんがもたれかかっている椅子に拳をぶつけた。

 

『雪音……』

 

 翼さんの呟き。響の嘆き。

 そして、

 

『ソレガ、夢ゴト命ヲ握リ潰シタ奴ガ言ウコトカァアアッ!!』

 

 咆哮……。

 

 響を黒い影が覆い潰した。人が発したはずの声は、重く深く轟き獣のようだった。

 鋭く伸びた綺麗な真白の犬歯が今は異様な恐怖を感じさせる。

 

「あ、あれが響……?」

 

『融合したガングニールの欠片が暴走しているのだ。制御できない力にやがて意識が塗り固められていく』

 

『まさか……っ! まさかお前は……立花を使って実験を……!?』

 

『実験を行っていたのは立花だけではない。見てみたいとは思わんか? ガングニールに翻弄されて、ヒトとしての機能が損なわれていく様を』

 

 過去にも……同じようなことが?

 

『貴様はそのつもりで立花をッ! 奏をッ!』

 

 奏って……ツヴァイウィングの天羽奏さんのことだ……。

 漆黒の響がその朱くギラつく目に了子さんと呼ばれる女性を捉えた。閃光の中に虚無が駆け、女性が咄嗟に張ったシールドに凹みが入る。

 動きにさっきまでの洗練された武はない。ただのケンカみたいに我武者羅で大振りなパンチ。

 女性の乱舞する鞭を掻い潜り、兎にも角にも直線に進む。

 

『もはやヒトに非ず! ヒトのカタチをした破壊衝動!!』

 

 四つ這いになり唸る響に女性は押されていることも気にせず、愉悦に富んだ嗤いを上げ続けた。

 

『ガァァアアアッ!!』

 

『……!』

 

 シールドになっている鞭の一本を片手で掴み取ると引き千切った。無理矢理開けた隙間にもう一方の腕を女性の胸に突き立てた。

 胸が縦に裂ける。ザックリ裂かれた胸から大量の血が、出ない。

 

むしろ女性は更に笑みを深めた。

 

『もう止せ、立花ッ! これ以上は聖遺物との融合を促進させるばかりだぞ!!』

 

『ガァァアアア!!』

 

 翼さんの静止を聞かず、静止をかけた翼さんにまで拳を振るってしまった。それを翼さんは剣で払いはしたけれど、乱暴に出された拳圧に押し負けて瓦礫の中を突き破り、飛んでいく。

 

「なんなのよ……これ…………。もう終わりじゃないっ!」

 

「「「「…………」」」」

 

 さらに追撃を掛けるために走る響を見て誰かが呟いた。これが私たちを守るために戦う姿なのかと叫んだ。誰もすぐに反論できなかった。あんな響、私だって見たことがないんだ。言いたくても今のあの響を見ると言葉に詰まってしまった。

 けど、それでも響ならちゃんと約束を守ってくれると信じている。

 

「……まだ終わってない」

 

だから私は答える、モニターに映る真っ黒な響と瓦礫を払い除け全壊してしまった一部の鎧を取り払った翼さんが対峙している姿を見ても。

 

「私は、最後まで響を、皆を信じる」

 

 響に向かい合う翼さんは静かにその手に握っていた刀を地面に突き刺し、離れて見る傷一つない女性を一瞥して吐き捨てるように言った。

 

『人のあり方すら捨て去ったか……』

 

 そして力を抜いて優しい目を響に向けて語りかける。

 

『立花、私はカ・ディンギルを止める。だから……』

 

 翼さんは動かず、響の拳をその胸で受け止めた。……ううん、そうじゃない。翼さんは響の拳を受け入れた。そして咆える響を両腕で抱きしめる。

 

『その手を納めてくれ。これは、束ねて繋げる力のはずだろ?』

 

 そっと手を取り言葉を紡ぐ。

 

『……立花響。奏から継いだ力をそんな風に使わないでくれ』

 

 その言葉と共に、響の動きが止まった。それを見届け彼女は女性を見る。口から垂れる一筋の血さえ拭おうとせず、突き立てた刀を手に足を前に出した。

 

『待たせたな』

 

 その姿は戦場に赴く直前の覚悟を決めた武士の如く、雄々しく凛々しい。その手に握る刀から揺らめく蒼の火が灯る。

 

『どこまでも剣と往くか』

 

『今日に折れて死んでも、明日に人として歌うために。……風鳴翼が歌うのは戦場ばかりでないと知れッ!』

 

『ヒトの世界に剣を受け入れる地など在りはしない!』

 

 互いの武器が交錯する。一瞬も止まることなく即座に刀を寝かせると、翼さんは女性の背後を取った。脚部から刃を出し蹴りを放つけれど、自在に動く鞭に遮られた。それにすぐ反応し手の中の刀を返して斬り飛ばす。

 それは大きな隙になった。

 女性のもう一方の手にある鞭が間髪入れずに下から襲いかかっていた。でも翼さんは上げたはずの刀をもう振り下ろし最下点で激突させた。当たると同時で翼さんが飛び上がる。

 

「上手い!」

 

 翼さんは自身に当たらない僅かなところまでを予測して、冷静に最小限の動きだけで鞭を捌き、そこで刀を上げるのを止めていたんだ。

 空中に身を躍らせ翼さんが刀を縦に振り上げる。この構えはさっき見たのと同じだ。

 

『蒼ノ一閃!』

 

『させるか!』

 

 速度が出ないうちに、しなる二本の鞭が刃にぶつかった。繰り返される激しい衝突に映像が荒く乱れる。さらに衝突に巻き込まれた砂埃が画面の上を舞い見辛くなる。

 

『目眩ましになるとでも……ッ!?』

 

 突如、煙に穴を開けて無数の青い線が降り注いだ。

 

『千ノ落涙か!』

 

 降ってきていたのは大量の蒼色の短刀だ。たぶん形が変わる刀の一部。最初の一振りを躱し、女性は振ってきた方向に向け盾を張った。軽々と弾かれたと思ったら、最後の最後に煙を真っ二つに裂いて巨大な剣が盾に突き立てられた。

 

『グッ……、初めから狙いはカ・ディンギルか!』

 

 翼さんは真っ赤に燃える二本の剣を手に、カ・ディンギル目指し飛んでいた。

 

『させるかァアアア!!』

 

 クリスの時と同じように、女性は焦りを見せ巨大な剣を横に鞭を大きく振りかぶり、無作為に飛ばした。普通だったら当たらなかったはずだ。でも翼さんは完全に背中を向け、真っ直ぐ上を目指していたせいで、一本の鞭が翼さんの脇を貫いた。

 吹き出す鮮血がモニター越しにも鮮明に映った。

 

『…………わ……は』

 

 火が散り、崩れ落ちていく姿を見ていることしか私たちにはできない。モニターを見ていた一人が口元を抑え、目を反らした。

 

――なに弱気なこと言ってんだ。

 

 マイク越しのようなそうでないような不思議な声が聞こえた気がする。

 

――翼。あたしとあんた、両翼揃ったツヴァイウィングなら何処までも遠くへ飛んでいける。そうだろう?

 

『どんなものでも、越えてみせる! ……立花ァァアアアッ!』

 

 幻聴が聞こえなくなった。その時、両手の剣に真っ青に燃え上がる荒々しい炎が覆った。落ちた分を取り戻すかのように、さっきまでとは比べものにならないくらいの推力を受けて駆け登っていく。後ろから迫る鞭を焼き尽くし、何人たりとも止めることの出来ない炎鳥が大空を羽撃いた。

 

『私の想いは……またしても…………』

 

 カ・ディンギルは強烈なエネルギーが中で暴走したことで爆発し消滅した。

 

「……天羽々斬…………反応途絶」

 

「身命を賭してカ・ディンギルを破壊したか、翼……」

 

 弦十郎さんは天井を見上げて呟いた。

 

「お前の歌、世界に届いたぞ……世界を守り切ったぞ……!」

 

 強く握りすぎたその拳からは大量の血がしたたり落ちていた。

 

「わかんないよ……。どうして、みんな戦うの!? 痛い思いして、怖い思いして、死ぬために戦ってるの!?」

 

「っ! そんなわけないでしょ! みんな痛い思いも怖い思いもしてる同じ人間だよ!  死ぬために戦ってるわけがないじゃない。……響たちはただ……ただ、誰にも同じ思いをしてほしくないだけ…………」

 

 事故に巻き込まれたことで沢山苦しんで、大切な人と生き別れ悲しんで、人との付き合い方がわからないと寂しげにもらす、私たちと同じで何も変わらない。ただ私たちよりも深い苦しみを知っているだけなんだ。

 でもそうだからこそ、響たちは戦っているんだ。

 

 画面の奥で制服姿に戻った響が倒れていた。その目の中に、いつでも明るい前を見る輝く煌めきはなかった。その瞳は諦めていた。

 このままじゃ響の心が……壊れてしまう…………。

 

「あっ! 格好いいおねぇちゃんだ!!」

 

「え?」

 

「こら! 勝手に入っちゃ!! ……あ」

 

 勝手に入ってきた女の子がそう叫んだ。その子のお母さんも一緒だ。

 

「響を……彼女を知ってるの?」

 

 モニターを見つめる女の子に問いかける。けれど女の子はモニターに見入り、代わりにお母さんが答えてくれた。

 

「少し前、うちの子はあの子に助けていただいたんです。ノイズ事件に巻き込まれて、はぐれてしまったこの子を、あの子は自分の危険を顧みずに助けてくれたんです。きっと、他にもそういう人たちが……」

 

「響の人助け……」

 

「ねぇ、格好いいおねぇちゃん、助けられないの?」

 

 私も助けたい。でも何が出来る?

 ……信じて待つのは今と同じ。それじゃダメ。ここで指をくわえて見てるより、動くべきだ。

 けど、私たちが外に行ってもあの女性には敵うわけがない。危険なだけだ。なら、私が響たちの為に出来ることは何がある?

 私ならわかるはず。響が今の校舎を見て思うことは……。

 

「……伝えれば良いんだ」

 

「「「「?」」」」

 

 私たちの死。

 

「風鳴さん! ここから響に私たちの声を、無事を知らせるにはどうすれば良いんですか?」

 

 響が戦うのは誰かを助けるためだ。誰かを傷つけるためなんかじゃない! そうだ……。今の響には戦う理由が、守るものがないんだ。だから抗おうとしない。戦おうとしない。

 

「校内のスピーカを使えばなんとか可能です……。しかしその動力は止まっていてどうにも……」

 

「私が行きます」

 

「何を言って! 「これは私のわがままです。だから、私が行きます」 ……だが」

 

「……私たちも行くわ」

 

 一緒にいた三人も立候補してくれた。それで風鳴さんが折れた。

 

「緒川、頼んだ」

 

「わかりました」

 

 緒川さんを先頭に私たちは動き出す。

 

 もう少し待ってて、響。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。