戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜 作:円小夜 歌多那
Side 響
「―Croizal ronzell gungnir zizzl―」
歌のようなものが聞こえたと思うとノイズたちが真っ二つに切り裂かれた。切り裂いたのはおそらく紅い髪の女の子、あの人は今歌っていた天羽奏さんだ。
着ていた衣装が変わっている。
フリフリの付いた服をきていたはずが、今は赤みがかったオレンジのスキンスーツを着ていて、足には鎧のような白い金属の足当て、靴は少し高めのヒールで、頭には角のみたいな尖りがあるヘアバンド、と変わった服装になっていた。
極めつけはその手にある大きな槍みたいなものだ。
まるで戦士みたいな恰好。
「あれ、何?」
「デェエイッ!」
数体のノイズを切り裂くと奏さんはノイズの群れに矛先を向ける。
ほ、本当に戦士でしたか……。
「いくぜェッ!」
― STARDUST ∞ FOTON ―
槍を空高く投げ上げた。
普通だったら奏さんの動きはありえない行動だ。でもありえない行動をしたのは投げられた槍の方であった。
「エエッ!?」
どういう原理か槍が二つ四つと分裂していくのだ。そして増えた槍は空高くからノイズに向かって降り注ぐ。その光景は本当に小さな星が降り注ぐようでに見えた。さらにノイズを消し去った槍は自ら奏さんの手元に戻っていく。
また何処かで新しく歌が聞こえた。あれは……翼さん?
歌の聞こえる別の方を見ると翼さんが碧い光を纏いノイズを圧倒していく姿だった。
「奏ッ! 一人で無茶しないで!」
「大丈夫だって、心配すんな。翼はそっちを頼んだぜ」
「そんな!」
離れた位置でありながら二人は話して戦っている。
…………この時、私は選択を間違えた。
私は戦う二人の歌姫に見惚れてしまったのだ。
歌って踊って皆を楽しくさせるライブも確かに良かったけれど、今私の目の前でノイズと舞うように戦い、踊るようにノイズの雨を躱す彼女たちの姿のほうが何倍も何十倍も可憐でかっこいいと感じてしまったからだ……。
奏さんが槍を振り抜きざまに私を見て、
「な、何やってんだ、お前!! 早く逃げろッ!!!」
驚きながらも私を怒鳴りった。
それが原因で奏さんの動きはほんの少しだけ止まってしまう。そのごく僅かな隙をノイズは見逃さなかった。
「奏、後ろッ!」
「しまッ!?」
翼さんの叫び声で近くまでノイズが迫っていることに気付き、慌てて奏さんは右手で持っていた槍を振う。
――ガキッ!
槍は鈍い音を立て一部が割れてしまった。
「チッ! 時限式はここまでかよッ!!!」
彼女がそうボヤくと、槍は一回りほど小さくなり、鮮やかだったはずのスキンスーツが、黒ずんでいくのが見て取れた。
「クッソッがァアアァッ!」
突如弱体化してしまった奏さんに、容赦なくノイズは襲い掛かり休む暇を与えない。今までは簡単に切り裂いて捌けていたはずの攻撃も小さくなってしまった槍では弾くことさえ容易ではなくなった。
今すぐ逃げないと、見惚れている場合なんかじゃ無い。
このままじゃ奏さんが……私は急いで出口に向かって走り出した。
「殺らせるか!」
後ろを軽く見るとノイズの一体が私に向かって飛び掛かってきていた。でも奏さんは私とノイズの間に割って入り弾いた。
私を庇うために槍を振るい、ノイズと衝突するたびに割れた槍は砕けてしまう。
「あっ!?」
瓦礫に躓いてしまった。
……拙い、このままじゃ!?
反射的に後ろを振り返る。そこで私が見たのは奏さんが私に飛び掛かってきた最後のノイズの突撃を受け止める姿と鮮やかな赤い飛沫だった。
「はぇ???」
「ッ!?」
体に何かがぶつかって背中から地面に落ちたはずなのに痛くないのは何でだろう? 何だか瞼が重たい気がするし……。そして胸の辺りから何かが抜けていくような感じもする。
ゆっくりと視線を落とし私の胸元を見ると、真っ赤に染まっていた。それに胸の真ん中あたりから大量の液体が止まることなく溢れている。
…………これって血、だよね?
「おい! しっかりしろ!」
奏さんが駆け寄ってきた。
…………私、死ぬんだ。
「死ぬなぁッ!!」
これが天罰なのかなぁ……逃げなかった……私の…………。
14歳で死んじゃうのかぁ~。もっと生きたかったなぁ。こんなことならもっとママやパパと一緒にお出かけしとけば良かったよ。それに未来と一緒にライブを見たかったな。次こそは一緒にって思ってたのに……皆、ごめんね。
私はゆっくりと瞼を…「生きるのを諦めるなッ!!!」…閉じなかった。
奏さんの言葉が胸に響いた。もう死ぬんだ、と死を受け入れようとしていた私をその言葉が引き留めた。
まだ死にたくない! 醜いって思われてもまだ生きていたい! 家族とだって会いたいし、未来とだってもっと沢山一緒にいたいもん!!
生きたい、けれど瞼が凄く重たい。このまま目を閉じてしまったら死んでしまいそうなのはわかっているのに目を開け続けることが出来そうになかった。
「……いつかココロとカラダ、全部空っぽにして思いっ切り歌いたかったんだよな。今はこんなに沢山の連中が聞いてくれるんだ。だからあたしも出し惜しみ無しで行く」
薄らと意識の中、奏さんの声を聴いた。
「取って置きのをくれてやる。絶唱を!!」
彼女はノイズの方に向き直り一歩踏み出した。
「-Gatrandis babel ziggurat edenal-」
大声というわけでもないのに美しく澄んだ声が壊れた会場内で木霊した。
「-Emustolronzen fine el barual zizzl-」
「-Gatrandis babel ziggurat edenal-」
「いけない! 奏ェ! 歌ってはダメェエエェェッ!!」
…………歌が、聞こえる?
『そうさ、命を燃やす最後の……!』
…………???
奏さんが歌い終わる前に一体のノイズが再び私に向かって飛んできた。
(しまった! 間に合わないッ)
…………これで終わりなんだ……ごめん、未来。
『勝手に! ……終わらせてんじゃ! ねぇェッ!!!」
誰かの声がすぐ傍で聞こえた。
「生きるのを諦めるなッ!」
天羽奏の声が聞こえた。
もうここまで迫ってきてるのか。
必ず運命を変える!
『…………歌が、聞こえる?』
『そうさ、命を燃やす最後の……!』
ノイズの一体が動くのが見えた。
『エネルギーを右手に圧縮。左手の治療の優先度を最低に』
『了解。 Mode change. Mode fighter』
散らばっていた聖遺物の破片を掬い中指の背に当てる。
『コネクト!』
『聖遺物“ガングニール”との接続確認。バイパス接続完了』
『これで終わりなんだ……ごめん、未来』
『勝手に……終わらせてんじゃ! ねぇェッ!!!」
瞬時に響の前に飛び出て構えを取る。先のとはまた違う動きの少ない最低限の構え。それでも篭った力は先のよりも上回る一撃。
拳を中心に集まったエネルギーが形を持ち始め蒼く狼のように見えた。だがそれだけではない。放出されるエネルギーは破片を通すことでさらに変換される。
「ノイズを喰らえ!――牙狼撃ッ!!」
――ミシッ……
撃ち出された狼は牙を立てノイズに喰らい付く。右腕からは骨が軋む音が聞こえるが引く訳にはいかない。
「だぁァァラァアアアッ!!」
腕の中から形容しがたい歪な音が鳴った。
どうやら肩の辺りから骨が砕けたようで腕がぶら下がった紐のように揺れている。
意識が吹っ飛びそうになるのを堪え無理矢理叫んだ。
「いっけぇッ!!!」
『誰か知んねぇけど、助かったぜ』
「-Emustolron zen fine el zizzl-」
……そして奏は絶唱を歌い切った。
奏の体が命の全てを焼き尽くすかのように、白い炎が激しく燃え、鎧が弾け飛ぶ。
命を燃やし絶える唱、それが彼女たちの……絶唱である。
そんなもの俺は認めない。子供が死なねばならぬ道などあってはいけない。後ろで倒れている響もそうだ。全てを掛けてでも全てを救ってみせる。
『絶対に二人を死なせるなよ! ガングニール! 奏とのシンクロ率を限界まで引き上げろ!』
『それをすればマスターに全ての負担が……』
『それがどうした! 全部の負荷は俺が引き受ける。これでも元は神の武器。こんなことで折れやしない。だからお前は黙って従え!!!』
『もう、横暴ですね、まったく。貴方が死ねば私は消えるってことを忘れないで下さいよ』
わかっているさ。体が限界なのにも気付いている。でももう一言叫ばせてくれ。
「天羽奏、お前も生きるのを、 諦らめんじゃねぇッ!!!」
その叫びを最後に、光が会場を白く染め上げた。
ゆったりし過ぎだと思ったので、今週は二話。
戦闘回ですが、上手く書けないな……。