戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第三十九話

 光明が消え見えた場所に彼らの姿はなかった。代わりにあるのは、三種の武具。ただそこにあるだけで、強い存在感を放つそれらは私を初めとする全員を驚愕させるのに十分過ぎるもので、了子さんも怪物の胸を開き直にそれを見た。

 

(そ、そんなバカな……何故……何故、それがここに…………。どういうことだ!!)

 

 私の前に投槍が深く彫られたルーンを煌めかせながら宙に浮き、翼さんの前で絶剣がその美しく栄える刀身で暮れゆく月光を映し顕現する。そしてクリスちゃんの前に魔弓が薄く垂れる一房の暁の日差しを受け、燃え上がる炎のように紅蓮に輝きなびいていた。

 

「響、翼、クリス」

 

 武具は再び光に崩れて人の形を取る。頭蓋の面や道化の化粧をしていない素顔を見せてくれた。

 

「え……?」

 

 彼らは瓜二つどころではなく全く同じ顔をしていた。私と了子さんは驚いて呆然としていた。けれど翼さんとクリスちゃんは目を鋭くさせて見るだけで、仰天まではしていない。

 

「踊く……ん? これはいったい……どういうこと?」

 

 皆踊君の姿をしているからどれが踊君かわからない……。とりあえず槍になっていた人に聞いてみる。その人の雷色の瞳が私の姿を納める様を見て気付く。この人が踊君だ。

 

「黙っていて悪かったな。俺たちは別々の存在じゃないんだ。本当はこの三種の神具で一つの存在、それをある目的の為に各武具ずつで分裂させたのがディバンスであり、サージェなんだ」

 

「…………」

 

「フィーネ。昔の貴女にならわかったはずです。俺の姓、ディバンスの名、サージェという言の意味。そこから導くことは出来たのですよ。世界を知りたい、あの方と長くいたいと思っていた貴女なら」

 

(……ッ!? 黙れッ!!)

 

「気付いたようですね。聖、Divine、Sage……皆、聖なるものの意。あの方に繋がる言の意なことに」

 

 ディバンス、ずっと略してデス、死神だと思ってた。でも元々略されてたんだ……。ディバイン・デスなんだ……。

 

「黙れと、言っている!!」

 

「黙るわけにはいかない」

 

 了子さんは手にした両刃の剣を振り指示を出す。そして胸が閉じられ、怪物の巨大なエラのような羽から100を越える褐色ビームが撃ち出された。それに同じ鎌を携えて踊君達は立ち向かう。

 

「でもその前に……。/*;@.%#……いや今はフィーネ、貴女の知らないことを教えなければなりません」

 

 聞き取れない不思議な発音で怪物の中の了子さんに話しかける。けれど彼女は聞こえていないのかその段幕に止む気配は一切ない。

 

「グゥ……」

 

「ガッ……!」

 

 打ち払う三つの鎌に傷はない。けれど捌き損ね躱せなかったものが何度も三人に傷を与えていく。

 

「ッ……、私たちが生まれた理由を……!」

 

「踊君ッ!?」

 

 ディバンスとサージェを狙っていたものも含めて、飛び交う全てのビームが一斉に向きを変えた。空中を踊るように乱舞し、鎌を盾に言葉を紡ごうとしている踊君に押し寄せる。……了子さんが踊君の言葉を拒んだんだ。

 いつの間にか踊君は一人称を私に変える。他人に礼儀を払う姿は初めて見た。師匠に払っていたのはあくまで敬意。いつもから遠く離れた態度でも、礼儀を払う姿は他よりも踊君の容姿に相応しく美しい。

 

(黙れ、黙れ、黙れ、黙レ、ダマレ、ダマレ!!)

 

「ハァァッアアアアッ!」

 

 小爆破を起こし踊君は切り抜ける。

 

『……きさ。……ひび……ん!』

 

「! イアちゃん!」

 

『聞こ……か? ……を……て!』

 

 念話とは違う通信系の声が耳に伝わった。必死に呼びかけてくるその声を聞くために。

 

『フィー……んを、了子さんをた……てくだ……! このままじゃ、あの方…………!』

 

肝心なところが聞こえない!苛立つ心を落ち着け呼びかける。

 

「聞こえないよ! 了子さんがどうしたの?!」

 

『……踊さんの……ちを、彼の……いを、ひび……の歌で……』

 

 私の声もイアちゃんには聞こえてない。イアちゃんはノイズが混ざり不安定な通信の中でも懸命に私の元に伝えてくれた。

 

『つな……めのその手で、みんなに伝えて……奇跡を紡いだ……ちなら、彼らが……だ貴女たち……必ずできる』

 

「……えっ?」

 

『最速で、最短で、まっすぐに、一直線に、胸の思いを伝えてください』

 

一筋の光線が踊君を貫いた。通信が途絶え声が断たれる。

 

「踊君っ!!」

 

(こ、こからは……貴女たちの戦い、です。もうベイバロンの……動きは見切れたで……しょう?)

 

「お前、あたしらのために!?」

 

(我等では救えなかった……。黙示録に記されし紅き龍を、堕ちた緋色の少女を……頼む)

 

「ディバンス……。お前の勇姿、この胸に確と刻み込もう。そしてお前の意志、この防人が受け継いでみせよう、この剣に懸けて」

 

 空で攻略の糸口を模索していた二人。手足をあらぬ方向に曲げてでも飛び続けた彼らが落ちていく。

 

(これが……俺たちの最後の餞別だ)

 

 粒子になって散る。一刻のために生き、生命の灯火を燃やす蛍のよう。三色の光が視界いっぱいに広がって、私たちの中に溶け込んだ。

 

(……!? 完全聖遺物を取り込んだ……!?)

 

「踊君……。うん、わかった。了子さんは私たちが止めてみせる」

 

【Lost…… 】

 

「わっ!?」

 

 いきなり目の前に文字が現れた。目の前というか目の中?瞼を閉じても映る。

 

【Reload, --GUNGNIR--】

 

【Connecting……】

 

【Welcome, --HIBIKI TACHIBANA--】

 

【--Start Fitting--】

 

 次から次へ文字が現れたり消えたりを繰り返す。そして全てのアイコンが消え、最後の文章が視界の中央に表示された。

 

【Access】

 

 造形に変わりがなくても、漲っていた皆の力が純化していく。

 

「やるぞ。雪音」

 

「あぁっ! 次で絶対に仕留めてやるぜ!」

 

(ちィイッ! だが、所詮は低位の聖遺物であることに変わりはしない。この不滅の刃と無限の心臓、双対の力の前には無駄!)

 

 ベイバロンと呼ばれた怪物から大量の触手が生えた。ツバサをはためかせ動き出す。速さは同等、でも小回りなら私たちの方が上。ガングニールから知らされる触手の位置を確認して、点と点を結ぶように空を直線に駆けて引っかき回す。その時、翼さんとすれ違った触手は否応なしに刹那の内で斬り捨てらた。

 見れば翼さんの足下に足場が出来ていた。羽撃つツバサは飛ぶためではなく重力に逆らうためだ。足を置いた位置で的確に現れるその足場は、翼さんのためだけに用意された無限に拡がる広大な舞台場。力で断っていた翼さんに本来の技で絶つスタイルを可能にさせていた。

 

(こざかしいマネを!)

 

 遂に来た。了子さんの意識が翼さんに向けられた。この待ちに待った指示のない一瞬の自動追尾に、急停止を加えて自分から真っ直ぐ、蠢く触手の中に突っ込んだ。前を塞ぐ全部を貫いて、外へ抜け出る。

 振り返ったそこにはぐちゃぐちゃに絡まって身動きの取れない触手が藻掻いていた。

 

「いっけぇええええ!!」

 

 数十本をまとめてぶん殴って消し飛ばす。後は、生えてくる直前のヤツだ。

 

「どりゃぁぁああああっ!!」

 

(虫螻共がッ!!)

 

 了子さんが操る触手は私と翼さんを執拗に狙う。不意で怪物の傍を離れた。

 

(おいおい。そんなにそいつらに構っちまっても良いのかよ! 上がガラ空きだぜッ)

 

(…………)

 

「ダメッ!? クリスちゃん! 逃げて!!」

 

 怪物の頭からまで触手が生えた。踊君たちが稼いでくれた時間で話し合った策は破られてしまった。身体だけじゃなくて頭からまで飛び出すなんて思ってもみなかった。もう既にクリスちゃんの機体は全てのユニットを解き放ち準備は万端で直撃するしか……。

 

(ニィッ、なぁんてな。……やっちまえ)

 

 急に機体が小さく格納され自由落下を始めた。

 

(なっ!?)

 

「うぇぇええ!?」

 

 驚愕の行動に唖然と言うか呆気に取られた。腹の底にまで響いてくる深く大きな音が聞こえたのは、その直後、怪物の手前だった。

 

「……油断したな。本命はこちらだ」

-- 蒼ノ一閃 滅破 --

 

 巨大な剣を振り下ろしていた。胸には大穴が開けられて中の了子さんの姿がはっきり見える。

 

(邪魔をッ! だが所詮は無駄な……!?)

 

 でもネフシュタンの鎧の恩恵を受ける怪物の前ではやはり無意味で、すでに修復が開始されていく。

 

「だーかーらー、油断しすぎだってぇーの!」

 

 紅い流星が穴に吸い込まれるようにして穴を通っていった。

 

「全部受け取りやがれぇッ!」

 

 中から起きる大爆発が、開閉する胸を細切れに千切るのはわかった。くねりと曲がるレーザーに死角がなくて何も見えない。でも二人はすぐさま次の一手に動き出していて、了子さんの思考を塞いでいた。

 レーザーが止み煙も晴れた時、開いた穴から翼さんも進入していた。しかも構えは整っている。

 

「ハァァアアアアッ!!!」

 

「ッ!?」

 

 了子さんの人外盾と剣の衝突の最中、遠くから離れて見ていた私は煙から何かが飛び出してくるのが見えた。

 

「そいつが切り札だッ! 正気を零すな、掴み取れ!!」

 

「えっ?」

 

 黒い煙から顔を覗かせ翼さんが叫ぶ。金色のそれは弧を描いて下に落ちていって全く届いてないんですけど!? しかも遠い!

 

「ちょっせえッ!!」

 

 数発の発砲音が音を奏でる。クリスちゃんだ! 落ちていくそれを弾いて距離を稼いでくれた。

 

「受け取りやがれぇええッ!!」

 

(させてなるものかッ!)

 

 怪物の触手が高速でそれを追いかれ始めた。どちらが先に取るか、たぶんここが勝負の分け目になる。負けられない!

 

(デュランダルは渡さん!!)

 

「渡すかぁぁぁぁああああああああッ!!!!!」

 

 金色の剣……デュランダルに、先に触れたのは……。

 

「コイツはあんたのもんじゃねぇぜ。了子さん」

 

 見たことのない鎧を纏う女性だった。

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