戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第四十三話

 ――英雄王、ここに再び……。

 

<――ERROR――>

 

 それは龍が地に堕ちようとしていた時だった。

 

(グッ……バイパスがイカれたか……。イチイバル、アメノハバキリ、共にエンプティー……)

 

 始まる以前から彼は傷を負い過ぎていた。前々から用意していた二つのケーブルが根元から切断され、不滅と無限の力の補給は既にない。唯一稼動しているのは踊の核であるガングニールのただ一つだけしかなかった。

 しかしその残量もわずかばかりだ。

 

(あと少しなんだ……。もう少しでいい。持ってくれ……。……守らなゃ、ならないんだ!)

 

 "魂を燃やす"、それが羽ばたいた彼の選んだ道だった。けれど魂の蝋燭には霞んだ陽炎で揺れるだけで灯火さえも灯れはしないかった。

 

「…………ッ!?!?」

 

 突如地上から伸びた光の柱が彼を包み内側から熱を与えた。熱く激しい熱情に思い合う友情、そして優しい愛情が彼の霞みに火を付けた。

 

『生きるの……諦めないで!』

 

 それは響の心だった。

 響の生命力が龍と化した踊の中へ次々と流れ込み、彼を振るわせる。

 

『ッ! 止めろッ!? 響ッ!!』

 

 それは歓喜ではなく焦燥……。聖踊という英雄の王と呼ばれた男の始まりに、その様は何処か似ていた。

 そして彼は気づいてしまった。響の命が消えてしまうかもしれないということに……。

 

『大丈夫……。誰も終わらせない。終わらせたままにしない。……私の歌は始めるためだから。私だって生きるのを諦めたりしない。ちゃんと踊君が生きて帰ってくるって信じてる。そして踊君の帰って来る場所を守りきってみせる。だから、私は死なないよ。だから……踊君も生きるのを諦めないで。私の全ては貴方の全て……』

 

『ッ!!』

 

 響から伝えられる力を踊は拒絶しようとした。けれど響の決意は堅かった。送り出す煌めきを激化させ太く濃く強くした。響の声が光と共に枯れた心に染みこんで、響から伸びた天の架け橋が太古に置き忘れた彼の礎を世界に呼び起こした。

 

 ――彼は今まで一度だって本当の勝者になれたことはなかった。守るために身につけたはずの彼の力はいつも誰かを傷付けた。他ならぬ自分の力が誰かを苦しめていた。人々の言う主人公というものに彼はなることはできなかった。支えもなく彼は一人涙を零して過ごしていた。だから彼は選んだのだ。

 ……自らが英雄と呼ばれることを。

 自身の力が誰かを傷付ける前に、自らに傷を付ける。誰かの痛みが自身の傷だと言い聞かせ、そうやって彼は自己犠牲にて守りたいものを守った。そしていつしか守るべきものに変わっていた。

 それはこの世界に来てからも同じだった。

 子供を救うと誓い自らの拳を砕いて進む。涙を流すもののために笑みを浮かべて自身を犠牲に差し出して……。赤き龍が世界に破滅をもたらす前に、自身の存在に破滅を与える。彼は一度も重要な戦闘で勝利を収めたことはなかった。重要な闘いになれば成る程、彼が立つ戦場には誰かの流す血があった。

 天羽奏、風鳴翼、雪音クリス、立花響……時に誰かが傷つき、時に誰かが涙を落とした。

 

 彼は落ちていく中、過去を顧みた。そして気付いた。たった一度だけ本当の勝者になれていたことを。それは……、

 

(響と共にいたこの瞬間……?)

 

 赤き龍ベイバロン……、町には甚大な被害をもたらしたが、踊が立った戦場で初めて誰も不幸に陥っていなかった。家は無くしても皆生きていて、確かに明日を見ていた。理由……、それはひたすら皆を信じる(バカ)がいたからだ。ずっと続けてきた響のお節介はそれを受けた人たちに助け合う心を育んだ。だから彼らは一人じゃないと知ることができた。

 もし響がいなければ、踊には町ごと葬る方法(ビッグバン)しか選択肢は残されていなかったはずだ。

 

(……俺の運命を響が変えたのか?)

 

 世界を左右する闘いで踊は必ず負ける。それが彼の生まれながらにして背負った不条理だった。だから彼はこっちに来てから戦闘を避けていた。

 ディバンスとして翼と相打った時は僅か数回の斬り合いのみで引き、自身の映し鏡である踊と打ち合った。サージェとして戦う時は必ず相手から距離を取りクリスの援護に回るように動き、唯一まともに戦ったのは同じく踊だけだ。

 踊としてもそれは同じ。翼と稽古で戦う事はあっても真剣を交えたことは一度もなく、クリスとの戦闘でも捨て身で二人の戦闘に割って入ったがすぐに自爆して強制的に戦闘を終わらせ勝敗は有耶無耶にした。

 そんな踊を響は変えていた。

 

『……すまん』

 

『えヘヘっ。でも、こういうときは……さ?』

 

『呵々、そうだな。……信じてくれてありがとう』

 

『どういたしまして』

 

 踊は響の想いを受け入れた。光が彼の中のガングニールに全部注がれていく。自然に龍の形が崩壊し、本来の踊の姿に戻る。

 くるくる漂う体を動かして、地球を背に巨大なノイズと向き合った。

 

(生きるのを諦めるな、か。……言ってくれる。ああ、わかったよ。足掻けるとこまでとことん足掻いてやろうじゃねえか)

 

 右腕を横に突き出す。

 彼方から歌が届いた。それは踊さえ知らない歌、……まだこの時歌われるはずのない歌だった。幾億の歴史を越えたその問いかけに踊は行動で応える。

 地上から伸びた光は腕を囲う純白の輪になり、その間でバチバチと弾け焔を凌駕する程の高熱のプラズマが迸った。

 

「―『―ぶっ飛ばせ、My Gungnir!―』―」

 

 その輪は真空の中、高速で回転していた。そして宇宙を漂う見えない煌めきをさらに引き寄せ収束させた。大気が流れるように渦を巻いて掻き込まれた煌めきは、歌が進むに連れて目に見えるほど膨れあがり、次第に踊の全長を越えて、太さも手首のみに納まりきらなくなり前腕を越える。

 

(最速で最短で一直線に……)

 

 踊は閉じていた手を一度広げて余計な力だけを抜いた。指先一本一本に神経を傾けて、徐に固く、硬く、そして堅く拳を握る。そうして、回り続ける輪が起こす雷と、感電して腕に起きた超振動を全て身体の中に蓄え、微塵たりとも逃がさずに耐え続けた。

 

『踊ももう一人じゃない! 私が、私たちが傍にいる!! だからっ!!』

 

 いつの間にか地上から駆け登る柱が虹色にきらきらと輝いていて、それを取り込む光の輪も併せて虹色に変化した。そして全ての光が注ぎ込まれた踊の背後を日輪が照らす。

 

『あぁ……必ずだッ!』

 

 踊は輪が覆う右腕を肩から前に突き出してノイズに向け、何も纏わぬ左手を自身の右肩に当てる。……次の瞬間、踊は渦巻く虹の輪を左手の側面で抑えそこから強引に腕を引き抜いた。

 股を大きく開き足を後ろに関節が痛んでも引き下げる。さらに腰は捻られ、骨格は軋み、リミットを越えてでも振り絞り続けた肩が悲鳴を上げた。虹の輪を塞き止める左手が激痛を訴え、手と輪の間を廻っていた静電気が引っ張られて逆さ円錐を描いた。

 

『だから勝って! 踊ぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおっ!!!』

 

『必ず……勝つッ!!!!!』

 

 全ての現象を糧に踊は今まで蓄え堪えた力を解き放つ。

 蓄えた雷が静電気に引かれその拳は一時的に光と併走した。加え解放された振動が出鱈目な速さの振動のトリガーになり次元の壁までもを振るわせるほどになった。

 一瞬にして踊の拳はノイズの胸に突き刺さっていた。さらにその振動が内側からノイズにダメージを負わせる。だがそれでもノイズは崩壊には至らない。

 なのに踊は笑った。

 

(また会うその日まで、笑顔の『サヨナラ』だ)

 

 彼の背を追うように突如現れた虹の竜巻が踊ごとノイズを呑み込んだ。ノイズを瞬く間に切り刻み、それは外部からダメージを浸透させる。幾十秒もの間消える事なく在り続けた渦は、地球目前まで迫っていたノイズを跡形も残さず消し去った。

 

(絶対に……、絶対……に…………)

 

 …………その現象を生み出した英雄王諸共、昼夜の狭間に大輪の花を咲かせて……。

 

 

 

「……特異型ノイズの消滅を確認」

 

『ガングニール・天羽々斬・イチイバル・ネフシュタンの鎧・デュランダル……反応ロスト、確認……しました…………』

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