戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第四十四話

 あの日からまだたったの二週間、既に町は元の風景をほとんど取り戻していた。

 跡形もなく消し飛んだビル群なんかも恐ろしい早さで工事は進んで、被害にあった町は活気に満ちていた。

 

「響……」

 

「ごめんね。待った?」

 

「ううん。私もついさっき着いたところだよ」

 

 私はある場所の傍に来ていた。そこには未来が待っていて、遅れてきた私に声をかけてくれた。他愛もない話をしてるとすぐに私たちが乗るバスが来た。

 

「じゃあ行こっか?」

 

「……うん」

 

 バスに揺られながら、外を見る。空は晴れて、顔を出したお日様が町を明々と照らしていた。けれど静かに進むバスは目映い光を遮って私を光から隠してくれる。

 

「わぁ~! 町もすっかり元通りになってきたよね~。あと半月もすれば直っちゃうかな?」

 

「う~ん……。確かにそれぐらいあれば十分かも。まだ二週間しかたってないのが信じられないよ」

 

「うんうん。私も信じられない。ついこの間合ったような感じとずっと昔のような感じがあって違和感がぬぐえないよ」

 

「ふふふ、それは違和感があって当たり前じゃない。何でどっちもあるのよ」

 

「あ、やっと笑ってくれた。未来ったら暗い顔しすぎ」

 

 ふざけたつもりはないんだけど、未来が笑ってくれたのでよしとしよう。暗い顔なんかしてたらダメだもんね。

 

「暗くならない響が可笑しいのよ……」

 

「元気だけが私の取り柄ですから!」

 

「威張る事じゃない」

 

 ずっと落ち込んだままだったら、なんか踊君にボコボコにされ……はしないだろうけど、こめかみをグリグリされるか追加課題とか理由付けて嫌がらせされちゃいそうだもん。それに踊君は誰かの悲しむ顔が嫌いだし。だから私はグッと親指を立てて笑ったんだけど、半開きの視線が前に恐れをなした私の言葉がブーメランのように帰ってきた。そのままズブリと胸に突き刺さってズキズキ痛い……。

 

「うぐっ! ま、まぁ、それに、あの人を信じてここを守り続けるって誓ったから。な、怠けてなんかいられないよ。ノイズだって出現率は減ったけど完全にいなくなったわけでもないしね!」

 

 そう、ノイズは未だに出現を繰り返している。とは言っても、この前までみたいにわらわら~っと湯水のように湧き出てくるなんてことはなくて数十匹が迷い込んでくる程度。それに被害もほとんどなくて死者も皆無だ。それもひとえにあの人が主立って開発をしてくれたおかげだ。了子さんがその後を率いで、ノイズ出現の前兆を9割くらいの確立で捉え少なくとも出現と同時に警報が鳴らせるレベルにまで二課の技術を進歩させた。

 

『ずっと水面下で行動してましたからね』

 

「ぬぇっ!?」

 

「響、うるさい。おはよう、イアちゃん」

 

『おはようございます。未来さん』

 

 突然の声、いくら馴染んでもこれにはいつまで経っても慣れないのだから仕方がない。わかってはいるんだけど身体がびくってなる。鏡越しに運転手さんと目が合ってしまった。

 

「あ、そういえば踊君ってずっと出掛けたけど、その間何をしてたのかイアちゃん知ってる?」

 

『ある程度は聞いてます。そうですね……、遺跡巡り、が適した言葉ですかね? 日本国内の各地に散らして封じた聖遺物から破片を回収してくると言ってました』

 

「二課のオペレーターさんが対ノイズ用の聖遺物で出来た弾丸を踊君が送ってくれたって言ってたよ」

 

『そうです。そうです。そのためです。一往、聖遺物の遺跡は踊さんが立てたらしいので、大体の場所は記録しているんだとか」

 

 聞けば聞くほど踊君には驚かされる。……これはむしろ呆れ? この町がほんの二週間で姿を取り戻したのも踊君の御陰だった。というのも町の立て直しの費用を踊君が全部引き受けたのだ。正確に言うと踊君から後を任されたイアちゃんがしたんだけど大本は踊君だから間違ってないはず。それでイアちゃんに踊君の財産を聞いてみたらそりゃもう吃驚した。

 だって踊君の財産が八千兆円は少なくともあるそうだもん。大体世界の保有する4割くらいが踊君の財産らしくて、イアちゃん曰く、しようとすれば世界経済を破綻する事が出来るとかどうとか……。でも踊君はしないかな? 忘れていたくらいみたいだし。

 

『私はしましたよ~。いや~、あの焦った顔は見ていて楽しかったです!』

 

「「悪魔!?」」

 

 何、この子恐ろし!? 笑顔で言い切っちゃった!? それからも踊君の話は続いて気付くと結構な時間が経っていた。

 

『次は~……』

 

「着いたみたいだね」

 

 バス停を降りてすぐのところ、そこが今日の目的地。似たような形をした石が並ぶ道を進む。私たち以外に誰もいなくてとてもここは静かだった。……自然と私たちの足取りは重くなっていた。ダメだってわかっていても、やっぱりこれを前にすると心が重たくなってしまう。

 目の前には一つの石が立てられていた。

 

「ずっとこれなくて……ごめんね、踊君」

 

 何も刻まれていない小さな墓石に、私はそう声をかけていた。ここに来たら言おうと思っていた言葉は他にあったはずなのに気付けばそう呟いていて、頬を汗のような水が流れていた。

 

「あれ? 何でだろ……。前がちゃんと見えないや……」

 

「響……」

 

 あの日宙に咲いた一輪の大花は花開くための対価を強いた。それを支払ったのが踊君だった。この墓の下に踊君はいない。もうこの世の何処にも彼はいない……。

 泣かないと決めていたのに、私は泣いていた。どんなに止めようと思っても溢れ出る涙は止まらなかった。未来も私に寄りかかって一緒に泣いて、イアちゃんも静かに嗚咽を漏らして……涙が涸れるのをただ待った。

 

「逢いたいよ……もう逢えないなんて……嫌だよ……ッ! 私、まだ踊君に何のお返しも出来てないんだよ? 初めて会った時からずっと……踊君に助けられてきたのにッ! 死んじゃったら、何も出来ないよ……」

 

「私だってそうだよ……。元を辿れば、響を危険にさらせたのは私のせい。もし踊さんがいなかったら、今頃響は……」

 

 踊君とあってから、たくさんの事があった。初めてノイズに襲われた日、それからの中学校時代、初めてノイズと戦った日、翼さんと言葉を交わしクリスちゃんと戦った日々、そして了子さんやフィーネさんとの対話……。私がこうして乗り越えられたのは、みんな踊君が支えてくれていたからだった。未来がいるからが大きな理由だけれど、それだって私と未来の間を取り持ってくれた踊君がいたからなんだ。

 踊君はずっと私たちを支えてくれていたんだ。やっとそれに気付けたのにもう手遅れだなんて……こんなのって……ないよ。

 

――キャァァアァアァアアア!?

 

「な、なにっ!?」

 

 反射的に私は飛び出していた。声の主は墓地から出てすぐの所で見付けることができて、その後ろにいるヤツも視界に入った。

 

『大型ノイズ!? そんな踊さんが組んだ探査網を抜けたの!?』

 

――ピリリリッ

 

「もしもし! 師匠?!」

 

『ノイズの出現パターンを検知した! 至急向かっ「もう目の前ですッ!!」なんだと!? どうなっている!!』

 

「ーーッ!? ……あ」

 

 師匠からの電話だった。でも既に目の前にいるので、そう伝えると師匠は声を荒げオペレーターの人たちに怒鳴り散らした。……あまりのうるささに思わず携帯を切っちゃった。すぐに二課にかけ直す。

 

――――…………

 

 何? 今の……。

 

『識別不明の高反応の発生を検知! 原因が恐らくこれです!!』

 

 一瞬、頭に響いた変な音。それがなんなのか考える前に、回線は繋がりオペレーターさんの声が聞こえてきた。

 

『響君、すぐに対処に当たってくれ。原因を突き止め次第、すぐに連絡する!」

 

「はいッ!!」

 

――――!

 

 歌おうとした時、また頭に音が響いた。さっきよりもそれははっきり聞こえて、風を切るような甲高い音がする。それは決して目の前の大きな猪っぽい何かが鳴らす音じゃなくて、金属の擦れる音に似ている気がする。

 歌うことすら忘れて、その音に耳をそばだてた。何故だかその音は心地よくてずっと聞いていたいと思ってしまっていた。そしてわかった。何でこんなにも心が和らぐのかを。

 

『ちょぉっと、退いて! まさかこの反応は……ビンゴ! やっぱりアウフヴァッヘン波形! それにこの波形は……! 響ちゃん空を見なさい!』

 

『何を言っている! そんなことよりもちゃんと目の前を見ろ! すぐに離れるんだ!」

 

「大丈夫です」

 

 了子さんの声に、師匠の怒鳴りに、たった一言まとめてそう応えた。言われる前から既に私は空を見上げていた。勿論目の前のノイズの事を忘れたわけでもないけれど、私は気にも止めず見上げて笑っていた。

 

「だって……」

 

 私に触れる直前で、ノイズの真上に何かが落ちてきた。巻き起こった突風が粉塵を巻き上げ視界を覆い、そして流れる風で煙は晴れる。

 

「聞こえたもん……!」

 

 そこにはもうノイズの姿は一欠片も残ってはいない。その中心に存在していたのは、

 

「……お帰り、踊君!!」

 

 たった一振りの槍だけだった。




 これにて聖踊の物語は一件落着です。
 ただし、これは彼の序章にすぎません。
 彼の歩んだ道はまだまだ続きます。
 しかしそれはまた後々で……。

………………
…………
……

 さて今までお読み頂きありがとうございました。
 語り部の歌多那でございます。
 とりあえず『戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜』は今回で(本編・一期の)最終話になります。
 この続きは早くて二月以降、遅くて四月の頭には始める予定です。
 けれどここで一つのアンケートをとらせていただきたいのです。
 
 ――――アンケート内容――――
  A)聖踊の続きのお話
  (IS×響編)

  B)また違うとある人のお話
  (リリなの無印編)

  C)同時進行
(ペースは交互?)

 ―――――――――――――――

 どちらも必ず語らねばなりませんが、その順番を皆様にお決めいただきたいのです。
 活動報告『これから語るお話アンケート』にコメントお願いいたします。期限は1月31日まで皆様の意見をお待ちしていますです。
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