戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜 作:円小夜 歌多那
「いきなり何をする!?」
「俺は宣言した事をしたまでです」
ふぅ。今度あったら絶対殴ると誓ってからざっと数えて1億年、やっと達成すことができた。つっかえが取れたようでとてもスッキリした気分だ。
「え、えっと~、その人(?)は誰? 」
「見た目はおっさんぽい神、中身は神っぽいおっさん」
「逆だ」
「おっさんは否定しないのですかい?」
「しまった!?」
何でここに? と考えようかと思ったが、ここに来たのが偶然なんてことはないか。何か目的があって神様、もといおっさんは俺達を呼び出したのだろう。
「何処の神様なんです?」
「む? 北欧神話の神だ」
「それじゃあ、ガングニールと同じ神話なんですね」
「そうだの。ガングニールも北欧神話の投槍、何度か闘ったりもしたぞ」
ちょっと目を離した隙に響とおっさんが意気投合していた。相手は仮にも神なんだぞ。もっと何かこう、例えば畏れとか敬う気持ちとかそういうのはないのか?
「それはクソジジイ呼ばわりして、上辺だけの丁寧語を使い、あまつさえ立った今儂を殴ったような奴が言っていいセリフじゃない」
ごもっとも。
「と、そんなことより俺たちをここに呼んだのには何か訳があるのですよね?」
「そうだった。ちょいと面倒な事が起きたんで、君達に協力して欲しいのだ。頼まれてくれないか?」
「来てしまったのですから俺は協力しますが響はどうする?」
「勿論私もやる! 困ってる人を見捨てる事なんか出来ないもん」
手を挙げて宣誓する様に軽く呆れる。あれでも神だからな? 困ってる神だから。……困ってる神ってのも嫌だな。
「すまんが、お前達には別の世界へ転生してもらいたい。そしてある悪神が転生させた者どもをどうにかして欲しい。場所はインフィニット・ストラトス――通称ISと呼ばれている小説の世界だ」
「テンセイ?」
「うむ、そうだ。お前達には一度魂に還ってもらい向こうで甦って欲しいというのだ。踊はすでに体験している。君の世界に行く時にな」
思わず顔に手を当ててしまった。神が面倒というだけ合って、当然厄介なことだろうとは思ってはいたが、まさかの転生か……。そして思っていた厄介とは別の厄介まで運んでくんなよ。
響が小首を傾げて俺を見ていた。
「……そなの?」
「何だと? この少女にはまだお前のことを話していなかったのか?」
「むしろ聞かせくれませんかね。いったい響達にどう説明すれば良いと言うのですか?」
俺は元人間で神様に転生させてもらって聖遺物になりましたー、何て言ったら絶対変な目で見られる。メモリにバグでも発生しているかもしれないわ、とか言って十中八九櫻井女史に解体される。
「知らんがな」
「おい」
この神は何ともまあ言いにくい事を事もなさげに言ってくれたな。……響も似たようなことしていたな、ついさっき。
さて、どう説明しよう。もう隠すわけにもいかないが、難しい話をしたところで響の残念な頭で理解させるのも酷というものだ。できる限り簡潔になるよう努めるのが吉か?
「ほへぇ~、だから踊君にも魂があったんだね」
説明する前に、手を打って一人勝手に納得していたんだが、これ如何に?
「踊君が真っ赤な龍になる時、踊君の魂が崩壊しかけてるってイアちゃんが言ってたよ。あの時は付喪神的な感じだと思ったけど、元々人間だったんだね」
「マジか」
イアが俺の知らない間にさらに廃スペックを加速させている……!?
魂を正確に感知する方法なんか俺も知らない。できてもその人の波長を読み取るくらいが限界だ。いったいイアは何処まで進化すれば気が済む。
「でも何で私たちの世界だったの? 偶然?」
「いや偶然じゃない。あまり言いたくなかったんだが、俺が生きていた世界から見た響達の世界はアニメ――作られた物語の世界だったんだ」
「なんと!? そ、それじゃあ、翼さんのあんなシーンやこんなシーンも!?」
「どんなシーンを想像している?」
「ライブとか!」
「確か……1曲だけなら」
「いいな~」
怖がられたり睨まれたりするかと思っていたのだが、響は子供のようなきらきらした瞳を向けて好奇心を全開にして迫ってくる。
「俺はもともと響達のことを知っていて、それでいて皆を巻き込んだんだぞ? 危険な目に遭わせる事なく平穏に暮らさせる事も出来たのにも関わらずだ。それでも響は俺を怨まないのか?」
「へ? 私が、踊君を? ないない」
あはははと笑って手をふりふりさせる。
「だって踊君が巻き込んでくれなかったら、奏さんや翼さん、クリスちゃんと出会うことが出来なかったんだもん。それに、踊君のことを知れて嬉しいからさ。それにずっと一人で頑張っていたんでしょ? フィーネさんのために」
「!? ……ああ」
「詳しいことはまたいつかちゃんと聞かせてもらうからね!」
グッと聞こえる程強く親指を立てて、ニッコリと満面の笑顔で言われてしまった。
「おーい、そろそろ良いか? あまり時間がないものでな」
「あっ、ごめんなさい」
「すみません。確かISという世界への転生でしたね」
「うむ。そうだ。……このままでは様々な世界が消滅するかもしれんのだ。そっちのお嬢さんの世界も含めての」
その言葉を皮切りに神は今起こっている全ての状況を語った。
あまりに長いのでまとめると、そのISという世界には悪神によって甦った人間が複数人いて、その者達が自らの私利私欲を満たすためだけに世界を荒らそうとしているから俺たちに止めて欲しいと言うことらしい。
「勿論、タダでやってくれなどとは言わん。そちらのお嬢さんは当然として、お前にも一つ特典を追加しよう」
そうして貰わないと困る。
俺は問題ないが、響は何も受けていないのだ。敵となる転生者達は確実に貰っていると考えれんのに、何もなしでいかせられるわけがない。
「特典って?」
「常軌を逸脱する力を与えると言う事だ。……俺が聖遺物になれたのも特典があったからと言えばわかるか?」
「納得」
「で、どうするのだ?」
そうおっさんに聞かれたが俺の分は考えるまでもない。
「俺のは聖遺物の仕様制限の緩和でお願いします」
一往長い年月で全ての力を扱う方法を見付けはしたが、毎回毎回暴走させての特攻では身が持たない。しかも新たな聖遺物を取り込んでしまったことでその最大値がさらにえげつないことになり、暴走時の威力と帰ってくる反動が出鱈目に増してしまった。
……暴走の拍子に身体が弾け飛んでもおかしくないくらいに。
「星一つ消えてもおかしくない威力もでるようだからな。わかった」
「コワッ!?」
「そうだな、50%くらいに上げておくか」
「いいのですか?」
高々一つ分の特典で50%は余りにも上げすぎだ。
「因みに今まではどれくらいだったんですか?」
「1%未満」
ざっと50倍……。応用も利かせればそれすらも遙かに凌駕する力を発揮できるようになりそうだ。……最初から鎌じゃなくてこっちにしておけば良かったのではなかろうか……。
「聞くだけなら確かに上げすぎと言われるかもしれんな。だがその分エネルギーの減りも50倍になる。これまで以上に注意せねばあっとさえ言う間もなく枯渇することになるぞ」
「そう考えると使いにくそうかも」
「大丈夫です。そのくらい心得ています。向こうでなんとかすれば良いだけですし、そこまで馬鹿げたマネはしません」
俺は武器であって、武者じゃない。そうそう前に出ることはないはずだ。……多分。
「次は君の番だ。3つ願うと良い」
「はぁーい。って、え? 3つもですか!? うーーーーん……、ふむむむ……、うん~~? ふぬぬぬ……」
響は盛大に悩み始めた。首を捻り、頭を抱え、唸り声を上げては微妙な顔をする。
協力してやりたいところだが、こう言ったものは自身にあったものの方が良い。口は挟まず見守っておこう。
大分長い時間を掛けてやっと響は答えを導いた。
「良し!! これがいいかな?」
「どうするんだ?」
「踊君お願い!」
「「おい」」
ただ考えることを放棄しただけ!? それの何処がいいんだ!? 力強く頷いたくせに、俺に全部丸投げしたよ、この子。
いや、そもそも響一人に任せた俺が悪いんだ。そうに違いない。
「響にあった特典か……」
「わくわく、わくわく!」
目を輝かせてこっちを見るな。この脳筋娘め……。目を突いてやろう、か?
「脳筋? お、……そうか脳筋か。よかったな、響にぴったりなのがあったぞ」
「え、なんで!?」
「響のありとあらゆる限界を取り払ってくれ」
「まず一つ目じゃな」
「頼む」
「決まっちゃった!?」
別にいいけど~、とか何か一人ぶつくさ言う響を置いて残り二つを考える。正直言って他に響に必要そうなのが全く思い浮かばない。
「それで、限界をなくしてどうなるの?」
「……努力し続ければいつかベイバロンでもワンパンで倒せるようになる」
「おお! …………………………………………………………………………ん? それ人?」
…………。さあ、急いで二つ目を考えないとな。
「あのー、取消は……」
「無理」
「ですよねぇー。…………私、大丈夫かな」
…………………………
……………………
………………
…………
……
「二つ目はそれで本当に良いのだな? 確かにそれは極一部の相手になら強力なものになりえるが、ほとんどの場面では無意味だぞ」
「いいんです。それ以外が相手なら響は大丈夫ですよ。な?」
「うん! なんとかする!」
確認すると頼もしい返事が帰ってきた。
「三つ目は「いりません」……ほぅ?」
「余計な能力を受け取っても戦いの邪魔になるだけです。響にはその二つがあれば十分過ぎます」
「ふむ、では三つ目は必要ないと? 折角のチャンス、君はそれでいいのか?」
「はい!」
神の問いに響は迷うことなく大きく頷いた。
「変わった奴らだ。……よし準備できたぞ」
「? 何も変わった気がしないよ?」
「向こうに着いたら直に分かるはずだ。だが元々変化らしい変化のある異能の類いではないし分からないかもしれんが気にするな。ちゃんと変化している」
「はーい」
いざ出発と思ったがその前に疑問が見つかった。
「今更ですが響の中の破片はどうなるのでしょうか?」
除去されると響のアイデンティティーが……。
「私の個性ってそれだけなの?」
「そのままだ。魂に還すと言っても、元の肉体を向こうに送るために魂を避難させるだけであっちとそっちは同じ肉体だ。心配せんでもいい。お嬢さんの数少ないアイデンティティーはしっかり守るぞ」
「態々数少ないなんて言わないで下さいよー!!」
「響いじりも十分楽しんだしそろそろ」
「うむ。頼んだぞ」
「楽しまないでよ! って、うわ!?」
ああ、やっぱりこれか。
「れっつごー」
「にょえぇええええぇぇぇえぇぇぇぇ…………」
始まりの日と同じように俺たちは穴に落とされた。
……と、その前にペンダントに戻っておこう。
「クックックッ、さあ楽しませてもらうよ……」
彼らの傍に嗤う影は既にいる。