戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第肆話

「お、おい」

 

「勝負を放棄するなど!」

 

「千冬ちゃん、これからが楽しみじゃなかったっけ?」

 

「そうですよ」

 

 視界良好、身体も軽い。やっぱり私はこうじゃなきゃ。踊君が言いたかったのはこういうことだったんだと思う。背中で結ばれてる紐が若干身体を捻るときに痛くて邪魔だったし、小手が大きすぎて竹刀が掴みにくかった。何よりも嫌なのは面が視界を塞いで首の動きの邪魔。

 そもそも痛くないのが嫌だ。いやだからって痛いのが言い訳じゃないよ。ただ痛いことを避けてたって強くなんてなれない。師匠達との稽古のときは防具無しの全力勝負で打撲程度の怪我なら(私だけ)必須だった。

 

「やるからには本気でやりたい。これが私の道だよ!」

 

 床を踏み締めて深く腰を落とした。

 

「! なるほど、響ちゃんは剣術ではなく武術を修めていたのか」

 

「これを使え」

 

 どこからともなく4つの物体が投げ込まれた。それを私は素直に受け止める。

 篭手と甲掛だった。竹のようなもので編まれていて、手足の甲と指の一部だけしか守らないとても簡素なもの。でも非常に軽くて動作の邪魔にならない適した形をしてる。

 

「いっくよー!」

 

「おう!」

 

 さっと両手に填めて拳を構える。一夏君が構え直すのを確認した上で一気に懐に踏み込んだ。

 

「はいっ! たぁっ!」

 

「くっ! デェイッ!」

 

 右から突きだした正拳は剣に遮られた。すぐに左に抜けて裏拳で胴を狙う。

 反応した一夏君は下がり縦斬りで応戦してきた。互いのケンが打ち鳴り、少し離れる。一夏君が次に狙ったのは手!

 

「よっ! はっと!」

 

「なっ!? こんのぉおおお!」

 

 腕を捻り竹刀を叩いて払う。そして肩くらいを狙って蹴りを打つ。しゃがんで躱されて振り返りざまに薙ぎで切り込んできた。両手を並べて受け、ふわりと下がって衝撃を霧散させる。

 

「これはもう剣道ではありません! 手で竹刀を受けるなんて!」

 

「いいや、あの子をよく見るんだ。箒」

 

 一夏君の先輩の箒ちゃんが師範さんに声をかけるのが聞こえたけれど、一夏君との試合を楽しむことに集中して聞き流す程度に留める。

 

「確かに手で受けるのは本来ならいけないことだけど、あの子はあの子なりの規則に従って闘っているんだよ」

 

 竹刀を振り抜いた隙を狙い、床に手を付いて回し膝蹴りを放つ。これで決まると思ったけど、私は慌てて身体を捻り反らして一夏君から遠ざかる。

 

「そのまま打てば確実に勝てていたのに、何故?」

 

「さっき一夏君の竹刀はどこにあったかな?」

 

「頭のすぐ横……、あ!!」

 

 ぎ、ぎりぎりセーフ。危うく足が使えなくなるところだった。

 

「そう。今のあの子にとって竹でできたものは鋼と同じようなものとして扱っているんだろうね。ずっと竹刀を止めるときは篭手の竹部分だけを使っているんだ」

 

 あれ? まだ1分くらいしか経ってないのにもう一夏君の息が荒れてる。流石に始めたばかりらしいしこれ以上続けさせるのはちょっと酷かもしれない。楽しむのはそろそろ辞めにして本気でいこうっと。

 

「はぁ……」

 

 瞼を落とし視界を削って、中段の構えをした一夏君だけを視据える。右手を前に左手を後ろに、踵を付けないように股を少し開く。

 

「雰囲気が変わった?」

 

「いよいよ来るか」

 

 そして、今できる最速で空いた隙間を埋め、左足で床を掴む。一夏君が動く前に、左手で竹刀を力で抑え込み動きを遮る。

 

「ハッ!!」

 

 そして、大気を巻き込んだ右手の掌底を一夏君のお腹に寸止めで突きつけた。

 

「そこまで!」

 

 う~ん、楽しかった。まだまだだけど一夏君のこれからが楽しみだ。尻もちを付いた一夏君に手を伸ばす。

 

「お疲れ~」

 

「サンキュ、響ってこんなに強かったんだな」

 

「すごい……」

 

「えへへ」

 

 照れますな~。周りからの拍手なんかがむず痒い。いつも師匠と踊君の三人だけで見てる人なんていなかったから恥ずかしい。

 

「見えたか?」

 

「見えんかった……」

 

「ちぇっ、早すぎ。折角スカートだってのに」

 

 ……あ。

 遠くから聞こえてくる子供の声で気付いた。私、スカートじゃん! 剣道だから問題ないって思ってたのに、思いっきり拳法で蹴ったりしちゃってた。

 

「一夏?」

 

「ん?」

 

 箒ちゃんが睨み付けて聞くけど一夏君はどこ吹く風、たぶん見られてないっぽそう。良かった踊君の二の舞にするところだった。

 

『怖いこと考えとりますですぞ』

 

『聖遺物をまとってないから大した恐怖にはならないはずだ』

 

『経験者は語る! ですね!』

 

『あれは痛かった』

 

 私の中で失礼な会話をよくするなぁ……。そうだ、焼却炉に入れれば少しは静かになるかも。そうだ、そうしよう。

 

『私もいれちゃいます?』

 

 ……止めときます。

 

「良い試合だったぞ。二人とも」

 

「響ちゃんっていったかな? 良かったら家に入門しないか?」

 

「そ、それはちょっと辞めときます」

 

 気にしないと思うけど師匠に悪いもん。鍛錬くらいなら一人で出来るしスパーリングは踊君に頼めば良い。それに私に武器は合いそうにない。

 

「それは残念、でもいつでもおいで。歓迎するよ」

 

「ありがとうございます!」

 

「次は私が相手しよう」

 

「え゙っ、千冬さんとですか!?」

 

「さぁ、始めようか」

 

「いぃぃぃやぁぁあぁああ…………!」

 

 

 嫌になるくらいこってり絞られてきました。思った通り千冬さんはめちゃ強だった。それはもう死ぬんじゃないかって覚悟するくらい揉みに揉まれた。

 うわぁ、受け止めた両手がどっちもジャリジャリ痺れてる。私もパワーには自信あったのにあっさり押しのけられた。これが体格の差か!

 

「5才でこれほどの実力とは……」

 

「すげぇ! 千冬姉と打ち合えるなんて」

 

「信じられない……」

 

 もっと鍛えて強くなるぞぉ! そして千冬さんに勝つ! えい、えい、おー!

 

『『えーい、えーい、おー』』

 

 そこ、棒読みで言わない!

 

『『え~、え~、ノー!』』

 

「何で息ぴったり!?」

 

「「「!?」」」

 

「何でもないです」

 

 ……変な子じゃないもん。皆、そんな目で見ないでよぉ……。

 

『変な子じゃなくて、イタい子ですもんね!』

 

「…………うるうる」

 

「「「?」」」

 

 イタい子でもないやい。純粋な(のかな?)イアちゃんの口撃が私のハートをチクチクつつく。

 

「そっちの壁で休むと良いよ」

 

「そうします……」

 

 くったりしてると休んだ一夏君と箒ちゃんが試合を始め、次々と門下生の人が試合をしだした。師範さんも大変だ。一人で全部の試合を仕切らなきゃいけないなんて苦労してるなぁ。

 本当に箒ちゃんも筋が良い。周りの大人に引けをとってない。

 ……ところで千冬さん、貴女はどんなけ体力があるんですか。

 

『50人抜きですよ! 50人!」

 

「次っ!」

 

 一人、また一人と青年達が床に伏せる。あ、あれは現世の修羅だ。きっとそうに違いありません。

 

「ねぇ、君。ちーちゃんと真面にやり合えるなんて何者?」

 

「ふひぃっ!?」

 

 気配なく横からお姉さんが現れた。髪が長くばさぁっと広がってる。あと目の隈が酷くて怖い。

 

「束か。実験は終わったのか?」

 

「まだまだ~。ちーちゃんが年下の女の子と決闘してるって聞いたから見に来たのだよ~」

 

「そんな暇があるなら寝ろ」

 

「いたたたた~。こめかみに刺さってる~。ピギャァ!」

 

 実験ってことはこの人は研究者関係のようです。千冬さんは強制的に寝かせる気だ。アイアンクローがギシギシ頭蓋骨の軋む音が聞こえてくる。あと人が出したとは思えない奇声も

 

「またやってる」

 

「ま、またなんだ……」

 

「ああでもしないと束さんは何日も寝ないんだ」

 

「あの隈の具合からして三日は経っているな」

 

「えっと、箒ちゃんだったよね。初めまして立花響です。よろしくね」

 

「篠ノ之箒です。こちらこそ、よろしく頼みます。あっちは姉の束です」

 

 姉妹なんだ。……似てる? かな多分。妹にあっちって呼ばれるなんて可哀想に……。あ、堕ちた。

 

「きゅ~」

 

「ようやく寝たか」

 

 それは気絶しただけです。って、握力だけで人を気絶させるって千冬さんはどこの化け物ですか。いや、まあ、師匠と良い勝負ですけど……。コンクリで畳替えしできる人ですけど。

 千冬さんは目を回した束さんを隅に投げ捨てて試合する人集りに突撃してしまった。

 

 もう少し休んだら私も突撃しよっと。

 

 あ、そうだった。私の年齢は一夏君と同じ5才ということにした。年齢不詳はこれから先困ることになるからと踊君と話して決めたよ~。

 踊君は? 自分で何とかするんじゃないかな?

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