戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第捌話

 一兄がISの教材を電話帳と間違えて捨てるなどというポカをやらかしていたことが明らかになったり、踊君が全くと言って良いほどISについて知らない(ただそのスペックについてだけは矢鱈と詳しい)ことがわかったりとあったけど(え、私? ……ちー姉に締められたとだけ言っておきます)比較的無事に2限は終わった。

 そしてつかの間の休息を満喫していると、

 

「ちょっとよろしくて?」

 

 私の前に座っている一兄と席が用意されていないのでふらりと私の横にやってきていた踊君に向かって声をかける何処かの令嬢っぽい少女がいた。

 

「おぅ~……」

 

「ふむ……」

 

 でも、二人とも有意義(一人違う?)な時間を過ごしていてその声に気付かなくてぼんやりしてる。

 

「聞いていますの? お返事は?」

 

「む?」

 

「ん? あ、ああ、悪い。えっと何かな?」

 

 代表して一兄がその人に名前を聞く。すると何を思ったのかその子は信じられないものを見たとでも言いたげな目を二人に向けた。

 

「なんですの!? そのお返事は! この私に話しかけられるだけでも光栄なことなのですから、それ相応の態度というものがあるのではないのかしら?」

 

「いや、俺は君のことを知らないし」

 

「某から見たら貴殿は子供に過ぎないのだが……」

 

 ……そりゃそうだと思う。踊君って生きた年数だけなら曾々々々……(以下略)おじいちゃんなんだから、大抵子供でしょ。

 

「私を知らないですって? このセシリア・オルコットを! イギリス代表候補生にして首席で入学したこの私を!?」

 

「……代表候補生ってなんだ?」

 

「そこから!?」

 

 近くでおずおずと聞いていた人たちの腰が抜けた。いや、まぁ、確かにそういったことを知るための教科書を電話帳と間違えて捨てるくらいだから1ページも読んでないんだろうけどさ……。

 

「よくは知らぬが、言葉から察するにISのパイロットとして国の代表になれるかもしれないところにいる人ということだろう」

 

「あ、なるほど」

 

 言葉から推察くらいはしてよ……。一兄はお世辞にも頭が良いとは言えないけどそれでも悪いわけじゃない。私と同じくらいのレベルなのに。

 

「そう! いわばエリートなのですわ! 本来なら私のような選ばれた人間とクラスを同じくするだけでも奇跡なのですよ」

 

「へぇ、ラッキー」

 

「……響、高々その程度の金属塊を動かせる程度で何故(なにゆえ)この嬢さんは威張るのだ?」

 

 本気で分かっていない踊君は一人首を傾げる。私は踊君だからで片付けられるからいいとして、他の人が聞いたらその発言はいささか不愉快だと……。

 

「男でISを操縦できるときいてましたが、とんだ期待外れですわ。そして貴方にいたってはISのなんたるかを全く知らない世間知らずのようですわね」

 

 ああ……やっぱり。

 

「俺に期待されても困るだけなんだが……」

 

「過去にもちらほら見かけたことがあるが、怒り狂った彼奴等と比べたら……」

 

 ……翼さんもクリスちゃんも容赦しないからね。殺るときは聖遺物の使用も躊躇わず徹底的に殺っちゃうから。もちろん私も。

 

「まあ、それでも、私は優秀ですから、ISのことでわからないことがあれば……泣いて頼むのでしたら、教えて差し上げてもよろしくてよ。何せ私、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」

 

 …………え゙っ?

 

「あれ? それなら俺も教官倒したぜ? まぁ、避けただけで実質何もしてないから勝ったって言って良いのか分からねぇが」

 

「そ、そんなはず! わ、私だけと聞きましたが?」

 

「それって女子だけなんじゃねぇの?」

 

「いや、貴殿の話を聞くにそれは倒したとは言えないと思うのだが」

 

「そ、そうですわ!」

 

「ねぇねぇ、一兄、セシリアさん。ちょっと聞いて良い?」

 

 あんまり口を挟みたくなかったけど、凄ーく気になることがっできてしまったので間に割って入ることにした。

 

「たしか、織斑響さん、でしたかしら? 質問を許可しましょう」

 

「響でいいよ~。えっと教官を倒す倒さないって何の話?」

 

「試験の一環で受けてるだろ? ……ん? そういや変だな……? 響が負けるとは思えねぇのに……」

 

「貴方がどう思おうとちゃんと闘って教官を倒したのはやはり私だけなのですわ」

 

「えっと、うん。一兄、セシリアさんの言う通りちゃんと闘って教官を倒したのはセシリアさんだけだと思うよ」

 

「あ、そうか。相手が千冬姉だったらおかしくないか」

 

「ううん。それも違うの」

 

 一人納得しようとしていた一兄を否定する。だって、だって私は……。

 

「そんな楽しそうな試験受けてないもん!」

 

「「「「「え?」」」」」

 

「ふむ、やはりか」

 

「そんなことあるはずがありません!」

 

 あるはずがないって言われても~……。本当に私はそんな実技試験を受けてないんだもん。聞かされてもなかったし……。ちー姉に渡された予定にだって一行もそれらしいこと書いてなかった。

 

「免除されたとでも言うので!?」

 

 声を荒げるセシリアさんを遮るように丁度3限目開始を知らせるチャイムが鳴った。

 

「っ! また後で来ますわ!」

 

「あ、うん。またね~」

 

 捨て台詞のように言うと席に戻っていった。ちー姉が教壇に立つ時には席がないので後ろに居る踊君を除いて全員が指定された席に着いていた。

 

「授業を始める前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決める」

 

 そう言うとちー姉は生徒一人一人の顔を見る。

 

「自薦、他薦は問わない」

 

「はいはい! それなら織斑君がいいと思います!」

 

 真っ先に一兄の名前が挙がった。たぶん理由は男だからだと思う。教材を捨てるなんていう暴挙に出ていた一兄が求められるのはそれくらい思いつかない。

 

「はい! なら、私は聖さんを推薦します! 織斑先生も認める程凄く強いんですよね!」

 

 次に挙がったのは踊君の名前だ。でもちー姉は顔をしかめ残念そうに言った。

 

「すまないが、聖にはさせられない。急遽入学が決まったばかりの、本人の前で言うのは悪いが危険人物だ。流石にクラス代表を任命するわけにはいかない」

 

 このIS学園に平然と侵入して全校集会に乗り込んじゃったですもんね~……。踊君を知っている私からしたら危険人物どころか学園の守護神とかになるんじゃないか、なんて思っちゃうわけだけど、知らない人からした恐怖の対象です。

 この件についてはどうしようないからゴミ箱に入れてしまうとして、私には聞かないといけないことがある。

 

「あのー……、一つ質問しても良いですか?」

 

「なんだ? 織斑妹」

 

「入試の時に試合があったって聞いたんですけど、私受けてないです」

 

「だろうな。私が辞めさせた」

 

「そんなぁ~……」

 

 帰ってきた返答は想像通りでした。資料から試合のことを除くなんて、渡したちー姉しかできないもん。

 

「闘うまでもなくお前の実力は知っている。時間と費用その他諸々の無駄だ」

 

 酷い……。折角の楽しみを奪うなんて……。机の上で鬱ってやる。

 

「他に推薦はいないか? それなら代表は織斑……「ちょっとお待ち下さい!!」……オルコットか」

 

 セシリアさんがバンッと机を叩いて立ち上がった。その顔は険しく怒っているように見える。

 

「そのようなもの認められませんわ! 男がクラス代表だなんていい恥さらしです! 私に、そのような屈辱を1年間味わえとおっしゃるのですか!? それにこの私を差し置いて試験免除など認められません!」

 

「……それはつまり?」

 

「実力から行けば私がクラス代表になるのは必然。私は態々このような島国までIS技術の修練のために来たのですから!」

 

 前を見ると一兄が肩をわなわな震わせていて、苛ついているのがよくわかる。

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、私にとっては耐え難い苦痛で……」

 

「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一不味い料理で何年覇者だよ」

 

「なっ……!」

 

 一兄とセシリアさんが口論を始めた。当事者の一人である踊君は我関せずで、もう一人の当事者な私は話について行けなかった。私、ずっと特訓ばっかりやってるからあんまりテレビ見ないんだよね。それに見ても格闘技系の番組やご近所のニュースくらいで、世界情勢なんて気にしたことがない。

 先進とか後進とか言い争われても困る。

 ちなみにこのクラスで一番慌ててるのは柔和そうな副担任のまや先生です。

 

「あ、あなた! 私の祖国を侮辱しますの!?」

 

「先に言ってきたのはテメェだろ!」

 

「一先ず落ち着いてよよ。二人とも」

 

 ヒートアップして収拾がつかなくなりそうだから、二人の間に割って入った。

 

「「これが落ち着いていられるか(ませんわ)!」」

 

 不思議なことに帰ってきた返事はほぼぴったりです。止めに入るんじゃなかったかもしれない。私は攻め込んでくる視線を受けて後悔した。

 

「あなたは自国を侮辱されて平気なのですか!」

 

「うん、平気だよ? 私は私だもん。踊君は…………ごめん、関係なかったね」

 

「ああ、某は国という概念とは無縁に生きてきた故な……と、この学舎も規約だったか条約とやらで世界からほぼ独立していたのだったな」

 

 海上までふっつーに歩いて世界を旅してたくらいだもんね……。聖遺物まじ半端ねぇ! て奴なのかな?

 

「っ!? そんな!? 決闘ですわ! 私の祖国を侮辱した罪、償ってもらいます! 貴方方のその愛国心のなさに腹が立ちました! 私がこの手であなたたちを制裁しますわ!」

 

「受けて立ってやる!」

 

 一兄が決闘に乗ってしまった。

 これでも愛町心だったらちゃんとあるんだけどな……。未来たちと暮らすリディアンとか一兄たちと暮らす町とか小さいものならちゃんと。おお、……それを集めたら愛国心になるのか、なる~。

 

「すまぬが、某は辞退させて頂く」

 

 後ろから成り行きを見守っていた踊君はすぐに断った。

 

「は! 逃げますの? ただの臆病者でしたか」

 

「響の足下にも遠く及ばない今の貴殿等では加減の付けようがない」

 

「なっ?!」

 

 あっるぅぇえっ?! 何か今、私のハードルがぐんっと上がったような気がするんですけど!? ……私、IS動かしたのってまだ試験(適性テスト)の時の1回きりだから、それにその時やったことだって、歩くと軽く飛ぶ程度だから。

 それを聞いた瞬間、周りの人たちは笑い出した。

 

「聖さん? それ、本気で言っているんですか?」

 

「男が女より強かったのって、昔の話ですよ? いくら貴方がISを投げたって言っても、向こうが油断して手を抜いていただけですよ」

 

 ひぇっ!? 皆、ちー姉が言っていた『適任者が私しかいない』という意味を取り間違えちゃってる!?

 ちー姉の言葉の意味を『ISに乗らないで踊君に対処できるのは私しかいない』だと皆は勘違いしてしまってるんだ。本当にちー姉が言いたかった意味は『ISに乗ろうと踊君を対処できるのは私しかいない』という意味なのに……。

 

「………………はぁ、仕方あるまい。貴殿等が響を倒せたら闘うとしよう」

 

 長めの沈黙内で考えた踊君は溜息を吐いて受け入れることにしたみたいです。

 

「そんなことを言って本当は闘うのが怖いだけなのでしょう?」

 

「好きに思うと良い」

 

 踊君のせいで私のハードルが鰻登りで上がっていってる!? これ、絶対負けられないじゃん!? IS動かすのほぼ初めてだっていうのにっ!! 試験も受けさせてもらってないしね!

 

「話は決まったか? それでは1週間後の月曜放課後に第3アリーナで代表決定戦を行う。それぞれ用意しておくように。いいな!」

 

「「はいっ!」」

 

「は~ぃ……」

 

「聖、お前にも必ず闘ってもらう。オルコット、織斑兄、織斑妹のいずれか勝者とだ」

 

「……御意」

 

 え、何この逃げ場のない嫌がらせ。

 万が一あの二人に負けることでもあれば、私は踊君の折檻を受けることになってズッタズタのボッロボロにされちゃうのは必至。

 だから負けられないと意気込んだら、例え勝っても踊君と決闘しなきゃだめなの!? これじゃあ結局踊君にギッタギタのメッタメタにされちゃう。

 

 ……私、どのみち報われない!?

 

「それは良いことを聞いた。しっかりぎっちりみっちり用意しておこう」

 

 よ、踊君が……用意して…………ですと!?

 

「ひっ!? 織斑さんが真っ白に燃え尽きてる!?」

 

「すご~い。ひびきんの口からオレンジ色の魂みたいな靄が出てる~」

 

「いやいや!? そんなこと行ってる場合じゃないでしょ!? 織斑さん、気をしっかり持って! 織斑さんっ!!」

 

 ……………………ガクッ。

 

「響ぃぃいいいいっ!?!?」

 

 

 

 ありゃりゃ? 気付いたら何故か私は保健室に寝かされていた。

 うーん……、なんでだっけ?




響ちゃんの好きとはいったいいかなるものか……
家族としての好きなのか、異性としての好きなのか、 
それは誰にも分かりません。
本人さえも今だ無自覚ゆえ。
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